★★☆☆☆
~魅力的で難しい素材~
2013年に劇場公開されたアニメ。
監督は個人制作で話題となり「イヴの時間」で知名度を上げた吉浦康裕。今作はスタジオで制作されている。
「空」を忌避する国に住み毎日学校へ通う少年エイジ。父子家庭の父は特殊な機械で空を目指して異端者として死亡したため、遺児のエイジも白い目で見られがち。規律に反発心を持ち町外れの「大穴」の側で空を見上げる彼の前に突然少女パテマが現れる。エイジ達と正反対の重力下で生きる彼女は大穴を上向きに「落下して」現れたのだった。
手をつかまなければ、彼女は空に落下して行ってしまう。エイジは彼女をかくまい、仲間達の元に帰る手助けをする事にするが、国は反対の重力に生きる地下住民達を害獣として捉えていた――。
国も重力も相反する少年少女の出会いと、そこから生まれる新しい世界を描いた作品。逆重力の二人はお互い抱き合うことによって重量を相殺し、一方への極端な落下を防ぐ。無重力状態に近くなるのでまさに空を飛ぶことも可能である。
逆重力の設定はそれだけで上記の様な繋がりを導き、これまでにない不思議なシチュエーションを描き出している。一画面の中に複数の重力の絵を描くのは非常に大変だったろうと思うが、丁寧に描き上げられている。逆重力は世界の秘密にも直結する設定となっており、「サカサマ」は物語のあらゆるところに現れて全体に一貫性を与え、最後には興味深い大きな「サカサマ」も控えている。
映像のクオリティも高目で安定しており、今日をそがれる部分はない。
全体として破綻の無い良作アニメだといえるが、各所で気がかりなところも多い。
光学的な処理を入れすぎている。
新海誠監督でおなじみのブルームや縦横一方に長く伸びる光輝がほとんど全画面に挿入されている。絵の情報量やクオリティを上げようとしたのかもしれないが、やりすぎ。表現になれてしまうとあるのが当たり前になり、綺麗だなというよりも邪魔なものに感じられてくる。
また、画面の中で光っている部分に気をとられてしまい、本来見せたかった部分に意識が向かわないうちに次のカットという事態にもなり、技法に振り回されている。逆説的だが、新海氏の光の使い方は上手いのだと改めて感じた。
反重力の二人が互いに抱き合って行動する場面が頻出するが、重さを全く感じない。
二人の抱き合う様子は手をつなぐ程度の気楽さに描画されているが、実際はサンドバッグに抱きついて宙に浮いているような状況である。しかも離すと奈落の空に落下するというシチュエーションなのに命綱をつけようともしない。そこを現実的に描くと物語が動かないための緩和処置だと思われるが、世界観を最も感じさせる部分なので何らかのアイデアを見せて欲しかった。
光輝の伸び方が重力によって違うかと思ったが、そんなことはないみたい。
サカサマの顔はどうにも変に見える。
こんなに上下逆の人の顔を長くアニメで見ることがなかったのでこの映画で初めて意識したが、反対の人の顔は可愛いのかどうか、表情がどうなのかといった細かな部分を判断しにくい。このハードルは思った以上に高く、感情や状況を把握するのに手間取ってしまい、結局各キャラクターへの感情移入の障壁となっていた。この題材を絵的に調理するのに、何らかのアイデアが必要だったろうと思う。
進行が単調。
「ジャーン」風のBGMでゆっくりズームイン/アウトが非常に多い。意味深げに見えるが、あれ? そんなに意味のある部分かな? という肩すかし。演出がワンパターンという印象かな。
エピソードが淡々と続く構成で登場人物も限定されるので、絵本の形だと気になる部分は少なくなるかもしれないと思う。