★☆☆☆☆
~雰囲気に惑わされてはいけない~
2016年の米映画。日本公開は2017年。
おならにゲロにチンコと、小学生が大好きな要素を詰め込んで、それをおしゃれな映像でまとめた頭のおかしいナンセンスコメディ。もしくは真に恐ろしいサイコホラー映画。これは皮肉でも褒め言葉でもなく、ただただ現実的にこの映画を表す最適な説明である。
実写にしたスポンジボブ、絵を綺麗にしたダウンタウンの不条理コント、という比喩も浮かんだ。
青年ハンクは無人島に一人きりでとうとう首つり自殺を試みようとするが、眼前の砂浜に一人の男が流れ着く。上記は冒頭あらすじだが、もし見るとしてもここまでて終えるのも良いと思う。もちろん以降も物語は続くが、え~そっちに行くの? といった異常な展開を見せるばかりなのだ。反対に言うと、ここで終わっていたらシュールなコントとしてひときわ目を引くものになっただろう。監督がこの作品を生み出したそもそもの原点がこのシーンだったということだから、ここが全てとも言える。
孤独が癒されるかと期待したが残念ながら溺死体そのもの。落胆したハンクの前で死体は腐敗ガスを肛門から吹き出し始める。その威力は強烈で水上を航行し始めたばかりか、追いすがったハンクを引き連れて島を離れていこうとする。
とっさに首つり用ロープを死体に巻き付け、ジェットスキーのように上に立って疾走するハンク。飛び散る水しぶきときらめく陽光は彼の鬱屈した心を一瞬で霧散させた――。
水死体が放つ屁によって無人島を脱出という「へっこきよめさ」のような状態から始まった物語に、一体どのような妥当な展開が許されたであろうか。僕の心象風景としては、まるで毛筆の習字で最初の一筆を半紙の右下隅に置いてしまったような映画、となる。もうそれ以上どうしようもないのだ。まともな字を書くことは出来ず、文字に似た妙ちくりんな記号を描くくらいしか出来ない。
あまりに突拍子もないものを突きつけられた時、上手く反応できないことがある。それが自分に届くまで誰も止めなかったという事実が、この作品に何かしらの価値があるのでとはないかという疑惑につながり、ひょっとして自分の直感が間違っていたのではと疑心暗鬼に陥るのだ。しかもそのトンでも案件を掲げているのが何がしらの実績を持っている人物であった場合、非常に対応が難しい。
ゲーム会社で様々な企画に触れていると、まさにこういった状況に出会うことがある。
新入社員だった頃、雄志による「企画立案サークル」のような集まりがあり、皆が順に自分の企画を提案していった。その中でサウンド課の重鎮が「ゾンビになったサムライによる対戦ゲーム」をぶち込んできた。当時「ブシドーブレード」という剣戟アクションが話題になっており、それの派生だと思われる。もう詳細は覚えていないが、企画詳細というものはほとんどなく、ただサムライがゾンビなんだという主張のみが全てであった。
自分はこの企画の魅力がまったく分からなかった。煮ても焼いても食えそうにない内容に、先輩方はどのような反応を示すだろうか(どう諫めるか)と期待したが、「ゾンビと組み合わすのは斬新だね」とか「細切れになっても死なない戦いかあ」などの微妙ながらも好意的な反応。もしかして自分が気がついていないだけで、このアイデアは何か良いところをついているのか? 若さに傲慢な新入社員でも揺らごうというものである。
上記の様な現象がこの作品界隈では発生しているのではないだろうか。
ネットで評判を見ると、わりと好評意見が多いのだ――。
水死体のジェットスキーをフックにしているような映画を見にいく人はそもそも奇特な集団だというのもあろうが、冷静に考えてこの作品は「★☆☆☆☆」以外あり得ないと思う。人に勧められる物では無い。
今作の監督ダニエルズは二人のダニエルのコンビ名で、ミュージックPVの監督として評価が高い模様。確かに逆光気味の暖かな印象の絵作りや、一筋縄ではいかない悲惨なロマンチシズムとでもいった内容は個性的だ。PVから映画監督への転身というとデヴィッド・フィンチャーを連想するが、彼の映画監督1作目「エイリアン3」も個性は出ているもののあまり……という出来だった。同様に今後の活躍に期待したい。