2016年4月5日火曜日

荒野の用心棒

★★★★
~マカロニ・ウエスタンの起爆剤~

1964年公開(日本公開は1965)のイタリア産西部劇。
イタリアを中心とするヨーロッパ製の西部劇「マカロニ・ウエスタン(スパゲッティ・ウエスタン)」が大量生産されるようになったのはこの映画の大ヒットがきっかけ。
西部劇はもちろんアメリカの西部開拓時代を舞台とした映画なので、ハリウッドの時代劇、的な奇妙さがつきまとうが、我々日本人にはどちらも異邦なのであまりに気ならないだろう。
イタリア映画なのでイタリア語が原本で、それを英語吹き替えしたものを視聴する機会が多い模様。
※セルソフトを見ても英語収録が基本でイタリア語収録は少ない。
主演のクリント・イーストウッドはじめ、全編台詞のアフレコ感が強いのはこの経緯からだろう。

この作品は余談というか、作品外のエピソードに面白いものが多い
・低予算映画なのでトップスターでないクリント・イーストウッドが主演することになった。
・主人公の衣装はイーストウッドの持ち込みが多い。
・黒澤明「用心棒」のまるっきりコピーであるが許可を取っていなかったのでその後問題になった。
・用心棒は時代劇で西部劇を、という意図があったらしいので、脚本的にぴったりくる。
・登場人物にアメリカ人が少ないことの理由付けとして、「メキシコとの国境付近」を舞台としている。
etc.

国境付近の町サン・ミゲルは無法者一家と保安官の二大勢力に分断され、町民のまともな生活は望むべくもない荒廃した有り様となっていた。
そこに流れ着いたジョーは両勢力に自身の腕前を見せつけ、甘言を弄し、両者のバランスを崩していく……。

保安官側勢力は正当なのかというと無法者に対抗するために無法者を雇っており、そもそも対立はどちらが密輸利権を握るかが原因となっており、両者悪という事になる。では主人公が正義かというとそうでも無い。正々堂々とはかけ離れた卑怯な手段を使い、彼の行為によって大量の死人が出る。
それなのに後味がすっきりなのは、彼の目的が「ちょっと見かけたいい女」を元の男と子供のところに戻すことであり、また途中でえらいボコボコの目にあっていながらもくじけないからだろう。

冒頭のエキセントリックな影絵に音楽が被さるオープニング。
最後の決闘の場にジョーが現れるシーン。奇跡的な美しさの土煙。

ワクワクせずにはいられないシーンが多く傑作に数えられるのにも納得。

スター・ウォーズ/フォースの覚醒

★★☆☆☆
~均衡のなれの果て~

J・J・エイブラムス監督。2015年公開のアメリカ映画。

言わずと知れたスターウォーズのナンバリングタイトル。
4⇒5⇒6⇒1⇒2⇒3の順で製作、公開された三つ目の三部作の1作目。
ちなみに4/1/2/3はジョージ・ルーカス監督だが5/6は異なるので、初の別監督エピソードというわけでもない。

4/5/6でアナログ特撮の伝説となり、1/2/3でCG技術の地平を切り開いたスター・ウォーズ。
小説やアニメなどで映画以外にも広がり、厚みを増した世界観。飽和したファンにより新シリーズにかかる期待はとんでもない重さ。

ここでJ・J・エイブラムス監督。
好き嫌いはともかく、「期待水準に達する作品をコンスタントに生み出す」監督として無双の安定感を誇ることは認めざるを得ない。
何かとライバル扱いされるもうひとつの伝説的SF作品「スター・トレック」の映画監督もつとめたのだから、なんちゅう強心臓なんや!
こんなん普通の精神では耐えられない重圧だろうに!

出来上がった作品を観て思ったことには、やはりこの監督の安定感はすごい。
なんだかんだで値段分の映像であるし、過去作へのオマージュもたっぷり。
スター・ウォーズらしい映像と話がすらすらと展開されていく――。

けれど、見終わった後に心に残るのは新しいドロイドBB-8の立ち居振る舞い程度。
基本的にはルーク三部作(1/2/3)をなぞる展開で、各要素を極限まで大げさにした感じ。
「デススターを惑星規模に」
「ダース・ベイダーよりも宿命度の高い敵役を立ち上げる」
「ルーク三部作の要素をこの一作に凝縮」
これらがおもしろ差に結び付かずに上滑りして腑に落ちないまま終劇。
なんといっても主人公が誰か分からず、おもしろ黒人枠がヒーロー役を務めているというのが腑に落ちない。

・スター・ウォーズは結局設定ガバガバの雰囲気SFだよね!
・話しも強引でむちゃくちゃだよね!
・そんな雰囲気もきっちり再現したよ!

こんな開き直りが透けて見える。(そうだよなあと思ってしまえるのがこれまた悔しい)
前シリーズが何やかんや言われながらも挑戦して切り開いた映像表現。そういった闘魂がまるで感じられない作品だった。
お偉方(ヘビーなファン)の意見をすべて汲み取って上手くパッケージングしただけ。最小公倍数を求めただけのように感じる。

これまでの文面でにじみ出ていると思うが、自分はこの監督が好きではない
監督ファンの方には申し訳ないが、監督と視聴者としてどうにも根本的に相容れない要素がある気がする。
どの作品も「秀才のとる及第点」の雰囲気で、その薄っぺらさがはがれる前に次の話題作を手がけることで自分の地位を保っているように見える。
上手いが、誰かの心の一本になる作品は作れない監督なのではないだろうか。
自分の手できっちり作るというより、時代の空気をきちんと理解し、商品価値を組み立て挙げて市場に投下するプロデューサーのように感じる。
美術界で言う「村上隆」みたいなイメージだ。

それはそれで希有な才能であり、果たすべき役割があると思うが、いびつにゆがんだ思い込みの激しい情念がスター・ウォーズには似合うと思ってしまう。
ともかく新三部作の立ち上げにあたって、この「7」でこれまでの総括が終わった訳なので、次からの新展開に期待である。(監督も違うしね!)
……と言いたいところだが、結構お話しがまとまってしまったので、もう十分かなという気分も。R2D2が動かないままならきっと次も見に行ったと思うけど、彼もきっちり復活してしまったから……。

スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐

★★★☆☆
~伝説の収束~

ジョージ・ルーカス監督。2005年公開のアメリカ映画。
ルーク三部作(4/5/6)のあとに制作されたアナキン三部作(1/2/3)の最後を飾り、スター・ウォーズの実質的1作目であるエピソード4につながる重要な作品。
アナキン三部作の最大の使命である「ダース・ベイダーがいかに誕生したか」を画竜点睛する。

エピソード1~6のストーリーを端的に説明すると以下のようになる。

◆「1~3」…自己中近視眼の行動で宇宙全体に迷惑をかけるバカップルの話。
◆「4~6」…その迷惑を収集するためにバカップルの子供が奮闘する話。


エピソード3は1/2でじっくりと積み上げてきたバカップルそれぞれの駄目さ具合が一気に花開き実を結ぶ章となっており、物語的にも映像的にも見所が多い。
冒頭から惑星上空での激しい空戦。敵将の討伐任務。残酷な敵黒幕の正体と陥穽にはまる主人公――そして最後は活火山惑星での宿命の師弟対決。
映画作品として金字塔である「エピソード4」へつながる物語要素の収束は非常に気持ちが良い。
ついに生まれた「ダース・ベイダー」のバックに流れるあの聞き慣れたライトモチーフ(キャラクター旋律)。
ブロックがぴしゃりと組み合った余韻のまま終劇。

ゴールデンラズベリー賞を受賞したり、酷評も多い本作だが、思い入れたっぷりに描かれる愛憎劇は28年の重みと共に心に残る。
きっちりと描ききった、作りきったことは紛れもない偉業であり、続く三部作が蛇足にならない事を願うばかり。