2009年5月20日水曜日

駅馬車

★★★★☆
~ウェスタン満貫全席~


ジョンフォード監督。ロバートレッドフォード主演。映画史に残る記念碑的作品、らしい。
らしい、というのも、革命的作品であったからこそ、模倣者、追随者を多く生んだからだ。それはパクリというのではなく、今の映画文法ではすでに基本となってとけ込んでしまっている。そのため、今、改めて見ても、その先進性が感じられないのだ。

これは、ヒッチコックのサスペンスなどでも感じたことで、こういった意義だけは、同時代で鑑賞していなければ感じ取ることが出来ないのだろう。

この映画のもっとも革命的だったのは、映画の舞台自体を移動させながら、物語を作ったという点らしい。
それまでは、演劇の延長として、舞台を写す、という静的な存在であった映画に、馬車で移動するその車内の様子を、外観を、追いすがるインディアン達をつなぐことで、動的な物語舞台を構築したのがこの映画の金字塔だということだ。

確かに、駅馬車をつなぐ宿場での停止はあるものの、それ以外はすべて動きっぱなしだ。

このような見方をしなくても、今作は魅力にあふれた西部劇である。
さまざまな事情で同じ馬車に乗り合わせた旅客達が、危険あふれる荒野を駅馬車で移動する。もうこのプロットだけで、興味が湧いてくる。
関わる人数は多いはずなのに、見間違いや錯綜は一切無い。しかも、キャラクター付けを台詞一本で行うような不作法はしない。
行動の一つ一つがそのキャラクターを削りだしており、振り返ってみると、細かい説明はなかったはずなのに、それぞれのキャラクターの心情までが感じ取られるのだ。

無法者。
町の人々。
馬車。
騎兵隊。
インディアン。
決闘。
大戦闘。

その後生み出された西部劇のすべての要素が詰め込まれているかのような、満貫全席。なのに、少しも腹にもたれない。
ああ、やはり名作なのだろうと納得しきり。

―――――――――――――――――――
最近500円といった、非常な低価格で過去の名作が販売されています。
これは、映画黎明期の作品達が著作権を喪失し始めたからだということです。同じ映画が幾つもの値段が異なるパッケージで発売されていて、買うにも選びにくい。これには閉口です。

何しろ古い映画なわけですから、値段が高くたって画質が低い物も多いでしょう。安いのが悪いのかどうかも分かりません。
何か、新しい基準が欲しいものです。

著作権が切れた映画が増えてくるわけですから、これまでになかったややこしい問題、状況が発生してきそうですね。

2009年5月17日日曜日

ハリーポッターと不死鳥の騎士団


★★☆☆☆
~つなぎの一作~

良く解釈して、次回作へのつなぎ。物語全体における「ため」の部分。
これ一作では、どうにも魅力に乏しい二時間。

宣伝では魔法大戦争みたいなアピールをしていたが、戦闘は非常に小規模で期待を満足させることのできる内容ではない。
また、キャラクターの心情の流れに不合理を感じる場面が多く、誰に感情移入したもんやら常に迷う。
大人の行動が短絡で子供っぽいため、子供達の子供たる所以の大胆さが埋没する。
絵的な見せ場も少なく、前作の絢爛豪華と比べると明らかに見劣りする。

……などなどあるが、こういった不満はこれまでのシリーズ作品にもあった、それこそお約束のようなものだ。これは、原作が児童小説であるためなのは当然として、かなり私見だが、つじつまを気にしないイギリス系おとぎ話が基本ラインであるためだと思っている。

今回一番きつかったのは、シリアスすぎることだ。
ハリーポッターは、おとぎの国の、不思議なディティールを、アイデアを、その世界観を楽しむ作品だと思う。
その点で、今作の魅力は薄い。変わりに大きな比重を持つのが、ポッターの深い悩みである。
これまでとこれからをつなぐため、腹をくくる過程が描かれている(と思う)のだが、全編その雰囲気に支配され、心から喜ぶシーンは皆無と言っていい。
それを今作内で解消することなく終わるため、後味はひどく陰鬱なものとなる。

子供達が目を輝かせて劇場に入ったあと、うつむいて出てくるような気がしてならないのだ。

まあしかしそれも、次作次第だろう。ここまで長いシリーズで、すべてがクライマックスであることは難しい。従って今作が次作のための「ため」なのだと信じて、楽しみに待つことにする。

それはそうと、今作内では二次創作的においしい展開が大量にあるため、同人云々いわずとも、それぞれの時点で今後どうなるだろう、と想像しながら見ると、より楽しむことが出来ると思う。

ダイハード 4.0

★★★★☆
~「ダイハード1」の相似拡大~

これは良い。
細かいこと無視したハリウッド超大作。まさにエンターテイメント。
重々しくなることなく、ノリに身を流せて一喜一憂できる良作。

ハッキングによる世界支配という、考えてみればスーパーマンでも出てきたような話なのだが、これを良い具合にデフォルメして題材にしている。
あまりに現実に即しすぎて地味になることなく、おおざっぱにし過ぎてみてるのがあほらしくなるでもない、絶妙のいい加減さで事件を起こしている。

もうアメリカ復活不能ぐらいの壊滅的打撃を与えるテロ。そのほとんどが成功しているため、実際考えると主犯を捕まえても無駄だ。もうすでに数千数万の犠牲が出ているという状況。
しかし、描かれる範囲での死人が少ない。しかもほとんどが犯人グループ。

ダイハード1は、ビル乗っ取りのテロリスト達に一人で挑むという話しだが、4は、アメリカ全体を舞台にしているのに、実はこのパタンから外れていない。
主要機関を押さえられたビルと、ライフラインを分断されたアメリカ。これが、規模が違うのに相似形なのだ。

うまいのは、ライフラインを切断することで、本来発動するべきFBIや警察といった、組織的な危機管理機構が、早々に封殺されるという設定。
従って、自立的に判断し、無責任に行動できる主人公は、混乱した構造物の中を縦横に動き回る、一作目と同じヒーローなのだ。

こうなるともうあとはアイデア勝負。ともかく絵的なインパクトから話を作っているのではないかというくらい、無理矢理おもしろい危機的状況にはまりこんでいく。
無理矢理なので、ツッコミどころ多数だが、つっこんでる暇もなく物語は展開。もう途中から、そういう無粋はやめて、ただ単に映画を楽しんでいた。

見終わったあとの爽快感もあり、ぜひ映画館で見ておきたい作品。
しかし、もう次は世界を舞台にするしかないか……。
今回出てきた相棒役に代替わりするのがおもしろいではないかと思うのだが。