2019年12月28日土曜日

サカサマのパテマ


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★★☆☆☆
~魅力的で難しい素材~
 
 2013年に劇場公開されたアニメ。
 監督は個人制作で話題となり「イヴの時間」で知名度を上げた吉浦康裕。今作はスタジオで制作されている。
 

 「空」を忌避する国に住み毎日学校へ通う少年エイジ。父子家庭の父は特殊な機械で空を目指して異端者として死亡したため、遺児のエイジも白い目で見られがち。規律に反発心を持ち町外れの「大穴」の側で空を見上げる彼の前に突然少女パテマが現れる。エイジ達と正反対の重力下で生きる彼女は大穴を上向きに「落下して」現れたのだった。
 手をつかまなければ、彼女は空に落下して行ってしまう。エイジは彼女をかくまい、仲間達の元に帰る手助けをする事にするが、国は反対の重力に生きる地下住民達を害獣として捉えていた――。

 国も重力も相反する少年少女の出会いと、そこから生まれる新しい世界を描いた作品。逆重力の二人はお互い抱き合うことによって重量を相殺し、一方への極端な落下を防ぐ。無重力状態に近くなるのでまさに空を飛ぶことも可能である。
 逆重力の設定はそれだけで上記の様な繋がりを導き、これまでにない不思議なシチュエーションを描き出している。一画面の中に複数の重力の絵を描くのは非常に大変だったろうと思うが、丁寧に描き上げられている。逆重力は世界の秘密にも直結する設定となっており、「サカサマ」は物語のあらゆるところに現れて全体に一貫性を与え、最後には興味深い大きな「サカサマ」も控えている。
 映像のクオリティも高目で安定しており、今日をそがれる部分はない。
 
 全体として破綻の無い良作アニメだといえるが、各所で気がかりなところも多い。
 
 光学的な処理を入れすぎている。
 新海誠監督でおなじみのブルームや縦横一方に長く伸びる光輝がほとんど全画面に挿入されている。絵の情報量やクオリティを上げようとしたのかもしれないが、やりすぎ。表現になれてしまうとあるのが当たり前になり、綺麗だなというよりも邪魔なものに感じられてくる。
 また、画面の中で光っている部分に気をとられてしまい、本来見せたかった部分に意識が向かわないうちに次のカットという事態にもなり、技法に振り回されている。逆説的だが、新海氏の光の使い方は上手いのだと改めて感じた。

 反重力の二人が互いに抱き合って行動する場面が頻出するが、重さを全く感じない。
 二人の抱き合う様子は手をつなぐ程度の気楽さに描画されているが、実際はサンドバッグに抱きついて宙に浮いているような状況である。しかも離すと奈落の空に落下するというシチュエーションなのに命綱をつけようともしない。そこを現実的に描くと物語が動かないための緩和処置だと思われるが、世界観を最も感じさせる部分なので何らかのアイデアを見せて欲しかった。
 光輝の伸び方が重力によって違うかと思ったが、そんなことはないみたい。

 サカサマの顔はどうにも変に見える。
 こんなに上下逆の人の顔を長くアニメで見ることがなかったのでこの映画で初めて意識したが、反対の人の顔は可愛いのかどうか、表情がどうなのかといった細かな部分を判断しにくい。このハードルは思った以上に高く、感情や状況を把握するのに手間取ってしまい、結局各キャラクターへの感情移入の障壁となっていた。この題材を絵的に調理するのに、何らかのアイデアが必要だったろうと思う。

 進行が単調。
 「ジャーン」風のBGMでゆっくりズームイン/アウトが非常に多い。意味深げに見えるが、あれ? そんなに意味のある部分かな? という肩すかし。演出がワンパターンという印象かな。
 
 エピソードが淡々と続く構成で登場人物も限定されるので、絵本の形だと気になる部分は少なくなるかもしれないと思う。


2019年12月18日水曜日

ランボー

ランボー [Blu-ray] 

 ★★★☆☆
~まさかのサイコサスペンス~

 1982年の米アクション映画。当時社会的な問題となっていた「ベトナム帰還兵」を主人公とした物語で、その後のシリーズにはない強い問題意識がある。
 

 ベトナム帰還兵であるジョン・ランボー(シルヴェスター・スタローン)はかつての戦友を訪ねてアメリカの片田舎を訪れるが、戦友は枯れ葉剤の影響とされるガンですでにこの世を去っていた。うちひしがれたジョンは食事をしようと街に立ち寄るが、それを見かけた保安官ティールズに不審者だと目をつけられる。街から追い出そうとするティールズに反発したジョンは保安官事務所に連行され他の保安官達に無体な扱いを受け、そのショックでベトナム時代のトラウマが蘇り、ジョンの破格の戦闘能力が解き放たれてしまった――。

 なんだか「ランボー」といえば敵地に単身乗り込んで無敵の大活躍を見せるヒーローアクションと思い込んでいたが、シリーズ第一作である本作にはそのような要素はまるで無い。ジョンは一方的に迫害されるいじめられっ子で、ひどい仕打ちを受け続けたあげく大爆発、とんでもない破壊を町にもたらすという内容。同情できるが、とばっちりの被害を受けた住民が多数いただろうという点でどっちかというと悪役
 
 保安官がジョンを追い払おうとするのが事件の発端となっているが、その気持ちも分かる。ジョンは(当然だが)スタローンの醸し出す何を考えているのか分からない危険性をびんびん放射しており、保安官としてはむしろ正しいとさえ感じる。町外れに車で送られてどっか行けと言われたところでジョンがそのまま立ち去れば良かったのだが、ここに至るまでのあれこれに堪忍袋の緒が切れたのであろう、いじめられっ子が少し意地をはって町に戻ってこようとしたのがまずかった。あとはお互いが不幸の連鎖であっという間に意味の無い戦闘に突入していくのである。

 戦闘描写は切れや迫力に欠けあまり良い出来とは映らない。爆発や炎上はここぞとばかりに派手だが、潔くドッカンドッカンするのみで溜めや爽快感はさほど無い。肝心のジョンの活躍も、相手が大して鍛練を積んでいない州兵や警察官なので一方的すぎて凄さが分からず、サバイバルゲームに興じるなりきり中年の印象。途中で拾った何かの袋から頭と手を出して腰紐でくくった姿で戦っているのも、ちょっと気を抜くとコメディーに見える。

 これは星一つにするしか無いかなあと見ていると、ラスト数分で一気に評価が切り替わった
 
 ジョンが昔の上官に心情を吐露するのだが、それが言ってみれば「いじめられた内容」の告白なのだ。ベトナム帰還兵であるジョンは帰国後も頭がおかしくなるほど社会に追い詰められていたのだ。
 これまでの鑑賞中ジョンに対して「なんだか頭のおかしい人に見えるなあ」「怪しいなあ」と感じていた自分の印象それこそが、実にこれまでジョンの味わってきた社会からの冷たい視線だったのである。一気にここまでのおかしな行動が「本当に頭をやられていたから」という裏付けを得て、そうすると何とリアルな演出と演技だったろう。
 
 そこらの中途半端な「どんでん返し」を標榜する作品などより、はるかに凄まじい回天であった。
 
 物語は何が解決するわけで無くこの主張を持って潔く終わり、最後の訴えが心に残る。
 この1作目は、以降のヒーローものとなったシリーズとは確実に異なる。気がつけば懐に入られていた恐怖と驚き。侮っていた相手に至近距離から一撃を食わされる感覚。まさにジョンが相手に対して行った反撃を視聴者も直撃されることになるのだ。
 
 この感想は、当時から感じ得るものなのか、色々拙く見える今だから感じる事なのか分からない。
 だが、茶化したり、バカにしたりする気持ちで無く、現在この作品はとんでもないどんでん返しを秘めたサスペンスになっている。



2019年12月10日火曜日

ミッション:インポッシブル3

M:i:III [Blu-ray]

★★☆☆☆
~J・J・エイブラムス監督らしい秀才映画~

 2006年の米スパイアクション映画。1は冷徹な演出が冴えるブライアン・デ・パルマ監督。2は鳥を飛ばさせれば比肩無いジョン・ウー監督。そして3作目はどんな素材もきっちり商材にしあげるプロ監督J・J・エイブラムスが担当。
 

 IMF(Impossible Missions Force、不可能作戦部隊)に所属するイーサンは現場を退き教官の立場となっていた。優秀な生徒リンジーが初任務で捕らえられた。イーサンは急遽編成されたチームと共に奪還に挑むが――。

 あらすじを書こうとして気がついたが、非常に単純なプロット。分かりやすい本筋に映像で肉付けしアクションを楽しむ内容となっている。
 「最新スパイ道具」「ゴージャスな舞台」「とんでもない映像」のシリーズ鉄則を守って作られた今作、文句の付け所が非常に少ない。さすがはJ・J・エイブラムス監督。こういう要素がいるんでしょ? こういうのが見たいんでしょ? と秀才的にきっちりまとめている。
 唯一気になるのは終盤の映像的な盛り上がりに欠ける点。香港の高層ビル作戦が最後のクライマックスで、以降は消化試合のような地味な展開。そのままろうそくが無くなって消えるように終わってしまうので視聴後の物足りなさは難と言えるだろう。
 
 J・J・エイブラムス監督らしい、チケットの値段分きっちり楽しめる「特に心に残らない一過性のアトラクション映画」である。

M:i:III [ブルーレイ]

2019年12月9日月曜日

ターミネーター:ニュー・フェイト

ターミネーター:ニュー・フェイト [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

★★☆☆☆
~女子会もしくは同窓会~

 1984年公開の「ターミネーター」からさまざまなナンバリング、関連作品を生んだSFアクション映画の2019年公開最新作。ナンバリングで言うと6作目になるが、さまざまな理由で評価が芳しくなかった3/4/5(新起動)を無かったことにして2の直系として位置づけられている。
 オリジナルの監督はジェームズ・キャメロンで1と2の監督後はちょっと意見を言うくらいみたいなスタンスだったが、今作ではとうとう制作として参加。ガッツリ関わったよ! というのが売りの一つである。
 

 未来からの刺客を撃退し、起こるはずだった世界戦争を回避した女性闘士サラとその息子ジョン。しかし「起こるはずだった未来」からすでに出立したターミネーターはその後も二人の前に現れ、二人は逃避行を続けざるを得ない事態となっていた。
 前作(2)から23年たった2020年。再び未来からの使者がメキシコに現れる。一人は体に機械を埋め込んだ強化改造人間。一人は流体金属と金属骨格で構成されたハイブリッドターミネーター。
 二人が守り、狙うのは誰なのか。また、なぜ、何のために現れたのか。守護者と暗殺者の戦いの中に現れるサラ。再び未来を賭けた戦いが繰り広げられる――。

 1に続いて2を大ヒットさせたジェームズ・キャメロンの関与があっても、シリーズの立て直しは出来なかった。
 3~5と比べて「直系だなあ……」とは確かに感じるが、見知ったところに帰ってきた安心感と同時に代わり映えのなさにがっかり。しかも冒頭でとてつもない喪失感を味わわされることになり、戻った故郷は冷たかった……、みたいな盛り下がりムードがずっと継続される。
 
 そらおもしろいよ!? 豊富なアイデア、でたらめにリッチなシーンの連続。ワクワクするし、ドキドキするし、映画の楽しみは充分に詰まっている。でも、「彼」とこれまでのがんばりをほぼ無かったことにされてしまうと、もう何しても、何を成し遂げても時間軸(世界線)が増殖するだけで意味が無い、という虚無感に捕らえられてしまう。
 
 冒頭で彼を殺し、それなのに無理矢理サラとターミネーター(アーノルド・シュワルツェネッガー)を連れ回すことに商業的打算を感じるのも辛い。二人のアイコンを並べることが今作最大のフックなのだろうが、そのために物語が犠牲になっている。正直二人の活躍もたいしたことない。「2」を覆す展開は欲しいが、「2」の続き感が欲しい。そのためにむりくり二人の立ち位置を用意して苦しい動機を持たせているのだ。納得感のあるはずが無い。ターミネーターにいたっては、実質新キャラなのだ。感情移入のレベルが上がりませんよ。
 
 物語の主軸である「運命」に立ち向かう人間メンバーがすべて女性なのも、もうこれははっきりとやり過ぎだ。もともとジェームズ・キャメロンは一番の重要キャラを女性にする事が多い。「エイリアン2」ではリプリーが子供を守って戦い、「ターミネーター2」ではサラがジョンを守って戦う。使命感と母性の相乗効果で生まれる驚異の力が観客に素直に刺さる構成なのだが、今作では「女性」の位置づけがおかしい。性差のない平等を目指したのかどうかは分からないが、「女性的とされる魅力的な要素」まで削り取ってしまっている。
 見た目がどうあろうが、全員がウホウホ筋肉バカでたおやかさも優しさも無い脅威の戦闘狂集団だ。だって、味方メンバーが「30年以上にわたって鍛錬と実戦をくり返したターミネーターキラー」「体に金属骨格とジェネレーターを埋め込んだ強化人間」「人類を勝利に導く人類司令官」だよ? もうね、人類ドリームチームですよ。「ターミネーター:エクスペンダブル」ですよ。
 こんな状況に叩き込んでシリーズの正史ですとか、キャメロンさんどうしちゃったの!
 全員中身を男にした女性映画なんて、それこそ女性抹殺の愚行じゃ無いのか。
 
 敵ターミネーターのギミックは新規性があり脅威感も充分。初見のときめきとこりゃやばいという圧力は本当に楽しいものだ。ただ序盤で能力を見せた後はそのインパクトを上回るシーンが無く尻すぼみ。流体金属の能力も上がっているようなので、体全体パチンコ化とか、旧式の火薬銃を腕に急ごしらえするとか、プラスアルファの使いこなしを見せて欲しかった。

 「2」は敵だったターミネーターが味方になるという大仕掛けがバッチリはまった。今作にも(難しいとは思うが)そういった大仕掛けが必須だったのだろうが、残念ながらそれを見出すことが出来ていない。「彼」の死をそうだと考えているならそれは間違いだ。
 マトリクス的に考えるなら、人類とマシンの戦いにさらに中立の存在が介入してくる展開はあるかもしれない。人類を滅ぼそうとはしないマシン陣営。そこがエージェントを送り込んできて三体のターミネーター(あれ? 今作も大体そんな感じ?)の戦いの中、不利な方に加担して戦いを継続させようとするとか。
 もしくは心を入れ替えたスカイネット率いるターミネーター軍団が人間と共闘し、第三の敵に挑むとか。歴代ターミネーターそろい踏みで敵陣営と勝ち抜き戦とかフックとしては価値ありそう。

 今作、邦題は「ターミネーター:ニュー・フェイト」だが、原題は「Terminator: Dark Fate」。おそらく「見えない運命」的なイメージなのだろうが、これではシリーズの「暗澹たる運命」である。またしばらくシリーズは地下に潜らざるを得ないだろう。

 さてキャメロン氏、5(新起動)の公開時に褒めちぎっていたのが後に手のひら返して苦言をくり返しているように、どうも信用ならない部分がある。今回も制作としての参加と言うことで、また無かったことにして監督復帰とかしても全然驚かない。そのための制作止まりでは無いかというくらい構えてしまう。「アバター」続編に集中と言うことなのだろうが、早いところ作り上げて中途半端な関与でほったらかしの「アリータ: バトル・エンジェル」の続編なりターミネーターの新作なりの監督に復帰して欲しい。


 

2019年12月6日金曜日

デビルズライン

デビルズライン Blu-ray BOX II【期間限定生産版】

 途中で見るのをあきらめた作品
 ※最後まで見てから評価すべきなので評価なし。
 ※あきらめた理由を書きます。
 
 一話の半分を視聴してやめる。
 
 2018年のテレビアニメ。
 吸血鬼? を題材にした現代恋愛物?
 ぼうっとした大学生(これが主人公? ヒロイン?)が友達とゆ~っくりやり取り。
 吸血鬼とそれを取り締まる勢力の戦闘はクオリティ高いが、良くあるイメージの範疇で既視感強し。
 真ん中のCMで原作まんがの宣伝があり、高ぶると血が吸いたくなる吸血鬼との恋愛模様、であると明示されてこれはもう要らんと判断。
 ネタバレを挟み込んで来るのも驚いたが、こんなに素直に見るのをやめられる自分にも驚いた。
 
 この茶番感は以前感じた事がある。
 色々なアレルギーを紹介するバラエティーを見ていたとき、右上に「まさかの人間アレルギー!」とずっと表示されていた。
 で、VTRで改めて示される「なんと人間アレルギーだったのだ!」。
 VTR映像を作る人の苦労をこんなに無視していいのかと思ったが、それと同じ感覚だった。
 
 ああ、二人は恋に落ちるんだね、と分かってしまうとそれ以上興味を引かれる部分は無かったと言うこと。

 
 

2019年12月5日木曜日

LOST SONG

LOST SONG  Blu-ray BOX  ~Full Orchestra~

 途中で見るのをあきらめた作品
 ※最後まで見てから評価すべきなので評価なし。
 ※あきらめた理由を書きます。

 二話まで視聴してやめる。


 2018年のテレビアニメシリーズ。
 歌う事が魔法的な効果を発揮する世界。歌い手の少女の故郷がその力のせいで滅ぼされて――。
 示したい内容を各パーツそのまま並べている印象で、繋がりも納得性も無い。
 主人公がやんちゃである事を示すための表現が、二階の窓から飛び出して、屋根をすべって屋外に、といった具合。
 短絡的で粗雑。素直に拙い。
 それがずっとつづくのでこれは見なくて良いかと判断。


2019年12月4日水曜日

ミッション:インポッシブル

ミッション:インポッシブル スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]

★★★★
~道具と舞台と映像と~

 1996年の米映画。往年のテレビシリーズ「スパイ大作戦」を映画化し世界的大ヒット。シリーズ化を確定させた。万人にお勧めできるスパイアクション映画の金字塔
 主役イーサン・ハントを演じる「トム・クルーズ」は昨今プロデューサーとしての活動も盛んだが、今作がプロデューサーデビューの作品でもあった。


 IMF(Impossible Missions Force、不可能作戦部隊)に所属するイーサンは指揮官であるジムを中心としたチームで着実な成果をあげる敏腕工作員。今回の任務も困難性をクリアして成功寸前に至るが不測の自体が起こりチームが壊滅。。生き残ったことで裏切り者の汚名を着せられることになったイーサンはからくも元仲間達の包囲を脱出。同じく生き残ったクレアと共にチームを壊滅させた謎の人物を追って活動を開始した――。

 現在(2019年)に至るまでトップスターの地位を守り続けるトム・クルーズ。つまりずっと顔を見る機会に恵まれているわけだが、20年以上前の彼はとにかく若い! M:I
シリーズは2018年で6作目までリリースされており、そのすべてで彼はハードなアクションを自演して関係者をやきもきさせている。この作品時点で30代前半の計算だが、とてもそうは見えない切れの良いアクションと肌の張り、そしてきらめく笑顔! やっぱりトムはスターだ。

 今見るとスパイの秘密道具が古くさかったりするが、冒頭でテレビシリーズをイメージさせて接続をとると共に、本作のリアリティラインを端的に示してくれるので、こういう映画なんだとはっきり分かって非常に見やすい。話の進展がテンポ良く、見所となる映像を良いタイミングで挟み込んでくるため、展開に疑問を差しはさむ前に次の興味に引っ張られてしまう。これはテクニックだ。うまい。
 見所シーンは今でも古びていない。巨大水槽が破壊されてあふれ出す水流。超特急を舞台としたアクション。中でもやはりこれというシーンは天井からつり下げられたイーサンが床すれすれで体を大の字に伸ばすシーン。これなどもうシリーズのアイコンといっていい名シーンだろう。
 
 「最新スパイ道具」「ゴージャスな舞台」「とんでもない映像」をトム・クルーズの包容力でギュッとまとめたこのシリーズ。続編でも着実に時代を取り入れ、各要素に磨きをかけて新規性を保っている。シリーズでも2作目程度で失速する映画がほとんどなのに、6作目まできっちり魅力を保っているのは、この根本部分のクオリティを守り抜いているため。監督がころころ変わっている中プロデューサーを貫徹しているトムの力は大きいのかもしれない。

 冷徹な印象のカット割りと時に現れるねちっこいカットの対比が非常に映画的なのはブライアン・デ・パルマ監督の真骨頂というところか。


 

2019年12月3日火曜日

エンド・オブ・キングダム

エンド・オブ・キングダム [Blu-ray]

★★★★
~テンポと密度で一気に見せる~

 2016年の米映画。テロ事件から合衆国大統領を守るシークレットサービスの奮闘を描いたアクション映画。いやはやその規模の思い切り良さに脱帽。面白い。
 主人公マイク役の「ジェラルド・バトラー」は「300 (スリーハンドレッド)」の主役スパルタ王役を思い出す人が多いだろう。 


 米国大統領ベンジャミンの信頼厚い警護人マイクは妻の出産を間近に控え、危険なシークレットサービスという職を辞すべきか悩んでいた。そんな折イギリス首相が急逝。先進国の首脳達が葬儀出席のためロンドンに会することになった。最後の大仕事として警護任務に当たるマイクだが、テロリストは万全の準備で前例を見ない大規模な攻撃を開始。瞬く間に多くの首脳陣が殺され、ベンジャミンとマイクも敵に囲まれて孤立。二人はアメリカの権威をかけてデスゾーンからの脱出を図る――。

 まずテロ計画の規模に驚かされる。G7の最高首脳をまとめてやっちまおうという目的もすごいが、その規模。そんな馬鹿なとなるのだが警察組織の半分(画面からの印象)がテロ集団として突然攻撃を開始するのである。この黒幕はアメリカに身内を殺された武器商人バルカウィで、数年がかりで傭兵を雇い準備を整えた模様だが、いやいやさすがに無理だろう、と思いつつも911同時テロを思うとあっけらかんと巨大な陰謀の方が成功するのだろうかと説得されそうになる。とにかく敵味方が同じ制服を着ているため防御しようが無く、「舞台に撤退命令を出せ! 残ったのが敵だ!」とするくらいの混乱のさなか、ベンジャミンとマイクはワラワラと湧いてくる敵から逃げまくる。この辺りゾンビ映画の趣もある。

 マイクのベンジャミン大統領への献身、大統領のマイクへの信頼といった立場を越えた繋がりも見所で、ただ守られるだけで無い大統領のたくましさはなるほどアメリカ国民はこういう大統領増を期待しているのだろう。質実剛健で覚悟をもってく国民に奉仕する強靱な意思。自分も一票入れたくなる。

 ヘリの空中戦、ビル全体を爆破する勢いの市街戦など見所も多く、最初から最後まできっちり楽しむことの出来るすぐれた作品。長回しもあってスタッフがノリノリで楽しんで作っている感じ。各国首脳が死んでいく中にきちんと日本総理大臣も含まれています。

 前作である「エンド・オブ・ホワイトハウス」、続編である「エンド・オブ・ステイツ」もぜひ見てみたい。

2019年12月2日月曜日

SPOOKS MI-5

 SPOOKS スプークス/MI-5 [DVD]

☆☆☆☆
~止まらぬじじいの大暴走~

 2015年のイギリス映画。何か垢抜けないというか、こぢんまりしていると感じたが、なるほど元はテレビシリーズだった模様。キャスト、スタッフはほぼ一新されたと言うことだが、テレビシリーズっぽさは抜けていない。
 

 国際指名手配されているテロリスト集団の首領カシムがイギリスで確保された。移送を受け持ったイギリスの情報機関MIー5は、綿密に計画された襲撃計画によりまんまとカシムをその仲間達に奪われてしまう。その責任者であるハリーは解任されるが、MI-5組織内に内通者が居るとして独自に捜査を続け、潜伏していたカシムにたどり着くが――。

 もう老人の域に入ったハリーが恐ろしいほどの能力を発揮してテロリスト達ばかりかMI5をひっかかき回す。その動機が「このままではCIAに英国内での活動も主導権を握られてしまう」状況への抵抗であった。といってもカシム強奪だけでなく、その後も後手後手に回ってハリー一人にしっちゃかめっちゃかにされるMI5の様子は、閉鎖こそ相応しいと感じさせる間抜けっぷりである。本部の規模もちゃちい。そんなに零細機関なのだろうか。
 そもそもハリーの行動自体が組織としてのMI5存続を否定している。解任された元諜報機関員がテロリストと独自に接触して――という展開なわけで、そんなやつを雇っていた組織が政府から糾弾されないわけはなかろう。

 この大いなる矛盾がある限り、この作品は荒唐無稽なスパイごっこ映画に分類されるべきものだ。それなのにシリアスに演出されるものだから、観ている方は画面とシナリオのちぐはぐに最後までクエスチョンマークを下ろせない。ブレーキとアクセルを同時に踏み込むようなもので、精神的に良くない。潔くないのだ。

 話は二転三転して先が読めず、中盤まではどうなるのだろうと興味を持ってみることが出来るが、終盤の展開がハリーの動機と考え合わせると予測できる範囲を超えたばかばかしさで、時間を返せとがっくりした気分になってしまう。残念ながら「まじめに見て損した」と感じてしまった。つくった人も見た人も、モチーフになった各組織も、誰も得しない一本なので、このまま雑多な映画の海に沈んでしまうのが良いと感じる。

 ちなみに007ジェームズ・ボンドが所属するのはMI6、秘密情報部であり「国外の政治、経済及びその他秘密情報の収集、情報工作を任務としている。」(Wikipedia)とのこと。MI5は「保安局」でありイギリスの国内治安維持に責任を有する情報機関。何というか、そりゃ地味な映画になりますわな。