2022年8月31日水曜日

ドラゴンボール超 スーパーヒーロー

 ドラゴンボール超 スーパーヒーロー

★★★☆☆
~3DCG感を払拭した高クオリティアニメ~

 2022年に公開。言わずと知れたレジェンド漫画『ドラゴンボール』のアニメーション映画。
 漫画で描かれた以降のドラゴンボールは連綿と描き続けられており、原作を核として続編漫画(作者は別)、アニメ、ゲームとかなり自由自在に伸び盛っている。
 映画は今作でなんと21作目。最近の作品では原作者『鳥山明』の関わりが増え、彼の才能なのか、現場のモチベーションアップなのかやはり作品の魅力が増していると感じる。さすが。

 息子と二人見に行った。8才の息子はほぼドラゴンボール未体験であるが、友達がスマホのゲームで遊んでいるのを知っていたり、名前や何となくの雰囲気くらいは知っている。どうなるものかと思ったが、最後まできっちり楽しむことが出来たようで、これだけでもきちんとつくられた良作であると言えるだろう。
 息子が認めたから、というのではなく、前提が複雑でそれを理解しなければ楽しめなかったり、退屈なシーンが長く続きすぎたりすると、素直な物で彼は全く視聴意欲を無くしごそごそし始めるのであるが、様々に突っ込みや歓声を上げながら(声が大きすぎるくらい)、夢中になっていた。

 自分が作品として気にしていたのは、全編3DCGでつくられている、ということ。
 これが全く見事で、これまでの2D作品と違和感が全くない。むしろ調安定したハイクオリティのアニメ作品。言われなければ3DCGだと分からない人も居るのではないだろうか。ダイナミックなアクションシーンでもCGだからと無駄にカメラを動かすような愚策を犯さず、冷める瞬間の無い魅力的な作品になっている。
 
 あえて難を言うなら、3DCGによって全編が安定したが、画面クオリティという点でのメリハリがなくなった、と言えるかも知れない。手書きアニメーションは多数の人の描いた絵をつなぎ合わせてつくられるので、やはりその腕前に差異がある。見せ場のシーンは特に腕の良い原画、動画によってクオリティを上げる、という作品は良くあると思う。超絶作画シーンの突出具合とその輝きという点では、手書きアニメーションの方がより強烈かも知れない。

 長い歴史で世界が広がり、キャラクターが膨大となっているドラゴンボールだが、今作では大胆に登場キャラクターを絞りきることに成功。主人公であるはずの悟空やそのライバルベジータさえ本筋に関係の無い幕間キャラとなっており、それなりの見せ場は用意しつつ作品中のアクセントという位置づけ。結果ピッコロと悟飯をきっちり主軸にしたピントの合った展開となった。今作初登場のキャラクターも少なくないのに散らかった印象は無く、新キャラの魅力も十分に描かれている。

 ドラゴンボールでは名前の付け方に法則のあるキャラクター群が居るのだが、たとえばブルマ、トランクス、パン(ツ)といった「はくもの」グループ。これに対抗する敵としてDR.ゲロの孫が登場するのだが、名前がDR.ヘド。なるほど「吐くもの」グループというわけでネーミングセンスに脱帽。

 

 

2022年8月26日金曜日

エルヴィス(2022年映画)

エルヴィス(字幕版)
★★★☆☆
~エルヴィスのイメージが、肉付けされる~


 2022年公開の米映画。
 どんな風に生きていてもその名前にあたったことはあるであろう著名ロックシンガー、『エルヴィス・プレスリー』その人の生涯を描いた作品。
 
 確認ではあるが、伝記映画とはいえ、すべての事実を伝えることが出来ない。従って、作品に含める要素についての取捨選択が行われ、その選択をどのような基準で行うのかによって、対象の人格が一つの物語として浮かび上がり、つまりそれが伝記の物語性なのだと思う。当然ではあるが、今作ももちろん現実に基づいたフィクションなのだ。

 取捨選択があまりに恣意的だと嘘くさく、誠実すぎると抑揚がなくなる。たとえばエルヴィスは最愛の妻と離婚に及び、それはエルヴィスの放蕩、女性関係も原因だと示されるが、妻は愛を貫いた風に描かれている。実際には彼女も浮気して去って行ったという話もあり、映画にその情報がないということは不誠実に感じられるかも知れないが、作品として考えるなら、その情報があっては上手くまとまらなかっただろう。
 エルビスと彼女のつながりはこの作品内の主軸の一つであり、二人のシーンのBGMにはエルビスの代表曲である「好きにならずにいられない(Can’t Help Falling in Love)」が様々なバリエーションで流れてその「特別」を感じさせる。
 伝記は一つの解釈であり、事実の羅列ではないのだ。視聴者はこの作品で描かれた内容が完全な真実なのではなく、別の見方、解釈も存在するのだということには留意しなくてはならない。 

 かくしてエルヴィスの人生を、彼が追い求めた『愛』に沿って構築した本作。名前と恰幅の良いおじさんが奇抜な衣装を着けているイメージしかなかった自分の知識に、一定の肉付けが行われた。

 やはり一番衝撃を受けたのは、黒人文化と白人文化を融合した楽曲を、白人として発表したという事実。しかも人種隔離政策真っただ中のアメリカで。
 幼少期のゴスペルシーンが実に有効に働いており、その薫陶を受けたエルヴィスが発表した楽曲が、いかにゴスペルだけでなく、カントリーだけでなく、それらが融合したものであったのかが見ているだけで納得出来る。

 そしてビール腹の奇抜な格好をしたおっさんが熱唱するというイメージは、エンターテイメントの魔力に捉えられ、一生をショーに殉じることになった哀れな、そしてある意味幸せな希代のロックシンガーの姿に書き換えられた。
 特に舞台の上で演者が観客全体から受ける熱狂はある種の愛であり、その強さと恍惚は家族が与えてくれる愛よりも強く、依存症になり得るという視点は、彼だけでなく多くのエンターティナーが舞台に魅せられて死んでいくという事実に強い説得力を与えてくれた。

 作品の最後に彼本人の映像が丸一曲分流れる。定点カメラで捉えた演出も何もない映像なのに、その求心力の強さよ! 
 スターの持つ引力。古い映像を経て、なおこの強烈さなのかと驚かずにいられない。

 1本見ると、するっと腑に落ちる。
 エルヴィス・プレスリーは、永遠のロックスターだ。

2022年8月25日木曜日

ヴィナス戦記

ヴイナス戦記 (特装限定版) [Blu-ray]

★★★★
~誠実なつくりの良作~


 1989年に公開されたアニメーション映画。

 アニメ作家(演出から原画まで幅広いのでこのように書いてみる)の 安彦良和 が自身で連載した漫画作品をアニメーション映画化。 漫画原作は1987~1990年の連載で、第二部で終了(尻切れトンボ気味)している。このうちの第一部が原作。
 人類が生息可能となった金星を舞台に二大国家の紛争が勃発。それに巻き込まれた若者達の生き様を描く。

 設定や大枠は漫画と同様と言えるが、なにせ原作者が監督、脚本なので自由になたを振るって改変。漫画とは別の作品になっている。メカニックデザインも大きく異なっており、強力な武器を備えたバイクと圧倒的強靱さを誇る戦車の戦いが見所なのだが、その両方ともイメージを大きく変えている。漫画のバイクは二輪だが、映画では一輪となっており、戦車の形状も機械的な物から生物的な印象へと変わっている。原作は安彦氏デザインだが、映画では横山宏と小林誠がメカデザインを行ったと言えば、それだけで想像できるかも知れない。どちらもそれぞれに魅力的。

 この作品で話題となるのは、『監督によって封印された』という扱い。2019年までDVD化されていなかったため、幻の作品などと吹聴されることもあるが、VHSなどは販売されていたので、レンタルビデオでは普通に見ることが出来た。VHSが廃れた後に幻となった、とするのが正しいのかも知れない。
 封印されたのは監督の意向とのことで、安彦氏は長らく本作を失敗作だと考えていた模様。興行的に失敗したというのが大きな原因だと言われている(安彦氏は本作以降アニメとの関わりが非常に絞られた)が、作品としてはきちんとつくられた良作である。

 自分は当時本作を映画館で鑑賞したが、まあまあおもしろかった、と言う印象。バイク搭乗時の主観シーンが実写映像にアニメセルを重ねたもので、臨場感は出ているものの、異質感と合成の不整合が目立ってマイナスの方が大きく感じる。かすれた自分の記憶にも、なんで実写使ったんだろう、と言う疑問が残っている。当時の評判は分からないが、分かりやすいマイナス点が存在したことは確かである。

 久しぶりに見てみると、映画そのものが古くなっているので実写部分の悪目立ちをあまり感じない。安彦氏の超絶画力を基準とした絵作りは全編で高レベル安定。特にキャラクターについては申し分の無い魅力的な表情、ポーズで魅了してくれる。
 当時は物足りなかったラストの盛り上がり、行き当たりばったりな展開も今見てみれば実に人間くさい展開と感じられ、完全にすっきりしない、割り切れない物語として現代的だと感じるくらい。
 原作から大きく変更されたキャラクターの位置づけも実に上手くはまっており、適切な物量をきちんと配膳した誠実な映画作品なのが分かる。
 
 難点を挙げるなら、(安彦氏が監督した映画共通の特徴なのだが)アニメーションの『動き』の魅力が乏しいことだろう。
 詳しくは別の機会になるが、安彦氏の描く絵は静止しているのにものすごい躍動感を持っている。不安定なポーズに動きを込めて、静止画としても見栄えのする一瞬を切り取っているのだ。(東京オリンピックの短距離走スタートを横から写した有名なポスターを想像してもらうと近い)
 これはまさに傑出した才能で、他に似たような印象を持つ作家に会ったことがないが、なんとこれがアニメ監督(特に絵コンテ作成)としては特大のマイナスになっている。動かすほど動きを感じなくなるのだ。静止画の方が動いて感じるのである。
 特に目立つのが『全作画のシーン』『同一カメラアングルで近づいてくる対象を写すシーン』で本来非常に速い動きを表現するシーンなのに、とてももったりとして残念に感じる。
 
 見終わった後、けして大団円ではないのに、すっきりと後味が良い。
 キャラクターがきちんと人格をもっており、それを全うした末にたどり着いた、ろくでもない世界。しかし、物語中にはぐくまれた希望はある。
 
 1本の映画として実にまとまりの良い素敵な作品だと思う。