2009年8月19日水曜日

アマルフィ~女神の報酬~

★★☆☆☆
~現地感のある海外ロケ~

織田裕二主演の邦画。
全編イタリアロケで撮られたクライムサスペンス(になるのかな?)。
監督は「容疑者Xの献身」の西谷弘。
主演は織田裕二。

やはり織田裕二はスクリーン映えするというか、華がある。彼自体がドラマの成分を持っていて、全編にその風味を放射しているという感じ。
特別出演の福山雅治とイタリアの路地で振り返り、二人ならんで微苦笑するシーンがあるが、映画中の意味は限りなくゼロなのになんともゴージャスな、ある種の映画が持つお祭り感が溢れている。

映像は、海外ロケ特有の浮いた感触の薄い、地に足が着いた物になっている。きちんとロケした場所はかなり限定されていると思われるが、スナップショット的に撮った町や人々の風景が要所要所で挿入され、きちんと生活感のある血の通った物語舞台となっている。

ただ残念ながら、総合的に見ると大したことのない映画だったな、という感想になってしまう。
物語は勢いを保って進展していくが、どうも納得のいかない展開がそこここにあって、それを無視できるほどの没入感はない。犯人の動機からして説得力に欠け、スケールも大きいような、小さいような……。
細々とした演出には気が届いているが、そもそも何のためのシーンだろうと考えたり、なぜこうなっているのだろうと疑問を感じると、とたんにシチュエーションが並ぶだけのちぐはぐさが浮かび上がってくる。細密画を描いて体を上げてみると、バランスがむちゃくちゃだった、という感じか。
伏線や小道具の使い方。見所を釣り合いよくはめ込んでいく構成など、西谷監督の手腕は近年の邦画にない映画らしさを感じさせてくれてくれるが、向き不向きとして、もっと細々した人情的な作品の方が西谷監督の得意分野なのかもしれない。

脇を固める俳優陣も、いかにも選りすぐりで格調高く、きちんとした映画の範疇で見られる映画であることに間違いはない。

全編なぜかテレビドラマの映画版といった雰囲気だが、よくあるテレビスペシャルを劇場で流しました的ななんちゃって映画ではなく、劇場での上映がふさわしい(お金を払う価値のある)、きちんとした映画だ。

それにしても、題名はなぜこうなったのか、一応関連はあるものの大いに疑問。

2009年8月11日火曜日

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 EVANGELION:2.22 YOU CAN (NOT) ADVANCE.(通常版) [Blu-ray]  

★★★★
~魂の成長へ~

 まず言えることは、今作は現行のアニメーション映画のトップクラスに位置する価値ある作品である。

 物語、画面要素、両者ともに緻密に組み上げられており、決して長くない上映時間なのに満足度が高い。みっちりと餡の詰まった月餅といった印象だ。
 前作に続き展開が非常に早く、密度が高いが、せせこましいかといえば、そうでもない。全体のリズムは早いが、その中での緩急は守られているため、ゆったりした箇所はきちんとゆったりしている。

 その中で描かれる物語は、まさに「破」と呼ぶにふさわしく、旧作とは異なる展開を繰り広げる。差異はあらゆる箇所に数かぎりなく、もはや異なる物語だと断言したくなるが、なお全体の骨格は守られている。
 この不思議な感触。
 物語自体が特定の方向に進んでいこうという力と、登場人物達がそれにあらがおうとする力がせめぎ合っている。
 運命と意志のぶつかり合いを感じるのだ。

 実際、旧作から最も変化しているのは、登場人物の心だ。
 性格が変わっているのではない。
 同じ人物が、経験を積むことで、磨かれ、強く、やさしくなっているという変化。

 魂の成長。

 一度の命ではたどり着くことの出来なかったところへ、繰り返し這いずりながら進んで到達しようとする一途。
 中でも主役たる三人、シンジ、アスカ、アヤナミはみな好感を覚える方向へ歩み、自暴自棄や狂気、虚無から離脱しようとしている。

 見ていて、何かとてもうれしいのだ。
 懐かしい友人が、苦労の末、立派になった姿を見ている。そんな心強さを感じる。

 ネットを見回しても絶賛の嵐だ。それに紛れた批判は、なかなか耳に届いてこない。だから自分は自分で、きちんと問題点も書いておこう。

 童謡を差し込むセンスには、反吐が出る。
 希望のない悲惨なシーンで、懐かしいあの歌を流されるのは、今になってトラウマを植え付けられるようでムカつく。シーンの意味にもつながっているし、雰囲気もあっていると思うが、余りに悪趣味だ。せめて英字歌詞にしてくれれば良いあんばいになじんだと思うが、ぬけぬけと声優に歌われてしまっては失笑せざるを得ない。
 これだけ才能が結集していれば、もっと美しい演出が可能であったろうに、思いつきに捕らわれて、そのまま形にしてしまった感じ。幼稚だ。

 クライマックスシーンの歌も同様に違和感を拭えない。
 率直に言って、歌声が素人臭い。にぎやかな曲ならそれに紛れて気にならないのだろうが、しっとりと聞かせるのには無理がある。映像の完成度に反して歌声が不安定。どうにも気になって仕方がない。
 母が子供に聞かせる子守歌のような雰囲気を狙ったのだろう、とも思える。歌っているのは『彼女』であるし。だけれど、これではせっかくの盛り上がりに水を差すだけではないかと思う。

 そして最後に、どのように見ても、これは「つづく」と出る中途の作品だ。期待は大きいし、延長線上には傑作の二文字が見える。
 だからこそ、絶賛は避けるべきだ。
 きちんと襟を正し、冷静に、続編や完結編を待とう。
 その上で、ああ、傑作だったな、とようやく言いたい。

 ここまで胸躍る作品を見せてもらえたのだから、焦ることは無いだろう。

 物語全体の仕組みにも様々な仕掛けがありそうだし、新キャラクターの活躍もまだまだこれからだと思える。
 つづきを楽しみに出来る作品になってくれたことが、古いファンにとってとてもありがたい。 

 

 

 Qの感想は当時ショッキングすぎて書けなかったのだ……。今なら書けるかな。

◆四部作の一作目『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の自分の感想はこちら

 Evangelion: 1.11 You Are (Not) Alone [Italian Edition]
★★☆☆☆
~マイナーチェンジ~

◆四部作の最終作『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』の自分の感想はこちら


★★★★★
~一緒に変わってきてくれた~

 

 

 

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

Evangelion: 1.11 You Are (Not) Alone [Italian Edition]
★★☆☆☆
~マイナーチェンジ~

 一時代を築いたアニメーションの一大記念碑的作品「エヴァンゲリオン」。それを四部作に分けて再度新規作成するという壮大な企画の第一作。
 果たして前向きなのか、後ろ向きなのか。

 かなりの急ぎ足で旧版の展開をなぞっていくダイジェスト作品。前情報無くこれを見て、話を理解できるのかどうかが心配になってしまう。旧作を見ている人がターゲットということだろう。横綱相撲というか、超弩級の実績をもつコンテンツだからこそとれる手法だ。

 見た印象は良くも悪くも旧版と変わらない。ただやはり、幾何学使徒のイメージは大きく拡張され次世代感を感じさせてくれる。それがほぼ終劇あたりなので、見終わったときの満足感も余韻もそれなりにある。

 その他気がつくのは、テレビで見たのと同じシーンが多いという点。
 もともと「再構成」を強く押し出していたので、額面通り、嘘偽りがないのだが、同じレイアウトから描き起こしたという割には大したこと無いなあと感じた。が、後にテレビ版を見直してみて驚く。

 テレビ版のクオリティの乱れが目について仕方がないのである。

 当時はテレビ放送されているアニメとは思えないクオリティと安定度にしびれたものだが、再見の印象は(変わらずおもしろい作品だが)20年近く前のアニメーション、という言葉通りの物であった。
 そうしてみると、変わらないなと思った新劇場版のそれぞれのシーン、の完成度は確実に向上し、不安感無く鑑賞できるよう整理整頓されていたと思い知る。記憶の中で思い出が美化されるように、エヴァンゲリオンも記憶の中で詳細が消え去り、すばらしいと感じた印象だけが残っていた。その印象に対抗して「変わらないな」という感想を引き出した今作は、まさに再構築という仕事について非の打ち所のない結果を出したことになるだろう。

 この後、テレビ版とは異なる筋書きに突入していくとのことだが、それが本当ならこれは素直に楽しみだ。次作が同様の再構築に過ぎなかったとしても、それはそれで楽しみだ。
 ただ再構成に過ぎないのだとすると、求心力のない、懐古趣味的作品となってしまうだろう。一線級スタッフの時間と魂の消費をいささかもったいないと感じてしまうことになるのではと危惧を薄く投げる。

 

 

 Qの感想は当時ショッキングすぎて書けなかったのだ……。今なら書けるかな。

◆四部作の二作目『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の自分の感想はこちら

 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 EVANGELION:2.22 YOU CAN (NOT) ADVANCE.(通常版) [Blu-ray]
★★★★

~魂の成長へ~

◆四部作の最終作『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』の自分の感想はこちら


★★★★★
~一緒に変わってきてくれた~

 

 

妖怪大戦争

測定不能(これは吉本新喜劇)
~北極点到達~

寒いギャグ、寒いシナリオ、寒い映像の三つのCoolそろい踏み。
これを気にせず公開する様は、まさにCoolなBusinessStyle。割り切り良すぎて反吐が出る。

ハリウッドに比べ、残念ながら日本映画のCG要素はつたない。
かつて威容を誇った特撮技術も、技術の世代間伝授に失敗したため、すでに滅んだ。
妖怪が大暴れするという性質上、どうしてもCG、特撮が不可欠な今作。予算も低そうだし、映像クオリティに文句をつけても大人げない。むしろ、この程度のクオリティにはすでに慣れているので、悲しいかな特別に腹が立つわけではない。

見ていて厳しいのは、頭にくるのは、吉本の芸人総出演の安っぽさ。
TV番組のコントなら失笑で済ませることのできるシーケンスを最初から最後まで並び立てる。
これが新喜劇ならば、客は皆大前提として笑いに来ているのだから、相当空気が悪くない限り笑ってくれるだろう。

この映画はそれと知らずに入ったお笑い会場だ。
世界に入れない限り、常に忍耐をしいられる一種の修行に取り組むことになる。

たとえば……、
興味もないのに、女性に誘われてほいほいついて行ったアイドル映画とか、
演劇を見慣れてないのに突然見たライオンキングとか、
ちょっと企画説明して、と行ってみたら重役そろいぶみのマジ企画会議だったとか。

そんなの聞いてないよ~という絶叫が響くばかり。
その絶叫はある意味悲壮で、恐怖で、ああ、この映画自体が妖怪だったよ、と思えば納得できる。

ともかくこれは吉本新喜劇であって、映画の範疇で判断するのは難しい。測定不能とさせてください。

2009年8月5日水曜日

ハッピーフィート

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 測定不能(見ていて気持ちが悪くなった)
~素直に気持ち悪い~


今やハリウッドの一翼、CGアニメーション映画。
歌で愛を語る皇帝ペンギン。それなのに歌が歌えない主人公は、タップダンスだけが得意だった……。

……と聞いてもピンと来ない事と思う。そしてその気分は終劇まで続く。
何が致命的なのだろうと考えると、売りであるべきCGアニメーションが厳しいのだと言わざるをえない。
今やCG技術は成熟し、どのようなイメージでも描き出すことが出来る。その中でアニメーションの場合は得に、どの程度デフォルメし、擬人化するのかを決断しなければならない。
この作品は、その着地点を見誤った。

ペンギンの子供のフワフワ柔らかそうな体毛。氷ばかりなのに見飽きることのない様々な表情の世界。歌に合わせて踊る大量のペンギン達……。
それぞれについては素晴らしいCGクオリティだ。それなのに気持ち悪いのは、ペンギンのリアルとデフォルメのバランスが良くないからだろう。

「不気味の谷」という言葉がある。
CGグラフィック技術の進歩に合わせて生まれた言葉で、中途半端なリアリスティックが、見た人に嫌悪感を生むというものである。
つまり、見た目は完全に人間であるのに、動きがぎこちなかったり、瞳に感情や魂がこもっていなかったり……。蝋人形館の人形達が動き出した感じだろうか。
この映画はまさにそれで、不気味の谷の大行進になってしまっている

特に気になるのがキャラクターの動き。半端にペンギンらしすぎるのだ。
ヨチヨチと不器用に歩くペンギンの姿は特徴的でかわいいが、ミュージカルシーンの地味さにつながっている。可動範囲の少ない、ペンギン的な動きのまま、踊っているのだから、どうにも見栄えが悪い。アラジンのジーニー並とは言わないが、もっとアニメーションらしく動かせば良かったのではないだろうか。

ここまで来ると、視覚から来る先入観も手伝って、人物像や物語まで気味悪く感じられてしまう。
主人公は子供心(夢?)を捨てない象徴として、最後まで産毛に覆われたままだ。体格良く、色気づいているのに子供の姿。これはもう薄気味悪い怪物だ。冒険を果たして毛が生え変わり、大人になりましたというなら分かるがエンディングもそのままとはどういう事か
主人公が人間に捕獲され、動物園で壁を向いてぶつぶつしゃべるシーンは、絶望の表現としも病的過ぎるのではないか。(なお、このシーンでは人間が実写映像で扱われており、これまた気持ち悪い。)

結局各種問題は主人公のタップダンスで解決してしまうが、正直うまいのかどうかさえ分からない。足元をセコセコ動かして、外れたようなリズムを演じられても、直感的にすごさは伝わらない。絵としても、これまた地味に過ぎる。
一般常識や、伝統文化になじもうとしない視野の狭い若者が、自分ではすごいと思っているタップダンスを周囲に振り撒きながら、人間との意志疎通を果たして成長もないまま故郷に帰る。思い人は何故か彼を待ち、一族は彼を英雄に祭り上げ、大団円……。
夢落ちで、目覚めたら一族のつまはじきでした、というならまだしも、一貫して気分の悪くなる作品だった。
嫌悪の一念を込めて、測定不能とさせて頂く。