★★★★☆
~飛ぶアキレス~
ブラッドピット主演。古代エーゲ海を舞台にした古代戦闘絵巻。
注意すべきは、神話の物語を、史実としてあり得る形で描いているという点。
つじつまの合わない神話を、人間世界の物語にまとめている。
古い物語は、さまざまな口伝によって付け足し、削除が行われる。別の物語の要素が付け加えられたり、エンターテイメントとして成り立つように演出が付け加えられたり。
したがって、そのような物語を忠実に再現することは、無謀であるし決して面白い物にならないだろう。つじつま合わず破綻するからだ。
三国志もそうであろうし、平家物語もそうであろう。
すべての神話も同じく。
この映画はそんな神話をうまく物語としており、語り部によって改編されるという意味で、正しい神話への関わりかただろうと思う。
不死身の戦士アキレスをブラッドピットが演じているが、その強さの説得力がおもしろい。
アキレスは体躯や膂力を誇る他の戦士達と、全く違う方向性の戦い方を行っている。
足を止めることなく動き続け、どこから剣撃が来るのか予測できないトリッキーな動きで相手を翻弄。とどめは小さなジャンプから首元に突き出す一撃。
常識的な戦闘方と異なるセオリーで戦う姿は、勇者の映像化として小気味よい物だった。
さらに特筆すべきは、古代の戦争の空気感。
事実に基づいているのかは不明だが、独特の様式が垣間見られて興味深い。
大軍同士がにらみ合った上、両軍の頭目が話し合って、折り合いがつかなかったら戦闘開始。
代表戦をしてみたり、折り合いつけて今日はここまで、ということにしたり。
完全に命がけの一大事というより、日常に戦闘が組み込まれていて、それをシステマチックに行うような印象もある。
古代中国、三国志の時代、戦闘の趨勢は勇猛な武将の「威」が決定したという。曰く、多くの兵隊は農民が徴兵されたもので、そこそこに剣を交えてチョボチョボ戦い、負けムードが漂ったら、すぐに壊走と相成ったらしい。だからこそ、個人の強さが全体の勝敗を決することになったのだという。
そんな、微妙に牧歌的な空気が、望んでか望まずか滲んでいる。
大軍同士のぶつかり合いも映像的な魅力にあふれ、作品としてのお得感は高い。が、そういった快感以外に得る物があるかといえば……。
基本ラインがお涙ちょうだいの恋愛物であるので、そこまで望むのは酷かもしれない。