2011年8月8日月曜日

沈まぬ太陽

★★★☆☆
~たっぷり楽しめる超長編~

3時間22分にわたる超長編映画。テレビでの放映はノーカットで実に4時間枠。良く放送したと思う。

大人の事情はあれこれあれど、どう見ても日本航空や日航機墜落事故がモデルとなっており、その他もろもろも実際の会社内の雰囲気を反映したものであるのだろうと思われる。
自分などは日航の提灯持ち映画かと思っていたため、会社の腐敗っぷりがこれでもかと描かれるのに驚いてしまう。当の日航も気分を害し、映画化に抗議を行ったという。

主人公に渡辺謙を配し、時にエキセントリック、時に自重のきいた説得力のある人物像を描く。労働闘争時代から海外派遣、墜落事故以降の東奔西走と、数十年をたどる大河ドラマの骨子となるのは、かつて親友であり、途中で道を違えた二人の男の人生の交錯。物語を追えば善たる主人公とそれに立ちはだかる悪に落ちた友人となるが、それぞれの立場でそれぞれに抱える問題がきちんと描かれており、感触としてどちらが善でどちらが悪といった単純な割り切りが出来ない。

どうにも変えることの出来ないメカニズムが国の中に鉄骨のように完成されており、それは支配者階層の決めた一方的な構造であるがため、いびつで狂っている。それに気づいた時、システムに沿って窮屈に生きることを選ぶのか、蟷螂の斧で無謀な戦いに挑むのか。
この問題は時代を超えて普遍的なものなのだろう。自分でさえ、長い物語の間にあれこれと考えさせられた。

映像も全編にわたって丁寧に作られており、海外ロケがきちんと敢行されているのが品格を高めていると思う。飛行機関連の描写は少なく、特に航空機業界の物語だと構えてみる必要はないだろう。登場人物も多く、複雑に感じられた部分もあるが、長い作品時間がきちんと物語を描くことに費やされているため混乱することなく理解することが出来た。

最後に題名となった言葉が主人公の口から出るが、どうも唐突で、作品とは似つかわしくないもののように感じる。
物語自体、最後がどうも尻切れトンボに感じられるが、2010年の日航破綻まで続いていたのなら、物語としてさらに完成したものになっていたのかも知れない。

2011年8月7日日曜日

ライアーゲーム ~ザ・ファイナルステージ~

★★☆☆☆
~決勝戦を劇場で~

テレビドラマを2シーズンこなした果てに最終エピソードを劇場版で公開。自分もテレビドラマを一通り楽しんでいたが、映画館に足を運ぶほどではなくテレビ放送で視聴した。
こういったいわゆる劇場版商法は、これまでの時間を人質に取られたみたいで反発したくなる。なにか納得いかず卑怯なんて言葉も浮かぶが、おそらく突然告知するのが阿漕だと感じるのだ。最後の最後でそれまで説明の無かった料金を求められるのは、とても詐欺っぽい。フェアじゃない。
テレビ放送で一応完結してくれていれば、さらなるコンテンツの登場を喜べるだろうが、今作は見事にテレビ版は中途半端。これまでの戦いの決勝戦を映画でやるというのだから何を言われても仕方がない。最後を豪華に締めくくってくれて嬉しいという人もいるだろう。自分にも多少その気持ちがある。
公開当時は見に行かず、先頃のテレビ放送でやっと視聴した。
もともとテレビ版も編集にこってあれこれ手を尽くしていたので、映画だから何が豪華と言うこともなく、そのままのクオリティ、そのままのテンション。納得のいかないところ、つじつまが合わないところを展開の早さで煙に巻き、うまく興味を持続させていく。
見事だなと思う。映画の流れに身を任せるのが気持ちよい。ごちゃごちゃ考えず、ややこしいトリックはああそうなんだで流してしまうのが楽しみ方だろう。
お金を払ってみるかというと、やはり少し物足りないが、ドラマの延長としてテレビで見る分には完結編として十二分に楽しむことが出来た。

ハリー・ポッターと死の秘宝 Part2

※リンクはPart1です。

★★☆☆☆
~けつが痛い~

冗長で長い。
この一言でこの作品の特徴がほぼ表現しきれる。

七作続いたこのシリーズもこれで最後。幾人もの監督の手を経てこの長いレースを完走しきったことに惜しみない賛辞を贈りたい。シリーズ制作を維持できないファンタジー大作もある中で、人気を持続しながら八作品を継続して出し続けるのはすごいことだ。

八作目はシリーズ初の3D上映。さほど3D感は強調されていないが、見やすく、アクションシーンの魅力を増加するそつない立体効果だった。どちらでも良いのなら3D版を見ればよいと思う。字幕版でも特に違和感を感じる点はなかった。

物語はシリーズ中盤からの流れを引き継いで、魔王との最後の決戦。バタバタ人は死に、追いつめられ、泥沼の中で延々もがくような雰囲気。
おそらく、ハリー・ポッター原作自体が、途中からおかしい。
爆発的なヒットを飛ばした一作目~三作目程度までは、未知の魔法世界を体験する驚き、喜びに溢れていたのが、中盤以降は出生の秘密やら宿命やら魔王の策略やら鬱に鬱にと潜り込んでいく。それはまるで「サルでもかけるマンガ教室」で「とんち番長2」が陥った状況だ。(わかりにくい例えですいません。本当にぴったりなので)
まじめにまじめに展開しすぎて、息を抜ける瞬間のない、重く、どんよりした作品になってしまった。誰もそんなの望んでいなかっただろうに。

今作はそういう溜に溜めまくった鬱屈を一息に吐き出す気持ちよさを持てたか? 残念ながら答えは否だ。最後もすっきりしない中途半端な印象で幕を閉じる。これまた例えで恐縮だが、「魔女の宅急便」で最後の飛行船事故の下りがまるでない状態だと言える。確かにその部分が無くともきちんと鑑賞すれば物語がまとまっているのは分かる。しかし、ここまでシリーズを経た果てなのだから、もっと分かりやすい喜びのシークエンスでまとめても良いのではないか。
加えて今作は先にも書いたように冗長だ。
スローモーションの多用。余韻を持たせるゆったりとしたシーンの頻出。緩急織り交ぜるバランスが悪いせいか、やたらと長く感じるのだ。正直お尻が痛くなり、3Dならではの姿勢を強要される感覚と相まって、ずいぶんつらかった。
一作を二つに割ったから? 最終編の重みを出すため? ともかく、そのあげくにあのラストなら、もっと早くまとめてハッピーなシーンを増やして欲しかった。

思うに、映画作品は原作に忠実だったのだろう。
原作を読んだわけではないが、一筋縄ではいかないぞ、という気負いを展開の端々に感じる。それは意固地で頑固な香りがして、少々鼻につく。とかく素直ではなく文学作品ぶろうとしているような。
これはイギリスのファンタジー作品全般に言える気がするのだが、教訓や宗教的寓意性のために、物語のつじつまや登場人物の心情を無視しすぎではないだろうか。もしくは長大な作品がために、一貫性を失っているのか。

結局、描かれるエピローグも内容は大団円のはずなのに不思議と敗戦国のけなげさと言った雰囲気で、終わったという満足感も喪失感も感じない。ただ、すべてのシリーズを見たという、内容とは関係ない達成感のみだ。
世界はそれでも営み、続いていくよという至極まっとうで地味な正論をもって、長いシリーズを終えている。それは志高く立派なことかもしれないが、このようなお祭り大作でそれを露骨にやられるのは、場違いな気がする。単純に言うなら、好みではない。

シービスケット

★★☆☆☆
~時代を疾駆~

1900年代初頭のアメリカ西海岸を舞台に、一頭の競走馬を要として人々の思いが焦点を結んでいく。

序盤のテンポが非常に速く、ナレーションによって補足されはするものの状況を把握するのが精一杯。たくさんの登場人物がバラバラなまま、時代を一気になぞっていくのだから致し方ない。 彼らがシービスケットの元に集まって以降は落ち着いて観ることが出来るようになる。

調教師も、馬主も、騎手も、それぞれに喪失感を抱えて暮らしていた。彼らだけではなくアメリカ全土が恐慌の虚無感にくじけそうな時代。
小柄で、芽のでないまま消えかけていたシービスケットはその心を奮い立たせるように疾駆する。

実際、走る馬の姿は美しい。長らくの血統改良により特化された遺伝子は、飛ぶような印象で大地をすり抜けていく。光をはじくなめらかな皮膚の質感。その下で躍動する筋繊維の弛緩と収縮。体格に比すれば、か細い四本の足が独自のリズムでそれぞれに馬場を突き放す。
騎手はその馬と一体になるように腰を浮かして背を丸め、流線型となる。

このような印象が画面から伝わってくる。
走るシーンは短く、レースのダイジェストを映すだけという構成。断片を見せることで観る者の心の中に風景が広がっていく。
端的に言うと、疾走感がものすごく気持ちいい。

そういったレースを魅力的に見せながら、物語はすばらしい速度で進んでいく。緩急のきいたリズムがこれも心地よく目が離せない。
実話を元にした物語なのに信じがたいほどドラマティック。それでも端々に見えるもったいないシチュエーションが、やはりこれは実話を元にしているのだろうと感じさせてくれる。どれほどの脚色が入っているのかは分からないが節度のきいた良い塩梅だと思う。

物語の終わり方も美しい。
エンドロールの暗転した画面に幻視されるのは馬の背から見る流れる風景。
どこまでが実話なのか調べようと言う気にもならない、きれいな印象の映画。

阪急電車 片道15分の奇跡

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★★☆☆☆
~片側からの~

これは女性の映画だ。
平日の傍流私鉄で生活圏を移動する幾人かの人物にスポットを当てて、同じ電車に乗り合わせた程度の関わりが生むそれぞれへの影響、変化を丁寧にえがく。
実際尺の長い映画で、初っぱなのエピソードが魅力的で吸引力がある分、以降が間延びして飽きてくる。もう少し尺を短くしてテンポアップするとずいぶんすっきりするだろう。

話自体は惑うところなく分かりやすい。多くの登場人物がいながらさほど混乱しないのはきちんと設計、演出されているからで、当たり前といえばそうなのだがジャンクフードのように散らかった映画が多い中、清涼感さえ感じる。

舞台となる路線におそらく乗ったことがあるはずだが、見覚えのある景色はなかった。ただ、みんなが当たり前に関西弁をしゃべっている風景は親近感を覚えずにいられなかった。今作のラスボスが説得力を持つためには関西であることが必須条件なので、場所選定にも違和感がない。
関西のみ上映が早かったそうだが、当地の住民にはうれしいことだったろう。

全体の感想としては多少物足りなかった。
これは、バラバラの物語が最後に美しく一点に収束していくのを期待していたのに、それほどでもなく淡々と終わったことによる。まとまりすぎてはドラマチックに過ぎ、等身大の映画であろうとする今作の支障となるのかもしれないが、退屈を越えてたどり着いたのがこれか、という多少の徒労感は拭えない。

個別に気になるのは冒頭にも書いたように、女性向けすぎる点。ほとんどの登場人物が女性で男性は端役と言って良い。当然起こる問題は女性特有のメンタルな事柄であり、本来所属するコミュニティでの対人関係に煮詰まった女性達が、同じ列車に乗り合わせたというはかないコミュニティに勇気づけられ、立ち戻っていく。
男性が見ると意味が分からないといったことは全くなく、同情も共感も出来る。しかし、何か女性の井戸端会議をのぞいているような微妙な気分になって据わりが良くない。
おそらく、物語が分かりやすい色分けで語られすぎているからだ。起こる問題は日常の些細な事柄、その積み重ねであるから、それは一方だけの責任ではない。こちらにも落ち度はあり、相手にも理由があるはずなのだ。それに触れることなく片側からの視点で描かれている物語はなんだか薄っぺらで信用できない。女性から相談を受け、事情を確かめてみたら聞いた話と印象がずいぶん違う。そういった経験をしたことのある人なら、分かってくれるかと思う。

そういった点で佳作ではあるがどうにも人には勧めにくい作品だろう。