★★☆☆☆
~時代を疾駆~
1900年代初頭のアメリカ西海岸を舞台に、一頭の競走馬を要として人々の思いが焦点を結んでいく。
序盤のテンポが非常に速く、ナレーションによって補足されはするものの状況を把握するのが精一杯。たくさんの登場人物がバラバラなまま、時代を一気になぞっていくのだから致し方ない。 彼らがシービスケットの元に集まって以降は落ち着いて観ることが出来るようになる。
調教師も、馬主も、騎手も、それぞれに喪失感を抱えて暮らしていた。彼らだけではなくアメリカ全土が恐慌の虚無感にくじけそうな時代。
小柄で、芽のでないまま消えかけていたシービスケットはその心を奮い立たせるように疾駆する。
実際、走る馬の姿は美しい。長らくの血統改良により特化された遺伝子は、飛ぶような印象で大地をすり抜けていく。光をはじくなめらかな皮膚の質感。その下で躍動する筋繊維の弛緩と収縮。体格に比すれば、か細い四本の足が独自のリズムでそれぞれに馬場を突き放す。
騎手はその馬と一体になるように腰を浮かして背を丸め、流線型となる。
このような印象が画面から伝わってくる。
走るシーンは短く、レースのダイジェストを映すだけという構成。断片を見せることで観る者の心の中に風景が広がっていく。
端的に言うと、疾走感がものすごく気持ちいい。
そういったレースを魅力的に見せながら、物語はすばらしい速度で進んでいく。緩急のきいたリズムがこれも心地よく目が離せない。
実話を元にした物語なのに信じがたいほどドラマティック。それでも端々に見えるもったいないシチュエーションが、やはりこれは実話を元にしているのだろうと感じさせてくれる。どれほどの脚色が入っているのかは分からないが節度のきいた良い塩梅だと思う。
物語の終わり方も美しい。
エンドロールの暗転した画面に幻視されるのは馬の背から見る流れる風景。
どこまでが実話なのか調べようと言う気にもならない、きれいな印象の映画。
0 件のコメント:
コメントを投稿