★☆☆☆☆
~一貫して微妙~
2017年の米映画。カーアクションと無軌道な若者の恋愛を描く。
★今回は特にネタバレがひどいですので以降注意願います。★
ベイビーは過去の事故が元で耳鳴りの持病を持ち、それを緩和するために常にヘッドホンステレオでお気に入りの曲を聴いている。
そのテンポに合わせたハンドリングテクニックで強盗の逃亡幇助をしてお金を稼いでいた。
本意ではない犯罪への参加に心が痛むが、かつての悪事を盾に半ば強制されている形。それもあと少しで終わるはずだった――。
描かれるベイビーに好感を持てるかどうかで印象が大きく変わるだろう。
まず連想するのが「俺たちに明日はない」だが、自分は回りに迷惑をかける陽キャが好きではないので、ボニーもクライドも嫌いだ。二人はしつこいばかりの悲劇的な結末を迎えるので反対に胸がすく部分もあるが、今作は悪さも半端、ラストも半端。
派手なカーアクションも銃撃戦もあり人も死にまくっているのに、不思議と印象としてはコンビニの店員が弁当をちょろまかして怒られて、拗ねて逆ギレで店内で暴れる、ような規模の話である。全体としてまとまっており、視聴後幾ばくかのさわやかさも残る。
なぜこんな穏やかな印象なのだろうと考えてみる。
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<ベイビーが微妙>
超絶運転テクニックを持っているという設定だが、その腕前がよく分からん。
カーアクションシーンはきちんとあるが、こういっては何だが映画の世界ではこれくらいの運転、(映画の中では)ただの田舎ポリスでもやってのけるだろう。カメラのアングルや動きで変化をつけているが、やはり地味な印象。
ベイビーのキャラの位置づけもよく分からない。彼が基本的にイケているのかイケていないのかも分からない。
鬱屈した人物が特定の技能を発揮するときのみ英雄になる、というのは気持ちが良いものだが、ベイビーはどうやら普段がイケていない設定というわけでもないようだ。行きつけのダイナーで特に何もせずともウェイトレスに惚れられるし、そつなくデートもエスコートしているようで、どちらかというとイケてる方なのだろう。
善人かどうかも不明。なんか行きがかりで悪いことをしているが、殺人自体はおかさない実はいい人といった風に描かれているが、以前は自主的に車泥棒しているわけで、充分悪辣。直接では無いにせよ、車をとられて人生崩壊し、あるいは命を絶つ人がいたとしても何ら不思議ではない。車泥棒って、結構きついよね。
そんなキャラクターが多少苦労しても納得だし、とんでもない目にあって、やっと帳消しのようなものだ。
<他キャラクターも微妙>
台本の役を演じているんだなという雰囲気。
バッツというともかく人を殺しまくるイカレキャラクターが出てくるが、イカレオーラがない。自己紹介時に「一番いかれてるのは自分だ!」と叫ぶ中肉中背の黒人キャラで、大学デビュー的な見栄張りお笑いキャラだと思うでしょう。明らかにミスキャストだ。
まんま「ボニー&クライド」のダーリンとバディもごっこ遊びをしている恋人たちにしか見えない。狙ってそうしているのだとするとしてもなぜそうしたのか見終わっても分からなかった。
ことの元凶である依頼人ドクにしてみても、言動の一貫性がなく生きた人物には感じられない。
<音楽が微妙>
音楽に乗せたドライビングテクニックは売りのはずなのだが、印象に残らない。
その道では有名な名曲なのかもしれないが、聞いたことのないさまざまな曲を細切れに聴かされても心は動かない。
作った本人だけが納得する使い方で、視聴者のことを考えていないと思う。
<結末も微妙>
幸せに暮らしましたとさ……、といった昔話のような終わり。
さまざまな疑念や納得のいかなさを「幸せになったんだからいいじゃん!」の一言に放り込んだ雑な印象。
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上記の様な「乗れなさ」から、結局人ごと感が強いままエンディングを迎えるので穏やかな印象なのだろう。
この作品、結構評判が良いように聞いている。
いわれ無き理由からネガティブ環境に放り込まれた善良な若者が、両思いの恋人とその環境から脱出しようとする。
それに失敗して罪を問われるが、小さな善行を社会が認めてくれて罪を軽減してくれた。
恋人が待っていてくれてハッピーエンド。
素直にこう捉えることが出来る人には、当たり障り無い内容の良作といえる。
気軽に楽しめる映画のラノベという雰囲気なのかな。