2022年5月公開の邦画。実写特撮。
1960年代の着ぐるみ怪獣(ヒーロー)特撮TVシリーズ『ウルトラマン』を新解釈、再構成した作品で、監督は『ガメラ』の樋口真嗣。脚本は『エヴァンゲリオン』の庵野秀明。両者とも往年のSFに並々ならぬ造詣と思い入れを持つ、まさにうってつけの人材配置。
すべての映像的な種明かしが『CG』の一言で終わってしまう昨今、何が実写で特撮なのか定義しがたいが、昔ながらのSF特撮映画の雰囲気を意図的に強く押し出した映像、内容となっている。今回視聴した劇場では特別セット上映としてTVシリーズのウルトラマン第33話「禁じられた言葉」が映画本編の後に流され、比較がとても楽しかった。
・リアリティラインを下げて見るべし
現実との剥離をどれだけ許容するかというリアリティラインについて、そもそも怪獣が出てくる映画だと考えて、許容量を大きくして挑んだ方が吉。
これはばかばかしい内容というのでは無く、細かなことにつっかかっていては、せっかくの作品を楽しむことが出来ないのでもったいないということ。
自分の印象としては、TVのウルトラマンを見たときと同じくらいの見方で良いと思う。
例えば司令室から逃げ遅れた住民をカメラで確認し、自分が行きます! と宣言して助けに飛び出し、すぐに現地に着くなど。
変に現実的な制限をかいくぐって回りくどくなるより、むしろすっきりサクサク物語が進んで小気味よいというのもだ。
・安っぽく見えない、昔ながらの映像
おそらく今作のテーマ1つが、「現代の技術で往年の特撮を違和感なく再現する」ではないかと感じる。
怪獣やウルトラマンはCGで再現。背景も多くの箇所でCGが使用されている模様だが、良くあるCG的な映像づくりになっていない。
もっとも顕著なのがカメラ割りで、CG映画特有の動き回るカメラが全く封印されており、特撮で可能だと思われるカメラ位置、挙動にとどめられている。
そうした上で、映像の安っぽさ、ちゃちさ(いわゆる糸でつったのが丸見えの飛行物であるとか、着ぐるみが丸わかりの怪獣の制限された動きとか)を払拭。現代クオリティに整えられた、今風ではないカット割りの映像となっており、これが中々魅力的。一周回って目新しい。
映画が進む毎にカメラや映像の自由度は「現代」に近づいてしまい、力尽きたのか、計算なのかは分からないが、全編新古典主義で貫いて欲しかった。
・原作をもっと知っていれば、もっと楽しいのだろう
同時上映された「禁じられた言葉」はシン・ウルトラマンの核に据えられた元ネタなので、見比べるといかに原作を尊重し、愛情を持って組み立てられたのかがよく分かる。
巨大化させられた女性隊員、メフィラス星人との対決シーンの独特の間、などはすべて原作由来のものだった。ゼットンの「一兆度の火球」も、とんでも設定としてネタにされていたものを、うまく物語の規模拡大の足場にしている。
他の要素にもさまざまな思い入れがたっぷり詰まっているのだろう。
これは知っていればさらに楽しい要素なので、知らなくとも別段問題なく楽しむことが出来る。自分はマニアとはほど遠い、ウルトラマンを多少見ていた程度だが、特に引っかかること無く楽しむことが出来た。
・結局懐古趣味から抜け出せない
人物パートがバタバタして鬱陶しいのがきつい。
怪獣パート以外の会話シーンではやたらと小刻みにカットが切りかわって、アングルもアップやあおりが多く、小手先感を感じずにいられない。やりとり内容もあまり重要ではない情報が多く、退屈。
怪獣シーンは子供でもワクワクしてみられそうだが、人物パートが多いため一緒に見るのは厳しい印象。薦められない。かといって大人向けかといえばがっつり観るにはガバガバで、結局、懐古的な楽しみを高齢層に提供するために作られた、という解釈になりそう。
TV版のガバガバ具合を楽しめる(楽しみ方を知っている)人に向けられており、それ以外の人にはいまひとつピントが合わない。子供達には放送中の最新ウルトラマンがあるわけで、結構人気らしいし、欲張らずに的を絞ったと考えれば実に懸命。
巨大化した女性隊員を見上げるアングルが性的だと話題になったが、原作由来だと知っていれば、あざとさは感じない。
原作では隊員服であるツナギで巨大化したが、今作では仕事服がスーツだったのでスーツ姿で巨大化しているというだけ。見上げるシーンも、巨大な人物の巨大感を出すのに当たり前のアングル。特段ねちっこい表現も無く、これに難癖つける人は生きづらかろうと同情する。製作者は耳を貸さずに無視していれば良い。
※「禁じられた言葉」の同時上映はこの評判に対する対応だったのかも知れない。
それよりも全般に顔面アップのカットが多かったために、この巨大化シーンの顔アップのインパクトが無くなっている方が問題。肌の質感は何と「禁じられた言葉」の方がすべすべで綺麗。これは撮影画質の問題なのだろうが、アップが多いわ肌の荒れが見えるわで、大画面では不快なカットが多い。
懐かしい作品に再び合ったとき、古さを感じすぎないように現代風に適度にアップデートしました、という、再会向けのドレスアップ作品。