2019年9月30日月曜日

人喰猪、公民館襲撃す!

☆☆☆☆
~失敗の吹きだまりのような作品~

2011年の韓国映画。
健康ブームに乗って都市部から週末農場への来客が増えてきた田舎町。
突如現れた巨大猪が次々と村人を襲い捕食していくが、儲けたい大手農家と市長の結託が対策を後手にする。
それに立ち向かう、これまた都市部から田舎に追いやられた警官。
伝説の猟師や女性研究者と力を合わせて猪に立ち向かっていく。

最初に言い切ると、とんでもない映画だったよ、と人に話すためだけに存在するような作品。

スケールの小ささ。それなのに地に足のついていない展開。
ギャグは滑りすぎて、どこが冗談か判別できない不毛な雰囲気が全編を覆う。
猪のCGは健闘している気もするが特筆するほどではない。
警官の母親が老人ぼけである事。
伝説の猟師が実は大したことのない口だけ存在である事。
隣人が狂人である事。
この設定いる? という要素が満載で、そのどれも上滑りして意味をなさない。

もう、何が意図なのか分からないむちゃくちゃ具合で、それは最後の最後まで一貫している。
こういっては何だが、製作者(監督?)は頭がおかしいのではないだろうか。
他のスタッフはその製作者に逆らえないなにがしかの理由があったのだろうか。

厳しく書きすぎると上記になるが、香港、韓国辺りの映画のまずい部分のみをつなぎ合わせた感じ、とも言える。
バイオレンスとギャグが混ざっており、ギャグがきつい。特にだらだら同じネタを引っ張る感じが顔を背けたくなる。
「少林サッカー」などチャウ・シンチー作品も似た感触がある。初期ジャッキーの作品もオカマネタとかかなりきつい。
ただ、両者はそれをコントラストにするように魅力的なシーンが多数あり、今作にはそれが無かったと言うことなのだろうか。

弟に「ひどいよ」とDVDを託されて見た作品であるが、確かにそれ以外何も言えん。

2019年9月27日金曜日

マイノリティリポート

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★★★★
~隙のない熟練された技術~

トムクルーズ主演、スピルバーグ監督の近未来サスペンス。2002年の作品。
未来予知がシステムとして確立され、それを元に犯罪する前に犯罪者を取り締まる警察機構が存在する社会。
予知を元に犯罪者を取りしまる優秀な刑事ジョンだが、ある日の予知はジョンを殺人犯として告発していた――。

これだけでもういろんな展開が想起されてワクワクする。
話は二転三転の最後まで飽きさせない作り。
スピルバーグは「アクション映画は、もう作り方が分かったからいい」的なコメントと共にアクション映画から足を洗う宣言をしたという記事を読んだが、確かに製作者に掌で転がされているような心地よい映像体験。

特筆すべきは、近未来のテクノロジー設定。
新規性を持ちながら、現代技術の延長線上にあるような機器、インターフェースの数々。
自動運転前提で、居住空間となった自動車。なんと壁面も移動するが、居住部分は水平を保つ。
様々な資料を扱うのAR的な空間ディスプレイをハンドジェスチャーで掴んで配置。映像資料の時間を戻したり送ったり。
未来予知を行う「特殊な人間」を収める機械と、やけにアナログな手法でもたらされる予知。

2002年の映画だというのに、今見ても先進的で違和感を感じない。
それもそのはず。これら設定は当時の学者やデザイナの参加、協力の下に考案されたものだという。

シナリオも、演出も、役者も、デザインも、世界観も――。
隙のないみごとな作品で、スピルバーグの引き出しの多さには圧倒される。

ジュピター


★★☆☆☆
~あのマトリクスの監督作品!~

2015年公開のSFアクション映画。
女性主人公「ジュピター」はシカゴで清掃の仕事をして暮らしながら、さえない毎日を覆す何かを探している。
突然命を狙われ、空を飛ぶ靴を履いた男ケインに助けられ、自分が宇宙貴族の生まれ変わりであることを告げられる。
地球をその一族の植民星であり、そろそろ収穫の時期に近づいてきたため、所有権争いが活性化。
彼女の所有権を失効させて自分が権利を手に入れるため、見たこともない親族に命を狙われていたのだ。
地球から宇宙に舞台を移して戦いが繰り広げられていく――。

おとぎ話にしても突拍子も無さ過ぎるように感じるが、様々な設定の緻密さと画面クオリティの高さがそれを支えている。
特にケインの身につける空中をスケートやスノボのように滑走する装置と、それによる空中戦は新鮮な刺激。
誰の撮った映画だろうと見てみると、兄弟から両者性転換で姉妹になったウォシャウスキー監督の作品。
代表作「マトリクス」シリーズのような未来的ビジュアルは確かに姉妹作品ならではの雰囲気。
予算をきっちりかけただろうリッチな雰囲気をまとっているのも納得。

物語としてはスターウォーズⅣ~に似ているように思うが、まるでエピソード「Ⅳ」「Ⅴ」「Ⅵ」を1本にまとめたような慌ただしさ
本当は分作にしたかったのでは無いかと思われる分量を1本にまとめている。
ただ話は単純なので筋を見失うこともなく、設定のよく分からないところも気にしすぎなければそれほど視聴に影響しない。
テンポ速く進む物語、1本で起承転結している点は、今作の良いところだと感じる。

ただ、なかなか売りにくい作品だろうな、と思う。
ビジュアルもそのシーン単体でハートを掴んだマトリクスのような革命的な物では無く、物語もおとぎ話、昔話のようなありふれた印象。
これをどういうコピーや予告編で宣伝しようかと考えると、やはり「マトリクスの監督!」くらいしか思いつかない。
その威光も10年以上経っているので弱含みなわけで。  

2019年9月25日水曜日

屍者の王国

★★★☆☆
~予告編がもっともワクワクする~

SF小説家として高く評価されながらも、数作を残して30代で夭折した、伊藤計劃
彼が最後に残した原稿用紙30枚分の「書き出し」とプロットを、同時に賞をとってメジャーデビューした盟友、「円城塔」が完成させた小説を原作としたアニメ映画。

屍体にプログラムを流し込んで蘇生させる技術が一般化し、重要な労働力となった1800年代の世界。
蘇生技術者である主人公は死亡した親友を蘇生させる。
その中に本来の親友の魂は存在するのか。真の復活は可能なのか。
進歩する蘇生技術の行く末を巡って国々の、科学者達の、被験者達のやり取りが繰り広げられる。

このアニメ版にはあれこれと改編があるようで、そもそも原作では主人公が蘇生させるのは親友ではなく、無関係だった人物とのこと。
「円城塔×伊藤計劃」の死を越えた、作品作りを通した精神的やり取り。そして物語としてのの再生を「主人公×親友」の関係に反映させたのだろう。
深みを感じる立て付けだが、終盤で物語自体がわかりにくさを増していくため、その意義を考えるばかりで感じる事は出来なかった。

物語はヨーロッパからインドの山奥、日本、アメリカ、そしてまたヨーロッパと、世界一周のロードムービー。
思っていたよりもスケールがでかい。
ポンポン場所が移って飽きにくいのは確かだが、目的が判然としないまま状況に振り回されるのをダイジェストで見ている印象。
オチもなんだかよく分からず、全体に頭でっかちの衒学的な趣の強い、人には勧めにくい作品。
ガンダムユニコーンのパンドラの箱の種明かしのように、納得のいかないままこじつけの言説に流されて完結、みたいな。

レベルの高い作画とうまく折り合いをつけて使用されているCGは見事。出しゃばりすぎず、陳腐すぎず、理想的。
世界一周のスケール感、聞いた事のある人物が沢山出てくるゴージャス感。
なのに不思議とワクワクしないのは、主人公に魅力を感じにくいせいだろうか。
ワクワクレベルで行くと予告編が最高潮で、これはままあることなのだが、やはりがっかりはしてししまう。

今作に加えて「虐殺器官」「ハーモニー」を合わせて伊藤計劃の作品映像化プロジェクト三部作。
虐殺器官は小説読了のみで未見だが、三作とも大ヒットというわけでは無さそう。
ただ、今作もハーモニーもきちんと映像が作られた佳作であり、製作者のアニメと原作に対する敬意、熱意を感じる出来だ。

肺癌による自らの死を直近で感じながら、記憶、命、感情、人間の営み、死……。
そういった事柄を考え抜き、深く切り込んだ作品群を著した伊藤計劃。
その絶望と希望に思いを馳せると、切なくなる。

2019年9月24日火曜日

ダーリン・イン・ザ・フランキス


★★★★
~露骨なエロで損してる~ 


原作物では無いオリジナルアニメ。全24話。
「キルラキル」などで名を馳せるアニメーション制作会社「トリガー」が中心となって制作される。

荒廃した地上に多数の移動式ドームを設けて生き延びる人類。
襲い来る謎の巨大生物「叫竜(きょうりゅう)」に立ち向かうため、男女ペアでしか動かない巨大兵器「フランクス」を駆る選ばれし子供達。

これだけだと類似多数の印象だが、全てのクオリティが高いので、作品を見れば一目で独自性と吸引力をひしひし感じる。
キャラ、ロボ、世界のデザイン。レイアウト、絵コンテ、演出の手腕。原画動画、効果の作り上げた画面。
絵の力とは、本当にすごいなと感心させられてしまう。
動きのタメ詰めや、カットの切り方、繋ぎ方、キャラクターの細かな仕草など、画面を見ているだけで充分に視聴に耐えうる。

特に自分が気に入ったのはロボットのデザインで、細身の素体の各部位を巨大な装甲で覆うフォルムがメリハリ強く気持ち良い。
永野護の「ファイブスター物語」のゴシックメイドのような様式美も感じられて非常に麗しい。
男女のうち、女性側がロボットと一体化し、それを男性が操縦するという設定なので、ロボットの顔部分に女性の顔(厳密には違うが)が映し出される。
表情を持ったロボットが活き活き動き回る姿はとても気持ち良い体験。
総じて血湧き肉躍る出来の良いアニメーション作品だが、物語としてはいろいろ目についてしまう。
「トップをねらえ2」「エヴァンゲリオン」「グレンラガン」「スタードライバー」など、心に残るたくさんの作品パーツが積み上げられたような物語.
それ自体はぱくりと言うほどのことも無く問題ないのだが、あれこれ入れようとしすぎのような印象をまず受ける。
物語の主要な要素として以下のような大筋があると思う。
※細かく見るとさらに多くありそうだが……。
①<ボーイミーツガール>1~15話
立場が異なり、それぞれ問題を抱える少年少女が出会い、恋に落ちる。
二つの世界が恋という引力ですり合わされることで起こるドラマ。
主に主人公とヒロインの関係性で展開。

②<こどもから大人へ>16~19話
守られていた存在、言われたことをこなすだけの存在から自律的、自発的に動く存在へと成長していく。
子供を産み、育てる存在へ。
主人公とヒロインを除いた他キャラクター、つまりヒーロー、ヒロインでない者のドラマが主体となる。

③<孤立と共和>20~24話
効率を突き詰め他者との関わりを排除していくのか、他者との関係の中で自分の位置、価値を確立していくのか。
個としての永遠と、受け継がれる流れとしての永遠。
①で終わりにすればという意見がネットでよく見られ、確かにその気持ちはよく分かる。
謎の多くは放置されるが、戦いはつづくけどきっと大丈夫、という前向きな印象できれいに締めることが出来ただろう。
②③は様々な情報が増え、世界の謎が解き明かされていくが、正直な感想として、あまりきれいなつじつまと感じない。
状況をもう一度散らかして、あれこれ揺さぶった後収束させるというには、②③で広げた風呂敷は広すぎて、理屈も時間も足りない印象

ただ、物語として少年期以降の様々な大人的な葛藤を描く②③は良く挑戦したなと思う。
普通終わる物語の、その後を描いたといった良いかも知れない。
分かりやすくいうと、つき合った後の恋人達の問題
自分は、①で終わりだったら良かったかな、と思う派だけど、②③を好きな人もいるだろうし、その気持ちも分かる。

最後に、全編を通して安易なエロ要素が盛り込まれすぎだと思う。
フランキスに男女で乗り込むのはもろにセックスのイメージで、女性があえぐシーンが非常に多くて見ていて恥ずかしい
テーマとして、男女の性愛が世界をつむいでいくのだというところと対応しているのだろうが、露骨すぎる。
カップルを切り替えるのも、なんだかサークル内の狭い範囲で恋人をとっかえひっかえして全員兄弟姉妹みたいな状況
これが堕落とか悪とか言わないが、自分には嫌悪を感じる設定であるし、展開だった。
ラブコメで差し込まれるサービスシーン、意味の無い露出やパンチラという人気取りの要素に感じられて、頻度が高いのでちょっと辟易した。

これではいくら出来が良くても人に勧められないし、アングラアニメの域から出ることは難しいだろう。  

2019年9月20日金曜日

転生したらスライムだった件


★★★★
~ただの転生無双では収まらない~

なろう系ライトノベルを原作とした「マンガ版」を原作としたアニメ。
2クールと比較的長期にわたって放映されたのは、原作人気の賜物であろう。
原作小説はまだ続刊中で、今回描かれたのは序盤部分と言って良い。

現世で後輩カップルが通り魔(?)に襲われたのを身を挺してかばったため刺殺されてしまった主人公。
転生するとスライムになっていた……。
ドラクエの影響で最序盤の弱小モンスターのイメージが定着しているスライムだが、本家(?)D&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ)の設定を筆頭に、海外ではかなりの凶悪モンスター
物理攻撃が効かないため、松明や魔法の準備が無いとまるで歯が立たないのである。
しかもクリオネのように体内に敵を取り込んで消化吸収していくというシースルー残酷仕様。

今作のスライムは見た目ドラクエ、性能は海外の超強化版となっており、転生⇒いきなり最強のテンプレは踏襲している。
ただ、体がスライムなのでその扱いを覚えるために洞窟内で時間をかけて修行、といった描写がある。何もせずというわけでは無いが、自分の強さを発見していく、という感じ。
後は世に出て困った人を助けて人望を得る。局面が進んで別の困った人を助けて人望を得て……というくり返し。
これだけ書くとああ、良くある転生俺つええか……、と思ってしまうが、印象はかなり違う。以下のような相違があるためと思われる。

・あくまでスライムである

グロくない、可愛い容姿のスライムだが人間では無い。
変化の能力があるため人間形態をとることも多いが、毎回スライムに戻るシーンがあり、それが前提。
精神にも影響がある設定なのか、人間とは一線を引いた他人事感がある。(これはキャラの性格がそうなのかも知れないが)
・ハーレムにならない
これは大きい。
他の同系作品が登場する女性にともかくもててもてて、というギャルゲー展開に終止するのと異なり、今作はそこに踏み込まない。
活躍により好意を受けるが、多くは「敬意」「尊敬」「従属」のような形で、英雄が男女問わず人心を掴んでいく感じ。
男女どころか種族関わらずに敵がころころ味方になるので、その点は不自然に感じるが、女性キャラのみに恋されるよりも素直に受け容れられる。
そして、雄としてちやほやされる(のを見る)のは、結構気持ちいい。
女性にはぷよぷよして可愛いスライムとしてもてている。
・喪失する
嫌なことはまるで起こらない世界では無く、無くしたくないものを少なくとも一つは完全に喪失している。
ただ春の日の陽気がつづく世界では無く、きちんと悲しさもある事が示されており、背筋が伸びる。
基本的には連戦連勝のおとぎ話でも、一点きちんと締めるだけで、こんなに物語がしっかりするのだなあ。

自分が転生無双ものに嫌悪を感じていた点がどこだったのか、それを示唆してくれるありがたい作品の一つとなった。

アニメとして特筆すべき点として、画面の質の高いところでの安定と、演出の良さがある。
少なくとも以下の点での演出は細かいが目が覚めるような部分だった。

・男が椅子に座る際、ズボンの両端をきゅっと手で持ち上げてから座る
座る際のズボンの窮屈さを緩和するための仕草がきちんと描かれていた。
このような仕草で座るアニメを、自分は他に知らない。自然で、そこに人がいることを強く感じさせてくれる詳細描写だった。
・お風呂に入るシーンで、波が壁際でおもちゃを揺らすカットがある
キャラがお風呂に入って来るカット⇒壁際で波とおもちゃが揺れるカット⇒お風呂に使ったカット、と流れる。
これ、真ん中が無くても意味は完全に通るが、挟まっていることで一寸の間が生まれ、お風呂ののんびりさと世界の実在感を増している。
無い場合を想像してみると分かる。
・後半のOP前奏時の音合わせの画像がはまりすぎている
ピアノの旋律に合わせて女性がふり向き、光になって消えるという描写。
差し込まれる主人公の表情合わせて、大切な物が霧散した喪失感、悲しいだけで無い美しい切なさをわずか数秒のうちに描いている。
その後ボーカルが入ってくると良くあるOPになるが、最初の部分は非常にハイセンス。
しかも、それまでのアニメーションバンクから引っ張ってきた素材を編集してこの形にしている模様で、編集の腕前を感じる。

きっちりした才能のある演出が関わっていることを端々に感じた。

2019年9月19日木曜日

アベンジャーズ  エンドゲーム

★★★★
~よくぞここまで走り抜けた~


前作「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」のラストを引き継ぐ続編。というか元々は一つだった企画を規模のため二つに変更したとか。

まずこれはお祭映画なのだということ
何年にもわたって公開された、各ヒーロー個別の映画に埋め込んだ物語のカケラを、全て束にして総括する総決算映画!
Marvelの様々なヒーロー、ヴィラン(悪役)たちが一堂に集まって大規模な物語を展開するヒーロー大集合映画!

もうこれだけで胸ときめく。
そんな映画が楽しくないはずは無く、見せ場の連続で一気呵成にたたみ込んでくれるんだろうと期待したら序盤がとてつもなく暗い
前作がとんでもない終わり方(完全敗北)をした状態からの続きなので妥当なのだが、さらに深く陰鬱な方へ掘り込んでいく。
闇落ちする者、飲んだくれる者、生死不明になるもの……。
正直しつこすぎだと思う。
もともと多くの作品をまとめるためにいろいろ突っ込み所のあるシリーズなので、こんな真面目にされても……。
比較的新参者が重要な役割を負って物語を進めているのも感情移入しにくくて序盤は本当に厳しい印象。

お祭映画なのだから、もっと陽気にドッカンドッカンやれば良いと思う。
これまでがそうだったように、細かいことなど気にせずにイマジネーションの可視化によって観客を圧倒してほしい

中盤からは期待通りのいつもの乗りで、物語自体のむりくり具合が気になる前に勢いで突破していく。
話のつじつまで無く、全体の雰囲気を感じながら映像を楽しむのが正しいと思う。

ともかく出し惜しみの無いヒーローの活躍は本当に気持ちが良い

終盤の展開も異様に暗くなるが、戦闘シーンをお腹いっぱい楽しんだ後なので、食後の苦いコーヒーのようにスルーできる。
変に「つづく」とせず、一定のけじめをつけて終了したことに大きな満足感を感じた。

心配なのはこの後の「アベンジャーズ」シリーズの道行きで、また各ヒーロー個別の映画やテレビ番組の後、総決算となりそうであるが、主軸のキャラクターが物語上や、権利関係の都合で離脱を余儀なくされそう。
あと、本当にやりきった感がある。
一緒に完走できて嬉しいが、もう一回初めから走れと言われると、正直もういいかなと言う気分
このシリーズは今作を頂点として規模を縮小して行かざるを得ないだろう。

今作だけのことではないのだが、明らかに最近(現在2019年9月)のディズニー映画は女性キャラの押し出しが強い。
しかもおかしな方向に。
これまでの男性キャラ主体の揺り戻しかと思うが、「スターウォーズ8」「インクレディブルファミリー2」などもやり過ぎのように感じる。
女性キャラの出番の多さが気になるというより、その扱いが変わらず「女性的」なために映画全体の進行が重く、ウェットになっている印象がある。
どうにも色恋沙汰に流れたり、アクション映画なのに女性の社会進出の問題意識が臭いすぎたり、きれいどころはきれいに殴られるだけで汚れ役にならなかったり。
女性にこういった縛りを持たせたままで比重を上げているので、なんだか物語のバランスが崩れてしまっているように感じる。

この点、胸がすくのは韓国映画や香港映画。
女性であろうと美人醜女関係なく、平等に容赦なくボコボコにされる。エロとか性的残酷というのではなく、普通にえげつない。

ともかく、今作は夏の花火の最後の一発。一番大きい尺の大輪が夜空に咲いた作品。
こんな長丁場の仕込みを完遂して公開されたことを、素直にすごいなあ、と思う。


2019年9月18日水曜日

ライフ


★★★☆☆
〜競り負ける絶望〜

もったいない印象が残るSFスリラー。
火星の衛星で生命体を見つけた宇宙飛行士たちは、地球に帰還する前にその安全性を確かめようとする。
クリオネのような幼生はヒラヒラと美しく、危険性などないように思われたが、強烈な成長速度でクルーの想像を超えた危険生物に。

危険生物をなんとかしようと自身の命を顧みず奮戦。自己犠牲作戦を連発するが、これがことごとく失敗。
自己犠牲のおかげで何とかその場を切り抜ける、というのが良くある展開だが、今作では自己犠牲でどんどん事態が悪化する。
しかも失敗の原因が「好奇心」「精神力」「仲間意識」「家族愛」など、本来人類を救いそうな概念。(好奇心は違うかな)
さらに人類の代表者は(当然だが)全員が宇宙飛行士で、皆エリート。
結構うかつで、ミスも多いが、ホラーのモブ役のばかばかしさとは違い、皆自律的にきちんと動く。
なので馬鹿には見えないが、もうひと踏ん張りが効かない、頼りない印象。
最後の最後もケアレスミスというか、強烈な運の悪さというか……。

今作は人間が人間らしさゆえに招いた事態を人間の力でなんとかしようとしたあげく、失敗するという内容。
どんな宇宙生物の戦いよりも、本質的に競り負けている感じで、絶望感は深い。

映像も美しくキャストも豪華。日本人にとっては真田宏之 が嬉しい。
アニメファンには吹き替えの坂本真綾が素敵。
クリーチャーの表現も素晴らしく、閉鎖空間なのに画面持ちも良い演出。

それなのに物足りない感じが残るのは、結末があまりに断ち切る感じだからか。

2019年9月17日火曜日

ミュウツーの逆襲 EVOLUTION


※映像ソフトがまだ出ていなかったのでBGMのリンクです。

★★☆☆☆
~竜頭蛇尾~

1998年以降回されたポケモン映画1作目「ミュウツーの逆襲」のリメイクでフル3DCG化されている。

CGの質も高く、気を配られた細かな演出に期待感が高まる。
オープニング曲裏で展開されるポケモンバトルがとても格好良い。

しかし中盤以降は代わり映えしない舞台で代わり映えしない展開。
よく分からない理屈で物語が締められて終了。
明らかに序盤とそれ以降でかけられた時間と予算が違うと思う。

CGのポケモン達は名探偵ピカチュウの実写寄りの物とは異なり、アニメやゲームの雰囲気をそのまま質感向上したもので、違和感なく受け入れることが出来た。
その後テレビで通常アニメーションのポケモンを見たが、形が崩れたり省略されたりしているシーンを見ると、3DCGの方が良いなと感じたり。
元がゲームであるし、3DCGとの親和性が高いのだろう。

2019年9月13日金曜日

リベンジトラップ ー美しすぎる罠ー

★★☆☆☆
〜邦題ひどすぎ〜

「ゴーン・ガール」でミステリアスな美女を演じたロザムンド・パイク主演のサスペンス映画で、翌年に公開されている。
ちょっとした隙を突かれ、自宅でレイプ被害にあった女性が、収監された犯人にとった行動とは……。

本来物語の進行に沿って一体どうなるのかとハラハラするのがサスペンス映画だと思う。
それなのに今作は副題に「美しすぎる罠」とついているものだからどうしようもない
「リベンジトラップ」という邦題自体も厳しいが、横文字な分だけましかな……。
ともかく推理小説の表紙にオチが書いてあるようなもので、なんちゅう最短距離のネタバレ。ギネス級なのでは。
ちなみに原題は「Return to Sender」で、ちょっとミステリアス。

好意的に解釈するとタイタニックの副題に「巨大客船南氷洋に沈む」とついている感じなのかも知れない。
沈むことは分かっている前提で、そこまでの経緯、ドラマを楽しむというスタンス……じゃないよなあ。
「Return to Sender」では内容が想像できないので、キャッチーにしようとしたのだろう。

主人公は独立独歩のキャリアウーマン。気の強い狂気じみた雰囲気はゴーン・ガールの役どころとも同じで、はまり役だと思う。
奇をてらわない地道な演出とカメラアングル。きっちりと撮影された画面。
そこそこ出来が良い雰囲気なので、ひょっとして題名がミスリードなのか! 頼むそうあってくれ! とも思ったが、特に波乱は無し。
彼女の異質性も当初から感じられる演出だったので、彼女の過去含め最後の展開も自然に感じられるが、意外性が無いのは良いのか悪いのか。

きちんと作られた凡作。

2019年9月12日木曜日

青春豚野郎はバニーガール先輩の夢を見ない

★★★☆☆
〜各種SF詰め合わせ〜

鴨志田一の同名小説を原作としたワンクールのテレビアニメ。
高校生男子が周囲の女性に発症する超常的問題に立ち向かっていく。

まず主人公の枯れ具合がすごい
よい大人である作者が、自分が若い頃に夢見ていたシチュエーションで言いたかった台詞をどんどん吐き出してる感じ。
他のラノベ主人公と違い、比較的自制心があり、無自覚な好意をまきちらさない。ややこしい状況になっても自分で片をつけようとするなど、おっさんならではの節度節制が見えるので感情移入しやすい。

数話ごとに異なるSFネタを柱に据え、それらをまとめるキーワードとして青少年特有の思春期症候群という超常的病気をかましている。
SF要素としては

・人の認識、記憶から徐々に消えていく少女
・少女の願いに応じて閉鎖し、同じ日付をループする世界
・感情のアンビバレントにより実際に二人に分裂してしまった少女
・姉妹の精神の入れ替わり
・眠りについたもとの人格と、代わりに生まれた人格の二者択一  

本来異なるSF要素を一つにまとめて展開していくというのは「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズに似ているかも知れない。
一つのネタで引っ張りすぎることなく、テンポ良く物語が進んでいくのは気持ちが良い。

全編通した謎は最終回でも残り続け、それは劇場版で、という昨今散見する形式で幕を閉じるが、追加エピソードという感じなので残尿感はない。
演出も画面も安定しており、濫造されているラノベアニメから頭一つ抜け出していると思う。

2019年9月11日水曜日

カリギュラ


☆☆☆☆
~無修正の中二感~

ゲームを原作としたワンクールのアニメ。
早々に世界の秘密、設定が説明されるので、この後どうするのだろうと反対に興味が強まった。

  • 意味深で意味不明な一人語り
  • 周りに合わせず個人のおもむくままに話し続ける
  • なにがしか傷を負って、それに苦しみながらも戦う姿勢
  • その苦しみが努力に置き換えられ、具体的な努力はしなくても特別な能力を身につける
  • 体のどこかを極端に大きくすることで強さ、かっこうよさを求める
  • デザインの一部にはかない要素を加えてワンポイントにする。例えば戦闘態勢なのに花飾り

上記のようないわゆる中二病的な要素を惜しげも無く投入し、それを茶化さずまっすぐに全編突っ走る。
当然かつて中二病患者であった自分は枕に頭突っ込んで叫びたくなる。

終盤にどんでん返しほどでは無いが、物語上の大きな(そのつもりなのだろう……)トリックが披露されるが、見せ方のせいか意味が分からない
手品師が右手にコインを包んで、左手を開くとコインが無い。また右手を開くとコインがある。どうだ! という感じ。   
これも中二病的なので、反対にゴクリとつばを飲みこんで鳥肌が立つ感じ。

「カリギュラ」とは、禁止されるほどやってみたくなる心理現象のこと(ウィキペディアより)らしいのでこの作品の名前としてふさわしいのかも。 
かつての中二病患者(治っているのか?)にとって恐い物見たさというか、オバケ屋敷的な作品

中二病でも恋がしたい!


★★☆☆☆
~動画としての出来が良い~  

小説を原作としたラブコメ。

中二病からの脱却を目指して高校入学した主人公は、いまだ中二病まっただ中のヒロインの中二活動に巻き込まれてしまう。
目指していたのとは異なる学生生活を送りながら、彼女も出来たしオタク友達も出来たしよかったね……。という内容。

こざかしい理屈をこねてごっこ遊びをするだけの内容だが、アニメとしての出来が良い
演出、作画などの水準が高く、物語とは関係なく、見て楽しむことが出来る。
とくに中二病イメージを可視化して展開するダイナミックな戦闘シーンは、これ主体でバトル物に出来そうなクオリティ。
しかし物語としてはたいした意味の無いお楽しみシーンでしか無く、心に残る物は少ない。
実写版「SPACE BATTLESHIP ヤマト」の実写部分とCG部分と言えばその断絶具合も分かろう。

果たして、見てから数ヶ月で物語や登場人物の多くが記憶から消えており、続編や映画版もあるようだが、特に食指も動かない。
即物的なアニメの楽しみ以外を求めてはならない工業製品としての名品

2019年9月10日火曜日

ヲタクに恋は難しい


 ※Amazonの商品リンクです。 

★★★☆☆
~オープニングアニメーションがとても良い~

「ふじた」の漫画を原作としたアニメーション。
様々な嗜好を持つ四人のオタクが繰り広げる恋愛模様。四人は同じ会社の同じ部署。
恋愛模様と言っても、組み合わせの変動や気持ちの疎通でごちゃごちゃすることはなく、第一話でカップル確定。
以降はその枠内での不器用なやり取りを、オタク友達として眺めているような感じ。

端々にオタク知識を前提としてやり取りが含まれており、主な魅力はそこになっている。
つまり、オタクじゃないと面白みが減じるが、そもそも自分含めてオタクにはそれさえ想像できない。
というか、私だけ分かる感、つまりオタクレベルの選民思想を刺激されて悦に入る事ができる
この作品を読む人のほとんどはそういった層なのだろう。

話としては進展が無いので、各人のキャラクター性を楽しむ作品となる。
作り話なので当たり前だが、オタクだけれど四人は美男美女。
なので、そこに違和感があると言えばあるが、別に不細工のがんばり見ても仕方ないし。

※最近ハリウッド中心に美人規制が進んでいるように感じる。 
これは間違っている。映画は作り話で、おとぎ話で、想像で楽しむ物なのに。
特筆すべき物としては「スターウォーズ8」がきっついことになってる。
※その意味では「げんしけん」はオタク人種が本当に見かけを気にしない半端な容姿なのですごい。
自分の姿が見えてもだえるけど。

演出や作画は高いレベルで安定している。
まんが由来かどうかは不明だが、背景を幾何学模様で処理するシーンが多く、これが浮つくことなくしっかり定着している。
きちんと作劇的な意図をもったデザインになっており、BGMのようにシーンの雰囲気を構築する素材となっている。
これはすごいと思う。

OPのアニメーションも昨今まれに見る傑出具合。
上述の高いデザイン性の中、切れの良いアニメーションが展開。
「パラパラ」の様な手踊りのシーンは、手話のように意図が伝わってくる。
このOPだけでも多くの人に見て欲しいなと思う。

されど罪人は竜と踊る Dances with the Dragons


☆☆☆☆
~無責任な産業廃棄物~  

以前映像作品の根本的なレベル分けについて、以下のように書いてみたことがある。

  <レベル外>
・何が描かれているのか分からない
どういう出来事が起きているのか分からない。
<レベル1>
・何が起こっているのかが分かる
どういう出来事が起こっているのかが分かる。
<レベル2>
・映像が安定している
絵柄、動きが整っており、鑑賞するのに気にならない。
・構図がとれている
構図が整っており、出来事が分かりやすく描かれている。
<レベル3>
・映像が魅力的
絵柄、動きが魅力的。
・構図がすぐれている
構図が緩急効いており、魅力的。
<レベル4>
・映像が物語と相乗効果を生んでいる
魅力的な映像が、言葉では表現できない情報を描き出し、物語を奥行きあるものとしている。
・構図が物語と相乗効果を生んでいる
構図が物語の意味を強調、補佐し、情感を加えている。

今作は紛れもない<レベル外>だった。

「浅井ラボ」氏の小説を原作としたワンクールの深夜アニメ。
昨今当たり前のように、伏線などの回収のないまま12話で終了。続編の話は現在聞こえない。

科学解釈の魔法で戦う二人組が、国同士の軋轢にすりつぶされていく人々を目撃していく物語。
個人ではどうしようも無い悲劇に巻き込まれた人々がテーマの一つなのかと思うが、その悲劇具合が分からない
そもそも複雑な国の関係を説明なしのまま進めるので、誰がどの勢力なのかが分からないのだ。
なので悲劇と言うよりただの残酷で、その表現が拙ければバカバカしい喜劇になる。
 
残念ながらこの作品はバカバカしい喜劇になっている。

国関係も問題だが、時系列もよく分からない。回想なのか現在の事なのかが不明なのでつじつまが合っていないように感じるのだ。
意味不明の複雑さは視聴者を置き去りにして、がんばっているキャラクターを冷静な目で見させてしまう。
じつにバカバカしい。

原作は出版社を変えながらも20巻以上続いている息の長い作品なので、アニメには無い魅力を持っているのだろうと思う。
とすると、アニメ化が失敗であり、そして、原作もバカバカしい内容に違いないと感じてしまう現状は、メディアミックスとしても失敗だろう。
この作品で幸せになれた人はいないのではないかと思う。

なぜこの作品を最後まで見たのかは、ひとえにあまりに意味不明だったため
話数をつないでも何も意味が分からないという点に興味を引かれ続けてしまったのだ。
もっと分かりやすい内容だったら、そうそうに見るのをやめてしまっただろうと思うと、この作劇クオリティの低さが視聴継続させたと言える。
しかしそれは世の中に不幸をまき散らすだけの力なので、まさしく「悪」であろう。
この感想の締めとしては、良くあるように引いた視点で一般化するのが相応しいと思う。

「大きな力の軋轢にすりつぶされる人々とは、このアニメ作成に関わった人々と、そして視聴したあなたなのだ」

デスマーチからはじまる異世界狂想曲


☆☆☆☆
~キャバクラアニメ~

「愛七ひろ」の小説を原作とした深夜アニメ。
ゲーム開発のプログラマーである主人公がマスターアップのために泊まり込みを続けて一段落。
会社の床に寝て起きたら異世界という展開。
細かい違いはあるのだろうが、後は以下の定形を外すことなく展開。
・初めから強い
・苦労せずにトンでも無い成果を得る
・ひたすら女性に優しくすることによって好意を得る
・ハーレムを築く
・話数がつきたらおしまい
またか、という思いは強いが、ともかくちやほやされるキャバクラアニメとして整っている。
それ以上を望むものでは無いだろう。1.2~1.5倍速で見る分には大きなストレスは無い。
所々小気味よく動くアニメの出来に感心するが、それ以上にげんなりする部分も多く、波があることでマイナスの印象が強くなる。
ともかく特段見るべき作品では無いと思う。
実際、数日すると他の作品と混ざって分からなくなってしまうだろう。

しかし、これらキャバクラアニメは、どうして一切の努力や挫折を排除するのだろう。
楽しい事だけを数珠つなぎにするのだろう。

物語として辛い展開を入れると、それをバネにして立ち上がる流れに乗せるのに、かなりの段取りが必要となる。
つまり、物語を作るのに、事前の計画と、辛い部分を過ごすこらえ性が必要となるのだ。
いわゆるネット連載小説。自主的に連載を開始する「なろう系」小説は、毎日な更新を続けることが重要だという。
想像し得る限りの気持ちの良い出来事を羅列することが基本なのだろうか。
それは見通しの悪い、近視眼的な展開を記述することになるのかも知れない。

一つ思うのは、こんな砂糖菓子アニメばかりだと、作っている方も食べる方も体に悪いだろうということ。