2019年9月20日金曜日

転生したらスライムだった件


★★★★
~ただの転生無双では収まらない~

なろう系ライトノベルを原作とした「マンガ版」を原作としたアニメ。
2クールと比較的長期にわたって放映されたのは、原作人気の賜物であろう。
原作小説はまだ続刊中で、今回描かれたのは序盤部分と言って良い。

現世で後輩カップルが通り魔(?)に襲われたのを身を挺してかばったため刺殺されてしまった主人公。
転生するとスライムになっていた……。
ドラクエの影響で最序盤の弱小モンスターのイメージが定着しているスライムだが、本家(?)D&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ)の設定を筆頭に、海外ではかなりの凶悪モンスター
物理攻撃が効かないため、松明や魔法の準備が無いとまるで歯が立たないのである。
しかもクリオネのように体内に敵を取り込んで消化吸収していくというシースルー残酷仕様。

今作のスライムは見た目ドラクエ、性能は海外の超強化版となっており、転生⇒いきなり最強のテンプレは踏襲している。
ただ、体がスライムなのでその扱いを覚えるために洞窟内で時間をかけて修行、といった描写がある。何もせずというわけでは無いが、自分の強さを発見していく、という感じ。
後は世に出て困った人を助けて人望を得る。局面が進んで別の困った人を助けて人望を得て……というくり返し。
これだけ書くとああ、良くある転生俺つええか……、と思ってしまうが、印象はかなり違う。以下のような相違があるためと思われる。

・あくまでスライムである

グロくない、可愛い容姿のスライムだが人間では無い。
変化の能力があるため人間形態をとることも多いが、毎回スライムに戻るシーンがあり、それが前提。
精神にも影響がある設定なのか、人間とは一線を引いた他人事感がある。(これはキャラの性格がそうなのかも知れないが)
・ハーレムにならない
これは大きい。
他の同系作品が登場する女性にともかくもててもてて、というギャルゲー展開に終止するのと異なり、今作はそこに踏み込まない。
活躍により好意を受けるが、多くは「敬意」「尊敬」「従属」のような形で、英雄が男女問わず人心を掴んでいく感じ。
男女どころか種族関わらずに敵がころころ味方になるので、その点は不自然に感じるが、女性キャラのみに恋されるよりも素直に受け容れられる。
そして、雄としてちやほやされる(のを見る)のは、結構気持ちいい。
女性にはぷよぷよして可愛いスライムとしてもてている。
・喪失する
嫌なことはまるで起こらない世界では無く、無くしたくないものを少なくとも一つは完全に喪失している。
ただ春の日の陽気がつづく世界では無く、きちんと悲しさもある事が示されており、背筋が伸びる。
基本的には連戦連勝のおとぎ話でも、一点きちんと締めるだけで、こんなに物語がしっかりするのだなあ。

自分が転生無双ものに嫌悪を感じていた点がどこだったのか、それを示唆してくれるありがたい作品の一つとなった。

アニメとして特筆すべき点として、画面の質の高いところでの安定と、演出の良さがある。
少なくとも以下の点での演出は細かいが目が覚めるような部分だった。

・男が椅子に座る際、ズボンの両端をきゅっと手で持ち上げてから座る
座る際のズボンの窮屈さを緩和するための仕草がきちんと描かれていた。
このような仕草で座るアニメを、自分は他に知らない。自然で、そこに人がいることを強く感じさせてくれる詳細描写だった。
・お風呂に入るシーンで、波が壁際でおもちゃを揺らすカットがある
キャラがお風呂に入って来るカット⇒壁際で波とおもちゃが揺れるカット⇒お風呂に使ったカット、と流れる。
これ、真ん中が無くても意味は完全に通るが、挟まっていることで一寸の間が生まれ、お風呂ののんびりさと世界の実在感を増している。
無い場合を想像してみると分かる。
・後半のOP前奏時の音合わせの画像がはまりすぎている
ピアノの旋律に合わせて女性がふり向き、光になって消えるという描写。
差し込まれる主人公の表情合わせて、大切な物が霧散した喪失感、悲しいだけで無い美しい切なさをわずか数秒のうちに描いている。
その後ボーカルが入ってくると良くあるOPになるが、最初の部分は非常にハイセンス。
しかも、それまでのアニメーションバンクから引っ張ってきた素材を編集してこの形にしている模様で、編集の腕前を感じる。

きっちりした才能のある演出が関わっていることを端々に感じた。

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