2009年10月5日月曜日

サブウェイ123激突

★★☆☆☆
~低予算がにじみ出る~

デンゼル・ワシントン、ジョン・トラボルタ主演のニューヨーク地下鉄を舞台にした犯罪映画。
予算不足なのだろうなあという気遣いをせずにはいられない、苦しいカットが頻出。

地下鉄をジャックする犯人達。その交渉窓口にされてしまった、不運な地下鉄職員。
二人のやりとりで物語は進展していくが、絵的な魅力に薄いため、どうにも没入しにくい。
このお膳立てで、もっとも見栄えのするシーンが、カースタントだという点で腑に落ちない。しかも本筋とは関係ない部分なのである。

列車の暴走シーンも望遠で捕らえたイメージ映像。ヘリを使用した移動シーンでさえ、ストップモーションで雰囲気を出さねばならない始末。
監督やスタッフの苦しい事情が画面からにじみ出てしまっているのが裏寂しい。

物語もどうにも中途半端。交渉を中心にした、犯人と職員の駆け引きが見所かと思えば、全然そのようなものではない。
途中で中途半端にアクションになったり、メロドラマになったり、ふわふわと腰が落ち着かないまま話が進む。

主演二人の演技が映画全体の気品を辛うじて保っているが、それがなければもうテレビドラマと言って良い内容。
が、(おそらくは)低予算や(おそらくは)状況の不利の中で、きちんと努力して、一定の仕事をなし遂げているスタッフの皆さんには、人ごとではない同情と、敬意を表する。
※二人の主演のギャラが圧迫しすぎているのなら、笑えないことこの上ない。

最近とみに感じるが、予算のかかった映画とかからない映画の二極化が激しい気がする。
アクションやラブロマンスといった、ジャンルによっての差ではなく、同じような内容の映画が、方や心配なほど金をかけ、方や気をもむような低予算。
むろん画面から勝手に予算規模を感じ取っているだけなので、なんの裏付けもないが、無茶な予算で無理矢理作らされた映画が増えたように思う。どうにも不幸なことだが、低予算だからこそ、そこでくじけずに仕事する人々の姿も垣間見えて、個人的には嫌いではない。

ワールド オブ ライズ

★★★☆☆
~嘘の機構~

CIA工作員が中東に潜むテロリストを捕らえるために粉骨砕身する姿を描く。
現場で苦心惨憺する主人公と、それを電話一本で操る上司のやりとりが滑稽かつ象徴的。

上司は子供の世話をしながら、休日の地域イベントに参加しながら、携帯で話す。
主人公は中東で血を流し、命を危険にさらしながら、携帯で話す。

携帯の電波がつなぐ、日常と非日常。
遙か彼方で起こっていることだが、すぐそこにある異世界。
それが、現代の戦争なのかと感じる。

実際にどうなのかは分からないが、物語に立ち現れるディテールが非常にリアル。
最新の機器を使って神のチェスのように物事を進めようとするアメリカ。
それをアナログな手段でうまくはぐらかしていくテロリスト。
アメリカのいらだちと限界。テロリストの未来のなさ。
そういった空気の中を、主人公はおぼれるように泳ぎ進む。

題名が表するように、「嘘」がこの作品の焦点、キーワードになっている。
さまざまな規模の、さまざまな嘘が交錯する戦いの世界で、殉じるべきものがあるのか。
あるならば、それは?
二転三転する物語が最後にあぶり出す、主人公の選択。
複雑な筋書きは途中で分からなくなるかもしれないが、大きな流れとして現れる、このテーマがぼやけることはない。
戦闘シーン満載の映画だが、基本的な構成は単純明快なため、見終わった時の気持ちを大切にすればよいだろう。

画面は陳腐になることのないクオリティを保ち、戦闘シーンの迫真はさすがリドリー・スコット。
中東のほこりっぽい空気、異なる臭いに満ちた空間が画面にみたされている。
※もっとも中東が本当にそのようなのかどうかは分からないが、それっぽく見えるのだ。

気になる点があるとすれば、主人公の位置づけ。
このような一人の能力に頼る、エージェント達の戦いが今もあるのだろうか。
その人物の一喜一憂に国の重要な事件が左右されているのだろうか。
大規模な戦闘とは違うのだからこういう戦いも実際にあるのだろうと思うことはできる。しかし、交渉から実戦まで、あまりに主人公の活躍が八面六臂のため多少嘘っぽく感じられてしまうのも仕方がないだろう。

テクノロジーが変える戦いの姿。
その中で変わらぬ人間達のやりとり。

結局、本当のことは、携帯では語られない。
携帯は、すぐそばでささやくのに、本当は場所も世界も異なっている。
それは、お互いの世界をだまし合う、嘘の機構だ。

最近の戦争物には珍しい、悲惨と人情のバランスがとれた良作だと思う。

2009年10月4日日曜日

ディパーテッド

★★★☆☆
~見るなら家庭でDVD~

アメリカ、ボストンを舞台に繰り広げられる、警察と犯罪組織の水面下の戦い。
犯罪組織に潜り込んだおとり捜査官。刑事となった犯罪組織の(ボスを父親のように仰いでいる)青年。
お互いがお互いの致命傷になり得る、心臓に刃を突けあった二人の物語。

演出は冷徹で人情で引っ張るような湿っぽさがない。
替わりに立ち上るのは、利己と打算が支配する世界の、残酷に乾いた空気。
最初から最後まで緊迫した雰囲気が続くため、見終わった後多少の疲れを感じるだろう。それはまさに、敵地に飛び込んだ二人の気持ちに他ならない。だからこそ、見終わった後の弛緩も、二人の主役と同等に感じられるはずだ。

つくりとしては、オーソドックスで安定的。古くさいという人もいるだろう。
だからといって間延びしているということではなく、むしろ時間内に数年にわたる変遷を詰め込んだ、密度の高い映画である。
話も入り組んでおり、敵味方の錯綜が激しいため、どこかで話を追えなくなってしまうと、残り上映時間を苦痛に過ごすことになるかもしれない。このような場合、DVDやBlu-rayでの視聴はありがたい。
カットつなぎもソリッド、というか、結構容赦なく場面が展開するため、分かりづらい部分が多数。集中してみることが前提になっていることも、古い映画と感じさせるかもしれない。

物語は面白いし、絵になる場面もそこここにちりばめられている。何より主演の三人、レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン、ジャック・ニコルソンの演技が魅力的。特にディカプリオはアイドル俳優と間違えられがちなタイタニックの功罪を跳ね返す、真に迫った演技を見せてくれる。ジャック・ニコルソンもあんなザンバラ禿がなぜあんなに格好良く見えるのか不思議なほどだ。

このように素晴らしい作品なのに、どこかしっくり来ない。
考えてみるに、時間経過がはっきりせず、どのくらいの時間をかけて描かれた物語かが分からないのが一つの原因ではないか。
神経を張り詰めて過ごした時間というものが、どの程度か分からないため、二人の疲弊の強度が伝わりにくいのだ。
また、とってつけたようなご都合主義的な展開が多く、画面の迫真さとかけ離れてしまっているのも痛い。もう少し時間があれば、本筋を補強する細部を描けただろうに、と感じる。
スケール感が思ったより感じられない不満もある。悪役がどの程度の規模なのか、あまり描かれていないため、片田舎のしけた悪党の話と言われても、納得してしまいそうになる。舞台が数カ所に集約されているため感じる閉塞感か。

またこれは直接この映画の責任でも何でもないのだが、Blu-rayの高解像度で鑑賞すると、テレビのドラマのように感じられる事がある。
これまで映画と言えば、テレビ放送にしても、映画館で見るにしても、さまざまなノイズが載った状態での視聴だった。気にしていてもいなくても、それが映画らしさであったのだ。
反対にテレビドラマは趣のない綺麗なだけの画面という印象がある。
したがって、映画の中で気の抜けた画面(これはどのような映画にも緩急として必要だ)や、テレビドラマでも多用されているような構成の画面が出てくると、余りにクリアな印象が、一瞬テレビドラマのように感じられてしまうのである。
このような印象も慣れるまでのことだと思うが、DVDではそのように感じることがなかった訳だから、やはりBlu-rayの高精細表示はこれまでとは異なる次元のものだという証明にはなるだろう。

ともかく、頭脳戦では決してないが、面白い状況設定が生み出す緊迫した物語を楽しむことのできる作品だ。

ところでマーティン・スコセッシ監督はアメリカン・ニューシネマを代表とする一作「タクシードライバー」の監督でもある。

名探偵コナン~漆黒の追跡者~


★★★☆☆
~探偵はつらいよ~

なんとネットで間違えて予約。
しかも公開初日のスーパーレイトショー。
子供向けの作品。こんな時間にいっても大して人はいないだろう。
このような縁もあるかと見に行った。

驚いたことに、席は半分以上埋まっており、他の大作でも深夜ではそうそうない人入りだ。子供連れではない。大人の、しかも落ち着いた夫婦といった人が多かった。
長期連載。定期的な映画新作。なるほど、名探偵コナンは年齢層を違えた「男はつらいよ」なのだ。

漫画で切れ切れの情報は知っていたので理解に苦しむ点はなかった。
人物配置も昔も変わらないし、シリーズを通しての謎は謎のままだ。いや、むしろ連載当初から何も変わっていないのではないだろうか。

作品はお約束に満ちあふれ、正直新参には辛い物だった。
事件の謎も、そもそも謎なのかどうかも分からない曖昧さ。推理の必要性が感じられない。トリックがあるのか無いのか分からない。
そんな状況で、コナン君が突然天啓を受けて謎解きを始める。その謎解きも、お約束と思わなければ失笑物だ。コナン君が悩んだり、意気揚々話すことでああ、謎があるんだ。ああ、それが解けたんだと記号化している。

全編、雲を巻くようなごまかしが多い。

この感触は、やはり子供向けの漫画やアニメと同様だ。
けして悪いことではなく、自分もそういった物を楽しんできた。ただ、大人がきちんと見るものではない。
コナン君の問題は、大人子供どっちつかずのところだと思う。
それは、実際に物語の主人公がそういった設定であることもそうだが、作品のイメージ自体が特にどっちつかずだ。

難しい言葉。多い台詞。子供の動機。子供のトリック。

自分がどちらの立場で見ればいいのか分からず、どうにも傍観者だった。
しかしこれは背伸びしたい子供、息を抜きたい大人にぴったりだとも言える。そしてそういった層は、なるほど、少なくなさそうだ。

ニーズのあるところに、適切な作品が提供される。
これはこれでいいのだろう。
やはり、寅さんなのだ。
作品としては矢継ぎ早の状況変化。見栄えするシーンのバランス良い配置、と慣熟した職人芸。作画も高レベルで安定し、さすがは歴史を重ねたシリーズ。
自分には分からなかったが、ファン受けする定番要素も各種あった様子で、教科書通りの長寿作品と言ったところか。

さて、以降これまでに増して個人的な感想だが、どうにも一言いわずにいられない。

コナン君は、卑怯すぎる。

情報を引き出すときはバブバブと猫なで声。内心は利己的な算段。
極悪なぶりっこっぷりが、胸くそ悪くなる。コナンは自分以外の人間を無知蒙昧として見下しているのではないか。そうでなくてはあのように矜持無い行動がとれるはずがない。正直、生理的な嫌悪感を感じる。きもいのだ。
強烈な臭みは代わりがない魅力にもなる。慣れればこの嫌悪感も楽しくなってくるかもしれないが、無理にその道を行くこともない。

またチケットの買い間違いをするまで、続いてくれるだろうか。