★★★☆☆
~嘘の機構~
CIA工作員が中東に潜むテロリストを捕らえるために粉骨砕身する姿を描く。
現場で苦心惨憺する主人公と、それを電話一本で操る上司のやりとりが滑稽かつ象徴的。
上司は子供の世話をしながら、休日の地域イベントに参加しながら、携帯で話す。
主人公は中東で血を流し、命を危険にさらしながら、携帯で話す。
携帯の電波がつなぐ、日常と非日常。
遙か彼方で起こっていることだが、すぐそこにある異世界。
それが、現代の戦争なのかと感じる。
実際にどうなのかは分からないが、物語に立ち現れるディテールが非常にリアル。
最新の機器を使って神のチェスのように物事を進めようとするアメリカ。
それをアナログな手段でうまくはぐらかしていくテロリスト。
アメリカのいらだちと限界。テロリストの未来のなさ。
そういった空気の中を、主人公はおぼれるように泳ぎ進む。
題名が表するように、「嘘」がこの作品の焦点、キーワードになっている。
さまざまな規模の、さまざまな嘘が交錯する戦いの世界で、殉じるべきものがあるのか。
あるならば、それは?
二転三転する物語が最後にあぶり出す、主人公の選択。
複雑な筋書きは途中で分からなくなるかもしれないが、大きな流れとして現れる、このテーマがぼやけることはない。
戦闘シーン満載の映画だが、基本的な構成は単純明快なため、見終わった時の気持ちを大切にすればよいだろう。
画面は陳腐になることのないクオリティを保ち、戦闘シーンの迫真はさすがリドリー・スコット。
中東のほこりっぽい空気、異なる臭いに満ちた空間が画面にみたされている。
※もっとも中東が本当にそのようなのかどうかは分からないが、それっぽく見えるのだ。
気になる点があるとすれば、主人公の位置づけ。
このような一人の能力に頼る、エージェント達の戦いが今もあるのだろうか。
その人物の一喜一憂に国の重要な事件が左右されているのだろうか。
大規模な戦闘とは違うのだからこういう戦いも実際にあるのだろうと思うことはできる。しかし、交渉から実戦まで、あまりに主人公の活躍が八面六臂のため多少嘘っぽく感じられてしまうのも仕方がないだろう。
テクノロジーが変える戦いの姿。
その中で変わらぬ人間達のやりとり。
結局、本当のことは、携帯では語られない。
携帯は、すぐそばでささやくのに、本当は場所も世界も異なっている。
それは、お互いの世界をだまし合う、嘘の機構だ。
最近の戦争物には珍しい、悲惨と人情のバランスがとれた良作だと思う。
0 件のコメント:
コメントを投稿