2015年11月25日水曜日

残響のテロル

★★★☆☆
~ぼくらは爆破珍走団~

監督は「カウボーイビバップ」の渡辺信一郎。音楽も菅野よう子でカウボーイビバップ再び、の趣。
11話からなるオリジナルアニメーション。

17歳の少年二人が自分や仲間達の復讐、存在証明のために大規模なテロを巻き起こす。
超人的知能で実行される都庁爆破、警察署爆破――しかし死者は出さない。日本中は二人に釘付けになっていく。
その渦中、同年齢の少女が二人組と行動を共にするようになり……。

デリケートな題材である「爆破テロ」「プルトニウム強奪」をど真ん中に据えて物語を展開。
映像クオリティは非常に高く、劇場アニメといっても十分――というか凌駕している。
特に物語の象徴でもある爆発エフェクト(手書きと思われる)は「オネアミスの翼」を彷彿とさせるクオリティ、密度。

音楽演出について、自分はやりすぎ、先鋭すぎと感じた。もう少しキャッチーで良いのではないか。
OP、EDは印象的だが変則的な展開で落ち着かない。
BGMもやたらピコピコ音が耳について、アニメ版「寄生獣」を思い起こさせる。
寄生獣と違ってギリギリのラインで踏ん張っている感じではあるが……。これで売る気はないのだろう。

サブタイトルのセンス、語りすぎない台詞など、脚本演出も平均を上回っており、きっちりと11話で完結。
ただ手間暇かけて描かれているのに、物語の印象としては薄味
最も根本的な物語の意味づけ、「なぜ二人はテロを行うのか」がどうも納得できない。軽い。
わりと個人的な目的のために大多数の無関係な者に迷惑をかけている、という構図になっており珍走団のエンジン音と同様なのだ。
少女の存在もふわふわとして蛇足に感じる。筋書きとしてだけで無く、構成として邪魔になっている印象。

思うに各人の掘り下げが足りないのではないか。
少年達の生い立ち、世界を破壊したいと思いつつ、人を傷つけたくないという矛盾した心境にいたった契機は無いのだろうか。
仲間を大切にする気持ちを描くエピソードが必要ではなかったか。
少年達が少女を受け容れるには、同じ境遇、感情を持つ仲間なのだと納得するシーケンスが足りないのでは無いか。

根っこのところが不安定なため、その上に積み上げた世界が以下にもか弱く貧相に感じられてしまうのだ。

最後の爆発そ。それが引き起こす特殊な状況は、人と人とのつながりを象徴的に見せるこの上ない舞台設定だったと思う。
これをただの副次的効果にしてしまったのがとてももったいないと感じた。

2015年11月24日火曜日

カールじいさんの空飛ぶ家

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★★☆☆☆
~思ってたよりも~

幼いカールが夢見た南アメリカの秘境にある天空から降り注ぐ滝――パラダイスフォール。
同じ場所への冒険心を持つ少年と少女が出会い、結ばれ、あっという間に時は過ぎ……おじいさんになったカール。
残酷な時の流れに翻弄されながらも再び冒険心を取り戻したカールは我が家に無数の風船を結びつけて空へ飛び立つ!

手慣れた語り口で一気に物語の土台を固めていく、さすがは傑作名作当たり前! のピクサー。抜群の安定感
最低限のセリフで長い時間の流れを情感込めて描く序盤のすばらしさ。
ところがそれ以降はまあいつものディズニー冒険アニメだね、というお定まりの展開。
冒頭とそれ以降の差異が大きすぎて取り残される。
最後に小技を効かせてほろりとさせるものの、どうにもとっ散らかったままの印象で幕を閉じる。

思うに、文化の差異がノスタルジイの効果、人物への好感度を減衰させているのではないか。
作品の中でちりばめられたカールの思い出を飾るディテールが、日本人の自分には通用しない。
カールじいさんをはじめとした登場人物全般に好感度が足りない。結果のめり込めない。
序盤の雰囲気のまま(エリーのいるまま)の物語を見てみたかった。

CMで受けた期待が大きすぎたのか、それ越えることなく物語が終わってしまった残念感。
これは「ウォーリー」でも感じた事で、ピクサー映画は題材の決定と雰囲気の盛り上げがとても上手なのだと思う。
もしくは単純に、CMが上手い、ということか。

一週間フレンズ。

一週間フレンズ。 vol.1 Blu-ray【初回生産限定版】

★★★☆☆
~フェアリーテイル~

漫画原作のワンクールアニメ
原作完結よりも先にアニメは終了したが、尻切れトンボな形ではなく原作と同じまとめ方がなされた模様。きちんと終わっていて気持ち良い。

原作未完状態のアニメ化は昨今非常に多く、オリジナル展開にしてきちんとまとめるか、バッツリと断ち切って終わるかの二者択一。
もちろん程度には差があるが。

二期への期待をつないだり制作の安全性で考えると「断ち切り」の方が有力になっても仕方がない。
オリジナルの展開でまとめる労力は甚大であろうし、そのあげくファンに批判を浴びる可能性も高い。
ただやはり、原作ありのアニメが一つの作品としてきちんと残っていくことを目指すなら挑戦すべき困難であるだろうと思う。
今作はこの点絶妙のタイミングで切り抜けた形。ほぼ同時進行形でクライマックスというのは最も良い形の一つだろう。

物語はかなり強引な設定で違和感は無視したまま進行する。毛色は全く違うが突然理不尽な世界に叩き込まれて説明もなく戦いに巻き込まれる「デスゲーム」物に近い。
なぜか一週間ごとに友達の記憶だけがリセットされてしまう女子高生。人間関係の構築が不可能となった彼女はクラスの誰とも関わらずに過ごしていた。そんな彼女に惹かれた主人公は友達になって欲しいと声をかける……。

状況設定がおもしろく、そこから二人の関係が少しずつ動いていく様子も緊張感をもって見守ることが出来る。
なぜなら一つ間違えばすぐに関係は忘却され、リセットされるのだから。
積み上げてきたはずの人間関係が、ふとしたことから崩れ去って他人になる。特に恋愛関係において多くの人が実感したことのある悲劇ではないだろうか。今作の一週間でリセットの仕組みは、常に関係のはかなさ、断絶を予感させる装置として有効に働いている。

反対に考えると、設定も人物の反応も現実離れしている。それなのに感情としてはリアル。まともに取り合うとつっこみどころの多さに疲れてしまうかもしれない。意識して一歩引いた方が楽しみやすいだろう。
してみるとこの物語はおとぎ話として視聴したほうがしっくり来るかもしれない。

その一助となってくれるのが画面の現実離れした美しさ。特に放課後のやりとりが多いためか夕日のシーンが多い。実はそんなに多くはないのかもしれないが、印象が強い。
赤く染まる画面と射し込む光の美しい処理。中でも海のシーンは波の表現と相まって非常に美しく、幻想的な優しい空気で作品を包み込んでいる。
背景の美しさが世界観を強く打ち立てるという構成は新海誠監督の諸作品と通じるかもしれない。雰囲気で持って行ってしまうのである。

今作はキャラクター描画のクオリティも高く、作画、演技ともに申し分ないが、驚くほどステレオタイプである。純真無垢で素直すぎる反応を見せる主人公とヒロイン。視聴者としてはこれも反発せず、おとぎ話だからとふっくら受け止めた方が世界の幸せが増えるだろう。

まじめに作られた、誠意ある作品だと思う。

バタフライ・エフェクト

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★★★★
~繰り返す一途~

幼い頃から突然記憶が途切れる障害を追った青年が、その謎と仕組みを解き明かす物語。
過去を繰り返して望む結末を追い求める「ループもの」の典型だがアイデアと説得力に富んでおり、オリジナリティを強く感じる。

繰り返しが始まる前にきちんと本筋の人生を描き、そこから改変を行うという段取り。
このおかげで時系列がバタバタするややこしい話なのに理解しやすい。

主要人物を絞り、彼らの人生改変を描くことで繰り返しの影響、その功罪を一目瞭然に浮かび上がらせる。
繰り返しの基点となる場所時点を限定していることも、混乱せずに物語を楽しむことの手助けになっている。
歴史を書き換えようとする物語なのに、パラドックスが起こらない設定となっていることも興味深い。

繰り返せるのに、何度も失敗を繰り返す切なさ。迫るタイムリミット。くじけない一途。
設定に踊らされるのはなく、描きたい内容のために設定を完備している作品。万人に勧められる一本。

DVD特典として上映版とは異なるエンディングを複数収録しているバージョンがある。
特に監督自身が本来のエンディングとした物は、当然だが作中の伏線(手相について)が最も回収された形に収束しており気が晴れる。
その上で正式決定されたエンディングが最も良い形だと納得することも出来るので必見。

あるスキャンダルの覚え書き

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★★☆☆☆
~もはやホラー~

貧困地域のハイスクールに勤めるオールドミス。
若い女性教師が生徒と不倫している事を知った彼女は、良き理解者の立ち位置で彼女に近づいていく。実際にあった事件を題材にしているとのことだが、いったいどこまでが実際なのか不明。

孤独な初老婦人は人とのふれあいを求めていたのか。優位な立場で善人を演じる自分に酔いたかったのか。美しい女教師に同性愛的な欲情を感じていたのか。若い姿を自分と置き換えて体験していたのか。

オールドミスの目的がはっきりせず、恐ろしい。社会派というよりもホラーのようだと感じた。渾然となった色分けされない感情の渦が見える。
ラストシーンも、恐ろしいといえばなんとも恐ろしく感じられる。

タイム

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★★☆☆☆
~物語が遠い~

遺伝情報至上主義社会の静かな反乱を描いた「ガタカ」。
人工のデジタル女優に振り回される映画監督の物語、「シモーヌ」。
魅力的な作品を出し続けるアンドリュー・ニコル監督の作品なので期待大きく視聴したが、肩すかしな印象となった。

全ての人間の腕には、死に至るまでの「残り時間」が表示され、労働することによってそれを延長する世界。金銭が時間に置き換えられ、バスに乗るのにもコーヒーを飲むのにも自分の残り時間を消費する。莫大な時間を持つ富裕層は隔離された都市で自由に暮らし、貧困層はその日を生きる労働に終始する。
現実でも、人間は人生の持ち時間を労働によって金銭に変えて生活している。自分の持ち時間を金銭と同一にするという設定により、実際に存在しているが意識に上りにくい人生の時間、つまりは命を可視化するという大仕掛け。

おもしろいのは個人の時間は互いに委譲可能ということ。お金でもあるのだから当然だがこれがドラマを生み、同時に世界観の構築を難しくしてしまっている。
貧困層に属する主人公は工場でその日生きる時間稼ぎに精一杯。ある日突然時間の大富豪となった主人公は、富裕層の住む都市を訪れ、この世の仕組みと理不尽を目の当たりにし、一人の女性と出会う。
設定にときめくし実際そつなく描かれていく物語は最後まで予断を許さない。残念なのはこれが現実感をもったSFではなく、おとぎ話に感じられることだ。
大仕掛けな分、つじつまの合わない所が随所に溢れ、それが目に付く。整った画面で淡々と描かれているため、勢いでごまかされることなく違和感が降り積もっていくのだ。どのような雰囲気かというと、「シモーヌ」を見た人ならば、その劇中で上映された映画を2時間枠にした物というのがどんぴしゃり。耽美で象徴的。悪くいえば障子越しに見た景色のようなあやふやさ。

大仕掛けな設定と表現手法が食い違っている印象。同じような要素を持つ「ガタカ」は設定の不確かさが浮かび上がることなく視聴できた。舞台を広げすぎずこぢんまりと納めていたことが有利に働いたのだと思う。
どこまで話を広げるのかを見極めるのは実に難しい事なのだろう。

ブラックブレット


☆☆☆☆
~すぐに消え去る~

ライトノベルを原作としたワンクールの深夜アニメ
題名だけメモしておいて後で感想を書こうとして数ヶ月。メモをみてもこんなの見たっけと思い出せないくらい印象が薄い。
突如現れた怪物に蹂躙されてあっという間に絶滅の危機に陥った人類。対抗するために特殊な子供と管理者のバディが構成され、そんなコンビ達が怪物と戦う世界。
主人公に盛りに盛った設定。出てくる女性はすべて自動的に惚れていく展開。なんのこだわりもなくお定まりのルールで進んでいく物語。
原作は未読だが、シチュエーションありきでそれをうまく繋げられていないのではないか。感情も状況もバラバラのまま話が進んでいく。小説だと読者の思い入れと想像力でカバーできていた苦しい部分が、映像化によって白日の下にさらされてしまった。つまり、もともと映像化に向いていなかった脚本をうまい丸め込みなしにアニメにしてしまったということで、幸せな作品になりそこなったのだと思う。
無理矢理残酷な展開を入れる趣味の悪さも際だっており、このまま埋もれて行くだろう作品。

シャッフル

シャッフル [DVD]

★★☆☆☆
~全体にチープ~

米国版火曜サスペンスといった感じ。
なぜか時間の乱流に巻き込まれ、一週間の毎日を違う順番で過ごすことになった女性が主人公。ややこしい設定なので考えるのも説明するのも大変なのだろうが、残念ながらいずれも平凡な印象。
事態に混乱して大騒ぎしているのが主人公だけなのだが、独善的な印象の主人公に没入できず、作品全体が空回りな印象に。

アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン

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★★☆☆☆
~花火見に行こうよ~

2015/07/05 市川東宝で鑑賞。
アイアンマンをはじめとするマーブルの人気ヒーローがチームとなって戦う夢のような作品。
「各ヒーロー作品」⇒「アベンジャーズ1作目」⇒「各ヒーロー作品」⇒「アベンジャーズ2作目(これ)」という長大なプロジェクト。
それぞれのヒーロー作品を出して十分に盛り上げた末の渾身の一撃。
各ヒーロー作品も欠かさず見ている自分が見ないはずがない。

予告編では壮大なボーカル曲に乗せて出し惜しみのないヴィジュアルイメージが展開。
どうあっても無理矢理面白くなるだろう、という信頼感が凄まじい。

してみてみると、確実に値段分の価値を超える映像であり、そのお祭感、金に糸目をつけない感は期待を裏切らない。
だが、面白いかと言えばバカバカしさが上に来る。このあたり含めてスターウォーズⅠⅡⅢと同じ印象。

突っ込み所には事欠かない。

そもそもがマッチポンプなあらすじ。
突然出てくる珍奇な格好をした期待外れのヒーロー
各所での納得行かない判断と理屈。

数多くの主役それぞれに見せ場を用意しつつ、それぞれの設定にも配慮した物語。
そんな無茶を注文をこなすのだからひずみが生まれるのは致し方ないのだろう。
正直なところ、物語としての面白みは皆無なほど薄い。
ただしその分、むりくり設定したシチュエーションでご機嫌に動き回るヒーロー達の活躍は十二分に楽しむことが出来る。

映画には色々なバランスがあって、例えば映像的な魅力は少ないが、脚本と適切な演出で見せる映画がある。
この作品は映像の魅力とシチュエーションを追求し、物語はそれなりでまとめた、そういう映画なのだという事。
極端なアンバランスも魅力であり戦力なのだと思う。

しかし1作目も似たような感想なので、2作目を見た後だとさすがに同様の3作目を見るのは……というのが素直な感想。
でも、定期的に花火が見たくなるように、こういったゴージャスなお祭り映画はごちゃごちゃ言わずに雰囲気に乗って見に行くのが粋な気がする。ドンと打ち上がって、ドドーンと散華して、ああ楽しかった! で良いんだきっと。

世界征服〜謀略のズヴィズダー〜


☆☆☆☆
~不条理ごっこ系~ 

放送分は12話からなるアニメーション。オリジナル作品。 原作ものが多い昨今のアニメーションの中でオリジナルだと言うだけでその気概を評価できる。 キャラ、背景、エフェクト共に安定しており、映像レベルは非常に高い
物語背景は作品を見るだけではよく分からないが、どうやら日本全体が自治体毎に相争う戦国時代の様相を呈している世界。
かといって日常が戦時中の雰囲気に染まることはなく、普通の生活の中で普通に勢力争いしている様子。
その中でレジスタンスのように「世界征服」を目指す「秘密結社ズヴィズダー」。
戦国の覇権に最も近い東京都の知事を親にもつ地紋明日汰(じもんあすた)が家出の末結社の一員となって、結果父と対決する様子が描かれる。
シリアスなはずの物語を脇に置いて、終止おふざけが酷く、もどかしいまま回が進んでそのまま終了。
笑うべきだろう箇所でも間や台詞が悪いのか、後になってそうだったかと気付く始末。
ぐだぐだな展開をそれっぽい台詞や画面の迫力で引き締め、視聴者を引っ張ろうとしているのだろうが、あまりに物語の下積みがないため盛り上がることも出来ずに空回り。
なんというか、例えが悪いが延々イケないオナニーを無理強いされるような作品。
ヒロインであるズヴィズダー首領が補助輪付き自転車を駆る幼い少女(精神は数百歳?)なのも、媚びた感じでどうにも入り込めない。オタクが好きな幼女の声ってこんなだよね、というイデアを固めたような久野美咲氏の吹き替えは見事に職責を果たしているが、見事すぎてこれまたきつい。
最近無茶な設定を立ち上げ、それを作品世界のルールとして説明せずに運用するタイプの作品が多いなと思う。
その中で登場人物達は、ルールに疑問を持つことが許されず、根本的な問題を無視して一生懸命に動き回る。
それは「ごっこ」だ。その作品の中で登場人物が生きていない。その役割を演じているだけのように感じる。
こういった作品を「不条理ごっこ系」と呼称したい。
そしてこれは紛れもなく、不条理ごっこ系作品だ。

映像レベルの高さで見る事はできるが、その労力に見合った脚本、演出にはほど遠い。
残念ながら、見ないことを積極的に推奨する作品。

龍ヶ嬢七々々の埋蔵金


☆☆☆☆
~アニメーターの努力が切なく迫る~

ライトノベルを原作とした11話からなるアニメーション
洋上に浮かぶ学生のための学園都市ならぬ学園島。
それを作った龍ヶ嬢七々々が島の各地各施設に隠した超常的な能力を持つお宝を巡る物語。
課外活動としての宝探し、名探偵の女の子、助手の男の娘、古い殺人事件の謎、立ち去らぬ幽霊――。
酒乱の美人大家、年上の幼なじみ、戦闘狂の対立者、主人公の生い立、お宝の能力を使った頂上的戦闘――。
およそこれでもかと受けそうな要素を詰め込んだ結果、11話の中ではまったく収まりがついていない。
謎は謎のまま、いわゆる「俺たちの戦いはこれからだ!」で終わる。
ラノベ原作とは知らずに見ていたので、あまりにも投げっぱなしな最後にこれはこれで潔いと感心してしまった。
状況設定やキャラクターに実は意味が無く、「現代の宝探し冒険譚」を行うためだけの設定なのかと深読み。それにしては悠長で必要なさそうなエピソードに終始するなあ、と。
しかしそういうことではなく、二期期待の原作そのままタイプだったことが(自分としては)判明。してみると一体このアニメーションは何だったんだろうという感慨が湧き起こる。
映像のクオリティは高いと思う。キャラ、背景、エフェクト共に安定しており、総合的に見て美しい。
特に格闘シーンはキャラクターがアクロバットな動きを小気味よく展開。非常に高い技術力を感じる職人芸。
しかしそれらすべてを空虚とし、切なくさえ感じさせてくれる、物語と演出。
原作特有のものなのだろうが、まず主人公に感情移入しがたい
最初は主人公の素性が隠されており、それをトリックとした展開が序盤のクライマックスなのだが、何とも陳腐な印象。主人公のちぐはぐさ、コロコロ意見の変わる節操のなさだけが印象に残り、嫌悪感を植え込まれる。
この悪い印象は最後まで覆されることなく、それどころか他の登場人物も同様、控えめに言っても腹が立つ人物ばかり。キャラクター付けのために無理矢理演技させられている感じなのだもの……。
会話もこう言えばそう答えるのだろう、という推測をなぞるだけの印象。説明的なセリフが積み重なり、早く先に進んで欲しくてイライラする。演出もあれこれ頑張っている印象だが、小手先の範囲。脚本を越えることは出来ず、なのだろう。
この作品は原作小説の宣伝のために存在しているのだと結論するしかない。ただ、宣伝としてもあまり有用ではない。これを見て原作を読みたくなるかと言えば、それは希な反応だと思うから。

ターミネーター:新起動 ジェニシス

ターミネーター:新起動/ジェニシス ブルーレイ+DVDセット(2枚組) [Blu-ray]

★★★☆☆
~極悪な予告編~

2015/07/11(字)    市川東宝で鑑賞。
シュワルツェネッガー主演のシリーズ第5作目。5作目だが、軽んじられている3・4を飛び越して1・2の直系と謳われている。
確かに3・4はいまいちピンと来ない出来だったと思う。

3は最新最強の敵ターミネーターの凄みが2よりも低下した印象。女性型、しかも妙齢の女性というのが威圧感を下げていたと思う。主人公も頼り無い感じで、2の時に得た覚悟はどこに行ったんだと憤懣やるかたない。
4は審判の日以降の未来戦闘を舞台にしているため、これまでのシリーズとあまりに毛色が異なっており、単体としては楽しめたがシリーズとして見ると中途半端な印象。

そして4。正直あまり興味を引かれていなかったが1・2の監督でありシリーズの産みの親であるジェームズ・キャメロン監督が絶賛した記事を読んで視聴意欲をかき立てられた。この記事までは良心的で、映画のネタばらしは「後半の展開が凄い」にとどめられていた。(これでも結構なネタばらしだけど)
実際この時期に映画館で流されていた予告編は大がかりなアクションシーンをメインにし、物語自体にはあまり触れていなかった。しかしそのアクションシーン自体大規模で大予算がかかっていそうだと感じるもののイメージの新規性には乏しかったため、良くあるアクション映画の一本というイメージだった。
おそらく物語の核心を秘匿し鑑賞体験を守るためにこのようになっていたのだろうが、前評判の弱さに危機感を感じたのだろう。(勝手なイメージ的には数字にビビった上長が良識ある部下のとめるのを聞かず、全力ネタばらしバージョン作成を指示したに違いない。)
上映直前の予告編は、もう恐ろしいほどのネタバレ。キャメロン監督の語った後半の展開もほぼ全て示唆される内容となっており、予告編で想像した物語が丁寧に描かれるのを見るだけの本編鑑賞なのである。

それでも、実際に見るまではそれ以上の驚きの展開があると思うわけで、まさかそれが全てだとは思いもよらず、最後まで信じて裏切られた印象。
もう、見ていて、あれ? あれ? の連続。
物語のキーポイント以外にもピンチの切り抜け方や見所となるアクション全てをご丁寧にも予告編につぎ込んでいる。バスに乗った瞬間、そのバスがどうなるか分かってしまう。
本当に、酷い予告編だと思う。
見てもらえなくちゃ仕方が無いというのも分かるが、優秀な予告編の提議は以下のようなものだと思う。

・本編より面白そう
ともかく興味を引く内容にまとまっている。

・使うカットは遠慮しない
そのために使用カットはクライマックスだろうがなんだろうが遠慮しない。
見所全てを使ってもいい。

・想起される物語は本編とは異なる
ただし、予告編は「ミスリード」でなくてはならない。
本編の展開を正確に見せるのではなく、モンタージュをずらして異なる展開を想像させるべき。
本編の核心に近いネタバレは御法度。

今作の予告編はこのあたりのことがまるで分かっていない。
見所を順に並べ、あらすじを述べる内容となっており、才能を感じさせない悪辣で凡庸な編集。
まったく、このような配給会社にあたった作品は貧乏くじだ。どれだけ本編が面白かったとしても、前宣伝でミステリーの犯人を示されてはやりようが無い。「映画を映画館で見る」という文化に敬意を払わない人間は映画に関係する仕事には就いて欲しくないものだ。
予告編の方が面白い予告編詐欺には何度も合ってきたが、予告編を編集した職人芸に感心出来るのでまだ許容できた。

作品自体の内容は、1・2を視聴した上に余分な前情報の無い事が前提となっているのでファン限定色の強いものだが、その分1・2が好きな人にはこれこれ! という喜びがある。特にシュワルツェネッガーが妙な若返り処理ではなく、今の風体で主演していることが最高に楽しい。「生体組織は年をとる」というアイデア一つが生み出すこの気持ちよい開放感。あの年老いたターミネーターの笑顔はCGではまだまだ到達し得ない領域で、辿り着いても費用対効果から実写でとった方が良いと判断される物だろう。

新三部作の1作目という事でまだ謎が残ったまま幕を閉じる。
願わくは次作の予告編は良識あるものにして欲しい。本当に、本編以外の雑音は万死に値する。

マッドマックス 怒りのデス・ロード

マッドマックス 怒りのデス・ロード [Blu-ray] 

★★★★★
~暴虐の果ての神聖~

 2015/06/27 市川東宝で鑑賞。  

 傑作であり、映画史に残る作品である。 

 マッドマックスシリーズの四作目だが、これまでの話を知る必要はない。何しろ3作目(1985年)から30年も経て生まれた最新作。今作だけで起承転結がしっかりついている。

 砂とほこりにまみれた核戦争後の世界。血とガソリンに彩られた暴力が全てを支配する。そんな設定を序盤数分できっちり説明してタイトル表示。もうここまでで世界に引き込まれてしまっている。 

 特に冒頭の一人語りのシーンは秀逸。車の脇に立つ男。手前にトカゲが……と見てみれば、双頭の奇形トカゲ。そいつが男の足下に走り寄ると男が踏みつける。それをつまみ上げると躊躇なくパクリと食べる男。細かいことはさておき、そういう世界なのだと納得させられてしまう。こういった絵の威力が全編にみなぎっている。 

 物語は常に移動を続けるロードムービーの色合いが濃い。逃げる者と追う者の疾走したままのアクションがこれでもかと続く。ほぼ全編がそういったアクションシーンなのだが、新しい敵、新しいシチュエーションが惜しみなく投入され、相対する者の関係も変化していくので最後まで飽きとは無縁。アクションとアクションをつなぐ会話シーンが良いアクセントになって緩急のある良い塩梅に落ち着いている。

 登場人物にまともな人間はいない。程度の差こそあれ、敵味方全てがどこかいびつでゆがんでいる。まさに狂気に塗り込められた世界なのだが、見ているうちに彼らの狂気は秩序がなくなり狂った世界で生きていくのに必要な心の働きなのだと感じられてくる。狂人に見えてもそれぞれに切実な想いがあり、狂気にも共感できるようになる。

 暴力が当たり前の手段として存在する荒廃した世界。それを受け容れるために組み立てられた常識、生活の仕組み。その中で必然的に立ち上がったのだろう、宗教のような枠組み。
未開部族が世界と折り合いをつけるために様々な神を打ち立て信仰するように、狂暴な世界においても同じ事が行われている。
 映像はとてつもない説得力で迫り、彼らの抱く信仰がひしひしと感じられる。

 暴虐の果ての神聖さ。

 それを感じる事ができる希有な映画。

 

2015年11月23日月曜日

ハンニバル

ハンニバル Blu-rayプレミアム・エディション(2枚組)

★★☆☆☆
~画竜点睛を欠きまくり~

知能派シリアルキラー「レクター博士」と彼から情報を引き出そうとする捜査官のやりとりが話題となった「羊たちの沈黙」の続編。
厳重に拘束されていた博士が脱獄したのが前作のラストシーン。野に下った博士を見つけ出そうとする大富豪の思惑が博士を再び呼び起こす。
知性の塊といった意味深げな会話と唐突な猟奇的行動。それらを同じテンションで行う博士のキャラクターは、常に何が起こるか分からない危険性を見る者に感じさせる。このあたりの感触は北野武監督作品の特徴である「テンションを上げない残酷行為」とよく似ている。前振り無しでいきなり「来る」のである。
このように残酷なシーンもレクター博士の人となりを表すのに必然なパーツであり、また「残虐性が持つ神聖さ」はこの作品のテーマだと思う。それなのに、久しぶりにテレビで見た本作はなんとそういったシーンの多くをばっさり削りとられていた。
R-15指定の作品なので仕方がないのではあるが、おそらく編集者も大変な思いをしたのだろうが、それはまさしく本作の決定的な魅力を削り取る作業であった。いい感じに忘れた状態で見たので素直な感想だと思うのだが、まるでボコボコに穴の空いた絵画。全体のつながりからその穴にどんな図柄が描かれているのか類推は出来るのだが、顔や手といった目を惹く箇所であるため決定的な趣旨が欠落してしまうのだ。このような状態の作品を本来の題名で放送して良いのだろうか?

そう言えばこの映画を初めて見たのは映画館で、友達とだった。その後御飯を食べに行く予定だったが、さすがに食欲がなくなりお茶だけにした記憶がある。ノーカット版を見た方には納得してもらえるだろう。

2015年11月22日日曜日

LUCY

LUCY/ルーシー [Blu-ray]

★★★★
~短いのを感じない密度~

「レオン」「ニキータ」で名を馳せたリュック・ベッソン監督のバイオレンスSF。
脳はその能力の10%しか使われていないという「よくある」設定のもと、超人的能力を身につけたヒロインが為すこととは。

ルーシーとはエチオピアで発見されたアウストラロピテクスの骨格化石。
この映画では現在の人類への進化の突端となった存在として描かれている。つまり、主人公も次の進化への突端。
このように、超能力を個人的な性質と限定せず、やがて訪れる人類の姿として提示してある点が面白い。
脳力解放の設定は様々な作品に使用されているが、20%でこの能力が発現、30%ではこの能力……と、見ていて唖然とする設定が当たり前に提示されるのがすがすがしい。その力もむちゃくちゃ。
その説明をしているのがモーガン・フリーマン。異様な説得力にひとまず煙に巻かれてしまいたくなる。

そんなルーシーを付け狙うのが韓国系犯罪組織のボス。演じるチェ・ミンシクは「オールドボーイ」の主演でとんでもないインパクトを残したが、今回も負けず劣らずキレッキレ。超人に怨恨のみで挑む破滅的な姿はそれはそれで魅力的。
物語のスケールは最後まで加速度的に大きくなり、下手をすると置いてけぼりになって映画終了となるが、地に足のついた(?)犯罪組織のがんばりのおかげでかろうじて現実に片足をのせている感じ。

リュック・ベッソンはレオンのようなバイオレンス物と「フィフスエレメント」のようなSF物を撮っているが、今作はこの二つがお互いに悪影響を与えない形でうまく同居しており、氏の総集編のような印象を受る。編集の引き出しが多いというか、モンタージュ技法などイメージカットの多様が印象的。短い時間にしっかり満足のいく密度で映像を詰め込んでいる。

監督の遊び心と内容のいい加減具合がちょうどマッチした快作。