★★★★★
~暴虐の果ての神聖~
2015/06/27 市川東宝で鑑賞。
傑作であり、映画史に残る作品である。
マッドマックスシリーズの四作目だが、これまでの話を知る必要はない。何しろ3作目(1985年)から30年も経て生まれた最新作。今作だけで起承転結がしっかりついている。
砂とほこりにまみれた核戦争後の世界。血とガソリンに彩られた暴力が全てを支配する。そんな設定を序盤数分できっちり説明してタイトル表示。もうここまでで世界に引き込まれてしまっている。
特に冒頭の一人語りのシーンは秀逸。車の脇に立つ男。手前にトカゲが……と見てみれば、双頭の奇形トカゲ。そいつが男の足下に走り寄ると男が踏みつける。それをつまみ上げると躊躇なくパクリと食べる男。細かいことはさておき、そういう世界なのだと納得させられてしまう。こういった絵の威力が全編にみなぎっている。
物語は常に移動を続けるロードムービーの色合いが濃い。逃げる者と追う者の疾走したままのアクションがこれでもかと続く。ほぼ全編がそういったアクションシーンなのだが、新しい敵、新しいシチュエーションが惜しみなく投入され、相対する者の関係も変化していくので最後まで飽きとは無縁。アクションとアクションをつなぐ会話シーンが良いアクセントになって緩急のある良い塩梅に落ち着いている。
登場人物にまともな人間はいない。程度の差こそあれ、敵味方全てがどこかいびつでゆがんでいる。まさに狂気に塗り込められた世界なのだが、見ているうちに彼らの狂気は秩序がなくなり狂った世界で生きていくのに必要な心の働きなのだと感じられてくる。狂人に見えてもそれぞれに切実な想いがあり、狂気にも共感できるようになる。
暴力が当たり前の手段として存在する荒廃した世界。それを受け容れるために組み立てられた常識、生活の仕組み。その中で必然的に立ち上がったのだろう、宗教のような枠組み。
未開部族が世界と折り合いをつけるために様々な神を打ち立て信仰するように、狂暴な世界においても同じ事が行われている。
映像はとてつもない説得力で迫り、彼らの抱く信仰がひしひしと感じられる。
暴虐の果ての神聖さ。
それを感じる事ができる希有な映画。
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