2011年4月6日水曜日

ツーリスト

★★☆☆☆
~古き良き時代の香り~

謎の美女。アンジェリーナ・ジョリー。
事件に巻き込まれていく男。ジョニー・デップ。
水の都ベニスで繰り広げられる、謎が謎を呼ぶサスペンス。

上記のような分かりやすい宣伝文句。その内容にも嘘偽りはなく、正々堂々とした映画だ。
まさに王道。しかしその輝ける道が、どうにも古くさい。
物語はつじつまが合わないまま進展して大団円で終わるが、雰囲気で煙に巻く大団円と言うべきだろう。
登場人物のすべてがどうにもプロ意識のない印象で、尾行をしても銃撃戦をしてもごっこ遊びに見えてしまう。

もしこれが二人の主演でなかったら――。
ベニスでなかったら――。
これはもうとてつもないB級映画で、日本での映画公開は行われなかったほどのものだろう。

だとすれば、この映画は総合力での商品価値を見事に計算された作品だとも言える。
ともかくベニスの風景の中で、二人はとても魅力的だ。ちょっとやそっとの不都合は気にならないほど画にはまっていて見とれてしまう。
多少気の利いた脚本で、異国情緒あふれるロケーションを部隊にスター俳優の共演を描く。なるほど、映画が娯楽の中心で、銀幕スターがまさにきら星だったころの企画だ。

多分昨今の映画は過剰すぎる。
もっとロマンスを。
もっと想像のつかない展開を。
もっと奥深い物語を。
精神性を。
VFXを。

もっともっとを追い求めて刺激に慣れ過ぎた我々に、この映画は少し物足りないかも知れない。
でも、懐かしいような、気を張りすぎなくて良いような、なんだかやさしい雰囲気。
全編に丁寧に作られた印象で、魅力的な要素をきちんと魅力的に描けている。これは簡単に見えてなかなか難しいことだと思う。
過度の期待をせずにふらりと立ちよって観ると楽しい映画だと思う。

キック・アス

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★★★☆☆
~カルマ判定~

上映館は少ないながらロングヒットとなったスーパーじゃないヒーロー映画の異色作。
友人に強く勧められ、自身も気になっていたのでレンタルで見た。

主人公は思い込みの激しい漫画オタクの高校生。正義感に燃えるあまりに一念発起して「一人で勝手にヒーロー」を開始する。
同様の私設通常人ヒーロー映画には「バットマン」や「ウォッチメン」があるが、彼らは財力や鍛錬、各種秘密兵器をその強さの説得力としていた。 

彼にはなにもない。通販で買った全身タイツだけだ。 

それが思い込みの強さ(オタク気質にありがちな瞬発的決心の強さ)と偶然により、等身大のヒーロー「キック・アス」としてメディアを騒がせるような存在になる。
この流れは、無茶だがどこか説得力がある。
誰もが常時動画撮影可能な機器(携帯電話)を持ち、ネットという個人発信可能なマスメディアが世界を覆う現代。似たようにちょっとしたことがとてつもない反響を生み出す事件をいくつも見てきたから。

ただ、このようなあらすじを見ても面白そうには見えないだろう。実際あまり面白くない。
この映画を楽しめるかどうかは主人公とは別のヒーローチームに魅力を感じるかどうかにかかっている。

キック・アスとは別に復讐のために牙を研ぐ親子ヒーローが登場。名前と格好がヒーローと言うだけでもはやテロリストだが、その子供が11才の少女。幼少より英才教育された身のこなしと知識はバットマン的な強さにまで至っている。
彼女の活躍シーンが、ともかくこの映画の見所であり、価値である。
従って、彼女に魅力を感じるかどうかが、この映画の評価になるだろう。

確かに彼女はキュートで、子役によくある薄っぺらさが感じられない。アクションシーンも見事。
でも彼女はいびつな教育を受けて育った、いわば狂信者なのだ。悪人とはいえ数十名の人間を容赦なく撃ち殺しながら、自分の為していることに罪悪感はない。父に褒められることだけを褒美に戦っている。
理性の部分が、児童虐待やん、と思う。
でも、かっこいいし、かわいいし、魅力的。そして一途だ。
守られるべき存在にやらせてはならないことを行わせる、というのはある意味ロリータ趣味のアダルトビデオ的な魅力なのかも知れない。
状況としては「レオン」に近いが、レオンの場合は手を汚すのは大人だ。
何か感じたことのない背徳感があり、これがこの映画を高く評価する人たちの共鳴した部分なのではないだろうか。

しかし実際この問題を感じさせないようにうまく作られている。
登場人物が親子ヒーローだけ、つまり彼らが主人公であったなら、どうやっても彼女の境遇に引きずられてしまうだろう。親子を描く時間が増えてしまうからだ。
メインをキック・アス、つまり平凡な少年のヒーロー物語にすることでこの親子を描くことが許されている。とすると、少なくとも製作者が最も描きたかったのは少女の残酷ヒーローであり、作品名となっている主人公さえも、彼女の隠れ蓑に過ぎないのだろう。

このように見てみると、メインストーリーが比較的平凡なのもしかるべきだと思うし、作品全体のテイストを操る技量に並々ならぬ才能を感じる。砂糖に塩に醤油にみりん。各種調味料で全体のバランスを見事に保っている。

自分は不思議とこの少女ヒーローにそこまでの魅力を感じなかった。
もし彼女が元気な女の子ではなく、おとなしい少女で、自分の為していることに多少の罪を感じ始めている描写があったのならば、一直線に引きつけられていたのではないかと思う。
してみると、これで満足できない自分こそが常軌を逸しつつある異常であり、業の深い性的嗜好なのだろうかと不安な気持ちにもなった。