★★☆☆☆
~古き良き時代の香り~
謎の美女。アンジェリーナ・ジョリー。
事件に巻き込まれていく男。ジョニー・デップ。
水の都ベニスで繰り広げられる、謎が謎を呼ぶサスペンス。
上記のような分かりやすい宣伝文句。その内容にも嘘偽りはなく、正々堂々とした映画だ。
まさに王道。しかしその輝ける道が、どうにも古くさい。
物語はつじつまが合わないまま進展して大団円で終わるが、雰囲気で煙に巻く大団円と言うべきだろう。
登場人物のすべてがどうにもプロ意識のない印象で、尾行をしても銃撃戦をしてもごっこ遊びに見えてしまう。
もしこれが二人の主演でなかったら――。
ベニスでなかったら――。
これはもうとてつもないB級映画で、日本での映画公開は行われなかったほどのものだろう。
だとすれば、この映画は総合力での商品価値を見事に計算された作品だとも言える。
ともかくベニスの風景の中で、二人はとても魅力的だ。ちょっとやそっとの不都合は気にならないほど画にはまっていて見とれてしまう。
多少気の利いた脚本で、異国情緒あふれるロケーションを部隊にスター俳優の共演を描く。なるほど、映画が娯楽の中心で、銀幕スターがまさにきら星だったころの企画だ。
多分昨今の映画は過剰すぎる。
もっとロマンスを。
もっと想像のつかない展開を。
もっと奥深い物語を。
精神性を。
VFXを。
もっともっとを追い求めて刺激に慣れ過ぎた我々に、この映画は少し物足りないかも知れない。
でも、懐かしいような、気を張りすぎなくて良いような、なんだかやさしい雰囲気。
全編に丁寧に作られた印象で、魅力的な要素をきちんと魅力的に描けている。これは簡単に見えてなかなか難しいことだと思う。
過度の期待をせずにふらりと立ちよって観ると楽しい映画だと思う。