2020年11月25日水曜日

VR ミッション:25

VR ミッション:25 [Blu-ray]
★★☆☆☆
~感動的に死ぬ事も出来ない地獄~


 一定金額を払えば、配達料優遇や電子書籍閲覧、オンデマンド映画鑑賞まで様々なサービスを受ける事が出来る「Amazon prime」。自分は基本的にAmazonを使わないように生活しているが、訳あってこのサービスにお試しで入る事になった。

 primeビデオには無料で見られる映画とレンタル料金が必要な映画があるが、無料映画のリストを覗いてみると見知った作品の中に聞いた事も無いような映画がたくさん。日本で公開されていないもの、されても箔を付けるために短期間単館ロードショーされたものなどマイナーな作品てんこ盛り。なるほど無料枠はこのような形で強化されていたのかと思いつつ、おもしろそうなものも沢山ある。その中から見てみた一作がこれ。
 イギリスの制作会社による2016年の作品。

 とあるFPS(ファーストパーソンシューティング)ゲームの上位ランカー達に謎の招待メールが届く。とあるビルの25階を訪れ、ゲームをクリアすると大金が手に入る、という内容。
 集まった8人に機会音声が指示を与え、最先端のフィードバック装置を備えたウェアとヘルメットを装備。ヘルメットのバイザーを下ろすとCGで構築された戦場が現れる。最先端の技術による没入感に色めき立つ参加者達だったが、それは逃れる事の出来ないデスゲームの始まりだった――。

 原題は「The Call Up」(呼び出し)。あまりピンと来ない題名に感じる。「VR ミッション:25」の方が映画の売りを的確に表しているので、邦題の方が良いという希な例ではないだろうか。VRはバーチャルリアリティの略で、仮想現実と訳されるのが一般的。多方面で使われているが、最も触れる機会が多いのはゲームだろう。PlayStationブランドでもヘッドマウントディスプレイ(メガネのように装着する立体視可能なディスプレイ)が発売されており、数万円で環境を整える事が出来る。

 この作品のVR技術の持ち込み方はなかなか理にかなっている。VR技術の壁の一つが、「移動」である。本人が移動して映像の中で風景が動いても、現実には部屋の中だから壁にぶつかってしまう。本作ではビル全体をその形状のまま戦場とし、ゴーグルをかぶると表面的な見た目だけが新築ビルからテロ攻撃にさらされた崩落間近の室内となるのだ。壁や扉など基本的な位置は現実と仮想が一緒になるので、自由に移動しながら楽しめるというわけ。
 映画での表現はその精度に於いて充分にオーバーテクノロジーだが、技術の進歩により現実的になっていくだろう。
 
 登場人物達はゲーム攻略の途中途中でバイザーを挙げ、これがVRなのだと確認する。VRなのか現実なのか分からない、というサイコサスペンスの方向に進む事はなく、「VRなのは分かっているのに抜け出せない戦場」で命がけの戦いを強いられるのである。作品中何度もVRなのだと確認作業が行われ、仮想現実に没入させない。これがなかなか新しい。
 江戸時代に炊きたてのおひつに手を突っ込まされる拷問があったというが、このVR戦場も悲壮感とバカバカしさが一体になった、感動的に死ぬ事も出来ない地獄なのだ。何せ全身タイツのヘルメット姿でビルを徘徊して死んでいくのである。敵も居ないのにビクビク一人で痙攣して……。
 
 この状況設定を自分は楽しむ事が出来たが、そうで無いなら酷評される点が多い作品だ。
 まず、誰がどういう目的でメンバーを集めてこのゲームを始めたのかという謎。徹頭徹尾物語を引っ張るのはこれなのだが、引っ張った分だけのリターンとなる結末かというと――ほとんど全ての人がNOと断じるだろう。肩すかしという事だ。
 次に戦闘描写が結構適当だ。25階、つまり25ステージに渡る戦場を突破するのだが、その苦労がほとんど描かれない。適当に隠れて適当に撃って撃たれてという感じで、せっかくの「ゲームのプロフェッショナル達」という設定がまるで生きていない。この点はゲームと現実(限りなく現実に近い)の戦闘は違うんだよという事かもしれないが、そりゃマウス操作と実際に体を動かすことに熟練の関係性があるはずもなく、そもそも主催者のチョイスがおかしいということになる。

 体を動かしての戦闘には素人同然だったプレイヤー達が、終盤ではそれなりに連携を取っているなど重ねた戦闘を感じさせる部分もあるが、もう少し戦闘部分を楽しめる要素が入っていればオチはともかくもっとバランスが良くなったと思う。

 

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