2010年4月21日水曜日

モンスターインク


★★★☆☆
~箱庭の冒険~

ピクサースタジオ作成のCGアニメーション映画。
2001年。(日本公開は2002年)
高い評判は聞いていたのだが、ようやくみた。
十分に鑑賞価値のある、愉快な作品。だが、やはり子供向け。得られる感情のふれ幅が狭く、予定調和しかあり得ない。
興味を引く設定。愉快な登場人物。徐々に見えてくる物語。見所が続く構成。
およそ欠点を挙げるのが難しいほどの完成度だろう。
おもしろい。
だけどやはり、想像の範囲内だ。
この物語は、見ている者が傷つくことのない物語だ。
その大前提があるから、はらはらすることがない。実際には作品に没入して一喜一憂しているのだが、どこかに保険のかかった安泰がある。
その分、おもしろかった、良かったと思うほどに、心に残らない。

これは、様々な刺激にさらされて敏感さを失った大人の感想だから、本来のターゲットである子供には問題とならない視点だろう。
ただ、思うのだ。
自分が子供の頃に観て、今も心に残っている作品は、安全で、守られた物語だったろうか。今みても、鼻白むほどの残酷やアンバランスではなかったろうか。

ところで、「インク」とは株式会社のことで作品名は主人公の勤め先そのものなのだが、自分はこれをペンのインクだと思っていた。そこから想像していた物語は以下のようなものである。

「博士が発明したインクは、描いた物を現実とする力を持っていた。
軍事力として使用しようとする将軍と、正義のために使用しようとする博士。
争いの最中インク(の詰まった万年筆)を偶然手にした少年。
空想がちで、落書きばかりしている少年が描いた怪獣が動き出す……」

最後は将軍の生んだ怪獣と怪獣の対決。決め台詞は「モンスターは、こんな怪獣を生みだした将軍の心だ!」。
こんな風に思っていた人も多いのではないだろうか。なんて。

ハートロッカー

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☆☆☆☆
~米国国内向けの映画~

 中東の紛争地域に投入された爆弾処理班の任務を追う、ドキュメントタッチのフィクション。

 自分の国が戦地で行っている活動、という前提でないと評価できない作品ではないかと思う。実際3D映画の新時代を切り開いた「アバター」を押さえてアカデミー作品賞を受賞したが、それに納得する日本人は少ないだろう。 

 描かれている世界との距離感が重要な作品要素なのだ。例えば、日本の時代劇や原爆関連映画。ふだんの生活で染み着いている文化的な基礎が作品鑑賞に大きく影響する。

 そういったわけで中東情勢を情報としては聞いているが肌身に感じていない自分にとって、物語にもなれずノンフィクションにもなれない中途半端な作品としかみることが出来ない。興味を持続することが出来ない。一言でいえば、おもしろくないのだ。 

 テレビのCMでは自己犠牲の感動大作のように見えるが、実際はその逆。戦争中毒の主人公の葛藤をそれとなく見せるだけの、温度の低い問題提議映画。アルコール依存症の雇われマスターの日常と言えば雰囲気が伝わるだろうか。

 いずれにせよ2010年(2009年の作品)のアカデミー賞は、これまでのアカデミー賞でたびたびあったように、主要な賞を受賞した作品が歴史に残らず消え去っていき、とれなかった作品がずっと人の心に、映画の歴史に名を残していくという事になるだろう。

 

 

第九地区



★★★★★
~ハリウッドの背理~


低予算の消えものSF映画かと思いきや、全編に緊張感みなぎる想像を超えたおもしろさ。巨大宇宙船が来訪し、すわ宇宙外交の始まりかと思いきや、知的レベルの低い使役宇宙人の難民団というのがもう尋常ではない。地球外の知的生命体とコンタクトをとるという神秘的なイメージを、戦争を経ることなく、ありふれた現実問題にいっきに持ち込んだ点が楽しい。

アイデアに溢れ、小気味よく進む物語のテンポ、胸のすく無茶無謀。ジョンカーペンター監督「ゼイリブ」からチープさを排除したような映画と言えば伝わる人が居るかも知れない。
さらに今作は、ハリウッド的な映画とは何かという疑問について、重要な示唆を与えてくれる。この作品が明らかにハリウッドらしくないものだというのではない。反対に、一見実にハリウッド的な映画なのだ。同じような場面、展開はこれまでに他の映画で見たことがあるし、VFXを駆使した奇想天外な生物、迫力ある戦闘シーンは目を見張る高いクオリティーで安定している。
それなのに、見た者は違和感を拭えない。
いつもの、よくある映画とはどこかが違うのだ。
なぜだろうと考え、内容を反芻する。自分は、物語の中で発生する状況に対して、登場人物が選ぶ選択肢に、独特の基準を感じた。

得られる答えは人それぞれかも知れないが、明らかに、それ以外の映画が一定の範囲、檻の中で作られていたのだということを認識できるはずだ。
この似て非なる感触、対照実験としての存在感は宮崎アニメに対する、ゲド戦記のようなものだ。見た目は同じなのに、中身が違う。本質を問うのにこれ以上の材料はない。ただ、ゲド戦記は作品価値として宮崎アニメに劣ること甚だしいが、第九地区は他の映画に負けない、むしろ凌駕したすばらしい作品である。
次作が楽しみな若い監督が出てきたことに、とてもわくわくする。

アバター


★★★★☆
~3Dの波頭~

説明するまでもない大ヒット映画。
映画館における3D上映の定着だけでなく、薄型テレビの次のトレンドとしての3D立ち上げ。それら重責を担った大作映画。エポックメイキングを宿命づけられた本作はどのようなものであったか。
実際の内容については別の機会に、今回は通常、3D、字幕、吹き替え、について考察してみる。

・通常上映 字幕版
・3D上映 吹き替え版
を連日で見た。

■通常上映で感じたこと

◆フォトリアルのCGキャラクターで違和感のないドラマが展開
ディズニー系のデフォルメキャラではなく、フォトリアルのCGキャラが、完全に実写キャラと競演している。
これまでの同系作品と異なり、モンスターではない人間的なキャラクターの表情までが、きちんと映像に乗っている。(これまでのCGキャラクターは人間との差異が非常に大きいものに限られていたと思う)
指輪物語のゴラムを推し進めた表現は、リアルになるほど細かい部分が気になり気持ち悪く見えるという、いわゆる「不気味の谷」を、完全に飛び越えている。
その実在感、違和感のなさは、まさにエポックメイキング。
◆舞台のクオリティ
異星の植生や生態系が、ものすごい説得力。
進化の道筋まで説明なしに何となく感じられる。
◆戸田奈津子の訳がやり過ぎ
意訳しすぎと言われる彼女の翻訳が、明らかに脱線気味の気がする。
◆おもしろい
物語は単純で分かりやすく、見る人によって様々な興味を持つことのできる多面的な作品。

■3D上映で感じたこと

◆意外と3D演出としてはおとなしい
直前に見た3D映画「クリスマスキャロル」が、画面手前にどんどん押し出してくる印象だったのに比べアバターはどちらかというと画面の向こう側に奥行きを感じる作りで、意外なほど3Dを強調しない。
窓から異世界をのぞいている感じで、つまり視界が画面で埋まると、その場にいるような臨場感。
おそらく、既存の3Dが大げさに3Dを強調しているのに比べ、今作は現実的なレンジでの3D表現を行っている。
インパクトには欠けるが、徐々に実在感が強くなっていき、終盤の没入感は半端ない。
つまり、自然な3D。
これに比べると、クリスマスキャロルは3D表現として子供っぽく、遊園地のアトラクションの系統から外れてない。
◆翻訳すごい
登場人物の口の動きに合わせて、日本語が話される。
口の動きも考えて、日本語訳がなされているということで、これはすごい。
◆疲れる
160分と長いこともあり、3Dメガネを着用しての視聴は結構しんどい。

■比べて感じたこと

◆訳メチャ大事
吹き替えと字幕とは異なる訳者が翻訳しているので、訳も異なるのだが、思っていた以上に差異が大きい。
キャラクターの魅力や世界観把握に深く関わる部分までも異なっている。
戸田奈津子は明らかに意訳が多く、はまればすごいがはずした時のダメージもでかい感触。
今作に関しては吹き替えの方が素直で分かりやすく、引っかかりが少ない。
◆3Dと字幕
3D映画と字幕表示の食い合わせは非常に良くない。
字幕文字は規定のZ座標に浮かび続けるので、それよりも手前のオブジェとの干渉が特に気になる。
違和感が強く、非常に邪魔に感じる。
※吹き替え版でも一部字幕表示がある。
◆映像と字幕
普段は元の役者声を尊重して字幕でばかり見ているが、きちんと作られた吹き替えなら、その方が良い場合もあるのではと感じた。
ゴージャスな映像を押し出している映画ほど、画面を堪能できる吹き替えの利点は大きくなる。

■総論

◆3D用の視覚処理
映画がカット割りという文法を手に入れた時、そのつながりが気持ち悪くてしょうがない(引きから急にアップなど)と感じる人も多かったとか。
同様に、3D映像は、大きな映像文法の転換点だと感じる。
・カット毎の3D位置の差異が大きすぎると、遠近の脳内切り替えが追いつかない
・実在感が強いゆえ、引きのカットがミニチュアに感じられる
・ピンぼけ部分を注視した時の違和感(3D的な視差を合わせたのに、画像はぼけたまま、という違和感)
このようなたくさんの問題を感じた。
コンテンツ作成側の進歩が必要なのはもちろんだが、見る側が新たな理解力を鍛える必要があるのではないか。
実際、三時間の中で、当初感じにくかった微妙な3D具合が、時間がたつほどはっきり感じられる用になった。
見ている間に、視差による立体感構築の経路が鍛えられたのではないかと思われる。
3D絵本の立体視に得意不得意があるように、3D映画にも個人的な差異があり、それによって、3D鑑賞についての感想はまったく異なってくるかもしれないので、人の意見に振り回されないようにした方が良いかも。
実際自分は、目が疲れるというより、頭が疲れた。
中盤が特にしんどくなったが、それを越えるとランナーズハイのように3D鑑賞が楽になり、没入度が上がった。
「クリスマスキャロル」では3D映画は見たい人が見るだけの特異な存在と感じたが、アバターを経験してみると、これは普通の存在としてなじんでいくかも知れないと感じるようになった。
映画館は大画面、音響の良さが良いよね、というように、表現の一要素として3Dは有効で楽しい。
世界を塗り替えるほどではないにしても、一ランク上の映像体験という意味で3Dは今後伸張すると信じられた。

今作が今後の3D映画の指標となるのは間違いない。ただ、このクオリティに達する映画でないと逆に安っぽく疲れるだけの物になるかも知れず、やはりコンテンツ頼みなのは覆らない。
とはいえ、10年前は予算的に大作しか使用が難しかったCG処理が今では当たり前になったように、
作品が増えれば文法も整い、環境も整い、当たり前になる日が来るかも知れない。
最後に、二回見た上での自分のお薦めは、
★3D
やはりそれように作られているので。
★吹き替え版
画面に集中できる。言葉の量が増えるので、だいたいにおいて理解しやすい。
★前の方の席で、視界が画面で埋まるくらい
3D上映において、枠は立体の限界地点となるため、こぢんまりした画面だと気になる。

これだけの種類から選べるのは、贅沢なことだが、迷ってしまうね。