★★★★☆
~3Dの波頭~ 説明するまでもない大ヒット映画。
映画館における3D上映の定着だけでなく、薄型テレビの次のトレンドとしての3D立ち上げ。それら重責を担った大作映画。エポックメイキングを宿命づけられた本作はどのようなものであったか。
実際の内容については別の機会に、今回は通常、3D、字幕、吹き替え、について考察してみる。
・通常上映 字幕版
・3D上映 吹き替え版
を連日で見た。
■通常上映で感じたこと
◆フォトリアルのCGキャラクターで違和感のないドラマが展開
ディズニー系のデフォルメキャラではなく、フォトリアルのCGキャラが、完全に実写キャラと競演している。
これまでの同系作品と異なり、モンスターではない人間的なキャラクターの表情までが、きちんと映像に乗っている。(これまでのCGキャラクターは人間との差異が非常に大きいものに限られていたと思う)
指輪物語のゴラムを推し進めた表現は、リアルになるほど細かい部分が気になり気持ち悪く見えるという、いわゆる「不気味の谷」を、完全に飛び越えている。
その実在感、違和感のなさは、まさにエポックメイキング。
◆舞台のクオリティ
異星の植生や生態系が、ものすごい説得力。
進化の道筋まで説明なしに何となく感じられる。
◆戸田奈津子の訳がやり過ぎ
意訳しすぎと言われる彼女の翻訳が、明らかに脱線気味の気がする。
◆おもしろい
物語は単純で分かりやすく、見る人によって様々な興味を持つことのできる多面的な作品。
■3D上映で感じたこと
◆意外と3D演出としてはおとなしい
直前に見た3D映画「クリスマスキャロル」が、画面手前にどんどん押し出してくる印象だったのに比べアバターはどちらかというと画面の向こう側に奥行きを感じる作りで、意外なほど3Dを強調しない。
窓から異世界をのぞいている感じで、つまり視界が画面で埋まると、その場にいるような臨場感。
おそらく、既存の3Dが大げさに3Dを強調しているのに比べ、今作は現実的なレンジでの3D表現を行っている。
インパクトには欠けるが、徐々に実在感が強くなっていき、終盤の没入感は半端ない。
つまり、自然な3D。
これに比べると、クリスマスキャロルは3D表現として子供っぽく、遊園地のアトラクションの系統から外れてない。
◆翻訳すごい
登場人物の口の動きに合わせて、日本語が話される。
口の動きも考えて、日本語訳がなされているということで、これはすごい。
◆疲れる
160分と長いこともあり、3Dメガネを着用しての視聴は結構しんどい。
■比べて感じたこと
◆訳メチャ大事
吹き替えと字幕とは異なる訳者が翻訳しているので、訳も異なるのだが、思っていた以上に差異が大きい。
キャラクターの魅力や世界観把握に深く関わる部分までも異なっている。
戸田奈津子は明らかに意訳が多く、はまればすごいがはずした時のダメージもでかい感触。
今作に関しては吹き替えの方が素直で分かりやすく、引っかかりが少ない。
◆3Dと字幕
3D映画と字幕表示の食い合わせは非常に良くない。
字幕文字は規定のZ座標に浮かび続けるので、それよりも手前のオブジェとの干渉が特に気になる。
違和感が強く、非常に邪魔に感じる。
※吹き替え版でも一部字幕表示がある。
◆映像と字幕
普段は元の役者声を尊重して字幕でばかり見ているが、きちんと作られた吹き替えなら、その方が良い場合もあるのではと感じた。
ゴージャスな映像を押し出している映画ほど、画面を堪能できる吹き替えの利点は大きくなる。
■総論
◆3D用の視覚処理
映画がカット割りという文法を手に入れた時、そのつながりが気持ち悪くてしょうがない(引きから急にアップなど)と感じる人も多かったとか。
同様に、3D映像は、大きな映像文法の転換点だと感じる。
・カット毎の3D位置の差異が大きすぎると、遠近の脳内切り替えが追いつかない
・実在感が強いゆえ、引きのカットがミニチュアに感じられる
・ピンぼけ部分を注視した時の違和感(3D的な視差を合わせたのに、画像はぼけたまま、という違和感)
このようなたくさんの問題を感じた。
コンテンツ作成側の進歩が必要なのはもちろんだが、見る側が新たな理解力を鍛える必要があるのではないか。
実際、三時間の中で、当初感じにくかった微妙な3D具合が、時間がたつほどはっきり感じられる用になった。
見ている間に、視差による立体感構築の経路が鍛えられたのではないかと思われる。
3D絵本の立体視に得意不得意があるように、3D映画にも個人的な差異があり、それによって、3D鑑賞についての感想はまったく異なってくるかもしれないので、人の意見に振り回されないようにした方が良いかも。
実際自分は、目が疲れるというより、頭が疲れた。
中盤が特にしんどくなったが、それを越えるとランナーズハイのように3D鑑賞が楽になり、没入度が上がった。
「クリスマスキャロル」では3D映画は見たい人が見るだけの特異な存在と感じたが、アバターを経験してみると、これは普通の存在としてなじんでいくかも知れないと感じるようになった。
映画館は大画面、音響の良さが良いよね、というように、表現の一要素として3Dは有効で楽しい。
世界を塗り替えるほどではないにしても、一ランク上の映像体験という意味で3Dは今後伸張すると信じられた。
今作が今後の3D映画の指標となるのは間違いない。ただ、このクオリティに達する映画でないと逆に安っぽく疲れるだけの物になるかも知れず、やはりコンテンツ頼みなのは覆らない。
とはいえ、10年前は予算的に大作しか使用が難しかったCG処理が今では当たり前になったように、
作品が増えれば文法も整い、環境も整い、当たり前になる日が来るかも知れない。
最後に、二回見た上での自分のお薦めは、
★3D
やはりそれように作られているので。
★吹き替え版
画面に集中できる。言葉の量が増えるので、だいたいにおいて理解しやすい。
★前の方の席で、視界が画面で埋まるくらい
3D上映において、枠は立体の限界地点となるため、こぢんまりした画面だと気になる。
これだけの種類から選べるのは、贅沢なことだが、迷ってしまうね。