2016年9月23日金曜日

伊賀忍法帳

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 ★★★☆☆
~魔界転生に負けない炎上シーン~

エログロと奇想天外な発想の忍術が炸裂する「忍法帳」シリーズで一世を風靡した山田風太郎の小説を原作とした作品。
1982年のいわゆる角川映画。公募により選出された渡辺典子が初主演をつとめている。彼女はその後「角川三人娘」として人気を博す。
前年には同じく山田風太郎原作の「魔界転生」が映画化されており、千葉真一、真田宏之など主要俳優の重複も濃い。

戦国時代、主君の細君である右京太夫に横恋慕した松永弾正の元に謎の幻術師、果心居士が現れ惚れ薬を持って右京太夫の心を奪えとそそのかす。
そのためには彼女の双子の妹である篝火の強奪と陵辱が必要であり、5人の超人的能力を持つ忍法僧が貸し与えられた。
篝火は伊賀忍者である笛吹城太郎と恋仲であり、彼女を奪われた城太郎は強大な敵に単身立ち向かう。

そもそも純潔の娘を強姦して流れた涙(原作では愛液)が惚れ薬の材料になるなど、エロに傾く設定。
惚れ薬の実験にされた女中の痴態など、おっぱいシーンも多い。
首をすげ替えて姿と心をもすげ替えたり、手の甲や眼球から仕込み針を発射したりと奇想天外な忍法の数々。
そして芯を貫くのは男女の愛。
まさにエンターテイメント。

原作と比べると忍法僧の数(原作は7名)が減っていたり、惚れ薬の材料や物語の基本設定にも改変があるが、二時間枠に収め、 万人向けとするためには適切な判断だったと感じる。
特に篝火と右京太夫の関係については話を整理して終盤の展開を納得感あるものにするのにとても有効に働いている。
ただ、ピンチに陥る度に謎の勢力に助けられる……という展開がくり返し発生し、緊迫した状況に対する肩すかし感がすごい。

映像についてまず特筆すべきは奈良の大仏殿炎上シーン。魔界転生のクライマックスでも江戸城炎上をとんでもないスケールで映像化し、 これは現代では許可がおりないのではないかという成果をものにしているが、今作でも同等の凄まじい炎を堪能できる。
実物大セットや大型ミニチュアに火を放ったという事だが、CGとは隔絶した迫力を生み出している。肌がちりちりするような熱さを感じるのだ。
CGの炎と実際の炎、何が違うのだろうと考えるが、おそらくCGの場合、きちんと整って絵になりすぎるのではないかと思われる。
実写の炎は絵にならない、どこか不細工な形が含まれている。整いすぎた人間の顔を嘘っぽく感じるように、情景にもいびつさが必要なのだろう。

他にもエキストラを大量に投入した群衆シーンは昨今の日本映画には無い魅力。CGで数増やしするのではない愚直な力業は、やはり画面に力を与える。
全編にわたるわけではないが、町の賑わいや僧兵突入のシーンなど、ワラワラと動き回る画面は今でも見劣りしないどころか輝いている。

反して厳しいのが、本来主軸の見所となりうる忍法対決。
魔界転生のような、技術的には厳しいけど描こうとしているイメージが伝わってくる凄みもなく、ただただショボい印象。
剣と体術のプロレス。良くある時代劇のチャンバラ程度となっている。
怪力忍法僧との戦いはただの相撲のようになっており失笑。
そんな中唸らされたのが池に落下した敵味方が水中で死闘を繰り広げるシーン。
実際に水中の様子を描くことはなく、カメラは水面を捕らえるのみだが、

「落水→黄色い毒液が浮かび上がる→敵のあえぐ姿が一瞬水面に→また沈んで泡や波紋がこちらに近づいてくる
→水面が赤く染まり敵が浮かぶ→急速な航跡が走り、主人公が無事浮上」

この1分以上ありそうな戦闘の進捗がワンカットで繰り広げられる。無論役者はその間潜りっぱなしで、血や波を出すギミックも大変な準備だったろう。
シーンとして凄みのあるものにはなっているのだが、血の出る箇所と死体が浮かぶ場所が大きくずれていたり、各種タイミングがいまいちかみ合っていなかったり。
撮り直しの出来なかったシーンという事なのか――。

役者の中で特に気に入ったのが成田三樹夫演じる果心居士。不気味な存在感と奥深い人間性を少ない登場シーンで十二分に感じさせてくれる。

シナリオ、映像共に魅力はあるが、決め手に欠ける印象の佳作。魔界転生に比べて知名度が低すぎる気はする。

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