2016年9月14日水曜日

剱岳 点の記

★★★☆☆
~実写の圧倒的実在感~

2009年公開。新田次郎の小説を原作とした作品。
監督の木村大作は世界に名だたる黒澤明、宮川一夫の信任が厚いカメラマンであり、今作がその監督第一作となる。
黒澤明作品には撮影助手として参加しており、特に望遠のピント合わせについて高い評価を得ていたとのこと。

1906年。陸軍の威信をかけて未踏の剱岳測量を下命された柴崎(浅野忠信)が、幾多の困難を乗り越えて測量点設置を目指す物語。
剱岳は日本国内でも屈指の危険な山であり、立山修験と呼ばれる山岳信仰の中でも針山地獄とされている程の峻岳。
柴崎は山案内人の宇治(香川照之)の協力を得て着々と調査と準備を整えていくが、装備の近代化で勝る日本山岳会の小嶋(仲村トオル)の隊との初登頂競争の様相を呈していく。
測量を一義とする柴崎と、個人趣味の延長としての登山を旨とする小嶋。山に対する角度は異なるものの、同じく自然に対する者として底の部分でわかり合っていく。

淡々とした山岳シーンが長く続くが、それで十分に間が持つほど山の風景が素晴らしい。
CGでは出ないだろう想像を超えた空気感。巨大な自然とちっぽけな人間の対比。
画面を見るだけで敬虔な気持ちになれるというのはなかなかない。
その場に行って、いい画(え)を撮る。カメラマン出自の木村監督なればこその境地だろう。

出演者各員もかなりの労苦を共にしたようで、実際にかなりの行程を歩いてロケに挑んだとのこと。
柴崎の部下、生田を演じた松田龍平は実際に雪に埋もれて酸欠になりながらも撮影を続行したというから腹が据わっている。
浅野忠信も抑制の効いた演技をつとめ、香川照之はまったく生まれつきかのように蓑や笠を着こなして現地案内人になりきっている。

初登頂と思われたが……という落ちも含蓄深く興味深い。
ノンフィクションならではの抑揚にかける盛り上がり所の少ない印象ではあるが、心を洗われる風景だけで十分見応えがある。

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