2014年12月19日金曜日

戦略大作戦

戦略大作戦(Blu-ray Disc)

★★★★
~バランスの取れた娯楽戦争映画~

テレビで放映されていたのをたまたま視聴したが、おいおい何だよこの完成度! この洒脱さ!
二次大戦。欧州に上陸してドイツと激戦を繰り広げるアメリカ陸軍。理不尽な事情から降格されているケリー二等兵は、ドイツ軍が金塊を大量に隠し持っているという情報を得て、それをぶんどるための手はずを整え始める。
主演はクリント・イーストウッド。映画監督は     ブライアン・G・ハットン。1970年公開。1968年に公開されてヒットした「荒鷲の要塞」のコンビ再び。
荒鷲の要塞も冒頭の空中挺進やロープウェイ上の戦いなど、展開のおもしろさ、舞台のおもしろさに圧倒されるが、今作も冒頭からオープニング曲の意外性に持って行かれる。その後もクライマックスばりのシーンと展開の連続でこのテンションのまま最後まで持つのかと観ている方が不安になるほど。そんな心配はよそに緩急のついたゆったりしたシーンも塩梅良く挟み込まれ、ラストまで予想のつかない展開に翻弄される。
登場人物も少なくないが、エピソードに合わせてうまくキャラクター性を見せてくれるので混乱することなくそれぞれの活躍を楽しむことができる。

シリアスなのに御伽話のようでもあり、硬軟入り交じった心地よさ。
遙か遠方まで見渡せる戦場の爆煙と閃光のスケール感。
かっこいいだけでなく泥にまみれた「リアル」な戦車戦。

長い映画史の中にまだまだ知らない名作がたくさん隠れている。
自分の知る映画の知識なんて本当にわずかなものだと再認識。一生退屈することのない趣味を得たのだなあ。

それにしても原題「Kelly's Heroes」がなぜ「戦略大作戦」に……。
「ケリーとその仲間達」などと直訳してもおもしろみがないのは確かだが、戦略と大作戦の意味がかぶって馬鹿っぽい雰囲気は頂けない。この題名のせいでいまいちマイナーな存在となっている面はあるだろう。げに映画の邦題の重要な事よ……。
「金塊大作戦」「黄金の小隊」とかどうだろ。

マージン・コール

マージン・コール [DVD]

★★★☆☆
~リーマン・ショックの前日嘆~

2007年の世界的な金融危機、リーマン・ショックを題材とし、その引き金を引いた投資銀行の決断を描く。
日本では映画館で公開されておらず、セルディスクのみのいわゆるビデオスルー作品。
マージン・コールとは破綻した資産状況に対する資金追加要請のこと。

登場人物が少なく、舞台もほぼ一箇所。低予算だろうと思われるが、映像的に陳腐な印象は皆無。全編が「雰囲気」をたたえている。
実際、あらすじを書くと「いち早く金融危機の到来を知った投資銀行役員が深夜に行った会議と決断」だけとなる。この単純さ、要素の少なさが他の金融を題材とした映画と一線を画している。
会議に参加する役員達は一般人とは異なった金銭感覚を持ち、それぞれの世界を捉える視点を持っている。見ている者にとってみればなにやら異世界を覗いている気分。人となり、発される言葉をたどっていくだけで興味深い。
一つの事件の一つの決断に題材を絞り描いているのは「そういった世界で生きている人の心の持ちよう」である。

ハゲタカだの金の亡者だの言われる人間達が、それぞれどのような理屈、要望からそういった行為を正当化し、行っているのか

これが描かれている。
映画にするにはかなり難易度が高い題材、内容だったと思われるが、これをきちんと面白く描いた手腕は素晴らしい。他の金融映画が幼稚に感じられるほど、シビアで現実的。そしてある意味、救いがない。

スター・トレック イントゥ・ダークネス

スター・トレック イントゥ・ダークネス [Blu-ray]

★★★☆☆
~優等生だが記憶に残らない~

2009年にスタートレックを劇場版としてリブートしたJ・J・エイブラムスが続いて登板した二作目。2013年公開。
この監督の特徴は、引きやフックを自在に配し、どのような内容もそつなくまとめる汎用性の高さにあると思う。誰からも文句の出ない(出にくい)出来の良い秀作をコンスタントに生む能力。ただ、特定の視聴者に強烈に刺さる一本ではないのかも知れない。

今作もオープニングからがっちりと派手な映像で観客を世界に巻き込んでいく。多少の違和感があっても次々と起こる事件が最後までドミノ倒しのようにつながり、飽きることなく見終えることが出来る。まさに値段分の映像体験が約束されており、文句を言うのがはばかられるゴージャスさ。このようなクオリティで作品を完成することが出来るのは素晴らしいと思う。

だが、それを承知で言わせてもらうと、今作は面白くない
第一作と合わせて言うなら、今作も、となる。
見終わった後、一定の満足感の背後に積み重なった違和感が山のように残り、後味に首をかしげてしまうのである。

登場人物の浅はかさ。(主人公の身勝手さに腹が立ち、敵役の動機にも説得力が無い)
テクノロジーの違和感。(それがあれば物語が成り立たないという機器が登場するのに、ご都合主義のみで回避)
大きいのか小さいのかよく分からない事件の規模感。(宇宙規模のはずなのにすごくこぢんまりとした事件の印象)

これらが大河シリーズ「スタートレック」の味だと言うのなら、それはもうそこまでの話。シリーズを追っていない自分には理解できない範囲だ。
そうでないのなら、脚本の問題を映像テクニックのみでカバーしたつぎはぎの映画だろう。

至極主観的な意見だが、自分はエイブラムス監督の作品が好みではない。
どの作品も楽しめる優等生なのだが、思い入れを感じないのだ。
暑苦しい、偏った執着心が生むいびつな魅力。
それが決定的に欠けている気がする。

2014年12月15日月曜日

コンテイジョン

コンテイジョン [Blu-ray]

~現実的なパンデミック~
★★★★

これを書いているのが2014年10月。現在世界は「エボラ」の流行に身震いしている。
アフリカで発生した病が世界を結ぶ航空機のネットワークによってあっという間に感染拡大。
病気に対する無知が引き起こす理不尽な事件。そういった実際の風景と恐ろしいほど重なるのが、この映画。

発症後脳を冒し、全身痙攣の後、死に至らしめる伝染病。発覚と同時に国際機関が発生源の特定と収束作業を開始するが、瞬く間に世界中へ感染拡大していく。その中で生まれる美談になりきれない「ありそうな」シチュエーションとエピソード。その一つ一つが実に生々しい。
失ったものを取り戻すのではなく、いかに被害を食い止めるか。負けと分かった撤退戦の最前線で戦う人々の姿を描く群像劇。

命をかけて病魔に立ち向かう人々の動機は職業倫理や自己犠牲が表立つ。しかし極限状態においてはそれぞれが守るべき人への愛情に帰着し、利己的な面が強くなっていく。そういった人間らしい狭い愛情は同時に感染を広げ抑制を困難にする原因でもあり、愛という感情の理不尽さが強く心に残った。

物語は最初と最後で綺麗にひとつながりとなり、気持ちよく(?)視聴を終えることが出来た。

2014年12月14日日曜日

パンズ・ラビリンス

パンズ・ラビリンス [Blu-ray]

~ロマンティックなグロテスク~
★★★☆☆

「パシフィックリム」で名を馳せたギレルモ・デル・トロ監督が描くダークファンタジー。
このダークファンタジーというくくり。テレビの解説欄に書いており、一体どういう区分だろうと不思議に感じたが見てみると確かにこれはダークファンタジーとしか言いようがない。

まさに暗鬱なおとぎ話

第一次世界大戦後の混沌としたスペイン内戦。主人公オフェリアは母が独裁政権側の将校と再婚したことで最前線での生活を余儀なくされた。
多感な時期のあまりに過酷な環境の中、彼女はおとぎ話に心の平穏を求める。

少女の空想癖という点では「赤毛のアン」と似通っているとも言える。だが、アンのそれがふわふわと浮かれた美しいものであるのに反して、オフェリアの空想は土着の民間信仰が潜在意識下で目を覚ましたような、暗く醜くい陰鬱なものだった。
心の逃げ場所である空想までもがそのようなふさぎ込んだ世界だということがとても切ない。しかし、空想は心を投影するものでもあるのだから、その暗さは確かに彼女の世界としてとても説得力がある。
映像は空想を現実的に描いており、両者が差異なく感じられる事はこの物語においてとても重要だ。どちらが本当なのか、見ている者も分からなくなる。言わずもがな渦中のオフェリアにとってはまさに現実なのだろう。
汚らしく嫌悪したくなる空想なのに、懐かしく、美しくさえ見えてくる奇妙な感触。
最後にはどうか空想が現実であって欲しいと祈らずにいられない。せめて彼女の魂は救われたのだと思いたい。

同様に少女期の空想を映像化した作品としてピーター・ジャクソン監督の「乙女の祈り」を連想する。こちらも空想を高いクオリティで可視化し、現実との境界を曖昧にした作品。ピーター・ジャクソン監督はマニアックな作品ばかり作っていたが、後に指輪物語三部作を作り上げる。ギレルモ・デル・トロ監督もこの後「パシフィックリム」でマニアックさはそのままに名を馳せた。両監督について共通に言えることは、グロテスクとロマンティシズム。そして映像の完成度の高さ
マニアックなこだわりが大きな題材と結びついた時、巨大な妄想の塊が世に現れるのだ。

 

終わりで始まりの四日間

終わりで始まりの4日間 [DVD]

~見る動機が乏しい秀作~
★★★☆☆

親との確執から故郷を離れた主人公が母親の葬儀を期に自分の過去と向かい合い、「終わらせて」、「始める」四日間を描いている。

歳月を経た旧友達はそれぞれの事情を持ち、各人の生活を送っている。時の流れと比例して主人公との差異も大きい。しかしそういった友人を互いに否定もせず、完全に認めるでもなく、友人の距離で交流していく。

病院の待合室で出会ったヒロイン。お互いに求め合いながら、一歩を踏み出せない主人公。
派手なシーンが多いわけではないが、淡々と巡る故郷の景色は主人公の感じているだろうそのままに、どこかやさしい。

ザック・ブラフ監督はそのまま主人公も演じており、抑制の効いた雰囲気のある演技を見せている。ヒロインのナタリー・ポートマンもかわいい
主人公が静止し、周囲の人々がめまぐるしく動く特殊なカットをピンポイントで効果的に配し、映画の始まりと締めを整えている。

この映画を見る、という動機に欠けるので視聴機会は中々ないかも知れないが、邦画のわびさびに似た空気を持つ秀作。

ザ・フォッグ

ザ・フォッグ[ノーカット版] コレクターズ・エディション [DVD]

~復讐ではなく災害~
★★☆☆☆

B級映画の帝王、ジョン・カーペンターのオリジナルをリメイクした作品。
元が1980年。リメイクは2005年。
オリジナルも見たはずだが、とらえどころが無くふわふわとした印象だけが残っている。

海辺の街を覆うように海から押し寄せる霧。
その中でうごめく悪霊。何のために彼らは街を襲うのか。

オリジナルをどの程度踏襲しているのかは不知だが、割としっかりした筋と落ちがあったのでかなり改変しているのかも知れない。恐怖の舞台は夜がメイン。街灯やヘッドライトや街の灯り、様々な光源を生かした霧の動きや表現は美しく、霧のボリュームを感じる事ができる。
物語としてはこぢんまりながらもまとまっているが、まとまっているためその外への想像が必要なく、あまり怖くない。わっと驚かせるびっくり系のホラームービー。ヒロインの行動がいちいち身勝手でどうにも感情移入できず、ラストの展開にもぽかんとせざるを得なかった。何か読み取れなかった太い伏線があったのだろうか。と、こういう疑問も霧の中。

アフタースクール

アフタースクール [Blu-ray]

~映画ならではの叙述トリック~
★★★★★

叙述トリックというものがある。
推理小説のトリック、手法の一つで、例えば一人称の記述で「僕は一目惚れした」と表現しておき、後に自分は女性だと開示するような内容。僕=男性という思い込みに加え、惚れた相手が女性ならばさらにだまされてしまうだろう。
叙述トリックの多くは映像では再現できない。ずっと画面に出ている主人公の性別を偽るなど映像では出来ないからだ。
※もちろん叙述トリックが肝である作品も数多く映像化されており、それぞれに一筋縄では行かない工夫で問題を乗り越えている。
今作を見終わった時、これは叙述トリックの小説を原作とした映画なのだろうかと確かめたが、映画オリジナルの作品であるようだ。

素晴らしい。

もう一度はじめから、ポイントポイントを見直してみたが、映像の叙述トリックとも言える鮮やかさで観客をだましている。大仕掛けではなく、細かな演出の積み重ねが説得力を生み出しているため、見苦しさがない。素直に見られて、素直に転がされる。これも映画の醍醐味だろう。

中学来の親友である堺雅人と大泉洋を主人公に、「学校の続き」としてある大人の世界を描く。
「アフタースクール」という題名。見終わった後にはこの言葉にも色々な意味を感じとることが出来るだろう。
あまりあれこれ書くと未鑑賞の方にいらぬ知識を吹き込んでしまうだろうから、ここまでに。

未見の方は、ぜひとも情報を集めず、まず見て欲しい作品。


アンノウン

アンノウン [Blu-ray]

~綺麗なサスペンス~
★★★☆☆

学会に出るためにフランスを訪問した米科学者とその妻。
トラブルに巻き込まれて病院で目が冷める。ようやく妻の元に帰り着いたと安堵するまもなく、自分ではない別人が、自分の立場として妻の夫となっている。
誰が間違い、誰が嘘をついているのか。自分の記憶は真実なのか、妄想なのか。
真実を求める主人公とそれにつきまとう謎の組織……。

幾つもの伏線。刻一刻と変わる状況。結末まで目が離せない良サスペンス。
最後にはきちんと納得できるのが見事。

グレイテスト・ゲーム

グレイテスト・ゲーム [DVD]

~クラシックゴルフの名勝負~
★★☆☆☆

ゴルフがまだ貴族のスポーツだった1913年の全米オープンにおける実話を元にした作品。

貴族のスポーツではあるが、スター選手は大衆の心をつかみ熱狂的な人気を博している。
イギリスとアメリカのゴルフ界=貴族社会が互いの威信をかけて競った大会で生まれたドラマを描く。
今も昔も、スポーツは大衆の希望やあこがれを集める大きな器である。
様々な状況が焦点を合わせた大舞台で無名のゴルファーが旋風を巻き起こす。

当時の風景が実際このようだったかは分からないが、牧歌的だが絵になりすぎない雑多な雰囲気は非常に魅力的。
型にはまらない個性的なゴルファー達とともに当時の一観衆になったように楽しむことができた。
CGも多用しているが、アクセント程度の主張しかせず行儀良く映画に溶け込んでいる。

ノンフィクションの常として微妙に盛り上がりきれない部分があり、今作では恋愛要素がそれにあたるのだろう。
一本の映画として恋愛要素も入れなくては均衡が取れないのだろうか。中途半端な恋のやりとりが挿入されているが、確かに華やぐものの見終わった後味としては雑味に区分されるのではないか。
主人公のキャディーがとても魅力的。