★★★★★
~夢の説得力~
映画館→ブルーレイ→テレビ放送と三回目の鑑賞。
繰り返し見たので、順番に感銘の度合いが下がってしまうのは当然だが、それだけでは収まらない変化を楽しむことが出来た。
威力のある映像、体が震えるほどの重低音。これらを十分に楽しむなら映画館に限る。
クライマックスの連鎖倒壊シーンなどは音と映像に身を任せて体を洗われるようなものだ。映画館で観ることが出来て本当に良かった。
CG技術の進展はどのような映像も幻視可能にした。だからこそイマジネーションと物語としての説得力が問われる時代だ。
本作は夢の世界という舞台設定のもとで、非現実的な風景を、現実さながらのクオリティで映像化。まるで見ている間は本物としか思えない「夢」そのものだ。
物語は複雑で少し見逃すと後がうまくつながらない。緻密に組み立てられているからこそ、一つ一つのパーツが見落としの許されない重要な部品となっている。そのような点を考慮してだろう。テレビ放送では何とも大胆な方法でフォローを行っていた。
まず、放送時間の中程で、それまでのあらすじを説明する時間を設けている。そしてさらに先のネタバレを、結構な濃度で行っていた。確かに突然示されるより、心の準備のある方が理解しやすいと思うが、その分驚きは減衰される
加えて、画面に登場した人物について、あらすじをふまえてスーパーで説明してくれる。『犯人を追う有能な刑事』『無実の罪で追われる小心な青年』といった具合の文章がキャラクターに重ねて表示されるのだ。
他局の番組終わりに合わせて、チャンネル誘導の一手なのだろう。
このような中休みでのあらすじ提示はだいたいどの作品放送時もしているようだが、インセプションではさらに上を行く追加要素があった。
なんと、夢の階層をいちいち表示してくれるのである。
インセプションは夢の中でさらに夢を見る、という階層構造を構築し、それを最後に倒壊させる。確かに複雑で、階層が頻繁に切り替わる。その切り替わりごとに『夢の第一階層』などとキャプションが表示されるのだ。
確かに理解の一助とはなるが、複雑とはいってもそれぞれの階層で舞台や映像の質感を大幅に変えるなど、十分に配慮されている。
なんだか自転車に補助輪を付けられた上に後ろを掴んで押されている気分。子供扱いされているみたいで居心地が悪い。
字幕の映画が若い世代には敬遠されているとも聞く。思っている以上に、映画を見ることになれていない人が多いのだろう。
このような周到な補助を用意されてしまうような作品だが、ぜひともテレビ放送以外で相対して鑑賞して欲しい。
廃ビルの爆破倒壊。波打ち際の砂の城。ドミノ崩し。時間をかけてこつこつと積み上げた楼閣を一気に崩す快感は、自分で積み上げてこそその度合いも高まるだろうと思う。
すべてが過ぎ去った後に残る砂金のようなエンディング。
きらきらと輝いて、まるで夢のようだ。