2014年6月20日金曜日

インセプション

インセプション [Blu-ray]

★★★★★
~夢の説得力~

映画館→ブルーレイ→テレビ放送と三回目の鑑賞。
繰り返し見たので、順番に感銘の度合いが下がってしまうのは当然だが、それだけでは収まらない変化を楽しむことが出来た。

威力のある映像、体が震えるほどの重低音。これらを十分に楽しむなら映画館に限る。
クライマックスの連鎖倒壊シーンなどは音と映像に身を任せて体を洗われるようなものだ。映画館で観ることが出来て本当に良かった。
CG技術の進展はどのような映像も幻視可能にした。だからこそイマジネーションと物語としての説得力が問われる時代だ。
本作は夢の世界という舞台設定のもとで、非現実的な風景を、現実さながらのクオリティで映像化。まるで見ている間は本物としか思えない「夢」そのものだ。

物語は複雑で少し見逃すと後がうまくつながらない。緻密に組み立てられているからこそ、一つ一つのパーツが見落としの許されない重要な部品となっている。そのような点を考慮してだろう。テレビ放送では何とも大胆な方法でフォローを行っていた。
まず、放送時間の中程で、それまでのあらすじを説明する時間を設けている。そしてさらに先のネタバレを、結構な濃度で行っていた。確かに突然示されるより、心の準備のある方が理解しやすいと思うが、その分驚きは減衰される
加えて、画面に登場した人物について、あらすじをふまえてスーパーで説明してくれる。『犯人を追う有能な刑事』『無実の罪で追われる小心な青年』といった具合の文章がキャラクターに重ねて表示されるのだ。

他局の番組終わりに合わせて、チャンネル誘導の一手なのだろう。
このような中休みでのあらすじ提示はだいたいどの作品放送時もしているようだが、インセプションではさらに上を行く追加要素があった。
なんと、夢の階層をいちいち表示してくれるのである。
インセプションは夢の中でさらに夢を見る、という階層構造を構築し、それを最後に倒壊させる。確かに複雑で、階層が頻繁に切り替わる。その切り替わりごとに『夢の第一階層』などとキャプションが表示されるのだ。
確かに理解の一助とはなるが、複雑とはいってもそれぞれの階層で舞台や映像の質感を大幅に変えるなど、十分に配慮されている。
なんだか自転車に補助輪を付けられた上に後ろを掴んで押されている気分。子供扱いされているみたいで居心地が悪い。
字幕の映画が若い世代には敬遠されているとも聞く。思っている以上に、映画を見ることになれていない人が多いのだろう。

このような周到な補助を用意されてしまうような作品だが、ぜひともテレビ放送以外で相対して鑑賞して欲しい。
廃ビルの爆破倒壊。波打ち際の砂の城。ドミノ崩し。時間をかけてこつこつと積み上げた楼閣を一気に崩す快感は、自分で積み上げてこそその度合いも高まるだろうと思う。

すべてが過ぎ去った後に残る砂金のようなエンディング。
きらきらと輝いて、まるで夢のようだ。

2014年6月14日土曜日

ドラゴンタトゥーの女



★★★★
~キャラクターの魅力~


 デビッド・リンチ監督作品。スウェーデンのベストセラー小説を原作にした現代風探偵映画。

 劇場で流れていた予告編が全く説明的でなく、リズムに乗せてカットが切り替わっていくだけというもの。セリフもないのに圧倒的に記憶に残る。
 全編に垂れ込める陰鬱な空気と屋外、屋内関係のない閉塞感。嫌が応にも監督の出世作「セブン」を思い起こさせる。
 ダンディーな記者、そして理解されがたい趣味と、暗い生い立ちを持つ少女が一つの事件解決に協力。それぞれのスタイルで真相に迫りつつ、二人の距離が近づいていく。
 実際、事件の内容や仕組みについてより、登場人物に楽しみを見いだす映画だと思う。特に少女については、当初嫌悪さえ感じた印象が、一途さや筋を通すスタイルに触れてどんどんと魅力的に感じられ、最後には男をわき目に少女の動向に気を引かれるようになる。

 原作小説は三部まで公開された後、原作者死去によって続巻は不可能となっているが、草稿が残っているという情報もあり何らかの形で継続するかもしれない。
 だがその前に、まずは三部までをきちんと映画化して欲しいが、どうなることだろうか。テレビ映画版はDVD化されてそこそこ評判も良いようなので、物語を早く映像で見たい場合はそちらに流れるのも一つの手だろう。

2014年6月11日水曜日

ガンダムUC

 

★★★★
~宇宙世紀の総決算~


 オリジナルである「機動戦士ガンダム」から始まったガンダムシリーズは大きく二つに分かれる。
 宇宙世紀(U.C)の物語か否か。
 宇宙世紀は人類がスペースコロニーを作り、生活を始めた時に開始された。
 いくつものガンダムの物語が制作されたが、宇宙世紀の範囲は、設定や各シリーズのつながりに比較的つじつまがあっている(つじつまを合わせようと努力している)。
 オリジナルガンダムはもちろん宇宙世紀だ。
 宇宙世紀以外の時代を舞台にしたガンダムは各シリーズが独立し、関連はないものと考えた方がよい。

 ガンダムUCはガンダムユニコーンと読まれるが、宇宙世紀(U.C)とのダブルミーニングであろう。なぜなら物語自体が宇宙世紀元年に始まり、また、宇宙世紀のガンダムシリーズを総括する内容となっているからである。
 ※実際には「閃光のハサウェイ」「ガンダムF91」など本作より後に続く宇宙世紀ものもあるが、これが総括であろう。
 特にオリジナルの主人公であるアムロとそのライバルであるシャアの物語に決着をつけようとしており、自分を含め年輩のファンには見逃せないものとなっている。

 物語の主人公は工業系の高校に通うバナージ。時代は「逆襲のシャア」の三年後。従って見知ったキャラクターが出てくる出てくる。特にヒロイン二人の素性たるや、もうそれだけでつかみは十分でお釣りがくるくらいの代物。
 滑り出し順調な物語の中心となるのが「ラプラスの箱」と呼ばれる謎の存在。人類社会を支配する連邦の根幹を揺るがす力を持つとされ、複数の勢力が我が物にしようと策動する。その鍵となるのがユニコーンガンダムであり、唯一の操縦者バナージという作り立て。ユニコーンガンダムの指し示す地点(宇宙あり、地上あり)をたどりながら、宇宙世紀のたどった道を省み、未来へ想い馳せていく……。

 今作は最近珍しい、メディアでの販売を主計路とした作品となっており、一話1時間弱(七話のみ90分)を7巻に渡ってリリース。その期間、足かけ5年! 半年以上の間隔をあけての続巻はなかなか厳しい点もあったが、妥協のない映像クオリティを守ってくれる方が遙かに嬉しい。
 実際、設定のみでプラモデルでしか存在しなかった試作モビルスーツの数々が最新最高クオリティのアニメーションで蘇るのを目の当たりにして、これが見たかったのだ! と快哉を叫んでしまう。
 各話に見所が十分あり、満足度が高い上に次巻への引きも忘れない。まったくガンプラ世代には強力なコンテンツだ。難を言うなら登場MSがどんどんマニアックになっていき、自分ではついていけない領域に入っていってしまった。そのときの疎外感、もの悲しい雰囲気はガンダムをあまり知らない人ほど感じるものだろうから、マニアックの塩梅には細心の注意を払うべきだろう。

 以上のように各話各話で見ると、見所を押さえて次に繋げる見事な継投策だが、一度に通して観るとまた違う印象となる。
 すごくしょうもない話に感じられる。
 バラで観ていたときはそもそも断絶されているので気づきようがないのだが、感情のつながりというか各登場人物があまりにその場しのぎ、気分次第で動いている。全体を通して一貫しているのはバナージの恋心だけではないか。
 この違和感は後半になるほどひどくなり、大人の都合の代弁者であろう軍人までもがファンタジーに飲み込まれて、まるで新興宗教の洗脳にかけられていくようだ。
 極めつけのしょうもなさは、これでもないくらい風呂敷を広げまくった「ラプラスの箱」の正体。
 色々な制約の中で、がんばった「しかけ」だと思う。なるほどという説得力もある。しかしまずいのは余りに期待を煽った事と、いいわけがましい説明の下りだ。それはもう、延々と、辟易するほどに長ったらしい。学生がレポートの枚数を稼ぐために同じ事を言い換えては繰り返す感じ。粗を取り繕うために話術で翻弄しようとのべつ口角泡をとばす。 実際語っているのは大したことではなく、聞いている方はさめていく一方。
 ほかのシリーズ設定は「知ってる」事前提が多いのに、なぜニュータイプについてだけ一から説明しようとするのか。そのあげく最後の最後で尺を巻くような展開。これだけ時間を掛けて余韻が薄いラストでは何か救われない。
 ほかにもアムロ、シャア、ララアの扱いなど、繊細なところに切り込んでいるため反感が大きいだろうが、これはファン各人の心に期待する物が違うのだから仕方のないことだ。ずいぶん長い間触れられることもなかった部分に光を当ててくれたことがとても嬉しい。

 ところでラストの雰囲気を含めてなにか劇場作品「ガンダムF91」に似ている。違うのはF91が食い足りない印象で、これがテレビシリーズだったらなあと思ったのに対して、ガンダムUCは別段そうは思えなかったこと。
 思うに、F91は描かれている部分の外側にも世界があると感じる。尺の関係だろうが、結構ポコポコと時間が飛ぶ。そういった余白が想像の余地となっていたのだ。
 ガンダムUCは語り口こそ似ている物の、外側への余白がない。話の規模は大きいのに物語は狭苦しい印象。このエピソード自体が公にならない歴史秘話なのかというと、全世界にメッセージを発したりとそういう位置づけでもない。行っている規模と、受ける印象のギャップが居心地悪く、したがってお腹いっぱい。これ以上の続編を観たいとは思えないのだと思う。

 第一話のエンディングテーマ、「流星のナミダ」が特に気に入っている。本作のシナリオを踏襲しているのかは不明だが、歌詞や曲調が立場の異なる二人の絆を浮かび上がらせる。先の分からぬ第一話で、今後の展開を夢想する良いエネルギーになった。

 ともかく長い期間を掛けて、きちんとしたクオリティで作品を完結させたスタッフのみなさんは本当にすごいなと思う。
敬意と、お疲れさまでしたの言葉を。