★★★★☆
~宇宙世紀の総決算~
オリジナルである「機動戦士ガンダム」から始まったガンダムシリーズは大きく二つに分かれる。
宇宙世紀(U.C)の物語か否か。
宇宙世紀は人類がスペースコロニーを作り、生活を始めた時に開始された。
いくつものガンダムの物語が制作されたが、宇宙世紀の範囲は、設定や各シリーズのつながりに比較的つじつまがあっている(つじつまを合わせようと努力している)。
オリジナルガンダムはもちろん宇宙世紀だ。
宇宙世紀以外の時代を舞台にしたガンダムは各シリーズが独立し、関連はないものと考えた方がよい。
ガンダムUCはガンダムユニコーンと読まれるが、宇宙世紀(U.C)とのダブルミーニングであろう。なぜなら
物語自体が宇宙世紀元年に始まり、また、宇宙世紀のガンダムシリーズを総括する内容となっているからである。
※実際には「閃光のハサウェイ」「ガンダムF91」など本作より後に続く宇宙世紀ものもあるが、これが総括であろう。
特にオリジナルの主人公である
アムロとそのライバルであるシャアの物語に決着をつけようとしており、自分を含め年輩のファンには見逃せないものとなっている。
物語の主人公は工業系の高校に通うバナージ。時代は「逆襲のシャア」の三年後。従って見知ったキャラクターが出てくる出てくる。
特にヒロイン二人の素性たるや、もうそれだけでつかみは十分でお釣りがくるくらいの代物。
滑り出し順調な物語の中心となるのが「ラプラスの箱」と呼ばれる謎の存在。人類社会を支配する連邦の根幹を揺るがす力を持つとされ、複数の勢力が我が物にしようと策動する。その鍵となるのがユニコーンガンダムであり、唯一の操縦者バナージという作り立て。ユニコーンガンダムの指し示す地点(宇宙あり、地上あり)をたどりながら、宇宙世紀のたどった道を省み、未来へ想い馳せていく……。
今作は最近珍しい、メディアでの販売を主計路とした作品となっており、一話1時間弱(七話のみ90分)を7巻に渡ってリリース。その期間、足かけ5年! 半年以上の間隔をあけての続巻はなかなか厳しい点もあったが、
妥協のない映像クオリティを守ってくれる方が遙かに嬉しい。
実際、設定のみでプラモデルでしか存在しなかった
試作モビルスーツの数々が最新最高クオリティのアニメーションで蘇るのを目の当たりにして、これが見たかったのだ! と快哉を叫んでしまう。
各話に見所が十分あり、満足度が高い上に次巻への引きも忘れない。まったく
ガンプラ世代には強力なコンテンツだ。難を言うなら登場MSがどんどんマニアックになっていき、自分ではついていけない領域に入っていってしまった。そのときの疎外感、もの悲しい雰囲気はガンダムをあまり知らない人ほど感じるものだろうから、マニアックの塩梅には細心の注意を払うべきだろう。
以上のように各話各話で見ると、見所を押さえて次に繋げる見事な継投策だが、
一度に通して観るとまた違う印象となる。
すごくしょうもない話に感じられる。
バラで観ていたときはそもそも断絶されているので気づきようがないのだが、感情のつながりというか各登場人物があまりにその場しのぎ、気分次第で動いている。全体を通して一貫しているのはバナージの恋心だけではないか。
この違和感は後半になるほどひどくなり、大人の都合の代弁者であろう軍人までもがファンタジーに飲み込まれて、まるで新興宗教の洗脳にかけられていくようだ。
極めつけのしょうもなさは、これでもないくらい風呂敷を広げまくった「ラプラスの箱」の正体。
色々な制約の中で、がんばった「しかけ」だと思う。なるほどという説得力もある。しかしまずいのは余りに期待を煽った事と、
いいわけがましい説明の下りだ。それはもう、延々と、辟易するほどに長ったらしい。
学生がレポートの枚数を稼ぐために同じ事を言い換えては繰り返す感じ。粗を取り繕うために話術で翻弄しようとのべつ口角泡をとばす。 実際語っているのは大したことではなく、聞いている方はさめていく一方。
ほかのシリーズ設定は「知ってる」事前提が多いのに、なぜニュータイプについてだけ一から説明しようとするのか。そのあげく最後の最後で尺を巻くような展開。これだけ時間を掛けて余韻が薄いラストでは何か救われない。
ほかにもアムロ、シャア、ララアの扱いなど、繊細なところに切り込んでいるため反感が大きいだろうが、これはファン各人の心に期待する物が違うのだから仕方のないことだ。ずいぶん
長い間触れられることもなかった部分に光を当ててくれたことがとても嬉しい。
ところでラストの雰囲気を含めてなにか劇場作品「ガンダムF91」に似ている。違うのはF91が食い足りない印象で、これがテレビシリーズだったらなあと思ったのに対して、ガンダムUCは別段そうは思えなかったこと。
思うに、F91は描かれている部分の外側にも世界があると感じる。尺の関係だろうが、結構ポコポコと時間が飛ぶ。そういった余白が想像の余地となっていたのだ。
ガンダムUCは語り口こそ似ている物の、
外側への余白がない。話の規模は大きいのに物語は狭苦しい印象。このエピソード自体が公にならない歴史秘話なのかというと、全世界にメッセージを発したりとそういう位置づけでもない。行っている規模と、受ける印象のギャップが居心地悪く、したがってお腹いっぱい。これ以上の続編を観たいとは思えないのだと思う。
第一話のエンディングテーマ、「流星のナミダ」が特に気に入っている。本作のシナリオを踏襲しているのかは不明だが、歌詞や曲調が立場の異なる二人の絆を浮かび上がらせる。先の分からぬ第一話で、今後の展開を夢想する良いエネルギーになった。
ともかく長い期間を掛けて、きちんとしたクオリティで作品を完結させたスタッフのみなさんは本当にすごいなと思う。
敬意と、お疲れさまでしたの言葉を。