2014年12月19日金曜日

戦略大作戦

戦略大作戦(Blu-ray Disc)

★★★★
~バランスの取れた娯楽戦争映画~

テレビで放映されていたのをたまたま視聴したが、おいおい何だよこの完成度! この洒脱さ!
二次大戦。欧州に上陸してドイツと激戦を繰り広げるアメリカ陸軍。理不尽な事情から降格されているケリー二等兵は、ドイツ軍が金塊を大量に隠し持っているという情報を得て、それをぶんどるための手はずを整え始める。
主演はクリント・イーストウッド。映画監督は     ブライアン・G・ハットン。1970年公開。1968年に公開されてヒットした「荒鷲の要塞」のコンビ再び。
荒鷲の要塞も冒頭の空中挺進やロープウェイ上の戦いなど、展開のおもしろさ、舞台のおもしろさに圧倒されるが、今作も冒頭からオープニング曲の意外性に持って行かれる。その後もクライマックスばりのシーンと展開の連続でこのテンションのまま最後まで持つのかと観ている方が不安になるほど。そんな心配はよそに緩急のついたゆったりしたシーンも塩梅良く挟み込まれ、ラストまで予想のつかない展開に翻弄される。
登場人物も少なくないが、エピソードに合わせてうまくキャラクター性を見せてくれるので混乱することなくそれぞれの活躍を楽しむことができる。

シリアスなのに御伽話のようでもあり、硬軟入り交じった心地よさ。
遙か遠方まで見渡せる戦場の爆煙と閃光のスケール感。
かっこいいだけでなく泥にまみれた「リアル」な戦車戦。

長い映画史の中にまだまだ知らない名作がたくさん隠れている。
自分の知る映画の知識なんて本当にわずかなものだと再認識。一生退屈することのない趣味を得たのだなあ。

それにしても原題「Kelly's Heroes」がなぜ「戦略大作戦」に……。
「ケリーとその仲間達」などと直訳してもおもしろみがないのは確かだが、戦略と大作戦の意味がかぶって馬鹿っぽい雰囲気は頂けない。この題名のせいでいまいちマイナーな存在となっている面はあるだろう。げに映画の邦題の重要な事よ……。
「金塊大作戦」「黄金の小隊」とかどうだろ。

マージン・コール

マージン・コール [DVD]

★★★☆☆
~リーマン・ショックの前日嘆~

2007年の世界的な金融危機、リーマン・ショックを題材とし、その引き金を引いた投資銀行の決断を描く。
日本では映画館で公開されておらず、セルディスクのみのいわゆるビデオスルー作品。
マージン・コールとは破綻した資産状況に対する資金追加要請のこと。

登場人物が少なく、舞台もほぼ一箇所。低予算だろうと思われるが、映像的に陳腐な印象は皆無。全編が「雰囲気」をたたえている。
実際、あらすじを書くと「いち早く金融危機の到来を知った投資銀行役員が深夜に行った会議と決断」だけとなる。この単純さ、要素の少なさが他の金融を題材とした映画と一線を画している。
会議に参加する役員達は一般人とは異なった金銭感覚を持ち、それぞれの世界を捉える視点を持っている。見ている者にとってみればなにやら異世界を覗いている気分。人となり、発される言葉をたどっていくだけで興味深い。
一つの事件の一つの決断に題材を絞り描いているのは「そういった世界で生きている人の心の持ちよう」である。

ハゲタカだの金の亡者だの言われる人間達が、それぞれどのような理屈、要望からそういった行為を正当化し、行っているのか

これが描かれている。
映画にするにはかなり難易度が高い題材、内容だったと思われるが、これをきちんと面白く描いた手腕は素晴らしい。他の金融映画が幼稚に感じられるほど、シビアで現実的。そしてある意味、救いがない。

スター・トレック イントゥ・ダークネス

スター・トレック イントゥ・ダークネス [Blu-ray]

★★★☆☆
~優等生だが記憶に残らない~

2009年にスタートレックを劇場版としてリブートしたJ・J・エイブラムスが続いて登板した二作目。2013年公開。
この監督の特徴は、引きやフックを自在に配し、どのような内容もそつなくまとめる汎用性の高さにあると思う。誰からも文句の出ない(出にくい)出来の良い秀作をコンスタントに生む能力。ただ、特定の視聴者に強烈に刺さる一本ではないのかも知れない。

今作もオープニングからがっちりと派手な映像で観客を世界に巻き込んでいく。多少の違和感があっても次々と起こる事件が最後までドミノ倒しのようにつながり、飽きることなく見終えることが出来る。まさに値段分の映像体験が約束されており、文句を言うのがはばかられるゴージャスさ。このようなクオリティで作品を完成することが出来るのは素晴らしいと思う。

だが、それを承知で言わせてもらうと、今作は面白くない
第一作と合わせて言うなら、今作も、となる。
見終わった後、一定の満足感の背後に積み重なった違和感が山のように残り、後味に首をかしげてしまうのである。

登場人物の浅はかさ。(主人公の身勝手さに腹が立ち、敵役の動機にも説得力が無い)
テクノロジーの違和感。(それがあれば物語が成り立たないという機器が登場するのに、ご都合主義のみで回避)
大きいのか小さいのかよく分からない事件の規模感。(宇宙規模のはずなのにすごくこぢんまりとした事件の印象)

これらが大河シリーズ「スタートレック」の味だと言うのなら、それはもうそこまでの話。シリーズを追っていない自分には理解できない範囲だ。
そうでないのなら、脚本の問題を映像テクニックのみでカバーしたつぎはぎの映画だろう。

至極主観的な意見だが、自分はエイブラムス監督の作品が好みではない。
どの作品も楽しめる優等生なのだが、思い入れを感じないのだ。
暑苦しい、偏った執着心が生むいびつな魅力。
それが決定的に欠けている気がする。

2014年12月15日月曜日

コンテイジョン

コンテイジョン [Blu-ray]

~現実的なパンデミック~
★★★★

これを書いているのが2014年10月。現在世界は「エボラ」の流行に身震いしている。
アフリカで発生した病が世界を結ぶ航空機のネットワークによってあっという間に感染拡大。
病気に対する無知が引き起こす理不尽な事件。そういった実際の風景と恐ろしいほど重なるのが、この映画。

発症後脳を冒し、全身痙攣の後、死に至らしめる伝染病。発覚と同時に国際機関が発生源の特定と収束作業を開始するが、瞬く間に世界中へ感染拡大していく。その中で生まれる美談になりきれない「ありそうな」シチュエーションとエピソード。その一つ一つが実に生々しい。
失ったものを取り戻すのではなく、いかに被害を食い止めるか。負けと分かった撤退戦の最前線で戦う人々の姿を描く群像劇。

命をかけて病魔に立ち向かう人々の動機は職業倫理や自己犠牲が表立つ。しかし極限状態においてはそれぞれが守るべき人への愛情に帰着し、利己的な面が強くなっていく。そういった人間らしい狭い愛情は同時に感染を広げ抑制を困難にする原因でもあり、愛という感情の理不尽さが強く心に残った。

物語は最初と最後で綺麗にひとつながりとなり、気持ちよく(?)視聴を終えることが出来た。

2014年12月14日日曜日

パンズ・ラビリンス

パンズ・ラビリンス [Blu-ray]

~ロマンティックなグロテスク~
★★★☆☆

「パシフィックリム」で名を馳せたギレルモ・デル・トロ監督が描くダークファンタジー。
このダークファンタジーというくくり。テレビの解説欄に書いており、一体どういう区分だろうと不思議に感じたが見てみると確かにこれはダークファンタジーとしか言いようがない。

まさに暗鬱なおとぎ話

第一次世界大戦後の混沌としたスペイン内戦。主人公オフェリアは母が独裁政権側の将校と再婚したことで最前線での生活を余儀なくされた。
多感な時期のあまりに過酷な環境の中、彼女はおとぎ話に心の平穏を求める。

少女の空想癖という点では「赤毛のアン」と似通っているとも言える。だが、アンのそれがふわふわと浮かれた美しいものであるのに反して、オフェリアの空想は土着の民間信仰が潜在意識下で目を覚ましたような、暗く醜くい陰鬱なものだった。
心の逃げ場所である空想までもがそのようなふさぎ込んだ世界だということがとても切ない。しかし、空想は心を投影するものでもあるのだから、その暗さは確かに彼女の世界としてとても説得力がある。
映像は空想を現実的に描いており、両者が差異なく感じられる事はこの物語においてとても重要だ。どちらが本当なのか、見ている者も分からなくなる。言わずもがな渦中のオフェリアにとってはまさに現実なのだろう。
汚らしく嫌悪したくなる空想なのに、懐かしく、美しくさえ見えてくる奇妙な感触。
最後にはどうか空想が現実であって欲しいと祈らずにいられない。せめて彼女の魂は救われたのだと思いたい。

同様に少女期の空想を映像化した作品としてピーター・ジャクソン監督の「乙女の祈り」を連想する。こちらも空想を高いクオリティで可視化し、現実との境界を曖昧にした作品。ピーター・ジャクソン監督はマニアックな作品ばかり作っていたが、後に指輪物語三部作を作り上げる。ギレルモ・デル・トロ監督もこの後「パシフィックリム」でマニアックさはそのままに名を馳せた。両監督について共通に言えることは、グロテスクとロマンティシズム。そして映像の完成度の高さ
マニアックなこだわりが大きな題材と結びついた時、巨大な妄想の塊が世に現れるのだ。

 

終わりで始まりの四日間

終わりで始まりの4日間 [DVD]

~見る動機が乏しい秀作~
★★★☆☆

親との確執から故郷を離れた主人公が母親の葬儀を期に自分の過去と向かい合い、「終わらせて」、「始める」四日間を描いている。

歳月を経た旧友達はそれぞれの事情を持ち、各人の生活を送っている。時の流れと比例して主人公との差異も大きい。しかしそういった友人を互いに否定もせず、完全に認めるでもなく、友人の距離で交流していく。

病院の待合室で出会ったヒロイン。お互いに求め合いながら、一歩を踏み出せない主人公。
派手なシーンが多いわけではないが、淡々と巡る故郷の景色は主人公の感じているだろうそのままに、どこかやさしい。

ザック・ブラフ監督はそのまま主人公も演じており、抑制の効いた雰囲気のある演技を見せている。ヒロインのナタリー・ポートマンもかわいい
主人公が静止し、周囲の人々がめまぐるしく動く特殊なカットをピンポイントで効果的に配し、映画の始まりと締めを整えている。

この映画を見る、という動機に欠けるので視聴機会は中々ないかも知れないが、邦画のわびさびに似た空気を持つ秀作。

ザ・フォッグ

ザ・フォッグ[ノーカット版] コレクターズ・エディション [DVD]

~復讐ではなく災害~
★★☆☆☆

B級映画の帝王、ジョン・カーペンターのオリジナルをリメイクした作品。
元が1980年。リメイクは2005年。
オリジナルも見たはずだが、とらえどころが無くふわふわとした印象だけが残っている。

海辺の街を覆うように海から押し寄せる霧。
その中でうごめく悪霊。何のために彼らは街を襲うのか。

オリジナルをどの程度踏襲しているのかは不知だが、割としっかりした筋と落ちがあったのでかなり改変しているのかも知れない。恐怖の舞台は夜がメイン。街灯やヘッドライトや街の灯り、様々な光源を生かした霧の動きや表現は美しく、霧のボリュームを感じる事ができる。
物語としてはこぢんまりながらもまとまっているが、まとまっているためその外への想像が必要なく、あまり怖くない。わっと驚かせるびっくり系のホラームービー。ヒロインの行動がいちいち身勝手でどうにも感情移入できず、ラストの展開にもぽかんとせざるを得なかった。何か読み取れなかった太い伏線があったのだろうか。と、こういう疑問も霧の中。

アフタースクール

アフタースクール [Blu-ray]

~映画ならではの叙述トリック~
★★★★★

叙述トリックというものがある。
推理小説のトリック、手法の一つで、例えば一人称の記述で「僕は一目惚れした」と表現しておき、後に自分は女性だと開示するような内容。僕=男性という思い込みに加え、惚れた相手が女性ならばさらにだまされてしまうだろう。
叙述トリックの多くは映像では再現できない。ずっと画面に出ている主人公の性別を偽るなど映像では出来ないからだ。
※もちろん叙述トリックが肝である作品も数多く映像化されており、それぞれに一筋縄では行かない工夫で問題を乗り越えている。
今作を見終わった時、これは叙述トリックの小説を原作とした映画なのだろうかと確かめたが、映画オリジナルの作品であるようだ。

素晴らしい。

もう一度はじめから、ポイントポイントを見直してみたが、映像の叙述トリックとも言える鮮やかさで観客をだましている。大仕掛けではなく、細かな演出の積み重ねが説得力を生み出しているため、見苦しさがない。素直に見られて、素直に転がされる。これも映画の醍醐味だろう。

中学来の親友である堺雅人と大泉洋を主人公に、「学校の続き」としてある大人の世界を描く。
「アフタースクール」という題名。見終わった後にはこの言葉にも色々な意味を感じとることが出来るだろう。
あまりあれこれ書くと未鑑賞の方にいらぬ知識を吹き込んでしまうだろうから、ここまでに。

未見の方は、ぜひとも情報を集めず、まず見て欲しい作品。


アンノウン

アンノウン [Blu-ray]

~綺麗なサスペンス~
★★★☆☆

学会に出るためにフランスを訪問した米科学者とその妻。
トラブルに巻き込まれて病院で目が冷める。ようやく妻の元に帰り着いたと安堵するまもなく、自分ではない別人が、自分の立場として妻の夫となっている。
誰が間違い、誰が嘘をついているのか。自分の記憶は真実なのか、妄想なのか。
真実を求める主人公とそれにつきまとう謎の組織……。

幾つもの伏線。刻一刻と変わる状況。結末まで目が離せない良サスペンス。
最後にはきちんと納得できるのが見事。

グレイテスト・ゲーム

グレイテスト・ゲーム [DVD]

~クラシックゴルフの名勝負~
★★☆☆☆

ゴルフがまだ貴族のスポーツだった1913年の全米オープンにおける実話を元にした作品。

貴族のスポーツではあるが、スター選手は大衆の心をつかみ熱狂的な人気を博している。
イギリスとアメリカのゴルフ界=貴族社会が互いの威信をかけて競った大会で生まれたドラマを描く。
今も昔も、スポーツは大衆の希望やあこがれを集める大きな器である。
様々な状況が焦点を合わせた大舞台で無名のゴルファーが旋風を巻き起こす。

当時の風景が実際このようだったかは分からないが、牧歌的だが絵になりすぎない雑多な雰囲気は非常に魅力的。
型にはまらない個性的なゴルファー達とともに当時の一観衆になったように楽しむことができた。
CGも多用しているが、アクセント程度の主張しかせず行儀良く映画に溶け込んでいる。

ノンフィクションの常として微妙に盛り上がりきれない部分があり、今作では恋愛要素がそれにあたるのだろう。
一本の映画として恋愛要素も入れなくては均衡が取れないのだろうか。中途半端な恋のやりとりが挿入されているが、確かに華やぐものの見終わった後味としては雑味に区分されるのではないか。
主人公のキャディーがとても魅力的。

2014年11月18日火曜日

エラゴン

エラゴン 遺志を継ぐ者 [Blu-ray]

~きちんと描かれた序章~
★★☆☆☆

邪悪な帝国に支配された王国。支配の原動力は王に繰られるドラゴン。
対抗しうるドラゴンライダーは全て王によって駆逐された中、最後のドラゴンとドラゴンライダーが生まれる……。

こうした前置きで開始される物語の舞台は中世ヨーロッパに似た世界。そこに魔法とドラゴンが加わった王道のファンタジー
雄大な世界設定のもと、登場人物の心情を丁寧に描いていくので、「良くある」という印象がつきまとってもきちんと感情移入できて期待感が高まっていく。
しかしこのペースでどこまで描けるのだろうと心配になってくる。結局、強敵との決戦はあるものの、大きな物語のはじまり部分を描くだけで終わってしまった。ちりばめた伏線も当然回収されることはない。

続きが気になる。続編はないものか。
と、情報を集めて落胆。シリーズ化を前提に作られたものの、興行成績がふるわず続編に関する動きは全くないらしい。そりゃないよ。
原作小説はこの後もきちんと描かれ、日本語訳も出版されている様子。映画続編は望めそうにないので小説で鬱憤を晴らすのがよいかも知れない。

プラトーン

プラトーン [Blu-ray]

~驚異のバランス~
★★★★

オリバーストーン監督。
ベトナム戦争に理想と正義感から参加した新米兵が、死線を越えて戦場を去るまでの物語。
大学を中退してまで参加した裕福な家庭の青年が、一兵卒として参加せざるを得ない貧困層の仲間とベトナムの熱帯雨林で戦いながら、残酷な現実を見据えていく。
英雄的な活躍をするといった内容ではなく、力のない新兵がとことん地獄な戦場を目撃し、その狂気に飲み込まれていくといった内容。
戦う二つの勢力の正当性などに一切触れず、ただ設定され展開される状況の中で戦う兵隊の姿は非常にリアル。
作戦や援護、連携もあるのだろうが、結局は混乱の中で各個が獣のように引き金を引く。

他国の人からすれば、「えげつないなあ」で済むが、これを自国の映画としてアカデミー賞まで与える米国は、一体どのような国なのだろう。反戦行動の一環なのだろうか。
ただ、映画としては決して戦争を非難するだけの内容ではない。
このような状況の中で戦った同胞が居るのだと伝えるのみ。
そこには賞賛も、軽蔑もない。

してみるとこのようなバランス感覚の中で、面白く、美しく、ドラマチックな作品を作り上げたことはすさまじいと思うし、ああ確かに受賞の価値がある。

2014年6月20日金曜日

インセプション

インセプション [Blu-ray]

★★★★★
~夢の説得力~

映画館→ブルーレイ→テレビ放送と三回目の鑑賞。
繰り返し見たので、順番に感銘の度合いが下がってしまうのは当然だが、それだけでは収まらない変化を楽しむことが出来た。

威力のある映像、体が震えるほどの重低音。これらを十分に楽しむなら映画館に限る。
クライマックスの連鎖倒壊シーンなどは音と映像に身を任せて体を洗われるようなものだ。映画館で観ることが出来て本当に良かった。
CG技術の進展はどのような映像も幻視可能にした。だからこそイマジネーションと物語としての説得力が問われる時代だ。
本作は夢の世界という舞台設定のもとで、非現実的な風景を、現実さながらのクオリティで映像化。まるで見ている間は本物としか思えない「夢」そのものだ。

物語は複雑で少し見逃すと後がうまくつながらない。緻密に組み立てられているからこそ、一つ一つのパーツが見落としの許されない重要な部品となっている。そのような点を考慮してだろう。テレビ放送では何とも大胆な方法でフォローを行っていた。
まず、放送時間の中程で、それまでのあらすじを説明する時間を設けている。そしてさらに先のネタバレを、結構な濃度で行っていた。確かに突然示されるより、心の準備のある方が理解しやすいと思うが、その分驚きは減衰される
加えて、画面に登場した人物について、あらすじをふまえてスーパーで説明してくれる。『犯人を追う有能な刑事』『無実の罪で追われる小心な青年』といった具合の文章がキャラクターに重ねて表示されるのだ。

他局の番組終わりに合わせて、チャンネル誘導の一手なのだろう。
このような中休みでのあらすじ提示はだいたいどの作品放送時もしているようだが、インセプションではさらに上を行く追加要素があった。
なんと、夢の階層をいちいち表示してくれるのである。
インセプションは夢の中でさらに夢を見る、という階層構造を構築し、それを最後に倒壊させる。確かに複雑で、階層が頻繁に切り替わる。その切り替わりごとに『夢の第一階層』などとキャプションが表示されるのだ。
確かに理解の一助とはなるが、複雑とはいってもそれぞれの階層で舞台や映像の質感を大幅に変えるなど、十分に配慮されている。
なんだか自転車に補助輪を付けられた上に後ろを掴んで押されている気分。子供扱いされているみたいで居心地が悪い。
字幕の映画が若い世代には敬遠されているとも聞く。思っている以上に、映画を見ることになれていない人が多いのだろう。

このような周到な補助を用意されてしまうような作品だが、ぜひともテレビ放送以外で相対して鑑賞して欲しい。
廃ビルの爆破倒壊。波打ち際の砂の城。ドミノ崩し。時間をかけてこつこつと積み上げた楼閣を一気に崩す快感は、自分で積み上げてこそその度合いも高まるだろうと思う。

すべてが過ぎ去った後に残る砂金のようなエンディング。
きらきらと輝いて、まるで夢のようだ。

2014年6月14日土曜日

ドラゴンタトゥーの女



★★★★
~キャラクターの魅力~


 デビッド・リンチ監督作品。スウェーデンのベストセラー小説を原作にした現代風探偵映画。

 劇場で流れていた予告編が全く説明的でなく、リズムに乗せてカットが切り替わっていくだけというもの。セリフもないのに圧倒的に記憶に残る。
 全編に垂れ込める陰鬱な空気と屋外、屋内関係のない閉塞感。嫌が応にも監督の出世作「セブン」を思い起こさせる。
 ダンディーな記者、そして理解されがたい趣味と、暗い生い立ちを持つ少女が一つの事件解決に協力。それぞれのスタイルで真相に迫りつつ、二人の距離が近づいていく。
 実際、事件の内容や仕組みについてより、登場人物に楽しみを見いだす映画だと思う。特に少女については、当初嫌悪さえ感じた印象が、一途さや筋を通すスタイルに触れてどんどんと魅力的に感じられ、最後には男をわき目に少女の動向に気を引かれるようになる。

 原作小説は三部まで公開された後、原作者死去によって続巻は不可能となっているが、草稿が残っているという情報もあり何らかの形で継続するかもしれない。
 だがその前に、まずは三部までをきちんと映画化して欲しいが、どうなることだろうか。テレビ映画版はDVD化されてそこそこ評判も良いようなので、物語を早く映像で見たい場合はそちらに流れるのも一つの手だろう。

2014年6月11日水曜日

ガンダムUC

 

★★★★
~宇宙世紀の総決算~


 オリジナルである「機動戦士ガンダム」から始まったガンダムシリーズは大きく二つに分かれる。
 宇宙世紀(U.C)の物語か否か。
 宇宙世紀は人類がスペースコロニーを作り、生活を始めた時に開始された。
 いくつものガンダムの物語が制作されたが、宇宙世紀の範囲は、設定や各シリーズのつながりに比較的つじつまがあっている(つじつまを合わせようと努力している)。
 オリジナルガンダムはもちろん宇宙世紀だ。
 宇宙世紀以外の時代を舞台にしたガンダムは各シリーズが独立し、関連はないものと考えた方がよい。

 ガンダムUCはガンダムユニコーンと読まれるが、宇宙世紀(U.C)とのダブルミーニングであろう。なぜなら物語自体が宇宙世紀元年に始まり、また、宇宙世紀のガンダムシリーズを総括する内容となっているからである。
 ※実際には「閃光のハサウェイ」「ガンダムF91」など本作より後に続く宇宙世紀ものもあるが、これが総括であろう。
 特にオリジナルの主人公であるアムロとそのライバルであるシャアの物語に決着をつけようとしており、自分を含め年輩のファンには見逃せないものとなっている。

 物語の主人公は工業系の高校に通うバナージ。時代は「逆襲のシャア」の三年後。従って見知ったキャラクターが出てくる出てくる。特にヒロイン二人の素性たるや、もうそれだけでつかみは十分でお釣りがくるくらいの代物。
 滑り出し順調な物語の中心となるのが「ラプラスの箱」と呼ばれる謎の存在。人類社会を支配する連邦の根幹を揺るがす力を持つとされ、複数の勢力が我が物にしようと策動する。その鍵となるのがユニコーンガンダムであり、唯一の操縦者バナージという作り立て。ユニコーンガンダムの指し示す地点(宇宙あり、地上あり)をたどりながら、宇宙世紀のたどった道を省み、未来へ想い馳せていく……。

 今作は最近珍しい、メディアでの販売を主計路とした作品となっており、一話1時間弱(七話のみ90分)を7巻に渡ってリリース。その期間、足かけ5年! 半年以上の間隔をあけての続巻はなかなか厳しい点もあったが、妥協のない映像クオリティを守ってくれる方が遙かに嬉しい。
 実際、設定のみでプラモデルでしか存在しなかった試作モビルスーツの数々が最新最高クオリティのアニメーションで蘇るのを目の当たりにして、これが見たかったのだ! と快哉を叫んでしまう。
 各話に見所が十分あり、満足度が高い上に次巻への引きも忘れない。まったくガンプラ世代には強力なコンテンツだ。難を言うなら登場MSがどんどんマニアックになっていき、自分ではついていけない領域に入っていってしまった。そのときの疎外感、もの悲しい雰囲気はガンダムをあまり知らない人ほど感じるものだろうから、マニアックの塩梅には細心の注意を払うべきだろう。

 以上のように各話各話で見ると、見所を押さえて次に繋げる見事な継投策だが、一度に通して観るとまた違う印象となる。
 すごくしょうもない話に感じられる。
 バラで観ていたときはそもそも断絶されているので気づきようがないのだが、感情のつながりというか各登場人物があまりにその場しのぎ、気分次第で動いている。全体を通して一貫しているのはバナージの恋心だけではないか。
 この違和感は後半になるほどひどくなり、大人の都合の代弁者であろう軍人までもがファンタジーに飲み込まれて、まるで新興宗教の洗脳にかけられていくようだ。
 極めつけのしょうもなさは、これでもないくらい風呂敷を広げまくった「ラプラスの箱」の正体。
 色々な制約の中で、がんばった「しかけ」だと思う。なるほどという説得力もある。しかしまずいのは余りに期待を煽った事と、いいわけがましい説明の下りだ。それはもう、延々と、辟易するほどに長ったらしい。学生がレポートの枚数を稼ぐために同じ事を言い換えては繰り返す感じ。粗を取り繕うために話術で翻弄しようとのべつ口角泡をとばす。 実際語っているのは大したことではなく、聞いている方はさめていく一方。
 ほかのシリーズ設定は「知ってる」事前提が多いのに、なぜニュータイプについてだけ一から説明しようとするのか。そのあげく最後の最後で尺を巻くような展開。これだけ時間を掛けて余韻が薄いラストでは何か救われない。
 ほかにもアムロ、シャア、ララアの扱いなど、繊細なところに切り込んでいるため反感が大きいだろうが、これはファン各人の心に期待する物が違うのだから仕方のないことだ。ずいぶん長い間触れられることもなかった部分に光を当ててくれたことがとても嬉しい。

 ところでラストの雰囲気を含めてなにか劇場作品「ガンダムF91」に似ている。違うのはF91が食い足りない印象で、これがテレビシリーズだったらなあと思ったのに対して、ガンダムUCは別段そうは思えなかったこと。
 思うに、F91は描かれている部分の外側にも世界があると感じる。尺の関係だろうが、結構ポコポコと時間が飛ぶ。そういった余白が想像の余地となっていたのだ。
 ガンダムUCは語り口こそ似ている物の、外側への余白がない。話の規模は大きいのに物語は狭苦しい印象。このエピソード自体が公にならない歴史秘話なのかというと、全世界にメッセージを発したりとそういう位置づけでもない。行っている規模と、受ける印象のギャップが居心地悪く、したがってお腹いっぱい。これ以上の続編を観たいとは思えないのだと思う。

 第一話のエンディングテーマ、「流星のナミダ」が特に気に入っている。本作のシナリオを踏襲しているのかは不明だが、歌詞や曲調が立場の異なる二人の絆を浮かび上がらせる。先の分からぬ第一話で、今後の展開を夢想する良いエネルギーになった。

 ともかく長い期間を掛けて、きちんとしたクオリティで作品を完結させたスタッフのみなさんは本当にすごいなと思う。
敬意と、お疲れさまでしたの言葉を。

2014年5月30日金曜日

ファンボーイズ

★★☆☆☆
~スターウォーズファンの旅路~

スターウォーズの新三部作一作目、ファントムメナスの公開直前のドタバタを描くコメディー。
熱狂的なスターウオーズファンの三人のうち一人が、重病(癌?)により公開前に死んでしまうことが判明。
社会に出て距離が生まれていた三人が再び力をあわせて、スタジオに忍び込んで公開前に見てしまおうとたくらむ。
大陸横断旅行をしながらの物語なので、いびつな形のスタンド・バイ・ミーというのがしっくり来る。
スタートレックファンとの確執、本家スターウォーズの俳優が出演してキャラクターがらみの演技を見せるなど、特にアメリカのスターウォーズファン向けに特化された作りなので、スターウォーズ見てますよ程度の自分には分からないネタも多数。ただ、この映画がファンによって楽しみながら作られている感じが滲み出ており、後味含め悪くない。
男三人組に女性が一人合流して旅が続くのだが、ざっくばらんで一途なこのキャラクターが中々に魅力的。

アメイジング・スパイダーマン2

 

★★★★
~1・2作合わせての作品~


 一作目はこの二作目の前振りだったのか! と驚くほど面白い。
 敵役のエピソード、ヒロインとのエピソード、ヒーローの過去にまつわるエピソード――。一作目で描かれた断片が焦点を合わせるクライマックス。そして失意と復活。
 二時間半と長い映画ではあるが、盛りだくさんの要素をきちんと消化して一作の中に折りたたむ手腕は見事としかいいようがない。

 特に最後の下り、長い年月が流れ、それとともに変化するピーター・パーカーの心と分岐点が描かれる部分。映画の終盤であり、下手にやるとそれまでのドラマを全て薄っぺらにしてしまう危険がある。これを必要最低限の時間で秀逸に演出している。
 特にラストシーンはとてつもなく尻切れトンボなのだが、ここまで見てきた観客にはその後のシーンが目に浮かぶ。描かず、余韻と想像力で潔く終わるこの形は盛りだくさんだった映画の後味をきりっと引き締めて、ああ面白かったと思わせてくれる。フルコースの後のフルーツシャーベットのようなもの。
 映像的にも高速で移動しながらの戦闘シーンは3D効果と相まってインフレの行き着いたような迫力。そもそも今回のメイン敵役エレクトロは自身を電気に変えて自在に移動、攻撃するというとてつもない能力の持ち主。一昔前なら不可能だったろうその戦闘シーンは、イマジネーションさえあれば、どのような映像も作り得る現在の映像魔術の粋を感じさせてくれる。
 最後には次回作への引きも用意され、四作目までの製作が決定しているというが、一二作目が二つで一つであるように三四作もそういったくくりなのかも知れない。そうすると三作目のテンションは下がるだろうか……。楽しみ。
 ※残念ながらこのシリーズ続編はその後キャンセルされ、またリブートされる流れに……。会社の都合で振り回されるコンテンツであるが、それだけ根強い人気があるということなのだろう。

 エンドロール中に、なぜか少し遅れて公開の「Xメン future&past」の宣伝が差し込まれる。同じマーベル原作だが、映画化権利者が異なっているスパイダーマンとXメン。まさかのコラボレーションかと思ったら、政治的な駆け引きの生んだただの宣伝行為だということ。むやみに期待をあおるのはやめて欲しいしものだ。

アメイジング・スパイダーマン

★★☆☆☆
~新旧比較~

映画館で見たきりだったのだが、続編公開に合わせてテレビ放送されたのを再鑑賞。

やはりサム・ライミによる前三作のシリーズ(2002~2007)と比較することになる。
サム・ライミ版一作目からちょうど10年目の2012年公開。
映像技術は当然時間なりに高まっているのだと思うが、インパクトいう点で前シリーズに劣る印象。
蜘蛛の糸による移動シーンも、スリリングな空中戦も、豪華で見栄えのするものだが、前と同じように感じられる。

スパイダーマンの誕生が描かれる点は同じだが、設定や物語は大きく異なる。
アメコミの状況や、スパイダーマンの歴史は明るくないのでどういった前提によるのかは分からないが、思っていた以上に違うので前シリーズの焼き直し感は薄い。
主人公、ピーター・パーカーの人格、ヒロイン、スパイダーマンになる過程、はじめの敵……。
十分別物として楽しむことができる。

自分が寂しく感じたのは、ピーターがかなりのリアル充実組に入っていた点。

前作では学校ではからかわれ、カメラだけが外界との接点であるかのような、根暗の秀才。
そんなピーターがスパイダーマンとなり立場を逆転させていく痛快さが強く押し出されていた。
今作では端から結構イケてる。いじめられる方ではなく、いじめている側をとがめる強さを持っている。(その後ボコられるが)
スマホを使いこなし、恋人も早々に手に入れ、卒業式の充実っぷりと言ったら……。
何もかも思い通りかというとそうではない。前作では叔父叔母を親族の中心にすることで軽く過ごしていた両親の不在とその原因が新ピーターの大きな問題となっている。前作では叔父の言葉がピーターを規定するものだったが、今作では実父、叔父、彼女の父、と様々な父性が主人公を導き、また縛り付けている。

ヒロイン像に関しては今作の方が確実に一般受けするだろう。
前シリーズのヒロイン、メアリー・ジェーンはこれでもかというくらい惚れっぽい。一本の映画中で4人も渡り歩くという凄まじさ。そういう女性に惚れるピーター・パーカーがまたオタク気質でたまらんと言う手合いもありそうだが、万人受けしそうにない容貌と言い中々強烈。
今作のヒロイン、グウェインはまるっきり反対で、一途であり、理性的であり、地に足がついており、かわいい。確実に軍配はグウェインに上がる。

ヒーローとヒロインセットで見比べてみると中々に興味深い。

前シリーズはさえない秀才とビッチ(最近はそんなに悪い意味でもないらしい)。お互いあまり裕福ではない家庭。
ヒーローは堅く、ヒロインは緩い。
根本的にさえない者同士が、様々な事件を経て陶冶されていく。人並みに近づいていく。
スーパーヒーローとしての活躍はあれど、ただのラブロマンスとしてみた場合、非常に身近だ。

新シリーズは普通の青年(多少学力はありそう)と才女。ヒロインは割と裕福。主人公の貧乏描写は少ない。
ヒーローは軽く、ヒロインは堅い。
すでに一定の地位や自分を持っている者同士が、それ以上を求めて悩み、求める。
スーパーヒーローであることは早々にヒロインとの共有事項となり、おとぎの国のラブロマンスだ。

前シリーズの垢抜けなさに比べて今シリーズのなんと洒脱なことか。
これが10年の世の変化だとは言わないが、ああ、そうかもなと感じなくもない。
旧ピーター。公私を切り分け、仕事(ヒーロー)をまじめにこなすあまり家庭を顧みない古いサラリーマン。
新ピーター。仕事(ヒーロー)はそれなりに私事を重視して人生を楽しむ今風のサラリーマン。
ちょうどそんな感じだが、良い悪いではないと思う。
異なる主題を持ち、それにアプローチした結果だろう。
今作の主人公達は十分に魅力的で、スピーディーで、楽しい。

ただ、さえないピーターが僕は好きだった。

まじめで、それなのにM・Jなんかに惚れて、小学生の時からずっと好きで。
ヒーローであることを受けとめ、責任を持ち、暑苦しくのたうち回って。
どこまで行っても垢抜けないピーターが僕は好きだったのだ。

比較はここまで。
単体作品として観た今作の弱点として、敵に魅力がない。
リザードマンは壁も移動できるししっぽもある。爪も強力で再生能力も驚異的。
強いが、ただのでかいトカゲだ。
絵的な見所はスパイダーマン側のアクションが主体になり、見所が少なく感じる。
話も決着のつかない要素が多く、尻切れトンボの印象が強い。
続編前提なのだろうが、単体で見た時のすっきりしない感じはひとまず評価を下げるだろう。

それにしても、なぜこんなに早く新シリーズを立ち上げなおしたのか。
旧シリーズ三作目は2007年公開。五年空きはやはり短いと感じる。
ハルクも気がつけば同じ話が映画化されており、アメコミ系実写映画の乱立にはいささか閉口する。
きっちり3Dにするための新シリーズ、と考えれば多少すっきりするかも知れない。

スパイダーマン(サム・ライミ版)


★★★☆☆
~ピーターの物語~

新シリーズ一作目、二作目を見たあとあらためて見直してみた。

2002年公開だから、12年前の映画となる。
数字としてみるとそんなに昔か、と多少驚く。

12年の差は思ったよりも大きい。

ビルの間を自在に駆け抜けるスパイダーマンを自在なカメラでアクロバティックに描いた映像は、当時大きなインパクトだった。ジェットコースターに乗っているような主観的映像にシネコンの大画面で感激した記憶がある。
あの時点で最高峰だった映像が、今観ると不自然に感じられる。CGで描かれたスパイダーマンの動きは物理法則を乱しすぎており、違う加速度、重力の中で生きる存在を無理矢理この世界に連れてきたような(アメコミという点で実際そうなのだが……)違和感を感じる。比較すると新シリーズの映像は確実に一段高い次元に達している。
だからと言ったこの作品の価値が無くなるわけではない。スパイダーマンの滑空シーンイメージはそのまま新シリーズにも受け継がれているし、物語として非常に綺麗にまとまっている。なにより古き良きヒーローのイメージだったスパイダーマンを現代に完全復活させたという功績は大きいと感じる。

改めて見てみると、スパイダーマンよりもピーターを描くことに注力した作品だったのだと気づく。
さえない男がヒーローの力を手に入れて颯爽と大活躍……、なのだが、いちいちスマートではなくえらい目にあってばかり。それでも強い責任感で役割を果たそうと不器用ながらも努力する姿に親近感を覚えずにいられない。
身近なヒーローというスパイダーマンを、ピーターのキャラクターで描いたのが旧作なのだろう。
新シリーズはピーターではなくスパイダーマンとニューヨーク市民の関係性が身近だということを、スパイダーマンの活躍を通して描いている。

しかし、ヒロインの尻の軽さには久しぶりに見てみても閉口。当時も、今もM・Jのルックスはあまりあこがれの対象ではないように感じる。しかしだからこそ、ピーターは彼女の事が好きなのかも知れない。ピーターのオタク気質は非常にリアルで、内向的な秀才がヤンキー女性に惹かれるというのは、悔しいかな説得力がある。

スターシップ・トルーパーズ3

スターシップ・トゥルーパーズ3 [Blu-ray]

 ☆☆☆☆
~神を風刺~ 


スマッシュヒットとなり多くの人の心に残った一作目。
未見だが、テレビ特番として超低予算で作成され、あまりに評判が悪い二作目。
二作目よりはましな予算で、とうとうパワードスーツが登場する三作目

ネタバレありで記述するので、見る予定の方はご注意。
※自分の感想は基本的にネタバレなのですが……。

一作目は軍国主義、国粋主義を揶揄しながら、その枠組みにはまる人々の生き様を切ないような、たくましいような不思議な印象にまとめ上げていた。
今作ではその世界観はそのままに、新たに宗教・神を皮肉っている。
軍国主義に対する強力な存在として宗教が描かれ、これが善かと言えば全くそうではない。むしろ、軍国主義と同じ存在として描かれ、最後には合一を果たす。何しろブレーキをかけない表現が小気味よい。

軍人のトップがより大きな存在に寄りかかるために神を求める。
宗教を軽蔑していたヒロインが地獄絵図の中でとうとう心おれて改宗する。
祈った挙げ句天から神々しく舞い降りる光はパワードスーツの噴射炎。
惑星を破壊する爆弾を打ち放ち、その爆発の光の中で抱き合い、愛を誓う男女。

これらが予算的に微妙な映像で繰り広げられ、視聴者はなにやら良くできた自主制作映画を見ている気分になる。中々良くできているなあ、という感想の。
売りの一つであるパワードスーツも、ためにためた上で出てくるにしては貧弱な映像で活躍シーンも長くない。正直なところ、格好悪い。
このような内容ではあるが、言いたいこと言って良いんだ! という映画の雰囲気。一転二転する展開。予算は映画の出来を決定づけるものではないが、予算がなければ成り立たない映像がほとんどなのだという現実。
人には勧めないまでも、見た時間が無駄と言うことはなく、あれこれ考える題材を提供してくれる一作。

ロボコップ(2014)

 
☆☆☆☆
~魂の惨殺~


ポール・バーホーベン監督の金字塔をリメイク。
ミニチュアアニメーションなど旧式特撮技術を多用したオリジナル版と比してCGによる画像完成度は高いのに、どうにも魅力の薄い駄作。
主人公の喪失したものの量が違いすぎる。
前作マーフィが失ったのは、記憶、家族、アイデンティティ。代わりに身につけた圧倒的な頑強。まるで悪魔に魂を売った(売らされた)ようなそのアンバランスな存在。
それに比べて今作の彼のなんと中途半端なことか。覚悟や凄みの無いまま、周囲に踊らされ続けるだけのピエロに成り下がっている。
それに引きずられて物語の陰影も薄くなり、派手な戦闘シーンもただのにぎやかしにしかならない。
偉大なオリジナルに対抗するために、様々な努力をしたのだろう事は感じられる。
鈍重なパワータイプのイメージから、俊敏なスピードタイプへの変更。
乗り物もパトカーから専用バイクに。
はじめは黒塗りにされ、後に……。
だがどれも、変わって良かったね、という要素ではない。
上辺だけで、血肉が通っていない印象。

描写のグロテスク具合はオリジナルの方がひどいと思う。生きたままの身体欠損をさっと見せるのがバーホーベン監督流だと感じる。
今作も中々えぐい描写はあるが、それよりも精神的なスプラッタがひどい
脳をいじって記憶を改ざんしたり、人間の意志をすげ替えてしまう哲学的ゾンビの領域に突入したり。
これに比べれば、オリジナルは人間の精神に対して大きな敬意を払っていたと思う。このような状況のロボコップに家族愛を体現させても、心底寒い。
やはり、ヒーローにはその代償として悲しい過去と取り戻せない喪失があるべきなのだと思う。

ももへの手紙

 

★★★★
~みんなで観たい作品~


 「人狼」で名を馳せた沖浦啓之監督のアニメ映画。しまなみ海道あたりの小さな島を舞台に、父を失った少女の心の再生を描く。
 人の仕草、生活感、架空生物?の気持ちよい動き、アクション、細かな演出の積み重ね……。抑制のきいた落ち着いた雰囲気。
 昨今のジブリ映画にうすくなった(宮崎、高畑監督にしか出せなかった)空気を堪能できる作品。スタッフ的にからみがあるのかどうか分からないが、「ジブリアニメの総決算」と勝手に言いたくなる。
 きちんと後継者が育ち、宮崎、高畑監督が通過して行きすぎてしまった感覚に立ち戻ったアニメ映画がジブリで作られていたなら、このような作品になったのではないだろうか。ジブリは今後どうなっていくんだろうと勝手に心配していたが、こういう作品を見られるならジブリに限ることはないのだなあと思う。

 映画館で鑑賞した際、子供客が多く、笑い声や合いの手? が多く入った。それは決して邪魔ではなく、その場にいる見知らぬ人たちと一緒に笑いながら見ることが楽しい一作。映画館で見るのは、こういう楽しさがある。



2014年4月14日月曜日

エージェント・ライアン

★★☆☆☆
~2014年初頭の符合性~

「ペリカン文書」のトム・クランシー原作。少しずらしたスパイアクション映画。
ウォール街で一線を張れるほど優秀な博士号持ち。しかも元海兵隊で部下を助けるために半身不随になりかけた過去を持つ。ステディはリハビリ時の担当女医。
そして裏の顔はCIA。
書き上げて見るととんでも性能のスーパーヒーローだが、順を追って説明される状況は、彼の波瀾万丈な巻き込まれ人生。不思議と嫌みがない。
そんな彼は旧ソビエト残党がロシアでたくらむ通貨テロを阻止するためにモスクワへ。
ガスの供給にまつわるアメリカとロシアの対立。実際の爆破テロと組み合わせて計画される通貨暴落という経済テロ。
奇跡的なほど、今(2014/3/12)展開されている、クリミアを挟んだ東西対立と重なっている。このタイミングで公開されている最中にセンセーショナルなドル暴落など起こった日には、これはもう予言所と言って良い。もちろんそんなことにならないよう祈るが……。
映画自体は意外なほどコンパクト。アクション、サスペンス、敵との裏のかきあいにラブロマンス。様々な要素がコンパクトに、かつ適量収まっており、幕の内弁当のような安定感と予定調和。しかし大きな求心力や盛り上がりの無いまま幕を閉じる。
殴り合いのシーンに結構な時間を割いたりと、時間配分の意外性があり最後まで飽きずに見ることの出来る佳作。

2014年4月13日日曜日

グスコーブドリの伝記

 
★★★★★
~希有な映像体験~


宮沢賢治の作品を手練れの職人がかっちりと映像化。
驚くべき映像クオリティと豊かなイマジネーション。
ジブリをはじめとする日本的なアニメーションとは印象を隔し、なおかつピクサーのCGアニメーションとも違う手書きアニメーション。ほかでは観ることの出来ない映像世界が豊穣に実っている。

猫の擬人キャラクターによる宮沢賢治の映像化というと「銀河鉄道の夜」が先鞭だが、それもそのはず、監督、キャラクターデザインなどのスタッフが同じ顔ぶれとなっている。宮沢賢治の透明感溢れる世界と抑えがちな表情の猫達の組み合わせは、もうそれだけで心をときめかせる。思うに、人間ではなく猫の姿を借りることで、不思議な世界とのバランスがぴったり合い、凹凸のない映像として心に迫ってくるのだろう。

物語は未読であるし存在さえ知らなかった。ただ、寒村の貧困を解消したいという熱意と自己犠牲精神の貴さを童話に託したその内容は、自分の知る宮沢賢治の姿そのままであり、見知った作品達と何らぶれのない内容だった。
物語自体は、おそらく銀河鉄道の夜ほどの一般性を持たない。単純にいうと地味でキャッチーではない。しかしそれが映像になったとたん、胸を詰まらせるような一途と切なさに満ちて、忘れられない映像体験となる。

言葉ではなく、映像で示すということ。
この映画には、昨今の映像作品で軽視されがちな基本原則が脈々と受け継がれている。近年目に付く映像作品は物語の筋を示すことに汲々とし、言葉にしないと伝わらないと思いこんでいるように、状況も、心情も、肥大化した自意識のままに垂れ流す一方のものが多いように思う。
それは一つの演出、方法論ではあるが、テンポを付けるための変化球だろう。全編それでは効果的ではないし、ただの色物だ。しかし、色物が色物として目立たないほど、奇異なスタイルが蔓延している。
とどのつまり、自信がないのだ。
言葉という明確な情報伝達手段を用いねば、伝えるべき事が伝わったと確信できないのだ。優しい眼差しでほほえむだけでは伝わらぬと、「愛してる」「好きです」と飾りたて、本来の淡い色彩を台無しにしてしまう。
轟音ばかりでコントラストのない音楽。
笑い所まで指定されるテレビキャプション。
わかりやすさ、単純さをこの上ない正義だとお題目のように掲げ持ち、その実、本来のシンプルや元の形が持つ力を失っているのではないか。感じ、理解するという能力を浅くしか耕さず、根の張れない畑を作っているのではないか。

そんな中、今作は急流に屹立した岩のようなものだ。
空気が、映像とともにある。
ブドリの妹が神隠しされる場面には心臓をつぶされる。
探し求める世界の不可思議、一歩先に満ちる不安な予感。
はじめてみる都会の不思議な感触。
目の光る猫に感じる恐怖と安堵。
それらを包み込み、満ちている、なぜか分からないけれど優しい気持ち。
この映画は「観る」のではなく「体験」するものだ。
丁寧に整えられた滑らかな映像の中に吸い込まれ、ブドリと一緒に不思議な体験をする。見終わった後に残る寂しさ、侘びしさ、暖かさ、心強さ。
マイナーとしかいいようのない作品だが、希望ではなく確信として、この作品は後年名声を勝ち得ていく名品だ。観た者の心に根を下ろし、いつか再び花を咲かせる感性の種だ。

あの「銀河鉄道の夜」を一生忘れないのと同じように、「グスコーブドリの伝記」も人生に寄り添って、きっと消えない。