2010年3月25日木曜日

かいじゅうたちのいるところ

 
★★★★☆
~確実に、暖かい~

世界的なベストセラー絵本を映像化。

驚くべきは、そのアナログな感触の温かさとノスタルジイ。
9才の少年マックスが怪獣の住む島に行き、そして戻ってくる物語。
あらすじを言ってしまうと、本当にこれだけ。
なのにその中に含まれた手触りの優しさと繊細さ。
これは、観る映画ではなく、感じる映画だ。

怪獣達は基本的にCGではなくハイテク着ぐるみによって演じられる。
動きに不自然さはなく、アナログでもここまでやれるんだ、と素直に感心する。表情など緻密な制御が必要な部分はCGにゆだねており、無理にアナログにこだわる風でもない。
それならなぜ、全身CGにしなかったのだろう。(実際、スーツの作成を多くの会社に断られてCG化をすすめられたらしい)
それは、この怪獣達の表現に、着ぐるみが必要だったからだ。

着ぐるみの怪獣たちの体は毛羽立ち、ところによっては絡まったような「きたなさ」で構成されている。
動物園でみた年老いた虎のような。街角で寝そべる老猫のような。
子供の頃大好きで、今は押入で眠っているぬいぐるみ、とか。
それが嫌ではなく、存在としてのリアルと結びつき、懐かしいのだ。

ほぼ同時期に公開されたアバターはすさまじい技術と努力で未知の生物を
CG化した。一見しただけで比べれば、怪獣達はチープなぬいぐるみだと感じられるかも知れない。しかし、美しい、計算された形状と質感のアバターにはない、絵にならない薄汚い印象が、それこそが、怪獣達をリアルに感じさせるのだ。

そこに生きているという感触。その形の中に魂が宿っているという直感。

この視点で両者を比べたとき、けしてこの映画は劣らない。どちらも表現のために心を砕き手間を惜しまぬ、すばらしい作品だと思う。ただ表現手法が異なっているだけだ。
そして子供の思い描く怪獣としてふさわしいのは、言わずもがなだろう。

この映画は、9才の子供の感性を、観る者の中から引き出す。記憶の窓から、昔の自分を観ているような感触は他の作品には代え難い、独自の価値をもたらしている。

折り重なった怪獣達と一緒くたになって眠りに落ちる満足感。
居間で眠った幼い僕を、ベッドまで運んでくれた父の力強さを思い出した。

振り返るだけでなく、前に進むためのノスタルジイを、勇気を、この作品は感じさせてくれる。

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絵本も読んでみましたが、空気感が見事に同じです。
解釈し、肉付けし、このような形にまとめたことに驚嘆。
自分は映画の方が好きです。といか、絵本にはあまり共感を覚えませんでした。