2019年11月29日金曜日

スペシャリスト

スペシャリスト [Blu-ray]

☆☆☆☆
~質に関わらない価値~


 1994年の米映画。爆破アクションと言おうか、ラブロマンスと言おうか……。さまざま要素が絡み合うと言うより好き勝手に各要素をぶち込んだ闇鍋爆弾ロマンスと言ったところか……。

 元CIAの工作員で爆破による暗殺のプロフェッショナルであるレイ(シルベスター・スタローン)の元にメイ(シャロン・ストーン)から暗殺の依頼が入る。幼い頃両親を殺し、今や町の有力者然としている三人を殺して欲しい、と。レイは固辞するがメイに懇願され、まずは素性を確認するため監視を開始する。メイのあまりの美しさにに引きつけられてしまい結局依頼を受けることになってしまうが、暗殺対象の警護人ネッドはレイがCIAをやめる契機となった事情のある人物だった――。

 まず出てくる感想は「ぜんぜんスペシャリストちゃうやん!」という事になる。寡黙な戦士の雰囲気で描かれるレイだが、メイの声に惚れてのぞき見で姿に惚れて、ころころ転がされる童貞くさいおっさんといわざるを得ない。ライバルのはずのネッドも中二病っぽい「僕イカレテますよ」演技がきついだけでその戦闘力は未知数のまま終わる始末。巧みに自分の立場を切り替えてでっち上げの話で周囲を煙に巻きつつ、ありえない機転と実行力を発揮するメイこそが御都合主義の申し子としての「スペシャリスト」だろう。

 しかし、このような映画が生まれた背景も、これが正しいのだという主張も分かる。
 スタローンは前年1993年に「クリフハンガー」「デモリションマン」で再び注目を集めており、シャロンは1992年に「氷の微笑」でセックスシンボルとなっていた。この二人が主演し、それぞれの持ち味を活かした映画が作れれば内容はどんな物でも良いというタイミングだったのだろう。レイは筋肉トレーニングを怠らないマッチョな爆弾専門家という筋肉が邪魔では無いかという設定だし、メイはいかにも男を籠絡するミステリアスな女。この二人のベッドシーンがあるとなればもう勝ちゲームの様相だったのだろう。
 時流を捕らえて売れる映画を出すというのは非常に難しい事だと思う。確実で簡単な事のように思われがちだが、実現するには幾つものハードルが存在したことだろう。その代償として質が損なわれたとしても納得である。
 分かりやすくいうと、これは旬のアイドル映画で、両スターの共演という内容はノスタルジックな視線において、今も何らかの価値を持っている。

2019年11月28日木曜日

ターミネーター2

ターミネーター2 4Kレストア版 [Blu-ray]

★★★★
~SFアクションの金字塔~

 1991年の米映画。1984年公開のターミネーターの続編となる。監督は引き続きジェームズ・キャメロン。

 前作の事件から10年後のカルフォルニアに再びターミネーター(アーノルド・シュワルツェネッガー)が送り込まれてくる。前作で標的とされたサラは息子ジョンに機械との戦いに備えた英才教育を施していたが行きすぎた行動から精神病院に収監。ジョンは里子に出されてハングレ状態。ターミネーターはジョン捜索を開始するが、それとは別にもう一人のターミネーターが送り込まれてくる。流体金属の体を自在に操り、姿形を変えながらこちらもジョンを目指して行動を開始。ハッキングで手に入れたお金でゲームセンターで遊ぶジョンの元に二人のターミネーターが到着した――。


 ヒット映画の2作目というものは非常に受け容れられるのが難しいものだが、ジェームズキャメロンは実にエイリアン2」と今作で輝かしい続編成功を収めており、この点だけでも特筆に値する。二つに共通して言えることは1作目で登場した要素の位置づけをうまくスライドさせて異なる関係性を作り出す事と、規模の圧倒的な拡大によるお祭感の演出であろう。
 エイリアン2では1作目では一体しか登場しなかったエイリアンを大量に登場させて「群れ」にし、さらに女王蟻ならぬ女王エイリアンを設定。海兵隊とエイリアン軍団の激突を構図として「今度は戦争だ!」のコピー。
 ターミネーター2では1作目の宿敵をあろう事か味方に据えて新型のターミネーターを追加。「ターミネーターvs人間」から「ターミネーターvsターミネーター」とした上に旧型と新型、剛と柔の対決をプロデュース。
 何かもう設定だけでときめくのである。
 
 流体金属の新型ターミネーターは当時としては出色のVFXで描かれており、イマジネーション含めて強烈なインパクトを残した。水銀のように銀色に流れる金属が人型になり質感を得て完全な擬態を行い、また体の一部を槍や剣のように変えて戦闘を行う。現在ではこれくらいの映像はテレビドラマでも実現されているが、当時は本当に驚いたものだ。あまりに気持ち良かったので劇場に二度も見に行った。
 映像だけで無く物語としても見所が多く、特にジョンとその保護者となったターミネーターの関係は父親を知らないジョンにとって父と触れ合うような形で描かれており感情移入させられる。タイムパラドックスにはあまり触れず、現在でのやり取りのみに集中しているのも安っぽくならなくて良い。
 改めて1と間を置かずに見てみると、1を踏襲している演出が数多くある事に気づく。有名なターミネーターのセリフ「I'll be back」であるが、1ではこれを受付に告げた後すぐに車で突入してくるというちょっとコメディーぽい使われ方をされている。2では緊迫したシーンで使われているが、このセリフの後車で突入してくる展開になっているのは同様。他にも1の最後で這いずりながら迫ってくるターミネーターの姿が2の最後でも同様に再現されており、ファンに嬉しいパーツが沢山ありそうである。

 この後「3」「4」「ジェネシス」とシリーズが続いたが2を最高潮として評価は下がっている。どれも楽しめる内容だが、確かに1と2程の親密感は無く、特別な作品にはなり得ていない。2の直系続編と銘打っていよいよキャメロン関与の高い「ニューフェイト」が公開されているが、いかな評価に落ち着くであろうか。

 関連作のリンク。3だけ感想ないんだ……。

◆シリーズ第1作『ターミネーター』 の自分の感想はこちら。

 
★★★☆☆
~演出の教科書~

◆シリーズ4作目『ターミネーター4』 の自分の感想はこちら。

ターミネーター4 スペシャル・エディション [Blu-ray]
★★☆☆☆
~ジョン・コナ―しっかりしてくれ~

◆シリーズ5作目『ターミネーター:新起動 ジェニシス』 の自分の感想はこちら。 

 ターミネーター:新起動/ジェニシス ブルーレイ+DVDセット(2枚組) [Blu-ray]
★★★☆☆
~極悪な予告編~

 ◆シリーズ6作目『ターミネーター:ニュー・フェイト』 の自分の感想はこちら。

ターミネーター:ニュー・フェイト [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
★★☆☆☆
~女子会もしくは同窓会~

◆同監督の傑作『エイリアン2』 の自分の感想はこちら。

エイリアン2 [Blu-ray]
★★★★
~相似拡大+α~

 

 

 

2019年11月27日水曜日

三度目の殺人

 三度目の殺人 Blu-rayスペシャルエディション

★★★★
~驚異のバランス~

 2017年の邦画。「そして父になる」「万引き家族」で知られる是枝裕和による法廷サスペンス。福山雅治と役所広司が主役を務める。

 弁護士の重盛(福山雅治)は同僚弁護士からとある殺人事件の国選弁護の担当を頼まれる。依頼人の三隅(役所広司)は30年前にも北海道で殺人事件を起こしており、服役の後勤めていた会社の社長を川辺で殺した容疑での裁判だった。殺人についてはすでに自認しており、見込まれる死刑から無期懲役への減刑を目指すのが重盛に依頼された内容となる。
 真実の解明ではなく被告の最大利益を目指すのがポリシーである重盛は減刑へのとっかかりを求めて三隅の過去から現在に至る流れを再調査するが、突破口を見出す度に三隅の供述はふらふらと変遷し、つかみ所がない。やがて一転二転する供述は裁判の前提とされている範囲まで立ち戻り、裁判官、検察と足並みを揃えて有利な判決を得ようとしていた重森の思惑を崩しさる。三隅との対話、見えてくる事実との対峙により、重盛は事実と真実、裁判で裁かれることと裁かれないことといった領域に踏み込まざるを得なくなった――。

 初めは単純に見えた事件が情報を集めるほど複雑になる流れはスリリングで先が読めず面白い。特に役所による三隅の演技は素晴らしく、人格が複数宿っているかのようなつかみ所のない不気味さの中に、何か超越者めいた雰囲気を感じさせてくれる。それと対峙する重盛を演じる福山雅治も負けてはおらず、二人の存在感が拮抗。このバランス感は作品上非常に重要で、どちらかが明らかに勝ってしまうとまずい構成になっている。
 というのは、この物語で最も重要な焦点は「なぜ三隅は殺人を犯したのか」であり、その結論は作品の中で明示されていない。重要そうな断片は数多く示され、それぞれが関連をもって方向性を示してはいるのだが、複数のストーリーラインが絶妙のバランスで併存しているのである。重盛と三隅のバランスもその中にある。この、「結論を出さない」という姿勢はそんじょそこらの「結末は視聴者にゆだねます」のエピローグや今後の展開を描かないといったものでは無く、三隅をどのような人物として理解するかという映画全編をそのまま差し出している。この葛藤は重盛の葛藤と同値であり、他人には差しはかれない部分を裁かなければならない裁判という存在の限界を突きつけてくるのだ。
 「裁判は真実を明らかにするものでは無い」と断言していた重盛は、自分が求刑をいかに軽減するかというプラスの方向しか見ていなかった事に気づき、反対に真実と関係なく死を宣告される事もあるという状況を目の当たりにする。そしてそれに自分も加担した事で人が人を裁くことの恐れと罪を自覚して物語を終える。重盛が最終カットで物語を象徴する十字架にたたずんでいるのはこのためだと思う。

 この結論しないというバランス感覚は凄まじいもので、よくぞ最後まで綱渡りから落ちずに完走したものだと思うが、架空のイメージカットを現実と混在させて視聴者を混乱させたりミスリードを誘うのはちょっと卑怯かなと感じる。またこれもバランスを取るためだろうが警察組織があまりに無能で役に立たない。いくら自供しているからといってその裏付けを行わなかったり、少し調べれば分かる周囲の状況に全く無関心というのは実際はともかく物語として引っかかりが大きい。

 見終わった後すっきりしない感覚に陥ると思うが、今作はそのために作られているので正しい反応だと思う。
 何だったんだろうと考える際は、「三度目の殺人」というタイトルが示す殺人が誰が誰を殺したものかというところからとっかかってみると全体を見わたしやすくなるだろう。



2019年11月26日火曜日

コンカッション

コンカッション [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

★★☆☆☆
~置き換えて咀嚼すれば~

 2015年の米映画。アメリカンフットボールの選手に起こるCTE(慢性外傷性脳症)を巡る社会派ドラマ。実話を元にしている。
 

 海外からアメリカにやってきた検視官オマル(ウィル・スミス)の元に、元NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)のスター選手の遺体が届く。まだ50才だというのその脳はアルツハイマーのような劣化をきたしていた。調査を続けるうちに元NFLプレイヤーに同様の症状が多く見られる事が分かり、慢性的な脳への衝撃が時間をおいて問題を発生させている事が判明。オマルはNFLにこの問題を問いただそうとするが、巨大権益で守られた牙城はまるで揺るがない――。

 コンカッションは脳しんとうの意味でまさに本作そのものである。往年のスーパースターがCTEの障害によって悲劇的な生活を余儀なくされているシーンは「あしたのジョー」でパンチドランカーにおかされたカーロス・リベラを見る思いである。

 アメリカの国技でありスーパーボールなど含めて圧倒的な経済規模を持つアメフト。そのスポーツビジネスの根幹を揺るがす告発に対しNFLは「ヘルメット被ってれば大丈夫」など適当な受け答えでオマルを無視しようとする。アメフトはもはやアメリカのアイデンティティであり、それを傷つけるような行為は非国民だというのだ。
 オマルがこの件に強く当たれたのも、海外からきた彼にとってアメフトに対する思い入れが薄かったからであろう。そして、自分にとっても薄いのである。日本ではメジャーなスポーツでは無く、基本的ルールも知らない者の方が多いだろう。アメフトのスター選手も知らない。したがってこの映画はアメリカ人でないと意味が無いかと言えば決してそんなことはない。巨大な組織に単独挑んでいくオマル医師と彼に影響されて正しい選択を選んでいく人々の姿には普遍的な感銘を受ける。なにより既得権益と上下関係でガチガチになった巨大組織にまつわるきちがいじみた騒動は日本でも枚挙にいとまがない。アメフトのことがよく分からなくても、身近なヒューマンドラマとして充分に楽しむことが出来るだろう。悲しいことではあるが身近なのだ……。

2019年11月25日月曜日

クレイマー、クレイマー

クレイマー、クレイマー [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

★★★★
~フレンチトーストにはじまりフレンチトーストに終わる~

 1979年の米映画。ダスティン・ホフマン主演で描く離婚した男女の息子を巡るヒューマンドラマ。
 一時期民放の映画枠で頻繁に放映されており、古い記憶に引っかかっている同年配は多いだろう。題名の意味をずっと取り違えていて、初めは「すっごく泣き叫ぶ」みたいに思っていた。「cry」の活用だと思っていた模様。次には「クレームを入れる人の戦い」にうつる。自分の主張をぶつからせて裁判で争う姿になかなかぴったりかもしれない。で、ようやく理解した正解は父親「テッド・クレイマー」と母親「ジョアンナ・クレイマー」の争いだということ。原題は「Kramer vs. Kramer」なので、これを見れば一目瞭然であった……。

 仕事中毒で家庭を顧みないテッド(ダスティン・ホフマン)は自分も社会に出たいと願う妻ジョアンナの気持を一顧谷せず、二人の溝は深まる一方。ある日とうとうジョアンナは5才の息子ビリーも置き去りに家を出てしまう。妻と母に捨てられた形の二人は共同生活を試みるが、ジョアンナの担っていた役割は大きく暮らしはなかなか安定しない。ぶつかり合い、怒鳴りあいながら何とか協力し、二人の絆が深まっていく。そんな折、唐突にジョアンナが養育権の奪取を目指して裁判所に申し立てを行った。奇しくもテッドは会社を首になった直後であり、どうにも不利な状況である――。

 父子のやり取り、徐々に深まっていく絆の表現が素晴らしい。5才の息子を持つ自分にとってまさにクリティカルな内容であり感じるところが多々ある訳だが、息子ビリーの演技が全く素晴らしい。演技というより自然な振る舞いがうまく引き出されているという感じだろうか。
 当時は母親ジョアンナがビリーを置いて出ていったというのが信じられなかったが、改めて見ると家事育児に追われて自分という存在が圧死しそうになっている母の姿は確かに追い詰められており、半ば病的な雰囲気で仕方がないと思える。出奔して生活が落ち着いたらすぐ取り戻そうとする方針転換の唐突さにも嫌悪感を抱いていたが、そりゃそうするよなあと納得させられてしまう。父子の生活を勝手に引き裂こうとする悪役としてしか見ていなかったが、彼女の切実さにも心を打たれる。妻にもきちんと心を配り、育児の苦労を分かち合っていかなければならないと改めて心に誓う。
 経験によって作品から受ける印象が変わるのは当たり前であるが、今作は自分にとって特に変化が大きかった。
 
 名シーンとして心に残っているのは、やはり枯れた木々の並木道での母子の再会シーンだろう。父に気を使いながらも母の元に向かうビリーの姿。
 そして外せないのはフレンチトースト。最初のフレンチトーストと、最後のフレンチトースト。美しい対比、物語を象徴する名シーンだ。

 現時点でさえ公開して40年。もはや時代を超えた名作だと断言できる。
 
 ところで今作は1979年公開作品だが、当時でさえこういった親権裁判がアメリカで大きな社会問題となっていたということだ。映画の軸となる題材は世情を強く反映する。昨今の映画で最も重要な愛情関係は親と子の物になっていて、これに比べれば夫婦間、恋人感の愛情は永続しない一過性のものという扱われ方が多い。確かに基本設定が「離婚した夫婦」と「その子供」となっている映画のなんと多いことか。もう離婚は当たり前なのだ。
 こういった傾向は米⇒日本の順番でタイムラグをもって伝搬する。一昔前は洋画の離婚設定に違和感を感じていたが、いまや当たり前に受け容れてしまっている。日本でも離婚は当たり前の存在になったということだ。脳天気と言われても、男女が惹かれあって結ばれるハッピーエンドが自分は好きだ。二人は末永く幸せに暮らしましたとさ――。


2019年11月22日金曜日

フラットライナーズ(2017年版)

フラットライナーズ [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

☆☆☆☆
~1990年版を見た方が良い~

 2017年の米ホラー映画。1990年に公開された同名映画のリメイクとなる。
 1990年版は「キーファー・サザーランド」「ケヴィン・ベーコン」「ジュリア・ロバーツ」といった豪華俳優陣のわかかりし姿が見られる作品で、こちらはホラーというよりサスペンス的な仕上がり。さらにいうならキリスト教の精神を強く感じさせる教導的な内容だった。

 医学生であるエレンは臨死体験した患者の経験談に興味を持ち、自ら人工的な臨死体験を得ようと計画。仲間に協力してもらって首尾良く臨死を体験したところ、突然天才的な記憶力を発揮するようになった。これを見た仲間達も臨死を体験。それぞれに素晴らしい能力を得るが同時におかしな幻覚を見始める。それは各人が抱えていた罪の意識と関係があるようで――。
「天才的な能力を獲得する」という下りは1990年版には無く、全員が純粋に臨死の体験そのものを目的としていた。随分即物的になったものだ。他にも仲間同士で適当に体を重ねる展開も追加されており、1990年版にあった厳かな雰囲気がまるで無くなって、ただの出来の悪いホラー映画に成り下がっている。実験会場が修復中の美術館から非常用の医療施設になったのも雰囲気がない。

 上記に加えてオチも異なっており、リメイクというより同じ題材の別作品、リブートといった方が良いだろう。そしてそれは失敗している。

 それはそうと「フラットライナーズ」というのはなんだか色々なイメージを想起させる良い題名だね。

2019年11月21日木曜日

レポゼッション・メン

レポゼッション・メン 【Blu-ray ベスト・ライブラリー100】

★★★☆☆
~一途な愛情~

 2010年の米映画。SFアクション、サスペンス、いろんなとらえ方があると思うが、あえて「ゆがんだラブロマンス映画」と言ってみたい。
 

 近未来、人類は人工臓器を埋め込むことで壮健長寿を得たが、高価な人工臓器を使用するために長大なローンを組み、その返済に追われる人生を余儀なくされていた。返済が滞ると否応なく臓器は回収され部位によるとそのまま死亡となる。その回収人(レポゼッション・メン)の一人であるレミー(ジュード・ロウ)は相棒ジェイクと共に冷酷な回収作業にいそしんでいたが、危険な仕事をいやがる妻のたっての希望で安全な部署に異動することにする。惜しんで引き留めるジェイクを振り切って最後の回収業務に挑むが、相手を感電させようとした武器が爆発。ベッドで目覚めたレミーにジェイクが聞かせたのは、レミーの心臓が致命傷を受けたため人工臓器と取り替えたという事実だった。回収する側から回収される側に転げ落ちたレミーを待つ運命とは――。

 ☆以下多少のネタバレを含みます☆
 
 ローンが払えなくなったレミーは同じく多重債務者である女と出会い共に逃避行に挑むわけだが、立ちはだかるのは凄腕のジェイク。どんどんアクション映画になっていくのかと思いきやどうも様子がおかしい。そこまで積み上げたリアリティをぶちこわすような展開が続き、クライマックスは血まみれの体と体内をまさぐり合う異様なラブシーンとなる。急転直下万事がうまくいって良かった良かったとなるのだが、見ている方にとってはなんだこりゃと開いた口がふさがらない。
 ――のであるが、ここからがこの映画の真骨頂。突っ込んだ部分が別の意味を持って再構築されていく。好き嫌いはともかく、なるほど確かにそういう演出だったと納得せざるを得ない展開。
 
 冒頭にラブロマンスだと書いたが、誰の誰に対するロマンスだったか、これも最後にぴったりと判明するのでお楽しみに。

2019年11月20日水曜日

ターミネーター

ターミネーター [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

 ★★★☆☆
~演出の教科書~

 1984年の米映画。グーニーズよりも前だったのか……。
 アクション映画だがターミネーターの不気味さと倒しても倒しても生き返る無敵具合はホラーといっても良さそう。
 監督は「エイリアン2」「タイタニック」「アバター」などヒット映画を作り続けるジェームズ・キャメロン。

 ハンバーガーショップのウェイトレスとして働くサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)は恋人に振られて手持ち無沙汰な週末を過ごしていた。町のテレビから流れるニュースは自分と同姓同名の女が被害者となった殺人事件。同じ名前の女性が二人殺された時点でサラも自分の身を案じて警戒を始める。自分を監視するように見え隠れする男の姿にクラブに逃げ込んだサラを突然銃撃してきたのは見知らぬ屈強な男(アーノルド・シュワルツェネッガー)。その襲撃から守ってくれたのはサラが警戒していた謎の男だった。
 共に逃げる二人。男は自分をカイルと名乗り、未来からサラを守るために送り込まれた戦士で、襲ってきた男は金属の骨格を持つ人間に擬態した戦闘機械。未来を変えるために人工頭脳が送り込んだ抹殺者(ターミネーター)だという――。


 今見るとさすがにチープさはぬぐえない。負傷したターミネーターのはがれた皮膚から見える機械部分。金属の頭蓋骨が露出した作り物感の強い頭部。コマ送りフィギュアアニメのぎこちなさ――。予算も非常に少なかったとのことで描きたいイメージに追いつけていない印象が強い。恨みを晴らすように続編「ターミネーター2」では巨額の予算でイメージを完全に映像化して映画界の金字塔を打ち立てており、今作のイマジネーションが魅力的だったということを改めて証明している。

 低予算(640万ドル⇒7億円程度)の制限もあったのだろうが、各シーン、カットは贅肉をそぎ落とされており、それぞれのカットで何を描こうとしているのか、何のために存在しているのかが如実に感じられる。そういった価値あるパーツが積み上げられて構築されていくのが映画なのだと、まるで教科書のように示している映画だと思う。
 例えばターミネーターを爆破したと安堵するシーン。不安なサラのアップ⇒バラバラになったターミネーター⇒ホッとするサラのアップ⇒カイルの生死を確かめるピンぼけの向こうで動く気配⇒ターミネーター再起動。サラの気持ちの変遷を視聴者がきちんと追える構成となっている。当たり前だが、こういったことの積み重ねが映像による表現なのだ。
 他にもターミネーターは現代に現れた時の方が人間らしい動きをしている。途中で機械だと分かった途端、明らかにロボットらしいぎこちない動きが強調される。これなどは観客の印象を方向付けるための細かい演出の一つだろう。ターミネーターに抹殺されるルームメイトのヘッドホンの演出も面白い。彼女は登場時点から常にヘッドホンで音楽を聴いているのだが、そのため隣の部屋で彼氏がターミネーターと大乱闘していてもまるで気づかない。のんきにサンドイッチなどを作っている彼女の姿とボコボコにやられる彼の姿の対比がコミカルだが、日常的にヘッドホンをしている裏付けがあるからこそ納得できるシチュエーションとなり得る。この場だけなら演出のご都合感がもっとあざとく出ていただろう。
 このように見れば見るほど繊細な演出の試みを発見できるのはやはり低予算と時代のせいだろうが、同じ監督が最新技術と大予算で作った後続作品のひな形だと考えればこれ以上分かりやすい解説資料はない。

◆シリーズ2作目『ターミネーター2』 の自分の感想はこちら。

ターミネーター2 4Kレストア版 [Blu-ray]
★★★★
~SFアクションの金字塔~

 ◆シリーズ4作目『ターミネーター4』 の自分の感想はこちら。

ターミネーター4 スペシャル・エディション [Blu-ray]
★★☆☆☆
~ジョン・コナ―しっかりしてくれ~

◆シリーズ5作目『ターミネーター:新起動 ジェニシス』 の自分の感想はこちら。 

 ターミネーター:新起動/ジェニシス ブルーレイ+DVDセット(2枚組) [Blu-ray]
★★★☆☆
~極悪な予告編~

 ◆シリーズ6作目『ターミネーター:ニュー・フェイト』 の自分の感想はこちら。

ターミネーター:ニュー・フェイト [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
★★☆☆☆
~女子会もしくは同窓会~

 

 

2019年11月19日火曜日

グーニーズ

グーニーズ [Blu-ray]

★★★☆☆
~クリスマスプレゼントのような~

 1985年の米映画。少年少女の冒険譚。なんとなくスピルバーグ監督作品のように記憶している人も多いかもしれないが彼は製作総指揮の一人であり、監督はリチャード・ドナー。

 とある海辺の町に住む少年四人、マイキー、マウス、チャンク、データ(すべてあだ名)はおマヌケいたずらチーム「グーニーズ」を名乗っていた。マイキーは諦めない強い意志を持つが喘息気味でどこか線が細い。マウスは口が立つが実行が伴わない。チャンクはともかく食い意地がはりすぎ。データはビックリどっきり装備を身につけるがいまいち役に立たない。
 そんな彼らの家族は借金を盾に立ち退きを迫られており、期限は今日まで。のっぴきならない状況の中、ガラクタだらけの屋根裏で海賊「片目のウイリー」が隠したとされる宝の地図を見つけた。もしその財宝を手にすることが出来たなら、仲間と離ればなれにならなくて済むかもしれない。
 地図を頼り探索を開始するが、凶悪な家族ギャング「フラッテリー一家」に遭遇し――。

 1985年といえば自分は12才。まさに自己投影するのにぴったりの年齢だった。得意はあるけど欠点もある、キャラクターの立った等身大の少年達に非常に親近感を覚え、同じような冒険にあこがれたものだ。今回5才の息子と一緒に見たが、分かりやすい内容とテンポの良い展開は未就学児でも充分に楽しむことが出来たようだ。
 グーニーズの四人に加えて少し年上のブランド(マイキーの兄)とその女友達二人が同行するのも物語のテンポと広がりに一役買っている。グーニーズよりも常識的な意見や突っ込みを示すことで、ただの子供の世迷い言と現実をうまくつなぎ合わせてくれている。何より女友達二人が年相応の女性の魅力を見せてくれることで、男の子の純真さや異性に対するちぐはぐさが描かれていてなんだか甘酸っぱい気持になる。当時はあこがれの年上女性だったわけだがかるく追い越してしまった。

 宝の地図を元にたどる道のりは洞窟の中を進んでいくもので、さまざまな罠のオンパレード。危険は危険なのだが、アトラクションのような分かりやすい内容で底意地が悪くない印象。子供心に見たそれは今も部分焼き付いていてもはや自分にとっての「罠」イメージの原型になっているのかもしれない。
 この「底意地が悪くない」雰囲気は全編に浸透しており、悪役フラッテリー一家は殺人など凶悪犯罪お手の物のはずなのに、捕らえたチャンクの昔語りに聞き入ったり、データの施した仕掛けにことごとく引っかかったり、どこか憎めない「ホーム・アローン」の泥棒達のような感じ。他にもマイキーの兄ブランドは口うるさかったりするが、体調を気遣い友達と離ればなれになる悲しみには肩を抱いてやったり。基本的には壮大な足手まといであるチャンクも屈託の無い素直さでフラッテリー一家で虐待される醜い容姿の末っ子「スロース」と友情を結んだり――。
 嘘といえばそれまでだが、子供に贈るクリスマスプレゼントのように細部まで気を使った「優しい楽しさ」に満ちあふれている。曰く、世界は楽しく美しいものだよ、と優しい嘘で心に栄養を与えてくれるのだ。
 
 監督のリチャード・ドナーは「スーパーマン」も手がけており、劇中スーパーマンが登場するのはこのためなのだろう。
 
 

2019年11月18日月曜日

ラストスタンド

ラストスタンド Blu-ray

★★★☆☆
~激突までの見事な構成~

 2013年の米アクション映画。
 世の中にはさまざまな料理がある。気楽に食べる日常的料理から、特別な日に食べる高級料理。映画にも色々な立ち位置があり、立ち位置で優劣がつくことは無い。卵かけ御飯と懐石料理のどちらが旨いかについて、絶対的回答はないのである。
 この映画は大衆居酒屋で食べるうまい焼き鳥だと思う。決してコース料理のような高尚さは無いが、手間をかけてさまざまな部位が仕込まれており、炭火できちんと焼き上げられている。これに代替する食い物は見あたらない独自の魅力を持っている。

 メキシコ国境近くのへんぴな町で保安官をつとめるレイ(アーノルド・シュワルツェネッガー)はロサンゼルス市警で麻薬犯罪に立ち向かった経歴を持つが、いまは大きな犯罪も起こらないこの町で静かに過ごしていた。そんな町でおかしな事が続けざまに起こる。ダイナーで見かけた不審な男達。町外れの頑固じじいが朝牛乳配達を無断で休む。とどめはFBIを名乗る者からの電話――。
 麻薬王が脱獄して国外逃亡を図るために最後にここを通る……。強制された最後の砦(ラストスタンド)の保安官として、レイは数少ない仲間とともに決死の最終防衛戦を展開する――。

 カルフォルニア州知事を2004~2011年の2期7年つとめたシュワルツェネッガーが復帰後初主演した映画なので、それを前提にしたような台詞が散見される。「もうお前は未来のない老人だ」的な揶揄に「まだまだこれからだ」と答えてみたり、町の人から最近太ったね、と声をかけられたり。確かに往年の肉体の張りはなく、特徴的だったぎこちない身のこなしはただ堅くなった老人の体としか感じられなくなっている。ただし無骨で融通の利かない雰囲気、それを主張する眼光の鋭さは決して衰えては居らず、7年間の政治家としての生活が精神的な鋭さを増大させたような気がしないでもない。

 序盤、ラスベガスで進行する脱獄とメキシコ国境の町の様子が交互に描かれ、それが徐々に結びついていくという演出。それぞれの中心は麻薬王ガブリエルと保安官レイであり、まだ関連のない二人を混在させて描いていくことで、まるでボクシングのタイトルマッチを迎えるような期待感を積み上げていく手法が見事。ガブリエルの卑劣さが描かれるほど、レイの剛健さが描かれるほど、激突の瞬間が待ち遠しくなるのである。
 果たして二人の衝突は文字通りすさまじいもので、田舎のトウモロコシ畑で演じられるカーチェイスだったり、メキシコにつながる一本橋で繰り広げられるプロレス的格闘だったり、シチュエーション含めて満足たり得るものだ。
 
 その二人の周囲を固める人間達の立ちっぷりも見事で、幼なじみとのほんのりした三角関係、ボスに無理難題を積まれるマフィア組織員、短絡的だが強力な裏切り、のんきで図太い町の面々――。枚挙にいとまがない一癖二癖あるキャラクターが全編バランス良くちりばめられている。作品自体、脱獄のスリル、武装集団との大銃撃戦、超スピードのカーチェイスなど、盛りに盛ったゴージャスな内容となっており、串焼き各種の豪華盛りである。

 決して緻密な映画ではないが、豪快で外連味の効いた魅力あふれる良作だと思うが、興行的にはかなりの失敗だったらしくシュワルツェネッガーにとっても俳優業復活の痛い船出となっただろう。比べるのはおかしいが、例えば森田健作が再度俳優業に復帰したところで何の感慨も起こらないわけであるし、天下のシュワちゃんといえどもそのネームバリューは当時を知るものにとって信じられないほど低下しているということだろうか。

2019年11月15日金曜日

クーデター

クーデター [WB COLLECTION][AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

★★★★
~新種のゾンビ映画~

 2015年の米映画。アクションスリラーになるのかな?
 

 アメリカで事業に失敗したジャックは高額な給金に惹かれて海外で水道事業に関わる会社に入社。妻と二人の幼い娘を連れて東南アジアに赴任することとなった。心機一転と張り切っていたジャックだが、何の手違いか空港に迎えも来ていない。困っている家族に声をかけてくれたのはいかにも旅慣れた英国人ハモンド。友人とともにホテルについたまでは良かったが、先行き不安な展開に妻のアニーは後悔を隠せない。ジャックはただ謝るしかなかった。
 翌日新聞を求めて町に出たジャックだったが、様子が何かおかしい。ホテルに帰ってみると、暴徒が押し寄せて宿泊客を襲撃、殺戮している。実は昨日のうちにこの国ではクーデターが起こり、倒された国のトップと結びついて利権をむさぼっていた外国企業に関わる外国人――判別できないので結局は外国人全ては誅戮の対象となっていたのだ。
 妻と子供を守るため、ジャックは命をかけて奔走するが――。


 クーデターで一夜にして天地がひっくり返るその瞬間に折り悪く居合わせた普通の家族。天下のアメリカをはじめ先進諸外国が黙っていないだろうから、この状況も急速に静まっていくだろうが、それは外から見たスピード感。その場にいる者たちにとっては絶望的な一定期間がそこに現れるのである。しかも外国人は全てホテルに集まっているような発展途上国。押し寄せてきた暴徒と軍隊を防ぎようもなく、ほとんど全滅。
 家族以外の人間は、ほぼ全て敵。
 この設定、一時期爆発的に量産されたゾンビ映画と同じシチュエーションをゾンビ以外で生み出すことに成功していると言える。

 物語はジャック一家が次々と危険な目にあっていくことで進んで行く。幼い子供を助けるために、幼い子供自身の忍耐をきちんと要求したり、手助けしてくれる人が現れても永続しなかったり、逃亡劇としてもこれまでなかった切り口の数々を見せてくれる。自分達の肌を隠し、暴徒の只中を進んで行くシーンはゾンビ映画にはない今作ならではの緊迫したシチュエーションだ。
 ラストの急転直下な展開はヒッチコックの名作「北北西に進路をとれ」の最後を彷彿とさせる気持ちよさ。
 
 外国企業に食い物にされる発展途上国といった重めの題材が気になる人は、新種のゾンビ映画だと思って見るとややこしい事情を気にせずに気楽に鑑賞できるかも知れない。



2019年11月14日木曜日

ファイナル・カット

Final Cut

☆☆☆☆
~懺悔のシステム~

 2004年の米映画。ロビン・ウィリアムズ主演のSFサスペンス。
 

 近未来、脳にチップを埋め込んで見聞きした情報を全て保存する技術が確立。死後それを抜粋編集して追悼上映会を開くことが上流階級の人々の中で流行していた。記憶編集者アラン(ロビン・ウィリアムズ)は多くの人々の生涯を神のように見渡し、冷静にそれを編集。顧客ニーズに合わせた編集で売れっ子となっていた。
 とある大物の編集を依頼されたアランだったが、その記憶に犯罪の証拠が含まれており、暴く側と隠す側の抗争に巻き込まれることになる。アラン自身も過去のトラウマにつながる人物をその記憶から見つけてしまい、渦中に飛び込まざるを得なくなり――。


 これはどうやら宗教的なテーマを持った映画のようで、記憶編集者は懺悔を受ける牧師の位置づけであろう。記憶編集者自身は脳にチップを入れることを許されない。これは編集時の記憶が残ることで元の記憶が伝搬、拡散されていくことを抑制するルールであるが、つまりは懺悔の内容の秘匿、懺悔を受けた牧師の守秘義務である。また、死後覗かれることを確約する脳チップは第三者の視点を常に設定することであり、日々の生活を神の視線とともに過ごす信者と重なる。
 もう一歩考えを進めると、脳チップを頂かない編集者は神そのものの寓意なのかも知れない。だれにとがめられることもなく他人の人生を好きに視察しては、それを取捨選択して切り貼りする。まるで天国と地獄を判定する審判者のようだ。ロビン・ウィリアムズの演技はまさしくそういった空気を感じさせる。柔らかく微笑んでいてもその実何事にも興味がないような超越した雰囲気。善とも悪とも取れない不思議な存在感を放っている。

 そんなアランが過去のトラウマと向き合う機会を得、超越した立場から下界に降りてばたばたと苦しむことになるという物語であるが、同様に宗教的に解釈するなら、アランは自分自身の中の神に問いかけて平穏を得るという事になる。この作品、寓意のために物語が存在しているようなものなので、エンターテインメントではないし面白い映画とは決して言えないだろう。

 脳チップを埋め込むのは上流階級のみで、その他の階級の人たちは反対運動を行ったり、脳チップに干渉するという入れ墨を入れたりしている。いつも見張られているという状況を生む以外なんの利点も無い脳チップを進んで受け容れようとする人々と、それに反対する下層の暴力的な人々。そして、脳チップを埋めている人でさえ、償うべき大きな罪を犯しているという物語。
 神を信じても信じなくても、人はことごとく罪人でしょうか。



2019年11月13日水曜日

極道めし

極道めし [DVD]

★★☆☆☆
~約束された悲劇~

 2011年の邦画。バカ食い漫画で名を馳せる漫画家、土山しげるの漫画を原作としたハートウォーミングドラマ。

 とある刑務所のとある独房では年の瀬が近くなると毎年「おせち料理争奪戦」が開催される。
 部屋のメンバーが一人ずつ己の人生のなかで最も美味しかった料理を語りあげ、のどを鳴らした人数が多い者が優勝。年に一度の豪華メニューの中から一品ずつ奪うことが出来るというもの。
 今年も開催されるが新人だけは参加拒否。料理話は身の上話となるため各人にとって大切な瞬間を差し出していくことになるが、これに茶々を入れた新人とベテラン陣が衝突。独房にぶち込まれたあげく、ようやく新人も自分の「料理」を語り始める――。


 話の立て付けが分かりやすく、あとはいかなるエピソード、料理が飛び出すかに興味が集中される。そういう意味ではオムニバス映画と捉えることも出来る。エピソードは全て人情話であり、これを囚人が語るのだから後悔、喜び、失望、希望、不安といったさまざまな感情が込められることになる。どの話も「実刑くらって刑務所」が前提になっているため、沈むのが分かっている船の恋愛話のように常に切なさがつきまとうのだ。美味しい御飯はつまり幸せの象徴なので、そのコントラストが胸に迫る。

 新人以外のエピソードはほとんど簡易劇のような体で映像化されている。舞台で演じているのをそのまま撮ったような感じで、例えば海辺のバーベキューにおける海の表現は背後で波打つビニールだったり。安っぽいことこの上ないが、昨今見られない演出なので懐かしい気持も。
 致命的なのは料理の映像。イメージで逃げるでも無くしっかり映しているが、色気が無い。この作品における官能的存在、真のヒロインであるべき存在なのに、安っぽい蛍光灯の下でただ撮っただけといった風情。ストリップのように豪奢なライトで汗を光らせながら、七色に染めて欲しかった……。その辺のテレビの情報番組でももっと気の利いた料理映像を流していると思う。フードコーディネーターとか専門の写真家の協力を得るだけで、この映画は一段も二段も評価が上がったのでは無いか。

 新人のエピソードは落語における真打ち的な位置づけで、山田洋次の人間ドラマのように重く切なく見せる。ヒロイン木村文乃がとても可愛い。あんなラーメン屋店員いたら通うわ。
 出所後、このエピソードの結末が描かれるわけだが、悪くない。
 
 自分の人生一番の料理は何だったろう。そんなことを考えてしまう身近な映画だ。


 

2019年11月12日火曜日

スナイパー/狙撃


 ※Amazonの商品リンクです。

 ☆☆☆☆
~近接最強スナイパー~


 1996年の英/加(カナダ)映画。
 遠方から標的を銃撃する「狙撃手」を主人公としたアクション映画。
 

 ワックスマン(ドルフ・ラングレン)はさまざまな戦場を渡り歩いた歴戦の狙撃手。次の任務は建設途中に放置された高層ビル最上階からの狙撃。二名の守衛の目をかいくぐって侵入に成功。同時に狙撃補助者(スポッター)のクレッグは電気系統の点検を装って正面から侵入するが、その美しさから不良警備員オハラの性的興味を引いてしまう。
 ワックスマンは過去、クレッグ初任務時にパートナーを組んだことがあり、失敗、逃亡を共にした仲であったがなにやらただならぬ因縁がある様子で――。

 色々な失敗が散見される映画で、単純なのに分かりにくく、すっきりしない。
 
 ◆主人公達の位置づけが分からない
 冒頭過去の狙撃任務が描かれるが、何のために何をしようとしているのか説明皆無。辛うじて狙撃対象だけは分かるが意味不明。この任務は失敗に終わったがなぜ失敗したのかもよく分からない。ワックスマンの狙撃手としての腕前は披露されないので、凄腕とはとても思えない。この状態は終了まで続き、どういう団体に所属していて何のために戦っているのかまるで謎。そして当然狙撃手としての腕も不明のまま……。
 この不安感は思っていた以上に居心地が悪い最初にキャラを立てるのは非常に大切で、それにはある程度の素性(善か悪か)も必要なのだという教訓を得た。

 ◆スナイパーなめとんか!
 映画中ワックスマンが活躍しないわけではないが、この映画、決して狙撃手を描こうとはしていない。何せ「ロッキー4/炎の友情(1985年)」でアポロをぶち殺したロシアの殺人機械ドラコを演じたドルフ・ラングレンである。撃そっちのけで敵と殴り合い、近距離銃撃戦に興じる始末。見た目的にもそれが正しいが、言い訳程度に狙撃するのがきつい。なんと遠方のビル屋上の敵対狙撃手と立ち姿のまま狙撃合戦、敵の射撃を飛び退いて避けた後照準も合わせずに一発命中とか、スナイパーをなめてると思う。

 このように決して「スナイパー/狙撃」を名乗って良い内容ではない。原題が「Silent Trigger」となっておりまだこっちの方が無口な戦士的雰囲気に逃げられる感じ。邦題としては「ドルフ・ラングレンの近接最強スナイパー~あいつとおれと~」が内容雰囲気込みでジャストミート。あれ、結構面白そうじゃない?
 
 見所としてはドルフ・ラングレンの筋骨隆々な肉体美。Tシャツスタイルで主張する筋肉のラインはほんとカッコイイ。それと対比するようなグレッグ(ジーナ・ベルマン)のキリッと引き締まった女性の体の美しさがお互いを引き立てている。この二人が狙撃時間までの時間つぶしに体を重ねるのだからたまらん。グレッグが上着をグワッと一気にまくり上げるシーンが今作の最も美しいシーンだ。敵を排除しきってない状況で何しとんねん! と思うが迂闊とか危機管理とかそういう野暮はほっといてこのシークエンスを入れたのは作品魅力として正しい。これが無かったら虚無に近い。

 過去任務の逃亡劇が所々に差しはさまれて二人の因縁を描くが、何が因縁なのか分からない始末で物語としての意味はほぼ無い。ただ、この逃亡劇の方がビルからの狙撃よりはるかに面白いので、こちらだけをきっちり描いた方が良かったのではないだろうか。新人とベテランのバディものとしてまとまりも良かっただろう。



2019年11月11日月曜日

ブレイクアウト

ブレイクアウト [DVD]

☆☆☆☆
~豪華俳優共演の駄作~

 2011年の米映画。仕事を選ばなイメージに定評のある我らがニコラス・ケイジ主演のサスペンスドラマ。妻役にニコール・キッドマンが配され輝く美しさで画面を彩色している。
 

 ダイヤモンドディーラーのカイル(ニコラス・ケイジ)は美しい妻サラ(ニコール・キッドマン)そして娘エイヴリーとプール付きの豪邸を新築したばかり。携帯電話で取引相手と電話しながら上の空の返事をするカイルにサラは呆れ気味。ティーンエイジャーのエイヴリーはなんとか今晩のパーティーに参加しようと家を抜け出す算段に忙しい。どこかすれ違いばかり、上辺ばかりの一家に強盗が押し入ってくる。
 ふん縛られて金庫の中のダイヤを要求されるカイルだが、家族の命をかけられようがどんなに激しく打ちのめされようが、頑なに、あるいは口八丁手八丁に扉を開けることを拒み続ける。一体なぜそこまで解錠を避けるのか。カイルの抱えた問題はサラの問題にも連鎖し幸せな家族の裏側が強盗団の暴力によって披瀝されていく――。

 ニコラスとニコールはさすがの熟練された演技で観客を引き込まんとするが、いかんせん脚本が浅すぎて引き込む深さがないという残念な作品。強盗団の計画もお粗末であるし、カイルの問題も世知辛く小規模。サラの事情もミスリードが中途半端でエイヴリーにいたってはいてもいなくても良さそうな存在感の軽さ。強盗団の頭領とカイルのやりとりだけが緊迫感のある見せ場と言えるが、単発のやりとりが細切れに立ち現れるだけで積み重なっていかない。
 こうなるとサラ、ニコール・キッドマンの美しさだけが心の拠り所となるが、ミスリードを誘うためにだろうか、筋の通っていない行動が多発して感情移入できない。
 物語はそれなりの二転三転を見せるが、不思議なくらい上滑りしていき、「ふ~ん、そうかあ……」程度の感想しか出てこない。ラストもこれまでの展開に砂をかけるようなもので、いやはや制作上大きな問題があったのだろうか。
 
 総括としてはニコラスは仕事を選ばないなあ、ニコールは綺麗だなあに落ち着かざるを得ない。見なくて良いし、見てもすぐに忘れてしまうだろう作品。


 

2019年11月8日金曜日

海底47m

 ※Amazonの商品リンクです。  

★★★☆☆
~溜めと抜き、「恐怖」のカクテル~

 2017年イギリスのパニックスリラー。
 

 美人姉妹のリサとケイトはメキシコの観光地でバカンス中、知り合った現地青年に「ケージ・ダイビング」をすすめられる。ホオジロザメを魚の血でおびき寄せ、それを鉄柵の中に入ったまま海中で鑑賞するというスリリングなアトラクションだった。恋人から「退屈な女」と言われ捨てられたばかりのリサはケイトの積極的な誘いもあって二人でチャレンジすることになる。
 初めは問題なく間近で見るサメのスリルを楽しんだ二人だったが、ケージをつるす引き上げ機ごと船からもげ落ちてしまいそのまま海中に沈むことになる。海底に叩きつけられたショックで出入り口は開かなくなり、ケージ回りの照明こそ生き残っているもののボンベの酸素は有限、海上との無線通話も深度がありすぎて届かない。しかも海上までには多くのサメが待ち構えている。
 震度計が示すその場所は、海底47メートル――。

 まずは題名で微妙な印象を受けざるを得ない。海底47メートル。深いのか、浅いのか。素潜りの世界記録は122mらしいので、何とかなるようなならないような……。この微妙な設定が今作の恐怖を生む基盤になっているのだが、題名としてみるとなかなか引きが弱い。逆にそれがなんだろうという興味を引くのかもしれない。
 美人姉妹とサメと来れば、結末はともかくお色気満載だろうと見始めてみると、お気楽なバカンス気分は序盤のプール映像くらいでその後はほとんど水中マスクをかぶっている。顔全体を覆うガラスの広いタイプなので表情も見やすいが、お色気にはほど遠い。また、思いのほか恐い。サメによるパニックというよりも海底の孤立感の方が恐怖の主体となっていた。

 47メートルも一気に潜って普通に活動するなんて可能なのだろうか、とか、ボンベの酸素よりも普通の水着しか着ていない二人にとって低体温の方が問題になるのではないだろうか、など疑問は浮かぶが海底の密室劇としてそのシチュエーション特有の問題が次々発生するので設定としてすぐれていると思う。
 海底に落ちてからは姉妹二人しか登場せず、どちらか一方の酸素が足りなくなったり、一人だけで救援を求めにいったり、二人しかいないのにそれも分断される展開。心細さがさらに増幅される。酸素欠乏による真綿で首を絞めるような緩やかな絶望と、突然襲いかかるサメの一気に立ち上がる恐怖。決定的シーンのための前振りを引っ張って引っ張ってからの……ドーン! おきまりといえばそれまでだが、限られた材料を上手く組み合わせて緩急良く配置。まるで恐怖を上手く混ぜ合わせたカクテルのようで飽きさせない。特に引っ張りと決定的瞬間の時間比率は差が大きく、分かりやすくいうとサメは一瞬しか出てこない。予算の都合なのかもしれないが、スリラーとして実に効果的。
 
 ラスト回りの展開については最後までサービス満点だなという感想。気が利いているともとれるし、そうしなくても、とも思う。突然怒濤の展開となるので結末がちょっと分かりにくくなっているが、普通に演出などから内容を追うなら、二人無事には戻れなかった辛い展開の方が本筋なのは疑いようがない。


 

2019年11月7日木曜日

バレット

Bullet to the Head [Blu-ray] [Import]

★★☆☆☆
~ドヤ顔地獄のアクションコメディ?~

 2012年の米映画。
 大雑把で時代遅れながら実戦では圧倒的な力を発揮する歴戦の猛者。スタローンを当て書きしたようなぴったり具合に、これは「ロッキー」や「エクスペンダブルズ」のような「スタローンの、スタローンによる、スタローンのための」映画なのかと思いきや、「レッド・ブル」「48時間」のウォルター・ヒル監督によるフランス漫画原作の作品だった。
 

 暗殺を生業とするジミー(シルベスター・スタローン)はいつものように相棒ルイスと仕事を行うが、その帰路に何者かに襲われルイスは刺殺。復讐を誓うジミーの前に現れたのがスマホでの情報収集を得意とするテイラー。彼はとある事件を追って遠方からこの地に派遣されており、現地警察とは独立して捜査を行っていた。
 テイラーの情報が必要なジミー。現地ガイドと実戦担当が必要なテイラー。お互いが超法規的(法規無視的?)に手を組んで事件の真相を追うことになった――。

 狙った味なのだろうが2012年とは思えない懐かしい感じの演出、展開、大味さ。こういうのも悪くないわあ……と開放感を感じる内容。
 殺し屋ジミーの後先考え無さがもはや意表を突かれるレベルで、一周回って新しい。コンビ組んだ刑事の前で何の遠慮もなくバンバカ容疑者を銃殺していくんだからすごい。撃ち合いの末とかでなく、拉致して絞り上げて銃殺とかも平気でやる。ウイスキーかっくらった後で運転も当たり前。こういう行為さえ最近の売れ筋映画ではとんと見かけなくなっている事に改めで気づかされた。やらかした後は、あれ、それ上手く言えてる? というようなよく分からん言い回しのキメ台詞(?)でにやりドヤ顔たまらんといえばたまらん。

 刑事テイラーは筋骨隆々なのに特に大きな見せ場無くジミーの影を踏んで歩くだけの陰キャ状態。暗殺者と刑事のコンビというより暗殺者に引きずり回される役割でそもそも得意の情報収集も、警察のオペレーターに「おしえてグーグル先生!」みたく質問投げて聞くだけ。ただの伝言ゲームの中間役なのにドヤ顔で威張っているのだからちゃんちゃらおかしい。しかも敵方に情報をどんどん流してしまう能無し具合。結局最後まであまり役に立たず、何人か撃ち殺したかな? 程度。そのくせジミーの娘に手を出して最後にはわざわざジミーに「とても深い関係になった」とか出来てます宣言。ここで容赦なく撃ち殺されていれば作品として1本筋が通ったかもしれないが、ジミーはまたよう分からん台詞でドヤ顔のエンディングたまらん。

 見せ場として印象的なのは他で見たことがない「斧vs斧」の戦闘。パワー炸裂で一撃必殺感がとても強く、緊張感のある戦闘を楽しむことが出来る。
 他にはスタローンの何気ない仕草。カウンターで酒飲んでキョロキョロするだけのシーンがすでに魅力的でスターのオーラを感じさせる。

 この作品は同監督の「48時間」的なコメディだったのかもしれない。だが、う~ん、それには主演二人にコメディっぽさが無さ過ぎるよね。いや、スタローンには根底で何をやったも面白みがあるのでひょっとして向いているのかもしれないが、ロッキーやランボーでカッコイイ姿から入ってしまった自分などには笑うのがはばかられてしまって……。自分の敬愛する田中邦衛を連想してしまうからかも。

 ――いや、読んでる人いるのかというこのブログの状況をバリヤーに書いてしまうと、スタローンは昔からどんな役をしても障害者っぽい。実際「言語障害」と「顔面麻痺」の障害持ちということだがそれだけではない、動きや行動判断(役柄)含めて、そういった雰囲気、オーラが出ている。だからこそ下克上的な物語の爽快感が他の役者よりも格段に強いのではないかと思うが、同時に、「笑ったら駄目!」という縛りが自分の中でオートマチックに発動されてしまっている。強固に積算されてきたモラルが、スタローンのコメディーを阻んで、だけとコミカルなのでお腹がこそばいというか苦しいというか、独特の反応が彼の作品では立ち上がってくるのだ……。そんな風に感じている人、他にもいるのではないかなあ……。


2019年11月6日水曜日

96時間

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★★★☆☆
~金科玉条を得た獣~

 2008年のフランス映画。脚本にリュック・ベッソンが名前を連ねている。
 

 元CIA工作員のブライアンは離婚して別居している一人娘キムの良い父であろうと奮戦しているが、危険に合わないようにと様々な制限を言いつけては敬遠される事をくり返していた。ティーンエイジャーのキムはそんな親心を知らず、友人アマンダとパリ旅行を企画。ブライアンは渋々これを了解して送り出すが、二人は脇の甘さからパリに着いたとたん襲撃を受け、外国人を誘拐し売春強要する組織に囚われてしまう。
 接続したままだった携帯電話で一部始終を聞いていたブライアンは元同僚と共に犯人の当たりをつけ、単身パリへ向かった。誘拐事件被害者の生存可能性が高いといわれる制限時間は――96時間。

 時間制限があるため、正当な手順を踏んでいては間に合わない! 自分で娘を救うしかない! という前提がドカンと爆誕し、ブライアン個人VS犯罪組織の図式が形成。娘の命のためなら法を犯そうが無視という姿勢は、刑事(刑事じゃないけど)物にありがちな法遵守の縛りから解き放たれた猛獣というおもむきで非常に爽快。各所で事件を起こすことになるので警察にマークされていくが、一般市民にはそれほど迷惑をかけていないので嫌悪感もない。

 娘を救うために! ともかくこの単純きわまりない目的が非常に強く、分かりやすい。狂ったようなブライアンの猛進もやり過ぎに思えるような容赦無さも全て納得させてしまう。普通なら御都合主義に過ぎて冷めそうなピンチからの脱出シーンも、娘の無事に直結するため「良かった!」と嬉しくなってしまうのである。まるで水戸黄門の印籠のような力で映画全体が一つの力にまとめられている。

 娘の身柄は追っても追っても次の場所が示される逃げ水のような展開。様々なシチュエーションでブライアンの活躍を見る事ができる。その無双ぶりは、事件前にキムの義理の父(元妻の再婚相手)の裕福さに惨めな思いをするブライアンが描かれていることでさらに爽快感が増している。こういった物語全体としてのタメは非常に重要だと感じる。

 続編が二作あるようだが、本作の「娘のために」といった中心軸がきちんと用意出来るかどうかが重要だと思う。また娘が誘拐されるわけにも行かないし、どういった手立てがあるだろうと想像するのも楽しい。機会があればこれらも見てみたい。


2019年11月5日火曜日

ホワイトハウス・ダウン

ホワイトハウス・ダウン [Blu-ray]

★★★★
~ホワイトハウスでダイ・ハード~

 2013年の米映画。「GODZILLA」「インディペンデンス・デイ」「紀元前1万年」で知られるローランド・エメリッヒ監督。
 監督作品は良くも悪くもおおらかな設定、展開が映画ファンの突っ込み心を刺激するため、基本的に評価は低めであるが、その特性を「予期できない意外性のある展開」と受け取ってしまえるなら、娯楽作品として非常に高品質の作品を排出し続けている。
 今作は身構える必要の無い娯楽アクション映画として非常に面白い作品だ。
 
 問題山積みの冴えないおっさんがテロ事件に巻き込まれて巨大施設に監禁状態。こそこそ動き回って反撃。
 
 内容はまさにダイ・ハードで、その面白さも負けてはいない。
 舞台はアメリカの政治中枢機関としてあらゆる映画にも登場してきたホワイトハウス。観光客のツアーも組まれる開かれた施設でありながら、万全の防御設備がプロフェッショナルにより運営される難攻不落のアメリカの象徴。規模も大きくギミックも様々。庭を含めるとシチュエーションも多用で、まさに追いかけっこやかくれんぼに絶好の環境である。
 ここが一気にテロリストによって陥落するのだが、なぜこうも簡単に……という部分のリアリティについては、示される原因で自分的には充分納得できた。主人公の娘の行動や、解決を図る外部の者たちの判断など、なんでやねん! の部分は非常に多いが、それらもキリキリと悪化していく状況の演出として十二分に作用しており、不利な展開に気をもむ観客の反応の範疇だろう。いきなり戦闘機で攻撃しようとしたり、特殊攻撃部隊がほぼ独断でヘリで駆けつけたりと無茶苦茶なのだろうが、それによって起こる状況が面白いのでよっしゃよっしゃと楽しんでしまう。

 登場人物は多いが上手くキャラ付けされており、誰もが想像の余地ある興味深い人物として演出されている。特にテロリストのハッキング担当者とホワイトハウスツアーのガイドは出番こそ多くはないが要所要所で存在感を見せてくれる。こういった人物が、作り話を魅力的にしてくれるのだ。
 
 ホワイトハウス内でのいざこざと別レイヤーで進む大統領権限の自動移行とその顛末も非常に面白い。テロリストの本当の目的と相まって最後まで物語を引っ張ってくれる。
 
 自国の官邸が襲われるとなるとリアリティラインが厳しくなるのは当然なので、米国民には楽しみにくい部分が多いのかもしれないが、もとより映画でしか見たことのない、重要施設くらいの認識しか無い一般的日本人の自分にとっては、全編興味深く楽しむことの出来る娯楽大作だ。


2019年11月4日月曜日

15ミニッツ

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★★★☆☆
~デ・ニーロがキュート~

 2001年の米国映画。常軌を逸した犯罪者がテレビメディアを巻き込んで起こす犯罪の一部始終が描かれるアクションサスペンス。
 
 ニューヨーク市警の顔としてメディアに頻繁に登場する有名刑事エディ。消防署員の犯罪調査係であるジョーディ。かつての犯罪仲間から分け前を回収するために現れたエミルとウルグ。
 三者三様のメディアに対するスタンス。それら全てを飲みこんでいくメディア、つまりは情報を希求する民衆。結局のところ「有名でさえあれば犯罪者だろうが刑事だろうが構わない」というルールに支配され、恣意的な情報に操られる社会に問題提議する内容となっている。
 
 刑事エディを演じるロバート・デ・ニーロがやはり魅力的。メディアを疎ましく思いながらも上手く利用するという老獪な刑事役にピタリである。取材で見知ったであろう女性キャスターとねんごろだが、いざプロポーズしようとしてなかなかうまくタイミングを取れない純情な側面もキュート。
 彼に比べると若手の調査員ジョーディはどうしてみ魅力が薄く感じられる。理想を掲げるものの、様々な状況に揺り動かされ、一貫性に欠ける行動をくり返してしまう。
 サイコ犯罪者エミルとウルグは行き当たりばったりながら、運なのか能力なのか、社会の隙というか痛いところを上手く突いて犯罪を繰り返していく。感情移入しようもないが、何をするのか分からない不気味さ、理解できないこだわりが生み出す悪の一貫性が吸引力を持つ。特にウルグが最初からずっと回しているビデオカメラの映像は、本人のサイコっぷりを遺憾なく表現しているし、シナリオ的にも重要な役割を担っている。暴力的映像が価値を持つテレビの事情を映画で見るという入れ子構造は、意味の有無はともかくめまいがしそうだ。

 作品としてはまさかの主要キャラ途中退場という意外な展開、この話この後どうまとめるんだよ、というとっ散らかり具合からの力業で何となくまとまったように終了。オチはともかく驚きは大きく、それだけで観る価値はあるかも。

2019年11月1日金曜日

鍵泥棒のメソッド


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★★★★
~伏線が編み上げる物語~
 
 2012年の邦画。監督は「アフタースクール」で映像の叙述トリックを見事に決めた内田けんじ。
 

 完全無欠の暗殺者コンドウ(香川照之)とひょんな事から立場が入れ替わってしまった売れない役者桜井(堺雅人)。
 記憶を失い貧乏生活で己を探すコンドウ。お金を手にしたが暗殺者としての役割を強要される桜井。
 これに、結婚することを周囲に宣言してから婚活に突入する脅威の計画魔キャリアウーマン水嶋(広末涼子)がからんできて――。

 もうこの設定と役者陣だけで面白そう感がすごい。
 さらに映画を観ていて「脚本がすごいなあ」と思う事はほぼ無いが、この作品ではそれがひしひしと感じられた。情報の出し方とその分量が非常に的確なのである。監督脚本が共に内田氏なので、脚本と演出が一直線に繋がっていることもそう感じさせる理由だろう。
 画面の端で写っている物や行動が、絶妙な違和感で記憶に残り、それがテンポ良くこまかく回収される。伏線というには物語に絡まないような情報が蜘蛛の巣のように張り巡らされ、登場人物の人柄、これまでの人生が手触りのように伝わってくるのだ。
 小さな伏線が寄り集まり、大きな伏線となって物語に驚きと発見を絶えず注ぎ込んでいく。そうこうしているうちにきれいなエンディングに至り、本当に気持ち良く手のひらで転がしてくれる。
 
 欠陥なのか優位点なのか分からない特徴を持つ特徴的な人物達が、己に誠実に動き回った結果巻き起こった騒動。主要キャラも脇役も、全員が丁寧に描かれ、愛すべき存在となっている。
 面白い映画を観たなあという清々しい達成感。幸せな気持ちになれるオススメの一作。