★★☆☆☆
~約束された悲劇~
2011年の邦画。バカ食い漫画で名を馳せる漫画家、土山しげるの漫画を原作としたハートウォーミングドラマ。
とある刑務所のとある独房では年の瀬が近くなると毎年「おせち料理争奪戦」が開催される。
部屋のメンバーが一人ずつ己の人生のなかで最も美味しかった料理を語りあげ、のどを鳴らした人数が多い者が優勝。年に一度の豪華メニューの中から一品ずつ奪うことが出来るというもの。
今年も開催されるが新人だけは参加拒否。料理話は身の上話となるため各人にとって大切な瞬間を差し出していくことになるが、これに茶々を入れた新人とベテラン陣が衝突。独房にぶち込まれたあげく、ようやく新人も自分の「料理」を語り始める――。
話の立て付けが分かりやすく、あとはいかなるエピソード、料理が飛び出すかに興味が集中される。そういう意味ではオムニバス映画と捉えることも出来る。エピソードは全て人情話であり、これを囚人が語るのだから後悔、喜び、失望、希望、不安といったさまざまな感情が込められることになる。どの話も「実刑くらって刑務所」が前提になっているため、沈むのが分かっている船の恋愛話のように常に切なさがつきまとうのだ。美味しい御飯はつまり幸せの象徴なので、そのコントラストが胸に迫る。
新人以外のエピソードはほとんど簡易劇のような体で映像化されている。舞台で演じているのをそのまま撮ったような感じで、例えば海辺のバーベキューにおける海の表現は背後で波打つビニールだったり。安っぽいことこの上ないが、昨今見られない演出なので懐かしい気持も。
致命的なのは料理の映像。イメージで逃げるでも無くしっかり映しているが、色気が無い。この作品における官能的存在、真のヒロインであるべき存在なのに、安っぽい蛍光灯の下でただ撮っただけといった風情。ストリップのように豪奢なライトで汗を光らせながら、七色に染めて欲しかった……。その辺のテレビの情報番組でももっと気の利いた料理映像を流していると思う。フードコーディネーターとか専門の写真家の協力を得るだけで、この映画は一段も二段も評価が上がったのでは無いか。
新人のエピソードは落語における真打ち的な位置づけで、山田洋次の人間ドラマのように重く切なく見せる。ヒロイン木村文乃がとても可愛い。あんなラーメン屋店員いたら通うわ。
出所後、このエピソードの結末が描かれるわけだが、悪くない。
自分の人生一番の料理は何だったろう。そんなことを考えてしまう身近な映画だ。
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