★★★★☆
~フレンチトーストにはじまりフレンチトーストに終わる~
1979年の米映画。ダスティン・ホフマン主演で描く離婚した男女の息子を巡るヒューマンドラマ。
一時期民放の映画枠で頻繁に放映されており、古い記憶に引っかかっている同年配は多いだろう。題名の意味をずっと取り違えていて、初めは「すっごく泣き叫ぶ」みたいに思っていた。「cry」の活用だと思っていた模様。次には「クレームを入れる人の戦い」にうつる。自分の主張をぶつからせて裁判で争う姿になかなかぴったりかもしれない。で、ようやく理解した正解は父親「テッド・クレイマー」と母親「ジョアンナ・クレイマー」の争いだということ。原題は「Kramer vs. Kramer」なので、これを見れば一目瞭然であった……。
仕事中毒で家庭を顧みないテッド(ダスティン・ホフマン)は自分も社会に出たいと願う妻ジョアンナの気持を一顧谷せず、二人の溝は深まる一方。ある日とうとうジョアンナは5才の息子ビリーも置き去りに家を出てしまう。妻と母に捨てられた形の二人は共同生活を試みるが、ジョアンナの担っていた役割は大きく暮らしはなかなか安定しない。ぶつかり合い、怒鳴りあいながら何とか協力し、二人の絆が深まっていく。そんな折、唐突にジョアンナが養育権の奪取を目指して裁判所に申し立てを行った。奇しくもテッドは会社を首になった直後であり、どうにも不利な状況である――。
父子のやり取り、徐々に深まっていく絆の表現が素晴らしい。5才の息子を持つ自分にとってまさにクリティカルな内容であり感じるところが多々ある訳だが、息子ビリーの演技が全く素晴らしい。演技というより自然な振る舞いがうまく引き出されているという感じだろうか。
当時は母親ジョアンナがビリーを置いて出ていったというのが信じられなかったが、改めて見ると家事育児に追われて自分という存在が圧死しそうになっている母の姿は確かに追い詰められており、半ば病的な雰囲気で仕方がないと思える。出奔して生活が落ち着いたらすぐ取り戻そうとする方針転換の唐突さにも嫌悪感を抱いていたが、そりゃそうするよなあと納得させられてしまう。父子の生活を勝手に引き裂こうとする悪役としてしか見ていなかったが、彼女の切実さにも心を打たれる。妻にもきちんと心を配り、育児の苦労を分かち合っていかなければならないと改めて心に誓う。
経験によって作品から受ける印象が変わるのは当たり前であるが、今作は自分にとって特に変化が大きかった。
名シーンとして心に残っているのは、やはり枯れた木々の並木道での母子の再会シーンだろう。父に気を使いながらも母の元に向かうビリーの姿。
そして外せないのはフレンチトースト。最初のフレンチトーストと、最後のフレンチトースト。美しい対比、物語を象徴する名シーンだ。
現時点でさえ公開して40年。もはや時代を超えた名作だと断言できる。
ところで今作は1979年公開作品だが、当時でさえこういった親権裁判がアメリカで大きな社会問題となっていたということだ。映画の軸となる題材は世情を強く反映する。昨今の映画で最も重要な愛情関係は親と子の物になっていて、これに比べれば夫婦間、恋人感の愛情は永続しない一過性のものという扱われ方が多い。確かに基本設定が「離婚した夫婦」と「その子供」となっている映画のなんと多いことか。もう離婚は当たり前なのだ。
こういった傾向は米⇒日本の順番でタイムラグをもって伝搬する。一昔前は洋画の離婚設定に違和感を感じていたが、いまや当たり前に受け容れてしまっている。日本でも離婚は当たり前の存在になったということだ。脳天気と言われても、男女が惹かれあって結ばれるハッピーエンドが自分は好きだ。二人は末永く幸せに暮らしましたとさ――。
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