2011年2月25日金曜日

スペースバトルシップ ヤマト

 SPACE BATTLESHIP ヤマト スタンダード・エディション 【DVD】

☆☆☆☆
~パッチワークドラマ~


なにはともあれ日本アニメの一時代を築いたコンテンツの実写映画化。期待する客層は三十代~四十代の男性だろう。むろん自分もしっかり当てはまります。
全編にわたりつぎはぎ感がひどい。

物語。
魅力的な敵役をばっさり削除。それをえがくのには時間も予算も技術も足りなかっただろう事は伺えるので、完成に向けた英断ともとれるが、ドミノだおしのように様々な設定が連鎖的におかしくなっている。
敵役と対をなす味方、松本零士の作品には欠かすことの出来ないミステリアスな女性が消えた。この削除によって、彼女に促されて希望をもって旅立つという動機がなくなる。ヤマトという輝かしい存在が、ただの打ち上げ花火に駄している。

キャラクター。
設定を生かそうとしているのかどうなのかすら分からない。
主人公古代は木村拓哉が演じているが、これがもう木村拓哉以外の何者でもない。月9やバラエティーでイメージされる彼が、何の飾りもこだわりもなくヤマトに乗り込んでいるのである。狂気だ。
彼だけかと思えば作品の重石になるべき艦長(山崎努)が、ただの老害、最早ぼけかけて一貫性のない判断を下す愚か者という印象。影の薄さも相当だ。
佐渡先生、森雪なども同様。西田敏行の徳川機関長は出番が少なくてあらが目立ちにくかったが、やはりやばい。
それぞれの改変の意味は、古代を伝説の戦闘機乗りとして物語の主軸にすることなのだろうが、まるでもしもボックスで狂わされたいびつな世界のようだ。
それならそれで諦められるのに、柳葉敏郎がやってくれた。彼の演じる真田さんは完璧である。表情、しゃべり、立ち居振る舞い。まさに真田さんの具現化。そのすばらしさが心の安らぎであった。が、きちんと演技している彼だけが浮いているあたり、悪貨が良貨を駆逐している。

映像表現。
実写とCGがかっちり分かれてしまっている。それぞれが勝手にヤマトという作品を作って、それを何とかかんとかくっつけている。
実写はもう、制作側の事情が見えすぎて気の毒になる。ネームバリューのある役者を総動員した結果、スケジュールがとんでもなくタイトになったのだろう。長回しのマルチカメラ撮影。後編集で何とかするかというゆるんだ空気が端々に見える。同時に撮影所にいた役者しか同時に登場しないという制限も如実に感じられる。撮影期間は驚くほど短かったのではないだろうか。
マルチカメラの弊害か、セットは不自然に開放感にあふれてどうにも演劇を眺めている雰囲気に。その上巨大戦艦の内部だというのにセット自体はこぢんまりと小規模、かつ数が少ない(五・六カ所)なのが涙を誘う。格納庫など、どう見てもフェリーの車庫部分なのが丸わかりだ。
CGはCGでまとまりがない。重厚感、現実感を出したいのか、アニメっぽいあり得ない動きの格好良さを見せたいのかがあやふや。各パートの担当者が好きなように作ったような印象。
冒頭の艦隊戦のように目を見張るCGシーンも多いが、ともかく一貫していないので見ていてがたがたな印象なのだ。天下の波動砲が通常兵器のようにぞんざいに描かれているのも残念。
このような不安定なCGシーンに学芸会の映像が挟み込まれているわけだ。

以上のように、今作は非常に厳しい内容だ。救いなのは柳葉による真田さんとアナライザーの扱い。この二つだけは実写とCGにおいてそれぞれに気を吐いていたと思う。

だが結局、見るに値しないかというとそうでもない。
失笑する事も多いが、今のCG技術で描かれたヤマトは格好良いと思うし、破綻した物語もイケメンDQNにツンデレ女がなびいていく恋愛ものとすれば、絶対評価ではひどい内容でもその他邦画、ドラマと比べた相対評価なら及第レベルだ。
結局不幸は期待したものと現実の差異が生む。だから、それなりのつもりで見に行けば、制作者の思惑と苦労が透けて見えるよくある映画で済む。

2011年2月19日土曜日

ウォール・ストリート

~人情ドラマ~
★★★☆☆

この二時間は人生の糧になる! というようなコピーであおり立てているが、別段そうでもない。すべての映画が、その出来不出来や内容に関わらず、誰かにとっては糧になる映画である程度には、糧になるだろう。

だが、おもしろくないかと言えばそんなことは決してない。するすると進んでいく物語、一転二転する情勢の変化など最後まで興味を持って楽しむことが出来る。経済に対する知識がないと楽しめないという事はなく、むしろ知識がある方がディティールに引っかかってだめかも知れない。
自分は多少の投資経験がある程度だが、舞台は遙かに大規模な会社、国レベルのやりとりなので、専門用語は意味不明だ。それでも映画を楽しむのに特段不利にならない。そもそもこの作品は経済ドラマとして売ろうとしているが、実際は古くさい区分にはいりそうな人情ドラマであり、作っている側もそれをよく分かっている。
株価の激烈な変動やネットの情報の流れを実写に合成して象徴的に見せたりと、分かりやすさを重視して物語を進めているように思う。

売り方が内容と剥離気味なので知的な経済ドラマを期待しすぎると厳しいが、親子の確執、個人と他社の関係性など、人間ドラマとしては十分に楽しむことの出来る作品。

フォーエバーフレンズ

フォーエバーフレンズ [DVD]

★★★★
~長い時間を共に~
テレビのぞんざいな映画枠で放送されているのを観た。
自分の選択では観ないだろう映画にふと触れさせてくれる。テレビ放送の映画で意外な出会いを果たすことは少なくない。
この映画がまさにそれで、誰もが抱える人生の空虚を埋めてくれる、優しい作品。渇いた心に染み込んだ。

押しも押されぬスター歌手が、ライブの前日に受けた一本の電話。彼女は迷うこともなく全てを置き去りにして、一路西海岸へ向かう。
なぜそのような馬鹿なことをするのか、判断の天秤に乗った想いは、どのようなものなのか。その興味に答えるように、彼女の回想によって物語は数十年前に巻き戻る。
幼い日出会った同性の友人。かたや見せ物小屋の子役芸人。かたやハイソサエティの令嬢。
二人は意気投合してその後文通友達となる。出会うことはなくとも、近況を記しお互いの生活を認識しあう。長い間ずっと心のそばにいたのである――。

こういった関係は、確かにある。
自分も小学校時代の友人と、年賀状だけのやりとりを10年近くも行ってきた。そんなの普通だと言うかも知れないが、異なるのは、年一通のその年賀状が一年の近況を記した文字でびっしりと埋まっていたことだ。こちらも彼への年賀状だけは同じように一年の総括を書き込んだ。
昔から知る友人が、自分とは異なる場所できちんと生きている。
それはとても暖かい事だ。一人ではないという証明。見えないところにも世界は確実に存在しているのだという存在感。
そういった経験が少しでもあるなら、プロにあるまじき彼女の行動がとても自然に受け止められる。
人は現在にしか生きられないけど、その人間を形作る魂は、過去が培ったものだ。今の自分を愛するなら、同等に、その長いつながりを大切にしなければならない。

幼い頃から人生なかばまで、長い時間を楕円軌道のような距離感で過ごした二人の友情。
最後まで丁寧に描かれたこの物語は多くの人に愛される佳作である。

<追記>
 上述した年賀状友人。
 ある時その母君からのはがきが届いた。

 友人はカヌーの川下りの事故で亡くなったとのこと。

 帰省の折、それまでの年賀状を携えてオタクまで伺った。
 小学校の時、遊びに行ったことのある家。

 母君ははがきのコピーをファックスでとっていた。

 同じ年の友人でも死んでしまうのだと思い知った。
 友人には会える時に会い、話をするべきだ。

 これももう20年前の出来事。忘れていないよ。S・O。

ナルニア国物語 第3章アスラン王と魔法の島



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★★☆☆☆
~色々苦しい~ 

児童向けファンタジーの草分け第三弾。
試写会にあたったのでいそいそと出かけてきた。
一章は見たが、二章は未見。

シリーズ初の3Dを売りにしているが、その出来はあまり良くない。
立体感が奇妙に感じるシーンが多く、どうやらこれは後付けの3Dではないか。おそらくCG部分やエフェクトはきっちり3Dで作っている。だが実写撮影は通常のカメラで行われ、後処理で3D情報を付加してほかの要素と合成しているのではないだろうか。
その後処理がうまく行っている部分は良いのだが、ラスト直前の人物アップで鼻の回り全体がずれて隆起したように感じる所など、おかしい部分は明らかにおかしい。
「クラッシュ・オブ・タイタン」よりも遙かに良い3D映像ではあるが、どうにもあらが見えて没入の妨げとなっている。

物語はどうにも説教臭く、また、特定の方向性を感じる。いわく、キリスト教の説話っぽいのだ。なにがなにを象徴しているのかを考えることも出来そうだが、そこまでの興味を覚えない。
登場人物の心情はどうにもつぎはぎで一貫性がなく、エピソードを羅列しただけの印象。二章を見ていないから、というだけではないちぐはぐ具合を感じた。
そもそも旅の目的が曖昧。どこになにをしに行くのかどうにも判然としないまま「純粋な悪」を倒せとか言われて失笑。

失笑といえば狂人の表現に余念がない。この物語でもっとも醜く、嫌悪を感じたのは使命感をもった貴人が恐怖に奇人になり果てた姿だ。これがもうびっくりするほどのネガティブ大活躍で、あまりの働きに爆笑した。
これなどは使命を諦めた、堕落した人物への恣意的な罰を描いたのかと勘ぐってしまう。

ほとんど唯一と言って良いくらい心和むのが、人語をしゃべるネズミ剣士だ。ネズミというより寸詰まりのフェレットのていだが、その躍動感と愛らしさ、毛のもふもふした感じなど見ていて前のめりになってしまう。同様にしゃべるライオンも出てくるが、たてがみの美しさに手を伸ばしたくなる。3D映画だしね。

見終わった後ポスターを見ると、売り方も苦しい。ほとんど登場しない端役が大きな面積を締めているのに気がつく。同様に児童ファンタジーの映画化「ライラの冒険」は続編の噂を聞かないので、それに比べ続編が出るだけの人気はあるのだろう。試写会は子供連れが非常に多かったが、話は分からずともネズミ剣士は人気があるようだった。