★★★★☆
~長い時間を共に~
テレビのぞんざいな映画枠で放送されているのを観た。
自分の選択では観ないだろう映画にふと触れさせてくれる。テレビ放送の映画で意外な出会いを果たすことは少なくない。
この映画がまさにそれで、誰もが抱える人生の空虚を埋めてくれる、優しい作品。渇いた心に染み込んだ。
押しも押されぬスター歌手が、ライブの前日に受けた一本の電話。彼女は迷うこともなく全てを置き去りにして、一路西海岸へ向かう。
なぜそのような馬鹿なことをするのか、判断の天秤に乗った想いは、どのようなものなのか。その興味に答えるように、彼女の回想によって物語は数十年前に巻き戻る。
幼い日出会った同性の友人。かたや見せ物小屋の子役芸人。かたやハイソサエティの令嬢。
二人は意気投合してその後文通友達となる。出会うことはなくとも、近況を記しお互いの生活を認識しあう。長い間ずっと心のそばにいたのである――。
こういった関係は、確かにある。
自分も小学校時代の友人と、年賀状だけのやりとりを10年近くも行ってきた。そんなの普通だと言うかも知れないが、異なるのは、年一通のその年賀状が一年の近況を記した文字でびっしりと埋まっていたことだ。こちらも彼への年賀状だけは同じように一年の総括を書き込んだ。
昔から知る友人が、自分とは異なる場所できちんと生きている。
それはとても暖かい事だ。一人ではないという証明。見えないところにも世界は確実に存在しているのだという存在感。
そういった経験が少しでもあるなら、プロにあるまじき彼女の行動がとても自然に受け止められる。
人は現在にしか生きられないけど、その人間を形作る魂は、過去が培ったものだ。今の自分を愛するなら、同等に、その長いつながりを大切にしなければならない。
幼い頃から人生なかばまで、長い時間を楕円軌道のような距離感で過ごした二人の友情。
最後まで丁寧に描かれたこの物語は多くの人に愛される佳作である。
<追記>
上述した年賀状友人。
ある時その母君からのはがきが届いた。
友人はカヌーの川下りの事故で亡くなったとのこと。
帰省の折、それまでの年賀状を携えてオタクまで伺った。
小学校の時、遊びに行ったことのある家。
母君ははがきのコピーをファックスでとっていた。
同じ年の友人でも死んでしまうのだと思い知った。
友人には会える時に会い、話をするべきだ。
これももう20年前の出来事。忘れていないよ。S・O。
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