2010年5月12日水曜日

ルパン三世 バビロンの黄金伝説

ルパン三世 バビロンの黄金伝説 [DVD]

☆☆☆☆
~あなたを愛しているわ~


ルパン三世の劇場第三弾。
第一弾「ルパン VS 複製人間」、第二弾「カリオストロの城」が評価を高めているのに対し、本作はもはや無かったような扱い。だが、確かにそれも仕方がない。

テレビのサードシリーズ、ピンクジャケットのルパンが今作の主人公だ。
サードシリーズは原作の洒脱な画風を強調したものになっており、見方によっては雑や手抜きに見える。今作は残念ながら「味」で済む範囲を超えて、クオリティが低い
全体の構成もテンポが悪く、おなじみルパン&銭形のカーチェイスが妙に長かったり(しかも映像の使い回しが多い!)、会話がつぎはぎでうまく流れてなかったり。
コミカルな表現もサードシリーズで強調される部分だが、アニメーションの動きとして出来が厳しく、気持ちの良くない動画となっており、悪ふざけになってしまっている。

これら状況からみれば観る価値のない有象無象の一本となるが、自分はこの映画がなぜか忘れられない。
公開は1985年。自分が12歳の時。劇場で見た記憶はなく、数年後テレビで見たのだと思う。思春期まっただ中だ。
そんな自分には、いくつかのシーンが焼き付いている。

ロゼッタばあさんが、とぼとぼと線路を歩くシーン。
ルパンが事の顛末を不二子に説明する絵本のような画面。
列柱の螺旋を流れる地下水道。
下水道の蓋で夜空に飛び上がるルパン。
そして、最も心に残っているのが、ヒロインの別れの言葉。
「ルパン、あなたを愛しているわ」
決まり文句といえばこれ以上の決まり文句もない。
なのに、このシーンが好きで、ずっと覚えていた。

今回十年以上ぶりにみるにあたって、気づいたことには、この大ざっぱな物語や画面の中で、ヒロインの描写だけが細やかで継続的なのだ。
きちんと表情が感情を物語って、最後の言葉につながっている。おしむらくはルパンとヒロインの今作以前の関わりが全く描かれておらず、気持ちの突端が不明なのだ。
ヒロインの孤独。一人で過ごした長い時間。それを受けてこそ、最後の言葉が光るのだろう。
おそらくヒロインの設定が自分の好みなのだ。一途に長い時間を過ごしたヒロインに、自分は弱い。
「タイタニック」しかり、「LUNAR2」しかり。
だから人にはとても勧められないし、★も一つだ。だけどまた10年以上後、僕は一人でこの映画を見直すだろう。
そんな、作品。

ちなみにヒロインの声優はタイアップでアイドルの河合奈保子。
棒読みに近い台詞のたどたどしさも、その不器用がキャラクター性に見合って悪くないと思っている。


シャッターアイランド


測定不能
~配給会社が作品を壊滅させている~

ディカプリオ主演のサイコスリラー。
精神病の重犯罪者のみが収容された孤島の隔離施設で起こった事件を追う捜査官。
目から鱗。精神を病んだ者の中で聞き込みを行うということは、現実をどんどんぼかしていくということなのだ。健常者が多数の中でこそ精神病患者は異常となりきちんと区別されるが、その比率が逆転したとき健常者こそが異常となる。
何が正しく、何が間違っているのか、という単純な対立ではない。各人が心の中に持っているそれぞれの「正しい認識」「正しい判断」「正しい世界」同士がせめぎ合う混沌。「正義」の反対語は「悪」ではなく「別の正義」だという言葉を思い出す。

作品自体は丁寧に作られており、だいたいの流れを追う分にはさほど難解ではない。小さなギミック、大きなギミックを組み合わせた仕掛けもクオリティが高い。のだろう。
だろうとしか言えないのは、今作を楽しむことを配給会社に台無しにされてしまったからだ。
これまでもいくつかの映画で見かけた手法が今作でも取り入れられている。
「オチを誰にも話すな」
と冒頭に明示するやり方だ。
今作で問題なのは、これがどうも配給会社の宣伝行為、謎解きキャンペーンを告知するために差し込まれたもので、本来の作品原型には含まれていないのではないかと思われることだ。しかもそのレベルがひどい。謎を解くヒントにまで言及してしまっているのである。

♪これこれこういうところがヒントだからしっかりみてね♪

もう、はっきり殺意を覚えた。
「オチを話すな」というだけで、「すごいどんでん返しがあるよ」というネタバレ
だということに、宣伝担当者は気づいているのだろうか。その上にヒントを出されて、自分は冒頭5分で大仕掛けを理解してしまった。
自分がすごいよ、ということではない。
この映画は、そのように作られているのだ。
きちんとつじつまを合わせて作られている。だから、冒頭の細部にも謎の仕組みが演出されている。ただみていたなら、違和感を覚えつつ、可能性をいろいろ考えるだけで済んだだろう。
だが、配給の馬鹿野郎がヒントを冒頭に示したために、違和感は明快な推測となって固まり、残り時間はやっぱりそうか、とそれを確かめるためだけのむなしい時間になってしまった。

売らなければならないのは、分かるよ。
でも、そのために作品をおとしめてどうするのか。
多くの人間が莫大な時間とお金をかけてつくった価値ある作品を、こんな有様にして公開した責任は重い。

その配給会社、パラマウント ピクチャーズ ジャパン。

自分は初めて配給会社を明確に意識し、ここに呪うよ。
同時期に公開された「第九地区」は本編への興味を持たせつつ、コアな内容には一切ふれない見事に自己規律された宣伝だった。今作の宣伝担当者は、爪の垢を飲むべきだ。
パラマウント ピクチャーズ ジャパンは、クズだ。少なくとも、今作の謎解きキャンペーンを企画した者。それを通した者は、業界の末端にいるのもふさわしくない、ただの仕事の出来ないサラリーマンだ。と思う。そう勝手に思って毒を吐き、おとしめられた今作を追悼する。
もはや正当な評価は出来ないので、測定不能とさせていただく。

この作品を見たい人は、映画館ではみるな。
セルビデオにはキャンペーンが無いだろうから冒頭のネタバレは避けれると思う。それを待つべきだ。
どうしてもという場合は、冒頭文章は目を閉じて読まないように注意して欲しい。