測定不能
~配給会社が作品を壊滅させている~
ディカプリオ主演のサイコスリラー。
精神病の重犯罪者のみが収容された孤島の隔離施設で起こった事件を追う捜査官。
目から鱗。精神を病んだ者の中で聞き込みを行うということは、現実をどんどんぼかしていくということなのだ。健常者が多数の中でこそ精神病患者は異常となりきちんと区別されるが、その比率が逆転したとき健常者こそが異常となる。
何が正しく、何が間違っているのか、という単純な対立ではない。各人が心の中に持っているそれぞれの「正しい認識」「正しい判断」「正しい世界」同士がせめぎ合う混沌。「正義」の反対語は「悪」ではなく「別の正義」だという言葉を思い出す。
作品自体は丁寧に作られており、だいたいの流れを追う分にはさほど難解ではない。小さなギミック、大きなギミックを組み合わせた仕掛けもクオリティが高い。のだろう。
だろうとしか言えないのは、今作を楽しむことを配給会社に台無しにされてしまったからだ。
これまでもいくつかの映画で見かけた手法が今作でも取り入れられている。
「オチを誰にも話すな」
と冒頭に明示するやり方だ。
今作で問題なのは、これがどうも配給会社の宣伝行為、謎解きキャンペーンを告知するために差し込まれたもので、本来の作品原型には含まれていないのではないかと思われることだ。しかもそのレベルがひどい。謎を解くヒントにまで言及してしまっているのである。
♪これこれこういうところがヒントだからしっかりみてね♪
もう、はっきり殺意を覚えた。
「オチを話すな」というだけで、「すごいどんでん返しがあるよ」というネタバレ
だということに、宣伝担当者は気づいているのだろうか。その上にヒントを出されて、自分は冒頭5分で大仕掛けを理解してしまった。
自分がすごいよ、ということではない。
この映画は、そのように作られているのだ。
きちんとつじつまを合わせて作られている。だから、冒頭の細部にも謎の仕組みが演出されている。ただみていたなら、違和感を覚えつつ、可能性をいろいろ考えるだけで済んだだろう。
だが、配給の馬鹿野郎がヒントを冒頭に示したために、違和感は明快な推測となって固まり、残り時間はやっぱりそうか、とそれを確かめるためだけのむなしい時間になってしまった。
売らなければならないのは、分かるよ。
でも、そのために作品をおとしめてどうするのか。
多くの人間が莫大な時間とお金をかけてつくった価値ある作品を、こんな有様にして公開した責任は重い。
その配給会社、パラマウント ピクチャーズ ジャパン。
自分は初めて配給会社を明確に意識し、ここに呪うよ。
同時期に公開された「第九地区」は本編への興味を持たせつつ、コアな内容には一切ふれない見事に自己規律された宣伝だった。今作の宣伝担当者は、爪の垢を飲むべきだ。
パラマウント ピクチャーズ ジャパンは、クズだ。少なくとも、今作の謎解きキャンペーンを企画した者。それを通した者は、業界の末端にいるのもふさわしくない、ただの仕事の出来ないサラリーマンだ。と思う。そう勝手に思って毒を吐き、おとしめられた今作を追悼する。
もはや正当な評価は出来ないので、測定不能とさせていただく。
この作品を見たい人は、映画館ではみるな。
セルビデオにはキャンペーンが無いだろうから冒頭のネタバレは避けれると思う。それを待つべきだ。
どうしてもという場合は、冒頭文章は目を閉じて読まないように注意して欲しい。
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