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~奇跡のラストシーン~
もう何度も見ており、すでに感想も書いている。
以下は2002年の感想文。
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松本零士原作のSFロマンを二時間に凝縮。
詰め込みすぎず、足りなすぎず、適度な分量が良い。
謎の美女メーテル。一途な少女クレア。
銀河を結ぶ蒸気機関車。
天に昇って途切れる軌道。
ロマンあふれる断片が数多く心を掴む。
ラストシーン。
別れの時間を告げる時計越しに二人の姿。
同じシーンを何度も重ねる手法が、気持ちと合致する。
そしてゴダイゴのテーマ曲がかぶって。
あまりに綺麗にまとまっているため、この後出た続編が
蛇足的な扱われ方をするほど。
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今回は五年ぶり。PS3のアップコンバートで、HDテレビにて鑑賞。
DVDの限界で暗部の階調に難があったり、何より劇場では4:3だったのを、無理矢理上下を切って16:9にしてあるため、いくつか不自然なシーンが目につく。
次世代ディスクでの、4:3登場を切望。
改めて見てみても、
この大冒険の起承転結を、なんとうまく一本の映画にまとめてあるものかと感心せずにはいられない。
取るべき所では間を十分に取り、はしょるべき所は一気にとばす。
原作やTVアニメとは違い、どうしてもエピソードが少なくなるため、旅路の重みを多少軽く感じてしまったり、世界の厚みが微妙に感じられたりといった点もあるが、二時間の制限の中でここまでまとめ上げたことに脱帽。
しかし、ともかく。
この映画のラストシーンは、良すぎる。
何度見ても輝きを失わず、すばらしい。
ただただ感動な訳だが、今回は繰り返し分析的に見てみた。
このラストシーンがすばらしいのは、
鉄郎とメーテルの、それぞれの心の動きが見事に表現されているからだろう。
表情だけでなく、行動だけでなく、レイアウトや音楽やシーンのつながり、そのすべてで、二人の別れを表現している。
ホームで二人が語り合うシーンからスタッフロールのバックまで、一つ残らずすべてのカットが、完璧に関連して構成されている。
これは、
数多くの名画の中でもまれな、奇跡的なラストシーンなのではないだろうか。
鉄郎の心細い語り。
揺るがない、メーテルの表情、その決意。
こくりとただうなずく、決定的な拒絶。
その凛としたイメージ。
母としてでなく、弁解でもなく、
愛を込めた口づけ。
その二人をぽつんと写し、画面のほとんどを埋めて鳴り響く発車のベル。
走り出す列車。
ホームの端まで見送り、一度止まる鉄郎。
しかしもう一度、出来る限りの行動で気持ちを示し、メーテルと別れるために、鉄郎は線路ぎわを走る。
客車に入ったメーテルは鉄郎に気づき、窓を開けた。
メーテルの長い髪が踊り、二人は視線を交わす。
この時点で、
お互いが求め合っていても、二人の別れは揺るがない。
二人とも、別れは必然と受けとめながら、それでも精一杯の思いを交わしている。
決定的なのは、
メーテルが髪をかき上げるカットが、鉄郎の懸命の疾駆を挟んで三度繰り返される部分。
全く同じカットが、三回。
メーテルが、窓から身を乗り出し、髪をかく。
この瞬間、メーテルは固着された。もう犯されぬ、青春の記念碑となったのだと感じた。
そう。
思い出の中では、イメージはぶれのない繰り返しなのだ。新たな情報の追加がない状態で、人は愛しい人の記憶を、繰り返す同じシーンとして思い起こす。
飛び去る999を見送る鉄郎。
涙に合わせて、ゴダイゴの名曲が開始される。
スタッフロールの中、鉄郎はとぼとぼとレールを歩き戻る。
その背中は物淋しく、あまりに切ない。
一枚の紙(スローで確かめてみたらハーロックの手配書でした)が舞い飛び、それを追って鉄郎が、振り返る。
そして、そのままじっとこちらを見つめている。
もちろん、紙切れに導かれた視線がそのまま見やっているのは、もう姿のない999であり、それが連れ去ったメーテルである。
じっと、動かない。
その間、鉄郎はなにを思うのだろう。
もう999も、メーテルも居ないことを確かめているのか。
それに連なる、これまでの旅を、一度に振り返っているのか。
最後に、鉄郎ははじかれたようにまた向こうを向き、一心に走り出す。
メーテルを追ったのと同じ情熱に見える足取り。
とぼとぼ歩き、振り返った後だからこそ、その姿は、逃げるのではなく前に進む決意なのだと感じられる――。
やはり、どうにもすばらしいラストシーンだと思う。
昔、
なぜメーテルはまた旅立つのか、分からなかった。姿が変わっても、なぜ戻って来る約束をしないのか。
その不思議は、今回の鑑賞で、自分なりには解けた。
メーテルが、なぜ自分で惑星メーテルの中心に起爆装置を投げ入れることが出来なかったのか。その理由と一緒に考えることで、とても素直に理解することが出来た。
メーテルにとって、鉄郎は一人ではなかったのだ。
数多くの鉄郎と出会い、旅し、彼らの人生を操ってきた。
だから、去ったのだ。
メーテルの凛とした態度は、紛れもなく、永遠のヒロインにふさわしい輝きで。
僕は、アニメを見る人種に生まれたことを、深く感謝します。