2009年6月19日金曜日

サンシャイン2057

サンシャイン2057 [Blu-ray]
★★★★
~恐ろしい宇宙~


最近、宇宙が怖くない。
映画、アニメ、小説……。さまざまなメディアのさまざまな物語が舞台を宇宙にして繰り広げられ、徐々に当たり前の存在になってきた。

「進んだ科学力」の一言で真空、低温、太陽光といった宇宙空間が、ただの物語舞台として固定される。そこには、宇宙が本来持つ底抜けの恐怖、虚無の深淵が無い。

今作は、忘れかけていた宇宙空間の恐ろしさを思い出させてくれる佳作である。

低下した太陽の活動。寒冷化する地球。太陽を再起動させるために、地球のすべてをつぎ込んで作られた限界数の核爆弾。
それを満載して太陽に向かう宇宙船が物語の舞台だ。

地味と言えば、地味である。
別の宇宙に行くわけでもなく、レーザー光線も、ワープもない。
だが、そこで描かれる太陽の恐ろしい事よ。
活動が弱まっているとはいえ、至近の光球は圧倒的なエネルギーで、人類の英知はあまりにもちっぽけで。
鏡面の装甲を傘のように広げて、その陰に隠れて太陽を目指すクルー達。
わずかな事故が数枚の鏡面をずらしてしまうだけで、致命傷なのだ。
数々のトラブルの中、圧倒的な太陽に、宇宙に、精神が飲み込まれていく……。

科学に基づいているのと言えば、怪しい点は多い。宇宙船内に重力が生じているのも、映像化の際の都合だろう。
しかし、ともかく描かれる太陽の恐ろしさに体が焦げそうになる。地上で見上げた太陽でさえ、直視できない存在であることを知っているから、条件反射のように身悶えしそうになるのだ。

それは太陽に飛んだイカロス、神に近づこうとする科学文明の寓話であろう。己の矮小を目の当たりにした人間精神の変遷が、この作品のもう一つの恐怖だ。
圧倒的な存在の前で、人間は、己を省みることを始める。徐々にあぶり出されていくクルー達の深層心理……。

こう書くと何か小難しい印象かもしれないが、むしろこのような意味合いを感じにくいように作られている。直球過ぎないようにうまく重層的に構成して、エンターテイメントのわかりやすさを失わずにまとめている。まとまりすぎて、よくある凡作に数えられても仕方がないほどだ。

例えば、太陽に向かう宇宙船には同型の先行者がいた。初号が謎の失踪を遂げ、再結成された最後の希望が主人公達の乗る船である。
主人公達の精神が、太陽に近づくにつれて変化していく。その変化の予兆を描いておいて、行き着く先としては初号とのコンタクトをえがくのだ。

監督はトレインスポッティング、スラムドッグ$ミリオネアで名を馳せるダニーボイル。今作は低迷期の一本と数えられるが、独特のスピード感とラストの不思議な甘やかさは今作も健在。

自分はダニーボイル監督映画のラストが好きで、どの作品のラストも心に残っている。
どんなに絶望的な状況でも、そばにある小さな希望をつみ取って、掲げるようなエンディングなのだ。
反対に諸手を上げるハッピーエンドも無い。ほろ苦い思い出、といった感触だろう。

あまり過度に期待すると拍子抜けになってしまうと思うが、埋もれてしまうのも惜しい今作。レンタルビデオ屋でふと思い出して、見て欲しい作品。

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