★★☆☆☆
~しっかりしたSF設定に基づく大雑把な探偵物語~
アレステア・プレストン・レナルズによるSF小説。
「科学的知識と設定にもとづいたスペースオペラ」と訳者に評されているがなるほど、緻密な設定とそれをあまり気にしないざっくばらんな物語となっている。
微細機械を内包することにより自在に変幻する都市や非常に延長された命を持つに至った人類文明究極の楽園『カズムシティ』。そこを襲った『融合疫』は微細機械を狂わせ、都市をねじくれた奇怪な都市に変えた。人類も微細機械を削除し永遠の命をあきらめるか、病原体から完全隔離された世界に逃げ出すのかを迫られ、さまざまな人間が入り乱れた混沌の様相を呈する。
別の惑星で愛する女を喪失した主人公は復讐のためカズムシティに辿り着く。街のすさんだ様子と独特のルールを理解しながら、核心へと突き進んでいく――。
非常に読みにくいSF小説「反逆航路」を読んだ後だったので、サクサク読めてそれだけで気持ちが良い。読書体験という物は読むテンポや気持ちよさも大切なのだなあと痛感する。
この物語自体大きく3つの時系列がシャッフルされて展開されており、それぞれが行開けのみで切り替わるので混乱する部分も多いが、反逆航路で鍛えられた身としては全く問題がない。閉鎖世界の中で行われる主人公のとんでも悪事に胸が悪くなるホラーテイストの「移民船」編。特異な生命体ハマドライアドの描写が楽しい、復讐の理由が明かされる「ボディガード」編。前者二つを過去の出来事として、それぞれの意味を解き明かしていくハードボイルド「カズムシティ復讐」編。三者三様の楽しさを交互に楽しめるといえば聞こえは良いが、盛り上がってきたところでチャンネルを切り替えられるような不快感の方が強い。好みの問題かとも思うが、せめて章で切り替えるなどしてくれた方が気持ちを切り替えやすい。
SF的な装置としてはやはり『融合疫』がおもしろい。最先端の科学世界が天から地へ落ちる理屈づけとしても良いし、その後の世界の狂った様子の原因としても魅力的。コロナで世界が一変するのを目の当たりにしている最中(現在2020-07)なので、その説得力もひとしおである。他にもレーザーパルス銃や単分子ワイヤーといった中二ワクワクな武器も数多くでてくるので堅苦しさはまるで無い。むしろ、SFと名のついた探偵小説であり、残念ながら探偵物語としては中の下といった所。困ったら美人が助けてくれるし、特に理由もなく好意を寄せられる。主人公は基本何をしてもうまく出来ない中途半端な存在で、周囲の手助けと幸運の一点で現状を突破していく。あれこれでてくる登場人物や設定もその多くは雰囲気を散らすだけのふりかけで、中まで味が染み込むことなく自然とフェードアウト。何より狂気のように分厚い(1100ページ以上!)物語の果てに、実は誰も幸せになっていないという虚無が後味悪い。
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