※古い感想に追記をした物です。
★★★★☆
~素性のよさが惜しまれる単発作品~
1995年公開の完全新作劇場アニメ。
情報量が多いので冒頭あらすじは非常に難しいのだが、最も魅力的な部分に着目すると以下のような感じ。
コロニーの学校に通う17才のシーブックは別の科の学生セシリーと出会い、その魅力に惹かれた。
貴族政治を復活しようとする勢力がコロニーを急襲。戦火に巻き込まれたシーブック達は博物館のMSを操って脱出を試みるが、セシリーが敵に囚われてしまう。
避難先で母が開発に関わったモビルスーツF91と遭遇。その頃セシリーは貴族政治の象徴として祭り上げられていた――。
オリジナルガンダムの主要メンバー、富野由悠季、キャラクターデザイン安彦良和、モビルスーツデザイン大河原邦男が再結集した新シリーズ……のはずだったのだが、この劇場作品単発となってしまった。
元々はテレビでの連続アニメとして企画された物らしく、なるほど、人物配置の厚み、背景設定の豊かさなど、如何様にも話を膨らませそうな奥行きある世界を感じる。単発となったのにはあれこれあったようだが、あずかり知らぬ一ファンとしては口惜しい限り。
実際映画は壮大な物語の序章といった位置付けで、ほとんど謎のままのキャラクターや、これから活躍するのだろうという予感のみのキャラクターが沢山存在する。何しろラストに「これは物語の始まりに過ぎない……」などと明示されているのだから淋しさもひとしお。
驚嘆すべきなのは、このような状況でも、一本の映画としてなんとか成り立っている点。序盤から話はすいすいと進み、意味が分からなくなるギリギリの高速展開を見せる。普通ならただの総集編になってしまうが、エピソードの取捨選択が非常にうまいのか、重みを失うことがない。どうやら、物語に重要なエピソードだけではなく、味のある部位を入れ込んでいるのが功を奏しているようだ。富野監督は、総集編やPVに特異な才能を持っている。
また、描くべき人物を限定したことで、ラストのまとまりが実際以上にキリッとしている。未来に展望を感じさせるエンディングは、富野監督の作品中珍しい部類に入るだろう。
しかし、残念だ。
この内容をテレビシリーズで描けていたなら、物語はもっと豊かな物になっただろう。映画の内容に当たる部分も、より情緒を持っただろう。その形が見たくて仕方がない。
安彦良和の描くキャラクターは骨太で、バラエティーに富み、掛け替えがない。大河原邦男のデザインも、過去に捕われず野心的で、敵MSのデザインラインはザク以来の発明なのではないかと考えている。
このように基本褒めてきたが、全体の印象として駆け足なのは否めないし、後半の展開は正直むちゃに過ぎる。それらを考慮に入れても、魅力に溢れる作品だと思う。
今回何回目かの鑑賞だが、ブルーレイでは初めて見た。作画が群を抜いて良いということが無く、いささか古い作品だったので大して期待していなかったが、そのクリアさと精密さはいくつかの事に気づかせてくれた。
ヒロインであるセシリーの作画について、多くの場合髪とブラウスに黒の描線を用いていない。また、登場シーンの多くにソフトフォーカスフィルターを使用しており、結果、セシリーの存在が画面から美しく浮き上がる効果を生んでいる。これは彼女の魅力を伝えるためでもあるが、他の人物と異なる背景を持っている彼女の立ち位置を象徴するためのエフェクトだとも思われる。
このような点に気づくことが出来たのはブルーレイのおかげだ。再見する機会を与えてくれたという点においても、そうだろう。
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