★☆☆☆☆
~読みにくく、がんばって読んでも甲斐がない~
2013年(日本語版2015年)のSF小説。
著者アン・レッキーのデビュー長編で、ヒューゴー賞/ネビュラ賞などの権威ある賞を総なめした。
100人ものクローンが頭脳を接続して群体として機能する、事実上不死の皇帝が収める銀河帝国。
その宇宙戦艦も同様に、艦船AIが数千の人間に上書きされて群体となって任務に就いていた。
その一人であったブレクはある事件を機に他の自分と切り離され、独りぼっちとなって帝国に追われることとなる。
事件の真相とは。ブレクの目的とは――。
この小説、まずもってとてつもなく読みにくい。主な理由は2つ。
◆三人称代名詞に男女の区別がない
全て「彼女」で統一されている。
これは男女を区別しないという帝国の文化を表現(主人公が帝国人)したものだが、3人以上の人物が同席するシーンでの混乱がすごい。
人称以外の言葉遣いも男女関連ないので、本当に誰がしゃべっているのかが分からないのだ。
また、小説を読むということは心象を描くことだと思うが、全く絵が浮かばない。立ち居振る舞いも男女という情報によって補完されている割合が非常に大きいのだろう。
◆複数視点を織り交ぜて描写
物語の設定上、群体の意識は個別であるが統一されている。
つまり、10人の兵士が街に散らばっていて、それぞれの業務に取り組んでいても、意識は1つなのである。
これを表現した文体がこれまた分かりづらい。屋外警備を行っている兵士Aのあとに、士官の補佐をしている兵士Aの文章が並ぶのである。
例ではあるが、「池の湖畔は月に照らされ、風が心地よかった。執務室で私は士官にお茶を運んでいた」といった具合。
どこにいて何をしているのかが大きな区分なく続けて記述されるのだ。
SFの設定をそのまま作品スタイルとして定着するというのはすごいなと思う。
男女という情報が読書において非常に大きな情報減である事に気づけたのもおもしろい。
このような点が各賞受賞に繋がったのだろうと思う。
が、しかし――。
この作品、かなり人を選ぶ内容なのではないかと思う。
自分は残念な事にあまりおもしろくなかった。三部作が存在するが、続きは読まなくて良いかな、と思ってしまう。
絵が頭に浮かばない状態で読み進めるのが本当に苦痛で、引き込まれるというより何とか手を放さずに引きずられていった印象。
設定はおもしろいが、話としてはあまり内容が無い。現在と過去を交互に描いて謎解き風にしたりと、あれこて分かりにくくしているだけ。
登場人物も性別不明だと自分は少しも感情移入できなかった。
正直良くこんなにたくさん賞を取ったもんだと不思議に思う。
新規性がとても大事なのだろうか。
読みにくい原因としてもうひとつ心あたるのは、この訳がとてもまずいという可能性。
「赤尾秀子」氏が翻訳をつとめているが、他の訳書を見てみるとヴァーナー・ヴィンジの「レインボーズ・エンド」も赤尾氏ではないか。
この作品、他のヴィンジの作品とまるで異なった印象を持っており、すごくつまらない。そのつまらない感じが叛逆航路とまるで同じである。
訳として正しいのかもしれないが、意味が非常に分かりにくいのだ。訳者の補完がまるで無い印象なのだ。
原書で読む機会は無いだろうが、別の訳者さんでどうなるのか読んでみたくはある。
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