2019年11月18日月曜日

ラストスタンド

ラストスタンド Blu-ray

★★★☆☆
~激突までの見事な構成~

 2013年の米アクション映画。
 世の中にはさまざまな料理がある。気楽に食べる日常的料理から、特別な日に食べる高級料理。映画にも色々な立ち位置があり、立ち位置で優劣がつくことは無い。卵かけ御飯と懐石料理のどちらが旨いかについて、絶対的回答はないのである。
 この映画は大衆居酒屋で食べるうまい焼き鳥だと思う。決してコース料理のような高尚さは無いが、手間をかけてさまざまな部位が仕込まれており、炭火できちんと焼き上げられている。これに代替する食い物は見あたらない独自の魅力を持っている。

 メキシコ国境近くのへんぴな町で保安官をつとめるレイ(アーノルド・シュワルツェネッガー)はロサンゼルス市警で麻薬犯罪に立ち向かった経歴を持つが、いまは大きな犯罪も起こらないこの町で静かに過ごしていた。そんな町でおかしな事が続けざまに起こる。ダイナーで見かけた不審な男達。町外れの頑固じじいが朝牛乳配達を無断で休む。とどめはFBIを名乗る者からの電話――。
 麻薬王が脱獄して国外逃亡を図るために最後にここを通る……。強制された最後の砦(ラストスタンド)の保安官として、レイは数少ない仲間とともに決死の最終防衛戦を展開する――。

 カルフォルニア州知事を2004~2011年の2期7年つとめたシュワルツェネッガーが復帰後初主演した映画なので、それを前提にしたような台詞が散見される。「もうお前は未来のない老人だ」的な揶揄に「まだまだこれからだ」と答えてみたり、町の人から最近太ったね、と声をかけられたり。確かに往年の肉体の張りはなく、特徴的だったぎこちない身のこなしはただ堅くなった老人の体としか感じられなくなっている。ただし無骨で融通の利かない雰囲気、それを主張する眼光の鋭さは決して衰えては居らず、7年間の政治家としての生活が精神的な鋭さを増大させたような気がしないでもない。

 序盤、ラスベガスで進行する脱獄とメキシコ国境の町の様子が交互に描かれ、それが徐々に結びついていくという演出。それぞれの中心は麻薬王ガブリエルと保安官レイであり、まだ関連のない二人を混在させて描いていくことで、まるでボクシングのタイトルマッチを迎えるような期待感を積み上げていく手法が見事。ガブリエルの卑劣さが描かれるほど、レイの剛健さが描かれるほど、激突の瞬間が待ち遠しくなるのである。
 果たして二人の衝突は文字通りすさまじいもので、田舎のトウモロコシ畑で演じられるカーチェイスだったり、メキシコにつながる一本橋で繰り広げられるプロレス的格闘だったり、シチュエーション含めて満足たり得るものだ。
 
 その二人の周囲を固める人間達の立ちっぷりも見事で、幼なじみとのほんのりした三角関係、ボスに無理難題を積まれるマフィア組織員、短絡的だが強力な裏切り、のんきで図太い町の面々――。枚挙にいとまがない一癖二癖あるキャラクターが全編バランス良くちりばめられている。作品自体、脱獄のスリル、武装集団との大銃撃戦、超スピードのカーチェイスなど、盛りに盛ったゴージャスな内容となっており、串焼き各種の豪華盛りである。

 決して緻密な映画ではないが、豪快で外連味の効いた魅力あふれる良作だと思うが、興行的にはかなりの失敗だったらしくシュワルツェネッガーにとっても俳優業復活の痛い船出となっただろう。比べるのはおかしいが、例えば森田健作が再度俳優業に復帰したところで何の感慨も起こらないわけであるし、天下のシュワちゃんといえどもそのネームバリューは当時を知るものにとって信じられないほど低下しているということだろうか。

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