★★☆☆☆
~奇跡的なノンフィクション~
日本人にはとんとなじみがないが、2009年にニューヨークで発生した飛行機不時着水事故を題材としたノンフィクション。また、だからこそ結末知らずの楽しさを味わえるのかも知れない。
離陸直後にバードストライク(鳥が飛行機にぶつかる事故)にあい、全てのエンジンが停止。幾つもの選択肢からハドソン川への着水を選択し、全員が無事助かったことから「ハドソン川の奇跡」と呼ばれる。
この映画では事件そのものではなく事件後に機長、副機長の判断の妥当性が追求されていく検証と後片付けをメインに据えている。
監督は今や巨匠のクリント・イーストウッド。
映画のために本物の飛行機を購入して再現に努めた映像はきっとリアルなのだろうが、摩天楼をバックに巨大な飛行機が飛ぶ様は、同時多発テロで見た映像のようにどうにも違和感が強い。理不尽な話だが、リアルすぎて嘘っぽく見えてしまっている。この事件に対する距離感がアメリカ人とは決定的に異なる事もその理由だろうか。
バードストライクから着水まで200秒程度に込められた様々な覚悟と判断。機長の回想、乗客や添乗員の回想、外側からの目撃――様々な視点からくり返し事件が語られ、最後にはボイスレコーダーによる主観と客観を統合した「答え合わせ」で終劇。
なかなか凝った構成だと思うが、視点が少しずつ拡大していくので事件をまるで知らない者(自分含め)でも理解しやすい。機長をただの完璧な英雄として描かず、副業のトラブルや定年までのキャリア設計の危機など、ちくりと現実的な情報を織り交ぜて予定調和へのゆらぎを見せるのも上手い。ただ、作品の基本姿勢自体が事故に対して周囲が起こした行動への賛美に凝り固まっている(前提としている)のもひしひしと感じるので、安心してみられる。
飽きることなく楽しむことが出来る作品だが、現実は想像を超えず、まあそうなるだろうという所に着地。金かけて補強した王道野球チームが順当に優勝しました、みたいな。しかし、現実でここまでの劇的な内容とは、まさにハドソン川の奇跡。
作品内では特に主張されないが、この事故が突きつける現実が空恐ろしい。
曰く、AIが完全な判断を下せるなら、人間よりも遙かに事故が減り、その規模も縮小するのではないか――。
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