★★★★★
~ハリウッドの背理~
低予算の消えものSF映画かと思いきや、全編に緊張感みなぎる想像を超えたおもしろさ。巨大宇宙船が来訪し、すわ宇宙外交の始まりかと思いきや、知的レベルの低い使役宇宙人の難民団というのがもう尋常ではない。地球外の知的生命体とコンタクトをとるという神秘的なイメージを、戦争を経ることなく、ありふれた現実問題にいっきに持ち込んだ点が楽しい。
アイデアに溢れ、小気味よく進む物語のテンポ、胸のすく無茶無謀。ジョンカーペンター監督「ゼイリブ」からチープさを排除したような映画と言えば伝わる人が居るかも知れない。
さらに今作は、ハリウッド的な映画とは何かという疑問について、重要な示唆を与えてくれる。この作品が明らかにハリウッドらしくないものだというのではない。反対に、一見実にハリウッド的な映画なのだ。同じような場面、展開はこれまでに他の映画で見たことがあるし、VFXを駆使した奇想天外な生物、迫力ある戦闘シーンは目を見張る高いクオリティーで安定している。
それなのに、見た者は違和感を拭えない。
いつもの、よくある映画とはどこかが違うのだ。
なぜだろうと考え、内容を反芻する。自分は、物語の中で発生する状況に対して、登場人物が選ぶ選択肢に、独特の基準を感じた。
得られる答えは人それぞれかも知れないが、明らかに、それ以外の映画が一定の範囲、檻の中で作られていたのだということを認識できるはずだ。
この似て非なる感触、対照実験としての存在感は宮崎アニメに対する、ゲド戦記のようなものだ。見た目は同じなのに、中身が違う。本質を問うのにこれ以上の材料はない。ただ、ゲド戦記は作品価値として宮崎アニメに劣ること甚だしいが、第九地区は他の映画に負けない、むしろ凌駕したすばらしい作品である。
次作が楽しみな若い監督が出てきたことに、とてもわくわくする。
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