★★★☆☆
~予告編がもっともワクワクする~
SF小説家として高く評価されながらも、数作を残して30代で夭折した、伊藤計劃。
彼が最後に残した原稿用紙30枚分の「書き出し」とプロットを、同時に賞をとってメジャーデビューした盟友、「円城塔」が完成させた小説を原作としたアニメ映画。
屍体にプログラムを流し込んで蘇生させる技術が一般化し、重要な労働力となった1800年代の世界。
蘇生技術者である主人公は死亡した親友を蘇生させる。
その中に本来の親友の魂は存在するのか。真の復活は可能なのか。
進歩する蘇生技術の行く末を巡って国々の、科学者達の、被験者達のやり取りが繰り広げられる。
このアニメ版にはあれこれと改編があるようで、そもそも原作では主人公が蘇生させるのは親友ではなく、無関係だった人物とのこと。
「円城塔×伊藤計劃」の死を越えた、作品作りを通した精神的やり取り。そして物語としてのの再生を「主人公×親友」の関係に反映させたのだろう。
深みを感じる立て付けだが、終盤で物語自体がわかりにくさを増していくため、その意義を考えるばかりで感じる事は出来なかった。
物語はヨーロッパからインドの山奥、日本、アメリカ、そしてまたヨーロッパと、世界一周のロードムービー。
思っていたよりもスケールがでかい。
ポンポン場所が移って飽きにくいのは確かだが、目的が判然としないまま状況に振り回されるのをダイジェストで見ている印象。
オチもなんだかよく分からず、全体に頭でっかちの衒学的な趣の強い、人には勧めにくい作品。
ガンダムユニコーンのパンドラの箱の種明かしのように、納得のいかないままこじつけの言説に流されて完結、みたいな。
レベルの高い作画とうまく折り合いをつけて使用されているCGは見事。出しゃばりすぎず、陳腐すぎず、理想的。
世界一周のスケール感、聞いた事のある人物が沢山出てくるゴージャス感。
なのに不思議とワクワクしないのは、主人公に魅力を感じにくいせいだろうか。
ワクワクレベルで行くと予告編が最高潮で、これはままあることなのだが、やはりがっかりはしてししまう。
今作に加えて「虐殺器官」「ハーモニー」を合わせて伊藤計劃の作品映像化プロジェクト三部作。
虐殺器官は小説読了のみで未見だが、三作とも大ヒットというわけでは無さそう。
ただ、今作もハーモニーもきちんと映像が作られた佳作であり、製作者のアニメと原作に対する敬意、熱意を感じる出来だ。
肺癌による自らの死を直近で感じながら、記憶、命、感情、人間の営み、死……。
そういった事柄を考え抜き、深く切り込んだ作品群を著した伊藤計劃。
その絶望と希望に思いを馳せると、切なくなる。
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