2020年1月16日木曜日

億男

億男 豪華版(特典Blu-ray付Blu-ray2枚組)

 ☆☆☆☆
~逆ナンの宗教勧誘~

 2018年公開の邦画。映画プロデューサーでもある川村元気のヒット小説(2014年)を原作としている。
 

 迂闊にも兄の借金の保証人となり3000万の借金を背負った一男。図書館司書と工場ラインの仕事を掛け持ちして何とか借金を返そうとしているが、道のりは果てしない。
 妻はまだ離婚はしてはいないものの一人娘と共に出ていった。借金さえ無ければ元の幸せな家族に戻れるのに……と一男は信じているが、妻の心持ちはそう単純では無さそうである。
 そんな苦しい生活の渦中で一男は宝くじに当選。3億円を突然手にするが、どう使えば良いか分からない。
 今は没交渉になったが大学時代の親友で大富豪となった九十九(つくも)のことを思い出し、アドバイスを求めるが、何と九十九は3億円を持って姿を消してしまう。彼と、彼の持つ3億円を追って、一男は九十九と繋がりの深いさまざまな億万長者の証言をたどっていく――。

 登場人物の心情や物語のつじつまよりも作者の啓蒙欲求を主体としており、「お金についての私見を述べるための設定としての物語」だと言える。「ソフィーの世界」「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」のようなやり方といえば分かりやすいかも。これ自体は書籍を読む敷居を下げる効果が大きいのであり得ると思うが、これを原作にして映像化した場合、多くの視聴者は物語体験こそを欲求しているのだがらミスマッチが起こる。
 主たる目的が「お金って何やねん」に対する作者の意見発表なので、展開は非常に寓意的で絵本のよう。導入部分などは倒置的演出を使用してそれなりにドラマチックなのでまともなドラマを期待してしまったがどんどん化けの皮がはがれていく感じ。テーマが鼻につく映画というものは多いと思うが、最終的にテーマしか存在しなくなる映画というものはそうそう無いのではないだろうか。物語要素はほとんど無意味に剥落していくのである。
 砂漠に行くのも、落語をするのも、図書館司書なのも、オークションサイト開発も、すべてそれぞれの小ネタに使われるだけで、全体の繋がりのちぐはぐ感がすごい。食材の味が混ざっていない感じ。
 かわいい女の子に逆ナンされて喜んでついていったら宗教の勧誘だったというのが近い。フックに特化しているのはさすが映画プロデューサー。
 
 それでも序盤は失踪した人物を追い求める展開が魅力的で、またそこで出てくる人物たちのアクがすごい。これは原作によるものなのか、演者によるものなのか、北村一輝の演じる超優秀な元プログラマ。セミナーを開催し、教祖然とさえしている元CEOを演じる藤原竜也。この二人の演技を見るだけで中盤までは充分楽しい。

 映像化の折に物語り部分もきっちりと詰める努力をすべきだったのではないかと強く感じる。

 あと、ともかく3億当たって使い道に迷う前に、借金の三千万円はまず返してから考えると思う。いわゆる「どん判金ドブ」過ぎ。

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