2020年1月9日木曜日

フューリー

フューリー [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

☆☆☆☆
~ヒーローなんてこんなもの~

 2014年の米映画。二次対戦終盤のドイツ戦に投入されたアメリカ人戦車兵の奮闘を描く。
 

 1945年4月の連合軍ドイツ侵攻に加わるシャーマン戦車「フューリー」の戦車長ウォーダディー(ブラッドピット)とその部下たちは激戦の中副操縦士を失う。補充として送り込まれたのはタイピストとしての訓練しか受けていない新兵ノーマン。
 激戦を生き抜いてきたウォーダディーたちにとってはきれい事ばかりの役立たずにしか見えないが、戦力にしなければ生き残れない。
 強烈な先輩兵士と戦争の実体を目の当たりにしたノーマンは――。

 戦車兵たちの物語なので車内の映像が多い。狭い事は狭いが、多少身動きは取れる生活空間としての車内は目新しいシーンだ。
 ドイツ軍ティーガーVSシャーマンの戦車戦も泥臭い現場の混乱が表現されていてこれまでの戦争映画には無い角度の現実味を持っている。
 撃ち合う砲弾の威力とそれをともかく装甲で弾いて生き延びる鋼鉄の塊といった表現は、斬る、避けると行った侍の立ち会いでは無く、切れ味関係ない巨大な鉄の剣で撲殺しようとする雰囲気。メル・ギブソン主演の「ブレイブハート」の戦闘シーンを連想した。
 
 個別のシーンや演出ではおっと思わせる部分が散見されるが、全体とすると「この映画は何やねん」という不満の方が勝る。
 
 ポスターには「たった五人で、300人のドイツ軍に挑んだ男たち。」といったコピーがおどる。これと戦車のビジュアルを重ねると卓越した作戦で戦車戦を展開するんだろうなと期待する人が多いだろう。まあそういうふうに宣伝を展開していると思う。ところが実際見てみると……。
 地雷を踏んで立ち往生した状態で会敵。しかも相手は数こそ多いが装甲車と歩兵程度。大破した戦車を装って息を殺して待ち伏せ。敵部隊を充分ひきつけたあと大砲と機銃による奇襲を敢行――なのである。
 ええ……、(もちろん的外れな意見だが)ちょっと卑怯すぎない?
 ドイツ兵たちは猛烈な弾幕の中決死の覚悟で前進し、戦車の背後に回って対戦車弾を撃ち込んだりするが、固定砲台と化したフューリーは苛烈な射撃でそれを防ごうとする。それでも特攻するドイツ兵たち。それを戦車の中から撃ちまくり殺しまくりの米兵。
 何というか、ドイツ兵を主役にした方が盛り上がりそうだ。
 
 とはいえ史実にもとづいた脚本なのだろうから、他のノンフィクション映画と同様、盛り上がりきらないのは仕方あるまい……、と思ったらこの映画なんと純粋にフィクションだった。
 ええ……、ちょっと話が微妙すぎない?
 狂気に巻き込まれる新兵の話としても、実動戦車を使った戦車戦ものとしても、戦場の仲間との友情としても、護国の英雄ものとしても、すべて中途半端。一体この作品は何のために作られたのだろうと困惑しながら見終わることになる。
 
 こうなると監督の手腕の無さが最も疑われるが、どんな角度から見ても中途半端で整っていないのが現実だよ、という事を示したかったのだとすれば、ある程度成功なのかもしれない。英雄なんていないよ、ということか――。にしても、お金と時間かけてやることではない関わった人たちの時間がもったいないよ。終端として、それを見た人の時間もね。

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