2009年2月14日土曜日

ヘドウィグ アンド アングリーインチ

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ [DVD]

★★★★★
~二つの魂と二つの肉体~


すげえ。
心を揺り動かされた。
★四つまでは各要素の積み上げで判断できるが、五つは違う。
人に説明できなくてもいい。共感してもらいにくくても良い。
とにかく好きで、何度も見返してしまうような作品が、自分にとっての★五つだ。

ゲイのロックミュージシャンの人生遍歴を、ライブツアーに重ねて描く。
もとは舞台ミュージカルで、主演脚本監督をかねるジョン・キャメロン・ミッチェルが、そのまま映画化した作品。
通常ミュージカルといえば、まず一点、唐突に歌い出すことを許せるか否かにかかっていると思う。が、今作はロックミュージシャンのツアーが設定なのだから、全く自然。バンド以外のバックコーラスや、その場にいる観客含めたダンスなど、ミュージカルならではの装飾過多もなく、元が舞台だったのだとは思いもよらなかった。
全編の半分以上はミュージッククリップのような演奏部分が占め、それを連結することで物語になっている。このこと自体が希有な構成でまさに唯一無二。

魂のふれあい、人間同士の隔絶。

相反するテーマが、物語設定にも、物語にも、歌詞にも深く織り込めれており、それらが複雑な味わいを醸し出す。
頭で、理屈で理解しようとすると、一貫性をとらえにくく、難解に感じるかもしれない。説明し過ぎない演出だからだ。
しかし、感情を開いて鑑賞すれば、直観で理解できる。伝わってくる。 見終わった時、自分が何か重要な物を目撃したのだと、そう感じた。

その後、何度も見返して自分なりの理解を手に入れた。
「愛の起源」では、呪われたように寂しい心、求める心を、愛の生まれた起源を説明して歌い上げる。それはよくできた絵本のように、単純で、深く、普遍的な物語。
「真夜中のラジオ」では、生きていくことの「ロックンロール」を歌い上げる。すべてが悲しくても、それでも生きていくという決意を、これまでの先達に誓う。
「Wicked Little Town」は物語中で二つのバージョンが歌われる。
それぞれが誰に、なんのために歌われるのかに注目することで、ラストの意味が分かる重要な曲だ。

どの歌も、切なく、それでいて力強く。
生きること自体が、ロックだと。
負けずに、立ち上がることが、どのような人生においてもロックなのだと。
ポジティブな魂のあり方が、ロックンロールなのだと。
自分が見終わった後、残ったのは、人間という存在への強い共感だった。
生きていくんだという、悲しくも素晴らしい、覚悟だった。

波のひいた砂浜に、そっと書かれた言葉のように。

弱々しいような、
力強いような、
祈りのような、
いろんな感情が渾然一体になった、優しい優しい物語だった。


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