★★★★☆
~彼女は、全うした~
フランス・イギリス100年戦争の聖処女、「Jeanne D'Arc」の最後を描いた白黒の無声映画。
ジャンヌは神の啓示を受け、フランスの新王擁立を目指した少女で、勇ましい甲冑姿に最前線で旗を振り、フランス軍の意気鼓舞に多大な力を発揮した。
しかしその末期は悲惨なもので、イギリス軍に捉えられ、異端審問にかけられた上で生きたまま火あぶりにされる。
この映画は一年半にもわたった異端審問を一日の出来事としてまとめており、現代的な短いカットつなぎ、絵画のように構成されたレイアウトで緊迫感と一種荘厳な雰囲気を放射している。
異様なまでにアップを多用し、演者の毛穴、しわの一本一本まで映し出しており、圧迫感を伴う現実感がにじみ出す。アップ多用なのに画面が平凡にならないことが特記すべき特徴で、あおりや俯瞰主体の画面構成、役者の絶妙な演技が画面を常に引き締まったものにしている。
無声映画のため言葉としての情報量は極端に少ない(無声映画にしては字幕が多い方かも知れないが)。
それなのにジャンヌはじめそれを取り巻く人々の心の動き、それらが織りなす人間の営みの切なさ。単純な善悪対立かと思われた冒頭から、複雑でばかばかしく、しかし愛しい人間達という範囲まで映画の規模が広がっていく。
悲劇なのだが、後味はむしろ暖かく、そしてそれを際だたせる切なさこそが、この映画の肝ではないか。
真偽はともかく、一つの信念を抱き、それをぎりぎり(ここが重要)全うした一人の少女。
彼女を裁いた教会の面々が、火刑のさなかどのような表情を浮かべるかに、良く注意して欲しい。
それは、後悔や自責でなく、羨望、憧れではないか。
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