2009年2月4日水曜日

ハウルの動く城

★★★☆☆
~どこまでも空回り~

鈴木プロディーサーの暗躍なのでしょうか。
「二人が暮らした」
というコピー。
「主人公声優が木村拓哉、倍賞千恵子」
という宣伝文句。
「おばあちゃんの本当の姿は?」
という謎があるかのようなCM、トレーラー。

そういったやり方をしないと、売れなかったのでしょうか?
作品に自信がなかったのでしょうか?

「二人が、くらした」というコピーに関しては、二人は城でほとんど一緒に暮らしていません。
声優に関しては、心配に反して素敵なハウル木村さんでしたが、木村拓哉に惹かれる人がたくさん居る反面、自分のように不安と話題作りに嫌悪を感じる人も居ます。
また、同様に話題のための抜擢と感じられてしまう倍賞さんに関しては、明らかに配役ミスでしょう。
18歳の声は、どうあっても無理があります。そこまでして観客の、ソフィーに対するときめきを抑制したかったのだろうかと考え込んでしまった。
おばあちゃんの正体は、そもそも謎でも何でもない。初っぱなから堂々と登場しています。
裏の裏をかきたかったのか? 三流映画のようなそんなトリッキーな宣伝をして欲しくなかったのです。

この売り方が、とても嫌いだ。

敬愛する職人が丹誠込めて仕上げた工芸品が、テレビショッピングでたたき売りされている感触。
確かに、一言で表すことの出来ない、特にテーマのない内容を喧伝するのには、フックが必要だっただろうと思うけれど、宮崎駿の、ジブリの、待望の新作なのにと思うと、悔しいのです。

作品の内容は、正直プラスマイナスゼロという感触。
原作がそうなのかは未知ですが、話が飛びまくる。
きちんと物語を受け止めることは必要とされていないような表現、はしょり方がいくつも目につきました。
その「とんだ」部分を想像するのは楽しかったですが、うーん……。
反面、物語進行とは大きく関わらない細かなエピソードはてんこ盛りです。そういった生活感を描けるのは、もうジブリしかないと思わせる味わいは、数多く楽しむことが出来ました。
が、それも物語と結びつかない楽しみです。
登場人物の感情が、ちっとも分かりません。
ソフィーもハウルもシーンシーンでまるで性格が違い、一貫性をもって理解することが出来ません。
その場その場で都合の良い彼、彼女に切り替えているだけのように見えます。
千と千尋から頻出するアニメ的な「水玉涙」も、気持ちが伴わないので、寒いほどでした。

やはり、物語の内容、描く事項に比して、時間が足りなかった気がします。
これがTVシリーズであったなら、二人は確かに暮らしたのであろうし、はしょられることのない感情の遷移を感じられたのではないかと夢想するのです。

とはいっても、決まった時間に合わせて表現するのは必要なことでしょう。その視点から考えると、宮崎監督は、描くことの比重をはかり損なったのではないかと思うのです。前作千と千尋でも、千尋の苦労話エピソードが少なすぎたため、「毎日イベント続きの楽しいアトラクションでした」という感触を覚えました。

宮崎監督には、ぜひ今だからこそ、簡便な技術や画質でよいので、テレビシリーズを作って欲しいと思います。内容をきちんと作り上げたTVアニメこそ、今の閉塞したアニメにまつわる諸環境を打ち崩しえるのではないかと強く強く思います。
ジブリなら、宮崎さんなら、きっとそういう形態でも、ペイできると信じたいのです。

細部まで思いの込められた映像。
作り手の皆様には、心から敬意、尊敬の念を覚えます。

しかし、映像は、物語る手段であるべきで、気持ちの良い城の動きも、今作では物語の上っ面を滑り落ちるだけで。
やはりいまだ、監督の最高傑作は「未来少年コナン」だとの認識を変えることは出来ませんでした。

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