2009年8月11日火曜日

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 EVANGELION:2.22 YOU CAN (NOT) ADVANCE.(通常版) [Blu-ray]  

★★★★
~魂の成長へ~

 まず言えることは、今作は現行のアニメーション映画のトップクラスに位置する価値ある作品である。

 物語、画面要素、両者ともに緻密に組み上げられており、決して長くない上映時間なのに満足度が高い。みっちりと餡の詰まった月餅といった印象だ。
 前作に続き展開が非常に早く、密度が高いが、せせこましいかといえば、そうでもない。全体のリズムは早いが、その中での緩急は守られているため、ゆったりした箇所はきちんとゆったりしている。

 その中で描かれる物語は、まさに「破」と呼ぶにふさわしく、旧作とは異なる展開を繰り広げる。差異はあらゆる箇所に数かぎりなく、もはや異なる物語だと断言したくなるが、なお全体の骨格は守られている。
 この不思議な感触。
 物語自体が特定の方向に進んでいこうという力と、登場人物達がそれにあらがおうとする力がせめぎ合っている。
 運命と意志のぶつかり合いを感じるのだ。

 実際、旧作から最も変化しているのは、登場人物の心だ。
 性格が変わっているのではない。
 同じ人物が、経験を積むことで、磨かれ、強く、やさしくなっているという変化。

 魂の成長。

 一度の命ではたどり着くことの出来なかったところへ、繰り返し這いずりながら進んで到達しようとする一途。
 中でも主役たる三人、シンジ、アスカ、アヤナミはみな好感を覚える方向へ歩み、自暴自棄や狂気、虚無から離脱しようとしている。

 見ていて、何かとてもうれしいのだ。
 懐かしい友人が、苦労の末、立派になった姿を見ている。そんな心強さを感じる。

 ネットを見回しても絶賛の嵐だ。それに紛れた批判は、なかなか耳に届いてこない。だから自分は自分で、きちんと問題点も書いておこう。

 童謡を差し込むセンスには、反吐が出る。
 希望のない悲惨なシーンで、懐かしいあの歌を流されるのは、今になってトラウマを植え付けられるようでムカつく。シーンの意味にもつながっているし、雰囲気もあっていると思うが、余りに悪趣味だ。せめて英字歌詞にしてくれれば良いあんばいになじんだと思うが、ぬけぬけと声優に歌われてしまっては失笑せざるを得ない。
 これだけ才能が結集していれば、もっと美しい演出が可能であったろうに、思いつきに捕らわれて、そのまま形にしてしまった感じ。幼稚だ。

 クライマックスシーンの歌も同様に違和感を拭えない。
 率直に言って、歌声が素人臭い。にぎやかな曲ならそれに紛れて気にならないのだろうが、しっとりと聞かせるのには無理がある。映像の完成度に反して歌声が不安定。どうにも気になって仕方がない。
 母が子供に聞かせる子守歌のような雰囲気を狙ったのだろう、とも思える。歌っているのは『彼女』であるし。だけれど、これではせっかくの盛り上がりに水を差すだけではないかと思う。

 そして最後に、どのように見ても、これは「つづく」と出る中途の作品だ。期待は大きいし、延長線上には傑作の二文字が見える。
 だからこそ、絶賛は避けるべきだ。
 きちんと襟を正し、冷静に、続編や完結編を待とう。
 その上で、ああ、傑作だったな、とようやく言いたい。

 ここまで胸躍る作品を見せてもらえたのだから、焦ることは無いだろう。

 物語全体の仕組みにも様々な仕掛けがありそうだし、新キャラクターの活躍もまだまだこれからだと思える。
 つづきを楽しみに出来る作品になってくれたことが、古いファンにとってとてもありがたい。 

 

 

 Qの感想は当時ショッキングすぎて書けなかったのだ……。今なら書けるかな。

◆四部作の一作目『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の自分の感想はこちら

 Evangelion: 1.11 You Are (Not) Alone [Italian Edition]
★★☆☆☆
~マイナーチェンジ~

◆四部作の最終作『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』の自分の感想はこちら


★★★★★
~一緒に変わってきてくれた~

 

 

 

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