2022年8月25日木曜日

ヴィナス戦記

ヴイナス戦記 (特装限定版) [Blu-ray]

★★★★
~誠実なつくりの良作~


 1989年に公開されたアニメーション映画。

 アニメ作家(演出から原画まで幅広いのでこのように書いてみる)の 安彦良和 が自身で連載した漫画作品をアニメーション映画化。 漫画原作は1987~1990年の連載で、第二部で終了(尻切れトンボ気味)している。このうちの第一部が原作。
 人類が生息可能となった金星を舞台に二大国家の紛争が勃発。それに巻き込まれた若者達の生き様を描く。

 設定や大枠は漫画と同様と言えるが、なにせ原作者が監督、脚本なので自由になたを振るって改変。漫画とは別の作品になっている。メカニックデザインも大きく異なっており、強力な武器を備えたバイクと圧倒的強靱さを誇る戦車の戦いが見所なのだが、その両方ともイメージを大きく変えている。漫画のバイクは二輪だが、映画では一輪となっており、戦車の形状も機械的な物から生物的な印象へと変わっている。原作は安彦氏デザインだが、映画では横山宏と小林誠がメカデザインを行ったと言えば、それだけで想像できるかも知れない。どちらもそれぞれに魅力的。

 この作品で話題となるのは、『監督によって封印された』という扱い。2019年までDVD化されていなかったため、幻の作品などと吹聴されることもあるが、VHSなどは販売されていたので、レンタルビデオでは普通に見ることが出来た。VHSが廃れた後に幻となった、とするのが正しいのかも知れない。
 封印されたのは監督の意向とのことで、安彦氏は長らく本作を失敗作だと考えていた模様。興行的に失敗したというのが大きな原因だと言われている(安彦氏は本作以降アニメとの関わりが非常に絞られた)が、作品としてはきちんとつくられた良作である。

 自分は当時本作を映画館で鑑賞したが、まあまあおもしろかった、と言う印象。バイク搭乗時の主観シーンが実写映像にアニメセルを重ねたもので、臨場感は出ているものの、異質感と合成の不整合が目立ってマイナスの方が大きく感じる。かすれた自分の記憶にも、なんで実写使ったんだろう、と言う疑問が残っている。当時の評判は分からないが、分かりやすいマイナス点が存在したことは確かである。

 久しぶりに見てみると、映画そのものが古くなっているので実写部分の悪目立ちをあまり感じない。安彦氏の超絶画力を基準とした絵作りは全編で高レベル安定。特にキャラクターについては申し分の無い魅力的な表情、ポーズで魅了してくれる。
 当時は物足りなかったラストの盛り上がり、行き当たりばったりな展開も今見てみれば実に人間くさい展開と感じられ、完全にすっきりしない、割り切れない物語として現代的だと感じるくらい。
 原作から大きく変更されたキャラクターの位置づけも実に上手くはまっており、適切な物量をきちんと配膳した誠実な映画作品なのが分かる。
 
 難点を挙げるなら、(安彦氏が監督した映画共通の特徴なのだが)アニメーションの『動き』の魅力が乏しいことだろう。
 詳しくは別の機会になるが、安彦氏の描く絵は静止しているのにものすごい躍動感を持っている。不安定なポーズに動きを込めて、静止画としても見栄えのする一瞬を切り取っているのだ。(東京オリンピックの短距離走スタートを横から写した有名なポスターを想像してもらうと近い)
 これはまさに傑出した才能で、他に似たような印象を持つ作家に会ったことがないが、なんとこれがアニメ監督(特に絵コンテ作成)としては特大のマイナスになっている。動かすほど動きを感じなくなるのだ。静止画の方が動いて感じるのである。
 特に目立つのが『全作画のシーン』『同一カメラアングルで近づいてくる対象を写すシーン』で本来非常に速い動きを表現するシーンなのに、とてももったりとして残念に感じる。
 
 見終わった後、けして大団円ではないのに、すっきりと後味が良い。
 キャラクターがきちんと人格をもっており、それを全うした末にたどり着いた、ろくでもない世界。しかし、物語中にはぐくまれた希望はある。
 
 1本の映画として実にまとまりの良い素敵な作品だと思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿